夜中のつぶやき詩を書いてやるっちゃ

 

鈴木志郎康

 

 

俺っち、
息をしてるっちゃっ、って。
夜中に目が覚めちまってね。
変な夢っちゃ。
俺っち、
ごろんと小肥りの
体躯だっちゃ。
ほっ、
生きてるっちゃ。

部屋の薄明かりに、
あと何年生きるのかねえ。
今日また右太ももを痛めちゃってさ。
二本杖でも歩けないっちゃ。
八十一年と十ヶ月生きたなあ、
同じ思いっちゃ。
テーブルの上には
一つ灯りが点いてるっちゃ。
まだまだ、
小肥りで、
詩を書くっちゃ、ってね、
思って、また眠ったね。

夜が明けてみれば、
夜中の、
部屋の薄明かり、
なんて当てにならない。
小肥りっちゃ。
ウッヒョッヒョ、ヒィー、アハハ。
また、これ。
いや、それ。
これ、これ、それ、それ。

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 31

 

昨日
桑原正彦のアトリエに行った

描きかけの絵が壁にならんでいた

建売り新築住宅と
100円ショップが主題だといった

床に
青いシュラフがあった

そこに寝て
起きては描くのだろう

そこにも枯れた花たちはいた

貨幣に外はあるか
貨幣に外はあるのか

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 30

 

世界は自己利益で回っている

安倍も
金髪の花札男も

自己利益を見ている
ヒトの自己利益を見ている

ライヒは

外に出ろ
外に出て彼らに見せてやれ

そう言った

貨幣に
外はあるか

貨幣に外はあるのか
いやだなあ

そこには
枯れた花が在るだけですよ

 

 

 

貨幣について、桑原正彦へ 29

 

一昨日
山形新幹線で帰った

新庄で降りて
車で西馬音内まで帰ってきた

ライヒは

外に出ろ
外に出て彼らに見せてやれ

そう言った

母は
去年の昨日

涙を一つ流して逝った
ライヒは外に出ろと言った

貨幣に
外はあるのか

世界は自己利益で回っている

 

 

 

夢は第2の人生である 第48回

西暦2016年霜月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

私が乗った船が遭難して沈没しそうになったので、SOSを発信すると、「遭難マニュアルをよく読め」という返信があったので、読んでいるうちに、船は沈んでしまった。11/1

私は理科部長に部活の時間と場所を訊ねたのだが、教えてくれない。どうやら私は、部長に嫌われているようだ。11/1

僕らのパーティーは、豪華ホテルの一室で開かれていたが、隣の大広間では、集英社の大パーテイが同時に開催されており、ちらとそちらを見ると石井さんの姿もあったが、あの人たちは家族同伴でやって来ているようだった。11/1

町内でいつも面白い話をしている、おじいさんがいて、「わしの名前はシュニッツエルじゃ。誰かわしの話を記録しておいてくれないか。あとで1冊の本になれば、皆の衆が喜んで読んでくれるだろうからな」と語った。11/3

雛段の真ん中よりやや右側が、彼女の定位置で、ここで美しきヒロインは、くつろいで飲み食いしたり、客とおしゃべりしたり、調子に乗ると、その場でセクスしたりするのだが、だんだん疲れて嫌になって来ると、右端の個室に退くのである。11/4

久しぶりに会ったオオミチ君が、「会社のノルマで追い詰められているから、この中元セットを買ってくれ。1個1500円だ」というので、10セット買ったら、とても喜んでくれた。働くのって大変だ。11/7

男子学生たちはみなホモだったので、女子はみな老学生の私の部屋に押し寄せたが、いくらなだめすかしても、肝心の一物が物の訳に立たないので、頭に来て、全員立ち去ってしまった。11/8

おりしも、そのマンションでは、子供たちと大人の女性テームとの野球大会が開催されていた。11/9

買ったばかりの冷蔵庫からかなり離れたところで、その家の息子が、なにやら懸命に工事をしていた。窓際に佇んでいる彼女に近づこうとしたが、彼女が待っているのは、私ではないと分かったので、そのままにして別れてしまった。11/10

長い間隣国に占領されていた私たちは、ようやく解放された後も、彼らに対して屈折した感情を長く懐いていた。11/11

課長が出張先でレンタカーを借りて、ものすごいスピードでぶっ飛ばしたために、事故ってしまった。幸い怪我はなかったが、車は大破してしまった。クワバラ、クワバラ。11/12

疲労困憊した私は、もうすべてにおいて投げやりになって、国家機密事項を平文のウナ電で全世界に発信してやった。いい気味だった。11/15

夕方、会社から帰ろうとエレベーターを降りたら、ナベショーがお客さんに「すんまへん、こんな時間に来ていただきまして」と謝っていた。この男は、大物ぶっていつでもダブルブッキングしているから、こういうことになるんだ。11/16

その男は、いい女だと思うと、ダンスに誘ってチークダンスをするのだが、彼奴は踊りながら、膨らんだ局部をやたらとこすりつけるので、女たちは、嫌がってたちまち逃げ出してしまうのだった。11/16

砲撃を受けると、そのたびにコンクリートのフロアが崩れ落ちる。次の砲弾がどこに落ちるか分からないので、運を天に任せて、思い思いの場所に佇んでいると、目の前でドカンという音がして、私らは最上階から地下室まで猛烈な勢いで落下していった。11/17

ダリ展の隣で開催されている展覧会は、奇妙だった。会場はだだ広いのに、何ひとつ展示物も説明パネルがない。にもかかわらず、ダリ展より高い入場料を取られるので、みんな頭に来ているのだ。11/19

ちょっと油断していると、野良猫と野良犬と野良詩集が家じゅうに氾濫して、足の踏み場もない。そこで私は、我が家を犬猫詩集叩き売りショップにすることに決めた。11/19

我われの明日の計画を、カーテンの向こうで盗み聞きしている奴がいたので、妖刀村正をギラリと引き抜いて、グサリと突き刺すと、アベノシンタロウが朱に染まって斃れていた。ザマミロ、ふてい野郎だ。11/20

長い間行方不明になっていたクラタ氏が、突然この世に戻ってきたのだが、無気力そのものだし、眼はいつも死んだ魚のようだし、どうも様子が変だ。11/21

「恒例の社長年頭訓示によると、最近のわが社の業績は非常に好調らしい」、と海の底で立ち泳ぎしながら、時々あくびして、常務が教えてくれたが、本当にほんとだろうか。11/21

あるい夏の日に、黄色いワンピースを着た痩せた女がやって来て、挨拶抜きに「ポコペン」というたので、私はなにもいえずに、その場に立ち尽くしていた。

その翌日、ブーベリックという男がやって来て、やはり挨拶ぬきに「ポコペン」というのだったが、私が彼と一緒に村のあちこちを散歩していると、村人たちもいつしか「ポコペン」「ポコペン」と挨拶するようになってしまった。11/22

ある朝、関東平野を3.1で揺らしながら、地震は、「今度は6.0だぞ」と脅かすのだった。11/23

その男は、「私は、生涯で2度もサルガッソーの海で死にかけたことがある」と語った。11/25

原発事故による放射性物質で汚染されたというのに、この病院では、いつもと同じように安気に無警戒に業務を続けているのだが、それは病院長をはじめ首脳陣がどのように対応したらいいのか、てんで分からないからだった。11/27

小津監督が、新しい映画のエンデイングの音楽のために、大太鼓を買って来たのだが、実際に使ってみると、うまくいかなかったので、ヤオフクに出したが、誰も応募してこないいようだ。11/28

滔々と落下する千尽の滝壺を茫然と眺めていたら、隣に立っていた女が、私を背後から抱きかかえたまま、青い水底へ飛び込んだ。女は、大蛇のような両腿で、私の下半身をがっちりと締めあげ、両手を背中に回して身動きできないようにしてから、私の唇に舌を差し込んだ。11/29

私とセイさんが、どの席に座ればよいのかを巡って、その料亭の女将と若女将が喧嘩し始めたので、私らは、いつまでたっても座ることができなかった。11/30