受話器より 雁の鳴き聞く ビルの窓

 

一条美由紀

 
 


踏みしめればガシャガシャと
音がする気持ちを隠し、
今日もなんとなくやり過ごす。

 


足元は霞空
柔らかい繭はポコポコと生まれてくる
わたしは多分そのうちのどれかに入ってる
行こうか、
行こう

 


遠くに住む母との電話
ご飯は食べた?
薬は飲んだ?
毎日同じ会話を繰り返す。
認知症の母にいつもと違う質問すると、
意味がわからなくなって、あ、誰か来たと嘘をつく。
母の世界は徐々に小さく硬くなっている。
小さくなる世界は、輝きを内に秘めて
いつか放たれるのだろうか。

 

 

 

Keep off the grass.
芝生に立ち入るな *

 

さとう三千魚

 
 

money

and traffic
called the plague

realization of global society
called the plague

humans have no choice but to dive into an old pond

the lawn is a prison

I on the green grass
lie down

I dress up
lie down

I became a cultural illusion

Keep off the grass *

 
 

貨幣と
交通が

疫病を呼んだ

地球社会の実現が
疫病を

呼んだ

ヒトは
古池に

潜る他ない

芝生は牢獄だ

緑の芝生のわたし
寝そべる

着飾って
寝そべる

わたしは文化的な幻影となった

芝生に立ち入るな *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ポ の 国 の ぴ

 

南 椌椌

 
 


© kuukuu

 

今日は拝島駅から青梅駅へ
そこからKuroちゃんの送迎車で
多摩川を渡り山々の紅葉を眺めながら15分
日の出町の「太陽の家日の出陶房」へ
空は晴れて、やがて秋も終わるだろう

さて、今日はこんなテラコッタを作ってみた
こいつの名前をつけることから始めた
「ぴ」
浜風文庫2020年10月「ポの国のポ」を踏襲して
ポ=ぼく、ぴ=キミ、ということにしよう
つまり、ボクの国のキミ?

「ぴ」は最初はただの粘土のかたまりだ
産地はあまねく知られる陶芸の里、信楽の赤土1号
両のてのひらに載るくらいの塊
重さを感じながら少し捏ねる
半分くらいにわけて
作業台の上でぱんぱん叩く、文字通りぱんぱんたたく
濡れタオルや軍手を押し付けて
ちょいと縄文風の文様をつけてみる
それだけで「ぴ」のイメージが近づいてくる
ほどよく平らにしたパン生地で
詩人の言葉を包むように丸める
指先でぽよぽよ押してみる戻してみるぽよぽよ
まだ「ぴ」はぴでもポでも、ぱぴぷでもない
もう半分も同じようにぱんぱん叩くぱんぱん
そして同じように丸めて撓ませ
別の詩人の言葉を包むようにつまんでみる
てのひらで揺らす、ゆらゆらぽよぽよ

ふたつのつつみを上下に重ねる(無造作が大事)
瓢箪のようないびつな物体が
手回し轆轤の上に鎮座している
こうしてキミはようやく「ぴ」にならんと身構える
これからが長年鍛えて捨ててきた即興スキル
両手で瓢箪のかたちをかるく絞るようにして
縮めてゆらしてさらに押し広げ
納得できる行き当たりばったりを目指す
どこでもいいどこかに(無造作が大事)
人差し指と中指の第二関節を丸めて押し当て
轆轤の上にトンと押し立て回してみる
なんかこりゃまだふつうだな
まだふつうの造形で「ぴ」には届いていない

おなかのあたりをぐっと平らに押し込むと
左右に堕天使の羽(イメージイメージ)が広がり
次に天使の羽二枚を頭上で出会わせる
それも途上のかたちに過ぎない
天使の羽二枚はその名残りだけで消える
しばししばし、顔らしき輪郭が生まれる

手を休めると窓の外を人が通る
「太陽の家」には天上天下の人たちが住んでいて
陶房の仕事をしたり畑しごとをしたり
不思議な声をだしてただ歩いていたり
のっぺりした遠近法ではダメ出しされる
「ポ」オノレ自身の描法を迫られる
無造作が大事、だが唯我独尊からは離れて

テラコッタ作りのほとんど唯一のツール
焼き鳥屋で使うなじみの竹串の出番だ
ここからが今日の作業の正念場
竹串のとんがりに細心の注意をはらい
両の眼窩にめんたまラインを素早く入れる
ここで迷ったりやり直したりすると
あとがこわいずるずる、信楽赤土1号の塊
もとの木阿弥にもどってしまうのだ

午後の陽射しが陰ってくると
小春の日和さんは足早に去ってゆき
山あいの陶房にも冷気が入り込んでくる
ふむふむいいでしょう、こんなところか手をとめる
いや止めないとカラダが冷える

ああ、いいかも知れない
顔立ちはちょっとお茶目な才色兼備
なぜか墨の涙を流している
死んだ友のことを思っているのか
存在の秋の終わりに涙してるのか
ピカソのゲルニカやドラ・マールの涙
「涙のわけはわからない」
清志郎と原田郁子の「銀河」を口ずさむ

ところでキミの名前は「ぴ」でしたね
こうしてこんな具合に「ぴ」が生まれました
ぽの国のぴ、まずまずのお気に入り

 
 

✶ 写真は2020年11月13日15:15、成形の終わった焼成前の「ぴ」。
テラコッタ=terracotta=土を焼く、からするとこの「ぴ」はまだテラコッタではない。

 

 

 

We lost sight of her in the crowd.
私達は人ごみの中で彼女を見失った。 *

 

さとう三千魚

 
 

there are beautiful people

beautiful is horrifying

beautiful is beautiful
tremendous

beautiful

horrifying
disappears in an instant

there are beautiful people
there are not beautiful people

this morning
I saw the white Fuji floating in the blue sky

We lost sight of her in the crowd *

 
 

美しい人は
いる

美しいは

ぞっと
させる

美しいは

途方もない
美しい

美しいは

ぞっと
して

一瞬で消えさる

美しい人はいる
美しい人はいない

今朝
わたし

青空に浮かぶ白い不二を見た

私達は人ごみの中で彼女を見失った *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

倉敷

 

工藤冬里

 
 

リーヴァイス
は奥の奥の影。
長い鞘が残酷に揺れる
プラモデルの箱のように
山間の家々に暗さをもたらす
四角く切った屋根から落ちた子供のために脂肪を捧げる
赤白青の的の描かれた家の漆喰の外壁に向かって
薪の上に並べたウェディングドレス
穴の開いた樋からは鯨脂の白が流れ落ちる
次から次と病気になって
ヅカファンでアルフィーの坂崎が好きなトリコロールの真由美が
ヅカファンでアルフィーの高見沢が好きだった倉紡の元同僚に書く手紙に脂肪が吸い取られていく
落下地点を的にして潜らせる針の

 

 

 

#poetry #rock musician