準備

 

道 ケージ

 

春、午前一時
ゴミ出しで
廊下に出ようとすると
電話をとった妻が
お母さん亡くなったって

そうか、と廊下に出る
途端
ものすごい号泣
息が詰まるほどだ
崩れ落ち
こんなに泣くのかよと思う自分

息苦しくて
起きる

夢だった
福岡の兄にライン
あゝそう
「こっちは大事ないたい
すっかり誰が誰ともわからなくなったが
口から食べられるごとなった
ケージは? とも言ったったい」

昨夏、危篤、救急車に同乗
覚悟した
春、驚くほどの回復
ゼリーを食べた!
夏、また会う直前
本当に亡くなってしまった

棺におさまる母
こんなんなっちゃって
父への母の言葉
嗚咽

まぁ号泣はしない
ホッペを触る
冷たい

  いまさら孝行息子でもあるまい。よせやい。泣いたらウソだ。涙はウソだ…
  いまにも、嗚咽が出そうになるのだ。
  私は実に閉口した。(太宰治「故郷」改)

嘘だ嘘だ
泣くのはよしにして
飲みに行く

ついでに吉野ヶ里
カメに入った大王は
丸まって笑みをもらす

刀剣は出ない
印章は出ない
ここに卑弥呼はいないよ
汗だくの元自衛官のガイドが笑う

蚊をつぶす