@140911 音の羽

 

萩原健次郎

 

 

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川上から流れてくる人
強いられているのではなく
意志を固めて、眼をしっかり見開いて
身体は、上下に揺れることもなく
流れてくる。
ひとり、ふたり、さんにんと
等間隔で、川下に向かい
微笑んでいるようにも見える。

そうかもしれない。

自らの動力も気力も
発露することなく
ただ、上から下へと
地点を代えているだけなのだから。

生動の川は、無情ではない。

両岸に、四季の花々が咲き
風が吹き、
草木が潤い、また枯れ
滅していく。

光景は、拝まれている。
祈られている。

そして忘れ去られている。

そうかもしれない。

音楽のように、生きて鳴ったと思えば
生動の川も、無情ではない。

秋桜を
岸を歩いている
こどもたちに、あげよう。
言葉ではなく
聴いてきた、音楽の旋律をなぞって
しらせてあげよう。

溺れているように見えるかもしれないが
ただ、生動しているだけなのだ。
地上は、暴かれているだろう。
この真昼も

川の中から
拝んであげよう。
祈ってあげよう。

この世は、きょうも
生きるために、動いている。

 

 

 

「はなとゆめ」18 ウインナ

 


蝉が鳴いて

西の山が青緑にひかっていました

ブラームスを聴きました
マリア・ユーディナのブラームスの間奏曲を聴きました

それから

蝉が鳴いて
西の山が青緑にひかっていました

世界は
終わっていませんでした

モコが階段をのぼって起こしにきました

ウインナを炒めていました

きみは
台所の窓からひかりが射していました


ウインナを食べました

ブラームスの間奏曲をくり返し聴きました

蝉たちが鳴いて
西の山が青緑にひかっていました

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

「はなとゆめ」17 沈黙

 

 

マリア・ユーディナの
平均律ピアノ曲集 第1巻第22番を聴いて

朝となりました

わたしには
語るべきコトバがありません

ひかりの後に

西の山が
薄い青空に青く浮かんでいます

小鳥たちが
鳴いています

虫たちが鳴いています

蝉も鳴きはじめました

マリア・ユーディナのピアノを聴いて朝となりました
マリア・ユーディナのピアノを聴いて朝となりました

語るべきコトバがありません

マリア・ユーディナの
ピアノは

ただひかりを受けているように聴こえます
ただひかりを受けているように聴こえます

語るべきコトバがありません
語るべきコトバはありません

コトバは沈黙のカタチをしていました
コトバはひかりのカタチをしていました

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

「はなとゆめ」16 おもちゃではない

 

 

蝉が鳴きはじめました

窓の外を
クロアゲハがゆらゆらと飛んでいきました

燕たちは
大きな曲線を曳いて飛んでいます

土手を
朝の散歩のヒトたちが歩いています

たくさん
歩いていきます

青空の下
西の山が青緑に霞んでいます

きのうの夕方
モコと散歩したときにみた雲が忘れられません

たぶん二度とあの雲と会うことはないと思います

すこしピンク色に輝いていました
光っていました

このまえ桑原正彦から電話がありました
桑原くんはぼくの友人の画家です

夜中に新丸子のスーパーで買い物をしていたときです

桑原くんは
電話のむこうで言いました

ひかりなんだよね
むずかしいけどひかりなんだよ

桑原くんは電話のむこうで言いました

うまく言えませんがぼくもそれしかないと思いました

おもちゃでは
ありません

おもちゃに見えるかもしれませんが
おもちゃではありません

蝉も
クロアゲハも

燕たちも

朝の散歩のヒトも

西の青緑に霞んだ山も
昨日の夕方の空も

白い雲も

おもちゃではありません
おもちゃではありません

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。

 

 

「はなとゆめ」15 小さな子

 

 

夏の
太陽の下に道があり

白い道が
あり

ひとりあるいていきました

山の斜面に

ユリが咲いていました
ヤマユリは白く咲いていました

白い雲が

流れていくのを
見て

いました

ゆっくりと流れていくのを

見て
いました

小さな子はわたし
小さな子はあなた

燕が大きな曲線を曵いて飛ぶのを
見ていました

魚たちが光の中で遊びながら泳ぐのを見ていました

オニヤンマがゆるゆると風の中を通り過ぎるのを
雲がゆっくりと流れておそろしく盛りあがるのを

見て
いました

小さな子は見ていました
小さな子は始まりを見ていました

小さな子は終わりを見ていました

小さな子はわたし
小さな子はあなた

ゆっくりと流れて
白い雲が盛りあがるのを見ていました

世界の始まりと終わりを見ていました

 

 

 

※この作品は以前「句楽詩区」で発表した作品の改訂版です。