結界

 

松田朋春

 
 

嫌われ者がいなくなった
ゴミ出しを咎めて袋をあけ玄関まで戻しにきた
犬がうるさいと騒ぎ
施設で遊ぶ子どもがうるさいと文句を言い
まちに注意書きが増えて
嫌われ者の家には監視カメラが幾つもついて
塀に上にはピカピカの防犯金具が並んだ

嫌われ者がいなくなる
と噂が流れて
喜びを感じた
たくさんの人が
犬が
施設の従業員が
雲が晴れたように
ほんとに

会ったことはなかった
理不尽さが周囲に
強い輪郭を張っていた
芯にあったのは
憎しみなのか
何への?

伊豆に越していった
いつか来る喜びの日は
あっけなくやってきて
家ごとの取り壊しがはじまって
新しい建売が建つ
新入りさんはとてもいい人にみえるだろう
嫌われものが作った
結界のことはすぐに忘れ去られるだろう
近所の公園で首を吊った
独居老人のアパートが
きれいなレントハウスに変わった時のように

株のデイトレーダーらしい
挨拶もなく見送る人もなく
まちの人に失敗を願われて

ひとりで住む新しい土地で
結界はまたゆっくりと
立ち上がるのだろうか