広瀬 勉
東京・足立千住寿町。
鴨がたくさん集まっているのは、
餌やりババアがいたからさ。
鳥が集まるところには、
かならず餌をやる人がやってくるね。
テレビでそういう人をつかまえて、
迷惑だと思わないんですか、
なんでそんなことやってるんですか、
みたいに質問攻めにしてたのを見たとき、
だってかわいそうじゃないか、
みたいなことを言っていたな。
いやいや、そんなことをしなくても、
食べるものはありますから、
とか言われて、
いいじゃないか、こっちの勝手だよ、
って開き直ってた。
今日の餌やりババアは、
池を半周して、
餌をやりやすい三箇所でばらまいてたよ。
さっきの場所で餌を食ってた鴨や鳩が、
バタバタバタっと飛んで、
次の場所でも餌を食ってた。
なんか無表情を作ってたけど、
ひょっとして、
こうやって集まってくるのがうれしいのかな、
とちょっと思った。
人間には迷惑がられるけど、
(テレビでやってるぐらいだから、
たまたままわりの人が何も言わなくても、
迷惑がられてることは意識してるんじゃないかな)
鳥たちには大切な人に思われてる。
三箇所で餌をやって、
その都度鳥に集まってこさせて、
それを確かめてる。
まあ、
他人が何を考えてるかなんてわかんないけど、
もしそうだとしたら辛いものがあるな。
小さいころ、
まわりにはお父さんがいて、お母さんがいて、
ほかにもいろんなおじさん、おばさんがいて、
ずっとそういう世界が続くもんだと思ってたなあ。
もう誰もいない。
(父はいるけど、もう何も覚えてない)
そして気がついたら、
自分がおじさんになってたよ。
そういうことだったんだなあ、
時間がたつって。
あの頃より世の中が暗い方に向かってるのが
困ったもんだけど。