michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

ティン カン トン

 

原田淳子

 
 

 

ティン カン トン

根っ子の 奥の
きみの 響きさ

ティン カン トン

ひかりの 泉の
ぼくの 寝ぐらさ

ティン カン トン

ここに 来て
ここに 来ないで

白い 太陽が
ぼくらを 灼く

雨の ハンモック
逆さまの 虹

ぼくらは 子のない
無口な 家族さ

 

 

 

石を積む

 

さとう三千魚

 
 

このところ
荒井くんと

話していない

64の頃だから
6月くらいからかな

話していない

どう
してるかな

酔うと
荒井くんは

ひどいことを言う
それで

しばらく
電話していない

でも
気になってる

どうしてるの
かな

いま聴いてる
ラ・モンテ・ヤングも

工藤冬里も

荒井くんの
両国か

浅草のアパートで
聴かせてもらった

ラ・モンテも
工藤も

音で石を積んでいる

ちいさなころ
わたしも

軒下の土台柱の端に石を積んだ
雨垂れを避けて

ひとり
積んだ

いまも
石を積んでいるよ

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

エアー・ピアノ

 

小関千恵

 
 

爪の先が地に届く
夏の終わりにもう焚き木をさがして
燃え尽きそうな中心

植物らのりんかくが光輝いて 風に揺れてる
そら ミライは あの雲を掴みに行くだけだ

すまいの
垂れたカーテンの くたびれの向こうから 歩いてくる 命を  ♢  影を
見ないようにして しないで
エアー・ピアノで 畳を踏む 聴こえる
移動してる
忘れてしまう しまわない

鷺よ 山へ帰って 戻って 弾いて
慰安婦の 子供たちの そらを飛んで
だけど それとして ゆかないで

ゆかないで ゆくために 弾いて

飛ぶことを 弾いて

 

 

 

 

そろそろ焦ったほうがいいかもしれない

 

工藤冬里

 
 

思いつかなかった理由を挙げられ続け
煮しめられた魚の子の
冬に向かって段々に着膨れしていく忍耐
喉にはARDBEG
綿を仕舞って自分がアルバニアからペルーへ
祖母から受け継いだ稲荷の理由を知って
痒みと死別の種類について 根を剪定される
糺されながら氷を求めているのだろうな
矯正の歯からキャラメルの音声
葛の国から顔を覘かせる爬虫のように
日頃から自分の考えを持つな
雲にハードルがないのがいけないんだ
アルバニアから離れちゃだめだ
入院の無駄が役割を果たす
私は忍耐です
忍耐に時給をあげる
賢い花が地方に咲いて
身に付くために学ぶことやらいろいろあります
鍛えられたハードルのない雲の
欠け茶碗の欠片
白く尖った貝の
無釉の
硬貨の重さ
思いやりは英語で
自由な者にも奴隷にも
売り買い出来ない凍結が臨む
関西弁で覚えてしまった氷結
違いを楽しんでいる筈だ
世界は趣味の悪い花壇としての
ピンクの遺跡
思いやりは英語でcompassion
じっくり考えるはreflect on
そろそろ焦ったほうがいいかもしれない

 

 

 

#poetry #rock musician

夢素描 24

 

西島一洋

 
 

労働の記憶

 

あっ、落ちた。

スルスルと僕の手から簡単に滑り落ちた。
闇の異臭のする液体の中に。

もうだめだ。
きっともうだめだ、と瞬間頭をよぎった。

こうなったら、冷静になって、拾い上げること。
多分だめだ。

とはいえ、僕は、拾い上げるための道具、いや、専用の道具では無いが、それを思いついた。それしかない、と、思った。
時間がないという理由もある。

あと二時間弱、それが、限界だ。

急いで、家に帰って、風呂場にある、自作の天窓開け用の金具を、現場に持って帰る。

先日、確か針金を買ったはずなのに、それが、見つからない。
しょうがない。

この天窓開け用の金具に全てを賭ける。

落ちたのは、プラスチック製の、40センチほどの菅だ。
内径は、10ミリほどかな。

闇の液体の中の彼の存在に、光を当てなければならない。入り口は、直径10センチ。ヘッドランプを頭から外し、なんとか彼の存在を確認する。液体を通してゆらゆらしているが、間違いなく彼だ。

彼というのは、落とした、パイプのこと、内径10ミリ、長さ400ミリ。

浮遊しているが、安定していない。小さな、覗き穴、そして、わずかの灯り。何度も、何度も見失う。

おや?

引っかかったぞ、もしかして、救い上げることができるかもしれぬ。

頑張るしかない。

小さな覗き穴、そこに金具を入れて、浮遊している彼を取り出すのだ。

浮遊する彼は、金具になんとか、引っ掛かる時もあるのだが、おっ、ピンとはねて、スーイ。

よし、引っかかったぞ。
あ、だめだ。

もおいい。
あきらめよう。
しょうがない。

そんなこんなで二時間が経過。
だめだ。
だめだ。
やっぱりだめだ。

もう一回チャレンジしてだめだったら、もうあきらめよう。

だめな時はあるんだ、それを感受しよう。

奇跡が起きた。
いまだに信じられない。

取れた。