MISTY FOREST

 

狩野雅之

 
 


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今回も明示的なテーマはありません。(タイトルは読者向けの便宜的なものです)
 
わたくしごとですが、これほどセレクションに苦しんだことはありません。数週間七転八倒しました。(今回ははじめて浜風文庫掲載を前提に撮りました)
 
その結果が「この程度」でありまして、内心忸怩たるものがありますが、これはこれでひとつの到達点ではありますので受け入れようと思います。
 
わたしは組み写真がもっとも不得手なものですが、「浜風文庫」においては写真掲載は「組み写真」が紙面上最も良いと個人的には考えています。
 
もし1点のみの掲載に留めるのであるならば、写真1点とショート・エッセイが相応しいのでは無いかと思います。
 
そちらの方がわたしとしては得意なのですが、やはり組み写真への取り組みは大切な修練でありそれを発表する場も数少ないゆえ、これはとことん「組み写真」でいくべきだと考えています。(どこまで続けられるかは「神のみぞ知る」ことではありますが)
 
写真というものはやはりプリントしてテーブル上に並べ、それを眺めながらさまざまに並べ替えセレクトしてページを構成する(あるいは展示を構成する)ものなのだと改めて思い知らされます。作品としての写真はプリントして初めて写真になるというのは永遠の真理なのかもしれません。(わたしに限っていうならば、モニター画面上でのセレクションはもはや不可能だと思い知りました)
 
そして写真にこころ惹かれるときそこには必ずそのひとにとっての「プンクトゥム」があるのです。(ロラン・バルトのいうように)
 
今回は改めてそのことに気づく機会となりました。
 
ありがとうございました。

 

狩野雅之 拝

 

 

 

ぐるぐるヘルプ!(改訂版)

 

長田典子

 
 

Winding Sheet は死体を包む白い布という意味
窓の外を雪がひっきりなしに降る30丁目の教室で知った
小説の中で黒人の妻は黒人の夫に向かって笑顔で言う
白い布に巻かれたハックルベリーの果実みたいだわ、と夜勤明けの午後
授業が終わり外に出る乾いた雪が吹き上げ巻きつく擦れ違う
一晩中重い荷物を運び続ける夜勤に向かう男とたぶん
ホワイトアウトした坂の上のスノウドームの中には
お城のように大きなデパートが浮かび上がる
黒人の店員にエクレアひとつおまけしてもらうカタジケのうゴザイマス
たくさんの人が行き交うグランドセントラルターミナルを通り抜けるアパートに帰る
甘すぎるエクレアを頬張りながらコメディドラマを見て大声で笑う
本日の為替レートをチェックする今日も円高 ※3
アリガタキ幸セな日々は早や刻限なりて
飛行機で海を越え深く西に落ちていく帰国する
ニホンへ生まれた国へ
沈んでいく
ニホンhitoはいつも大勢で集まっている座っている立っている
ハグしてコンニチハ アクシュ、アクシュ、
ハグしてサヨウナラ アクシュ、アクシュ、
コンニチハもサヨウナラもニホン語なのに疎外される
アメリカjinと言われてしまうアッシはニホンjinでゴザイママスdesu
すぐ触りたがるとか男好きだとか女好きだとか罵られるただの挨拶でゴザイマスdesu
ハグって親愛の証なのでゴザイマスdesu
すごくあたたかくて安心するのでゴザriマスdesuデス
ひどくみじめになってニホンhitoがたくさん詰まっている乗り物が怖くなって
足を引き摺りながら駅までの道をバス停6つぶん歩いた夕方
大きな自動車工場の横を通り過ぎる擦れ違うたぶんここでも
小説の中の男は並んでいたのにコーヒーを買えなかった売り切れたと言われて
足を痛めている足を痛めている足を痛めているのに
仕事を休めない一晩中重い荷物を運び続ける夜勤に向かう痩せたガイコクjinとすれ違う
お気をつけナサッテクダセェYo!
晴れのちセシウムときどき曇りストロンチウムのちセシウムのニホンの空
助けてくださいわたしばかka?
ごめんなさいka?
わたしばかka?
助けてください
このヘルプ傲慢でゴザルぞ傲慢でゴザルぞ
初の黒人大統領はその肌の色ゆえ苦戦が強いられている
決死の覚悟でゴブレイセンバン小田急線に乗り込むニホンhitoの渦に巻き込まれる
このわたしのみじめさなんてヤクタイもない誤解なのか
ユーチューブで理由もなく殺された黒人少年を悼む大統領の演説を聞く
地下鉄の入口で並んでいたのにコーヒーを買えなかった黒人の男は
妻を殴り続けながら白く絡み付くWinding Sheetの罠に落ちていく
電車を降りる歩くWinding Sheetの裾を引き摺りながら帰宅する
思考がぐるぐるする空回りするから思い切って
逆回りに回って回って
Winding Sheetを引き剥がす
ふいにグランドセントラルターミナルを行き交うたくさんの人々を思い出す
絡まる解れる絡まる解れる広がる広がる
空にはスーパームーン輝け広がれ
すべてすべてを暴き出せ
Yo!……おヌシ、
書け、わたし輝け

 
 

※1 Ann Petry著 小説“Like a Winding Sheet”からの引用あり
※2 初出・同人詩誌「モーアシビ」30号
※3 わたしがニューヨークに滞在した2011年1月~2013年1月の2年間は1ドル=80円前後をずっとキープしていた。

 

 

 

由良川狂詩曲~連載第16回

第5章 魚たちの饗宴~いやさかケンちゃん

 

佐々木 眞

 
 

 

タウナギ「ん、なるほど、あの西本町の四つ角の下駄屋の当主の孫で、いま鎌倉は尊氏一族の菩提寺、浄妙寺の近くに住んでおると聞くケンちゃん、そのケンちゃんに助けを求めよとアポロンの神託が下ったのじゃな」
Q太郎「さよう、さよう。その通りじゃ。それゆえ拙者早速一計を案じ、雨宮健氏に面会してわれら全由良川淡水魚同盟の前代未聞の危機を救ってくだされと、わが一族のうちもっとも機敏にして細身、修験道と立川流免許皆伝の持主たる愚息、豚児たるオタクのQ太郎を急遽鎌倉浄明寺の谷戸に派遣したのが、ざっと3週間前。はてさてその首尾はいかにと。よき便りを待ち暮らしておるのじゃ」
タウナギ「そうか、そうか、そうだったのか。いや、そうじゃった、そうじゃった。わしも寄る年並みで忘れるとこじゃった。さあ、みなの衆、ケンちゃんの無事到着を祈念して、みなで声を合せて、我らがテーマソングたる由良川音頭を歌い、踊ろうではないか!」

得たりや応、とみなの衆が立ち上がると、手拍子をとりながら、まずタウナギが野太いバスで歌い始めました。

 

おもしろや、京にはくるま
丹波に舟、ドウジャイナ
丹波に舟、由良の川にむかい舟
ドウジャイナ
鶴の子の、そだちはどこじゃ
四つ尾山、ドウジャイナ
早少女衆は 苗を呼ぶ声、山越えて
ソヨノ、まだ山越えて、
ほととぎすの声、ソヨノ

 

続いてQ太郎が、伸びやかなバリトンで、喉を震わせました。

 

井戸堀そめて 水がわかずに金がわく
面白や。
こまた榎の、榎の実やならいで金がなる
面白や。
みょうがとふきと、みょうが目出たや、
富貴繁盛。
今日はめでたや。日がらもようて、日もようて。
餅もつかずに石をつく。
面白や。

 

今度は、最長老のオオウナギの番です。

 

丹波で名所は、由良の川
水が半分、魚半分
これは綾部か 福知山
ぐると回れば 由良の海

 

ボーイソプラノのドンコが、続きます。

 

降らずとも 蓑笠持ちやれ 篠原に
篠原の 根笹の露は 蓑笠に

京から下るような 白い菅の 笠をば
わいらあにも たもろまいかの 白い菅の笠

 

ソロが終わると、一同声を揃えての大合唱になりました。

 

めでたためでたの 若松様は
枝も栄ゆる葉も茂る おめでたや
鶴は千年 亀は万年
由良川歴史は 一億年
われらの歴史は 二億年

苔むし神あがりましし白栲の
うつのうつろなる生き神さまに
われら魚どもせちにささげん
このはららごを

由良川の水より清く 由良川の底より深き
ことほぎの 心も死ぬにありがたき
その佳き日 その佳き人のおとずれを

せちに待ち待ちて 今宵ぞわれら
君に捧げん このいやさかの歌 このいやさかの歌
ア ソレ、ア、ソレ、ア、ソレソレソレ
いやさかケンちゃん、いやさかケンちゃん、いやさかケンちゃん……

 

 

次号へつづく

 

 

 

勝手に孫の中学生の鈴木ねむちゃんに代わっての短歌 その二

 

代作 祖父のシロウヤス

 
 

麻理母さんちの庭に
水を撒いたら
百合の花が笑った
お母さんと同じ名前の花

坂道を自転車で
すーいすーい
気持ちいい
わたしは重力

世界史って戦争ばかり
日本の平和を七十年を生きた
女の人を
漫画で描きたいわ

 

 

 

勝手に孫の中学生の鈴木ねむちゃんに代わっての短歌 その一

 

代作 祖父のシロウヤス

 
 

お姫様
目に涙を描くと
キューンと
こころが痛む

わたしが
絵を描くと
みんなが褒めてくれる
どんどん描いちゃう

自転車の後輪は
前輪にいつも素直に従ってる
二人の仲は
本当なの

 

 

 

勝手に孫の小学4年生の鈴木はなちゃんに代わって俳句10作

 

代作 祖父のシロウヤス

 
 

大雨や
夜遅くまで
語り合う

運動会
思いっきり
走りたい

運動会
不意の地震に
皆走る

大雪や
登校の朝
すってんころりん

ばあちゃんは
老病介護で
じいちゃんを

分数は
分子と分母
なぜ親子

日本国
菊の御紋が
恐ろしい

コスモスや
漢字で書かれて
はずかしい

組みダンス
大空の下
皆すてき

菜種粒
水吸って芽出す
力 何