――目黒実氏に
佐々木 眞
小学生の頃、火山には、活火山と休火山と死火山がある、と聞かされていた。
それで僕は、山を人世に譬えて、山頂から激しく火をふいいて地下からのマグマを天に向かって吹き上げる活火山は、青少年期。
その勢いがだんだん収まって、
時々爆発するオヤジのように丸くなる休火山が成熟期。
そして思い出だけを懐かしむ老人期が、
死火山に似ていると思ったものだ。
それから半世紀の歳月が流れ流れて、
僕は今まで見たこともない秀麗な休火山と巡りあった。
花と嵐のこの世を渡り、酸いも甘いもかみ分けたお洒落な伯父さん、目黒実。
それはいつも静かなる頬笑みを湛えた休火山。
その山頂には、来る朝毎に昇る太陽にキラキラと輝く透明なカルデラ湖を湛え、その下にはいつでも爆発せんばかりの、ふつふつと情熱をみなぎらせたマグマが赤黒く滾っている。
この山は、もしかすると、この国でいちばん美しい休火山かも知れない。
しかしある朝、それが静かなる休火山であることをやめ、
その端正な面立ちを崩して、天空に向かって地下から激しくマグマをまき散らすだろう。
その時こそこの山は、世界でいちばん美しい山になるだろうことを、僕は確信している。