michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

fragment・断片 破片

 

さとう三千魚

 
 

目を瞑ると

見える
ものがある

目を瞑ると

見える
人がいる

たぶん
忘れてしまったことも人も

ある

その人はメガネの厚いガラスの向こうで眼を見開いてやがて細くして笑った

さっと
風が吹いて

花が
揺れて

笑った
笑ってた

沖縄の戦争で
一人息子を亡くした女

戦争で痛んで酒ばかり飲んでいた男

その男を
支え

子どもを産んで育てた女

みんな死んでしまったが
みんな死んでいったが

断片が
破片が

残っている

白い野ばらの花が揺れて
鳳仙花がはじけた

花のある庭を眺めていた

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

千年パーク

 

工藤冬里

 
 

和歌

藤と八重が共に咲くので見に来たが藤と八重は今年も共に咲いていたことだ

 

和歌

今年はせめて藤と八重が共に咲いている(短い)期間だけでもお会いすることはできるでしょうか(いやできない)

 

和歌

藤と八重とが共に咲いているというコンセプトでコーディネイトしたのに今年は誰に見てもらえるのでしょうか

 

和歌

藤と八重とが共に咲いているのに大友山の霍公鳥は今年は来てくれません

 

和歌

(震災以来)藤と八重が共に空に打ち寄せられてデブリになって久しいのに(今年は)そうした空の廃墟を見ることすらできなくなりましたね

 

和歌

藤と八重とが共に咲いている写真アルシーヴ作りに忙しく、今年はもう終わっているだろうと思って来てみたら(見事に咲いている)、この公園の三番目の消失点を空に置きたいほどですねぇ

 

和歌

藤は寄り掛かるもの、八重は共に波に打ち寄せられるもの、毎年来ていますが、今年も一人で見るのでしょうか

 

和歌

大友山の麓にあるこの藤と八重の公園を、また巡ってくる千年後にもこんな風に眺めたいものですね

 

和歌

ジェノサイドの記憶が永遠に消えないようにスーヴェニールとしてこの藤と八重を植えたのでしょうか

 

和歌

藤と八重が共に咲くのを見て、東京の都のことを思ってしまうことだ

 

七重八重桜の空に藤浪は打ち寄せられて共に消えたり

 

 

 
#poetry #rock musician

absorption・吸収 専心

 

さとう三千魚

 
 

いつだったか
上原で

詩の包摂ですね

そう
志郎康さんに言われた

こと
憶えている

facebookの志郎康さんの花のコメントを

引用して
詩を書いた

ことへの
言葉だったか

類概念に種概念が包括される
普遍に特殊が従属する

そんなことか

普遍性なんてありませんよ

そんな
言葉も

憶えている

吸収と
専心か

詩は

いまいない君のこと思っている

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

千年桜

 

工藤冬里

 
 

弘前城は枝垂れが満開で
お濠は花で真っ白だった
僕はハルコと四阿にいた
水面はハルコなら歩けるんじゃないかと思うくらい真っ白だった
毎年こんなに真っ白になるんだと思った
その頃の写真は失われている
あんなに真っ白になるんだった

齶田から津軽に入ると丘はウィーン幻想派のみどりで
浅虫海岸の黒は海鞘のにおいがした
弘前はユパンキという店に呼ばれていた
城址の桜が満開だった
僕はハルコとピアニカを吹いていた
僕が息を震わせるとハルコも音を震わせ
僕が勢い余って吹き口を外すとハルコは笑った
お濠は真っ白だった
毎年こんなに真っ白になるんだと思った
その頃の画像は失われている
5Gは希望を奪うんだろうか
全てを奪われた脳に残るのは失われた画像だけだ
お濠は花で真っ白だった
あんなに真っ白になるんだった
ああ あんなに
真っ白になるんだった

 

 

 
#poetry #rock musician

rapt・うっとりした

 

さとう三千魚

 
 

北の
街の

駅の

前の
人びとのまえ

歌ってた

潮騒のメロディー

歌ってた
きみは

眼を瞑って
歌った

あの年の

流された街を歩いた

長崎の街も
歩いた

福生の街を歩いた

のも
夏だった

すべて流されてしまった

きみは
眼を瞑った

うっとりした
うっとりしてた

きみは
流されてしまった

なにもない

歌がない
歌しかない

きみは歌うしかない

 

 

*タイトルは、twitterの「楽しい英単語」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

千年ブギー

 

工藤冬里

 
 

音楽には失敗がある
失敗してもご愛敬なのは音楽だけである
この詩とかはだめなのか
失敗といっても大抵は音響的にであって
逃げたな
接続の不具合に加えてPAの意地悪や
嫌われるようなことするからだよ
ストラップが急に外れたり
それな
再生においても針飛びディスクの傷wifiやbruetoothの強度等による切断は度々のことである
笑顔でなければならない
ボランが最後に出演したTVショーにはボウイも出てヒーローズを歌った
番組の終わりにボランはさよならデイヴィッドもみんなもありがとうこれは新曲ですと言って演奏を始めた
ボウイもギターを弾いた
ヒーローズっぽいテイストも入っていて乗り遅れまいとする良い出だしだった
しばらくしてボウイがこれからどうすんだいと叫んだ
理由は分からないがボランはタイミングを外されてそれに和することが出来ず曲は唐突に中断され
一瞬彼の笑顔が画面右下に垣間見えた
その九日後に彼は死んだ
不当に扱われても笑っていたい
雇い主から解放されて笑いたい
いつもなんとなくうれしそうでありたい
雇い主が以前と同じ顔ではなくなっても笑っていたい
婚約から二十年待たされても笑っていたい
夜逃げしても笑っていたい
朗読の名手のように声色を使って
ゴキブリは這うので可笑しい
安心できる世の中が内臓に迫ってきて不思議だ
花が飾られて遠い
日本人は演奏で照れ笑いするとデレク・ベイリーから指摘された
恐れから来る笑いほど真面目なものはない
失敗のトラウマの強烈なフラッシュバックが堰を切らないように
完璧なTVの画面を観て公園に逃走する
可能なんだ
ゴキブリのように一人躍り出る
できる限りのことをして
内臓を顔に昇らせる
弱い人には弱い人になり
手紙の唐突や電話の夢物語のトーンを避ける
return visit to rock mass
政治家は私たち個人個人を知らない
個人対個人の関係のみが重要なので
どうか戻れるようにしてください
いなくなったボランを捜し
はぐれたボランを連れ戻し
けがをしたボランに包帯をし
弱いボランを力づける
終わりは極端には悪くはならない
どの家にも食物がなくなり
どの家からも病人が出るわけではない
時間的余裕がないまま突如として生じる
絵も声も必死で語る
海は荒海で向こうはモノクロの佐渡
白いコーンが並ぶ直島の船着場
物の凝集による薄明かり
城壁を崩す音
こんなに医学が発達したと思っていたのに
できることが家から出ないことだけということに絶望する
とある医者は言った
それでも
失われた写真を探し求める
迷った仔羊を探す勢いで
家と家族の違いを分からせてやる
間違った慰め
千年ブギー
音楽には失敗がある
失敗してもいいのは音楽だけである
取り返しがつかないことが分かっているからだ
その代わりに
迷った仔羊を探す勢いで失われた写真を探し求める
もしかしたらデータを復旧できるかもしれないからだ
そのようにして死んだ写真が見つかることもある
笑顔でなければならない
さよなら、デイヴィッドもみんなもありがとう
これからどうすんだい
失われた写真を探し求めている
失う家と失う家族を探す
間違った慰め
千年ソニック
音楽には失敗がある
失敗すると星が爆発するのは音楽だけである
笑顔でなければならない
最後にボランはTV画面の右下隅で笑っていた
失敗といってもソニックに成功も失敗もなく
笑顔は音楽以外のところから来る
笑顔でいなければならない
恐れが免疫系を弱め感染率を高める
とある漢方医は言った
終わりは極端には悪くはならない
どの家にも食物がなくなり
どの家からも感染者が出るわけではない
笑顔でなければならない
間違った慰め
千年ガンクラブ
ガン・イーデンは家として失われている
傾けて斜めから或いは仰け反って斜め上から正面を向くのなら
たまに首は真っ直ぐに立てなければならない
スピーチに関してアドバイスされたのだろう
言いづらいことを向正面から言って隔離される
自信がないと目が泳ぐ
本気で噬む
のっぺりした富士絵
空は木版
これからどうすんだい
その行節を読むのは今ではない
根拠はない
もっと考え詰めよ
ももクロはいいモノクロにしてくれ
長細く地に貼りついた図絵の春霞
桃色の帯は二点透視に垂直
鶉の卵型を噬む
自然に傾いている
首が据わっている
画竜点睛的に同色を隅に置く
山崎朋子は森崎和江から失われた家に招かれなければサンダカン八番娼館を書けなかった
澄ました鶉
家主に怖いと感じていると伝える
蛍光黄緑
家と家族は違う
再び得るのはもとの家ではない
目に見えないから惑わされない
諸天体に何が起きるのか分からない
マスクして
気を失いつつ
頭を上げる
まったく突然に
このスーパー全部
泥棒
そのあと任命する
取り返しのつかない喪失

 

 

 
#poetry #rock musician

並んだ、走った

 

辻 和人

 
 

並んだ、並んだ
麒麟が並んだ
3頭、いや、ぼくのも入れて4頭
かんぱーい
金色のアルミの表面を
走った、走った
麒麟が走った
ぼくのも入れて4頭
ガハハッ

40歳から楽器始めて今やセッションに引っ張りだこのベースの佐藤さん(女性)
大学で数学を学びながらジャズ研でしごかれてるピアノの姫川くん(男性)
ロックやってたけどエルヴィン聞いてジャズに転向したドラムスの小谷さん(女性)
帰宅して消音器つき30分の練習が命のリーマンラッパ吹きのぼく(男性)
セッションで知り合った仲間だけどコロナのせいで演奏も飲み会もできない

ってことで今流行りのオンライン飲み会
画面を挟んでじゃ今イチ一緒にいるような気がしないから
ってことで
飲み物は統一
一番搾り<超芳醇>
「やっぱ日本酒の方が好きだけど、みんなで飲むとビールもおいしいね」
メガネを直しながら佐藤さんが笑うと
提案者の小谷さん
「あたし元々ビール好きだけど、この麒麟のイラストかわいくて好きなんだよね」
「あ、ぼくもですよ。よく見るとちょっとおマヌケでいい感じ」
同調する姫川くん
「ほんとはいない動物だから遠慮なくデザインできるよね」とぼく

ガハハッ
ほんとは、いる
4頭もいるよ
みんないつもはバラバラな酒注文するくせに
パソコンの画面に収まれば
おマヌケな顔が並びやがって
おマヌケなカッコで走りやがって
ガハッ
統一感を醸し出してくれるぜ
ガハッ
場の共有を意識させてくれるぜ
ガハッ
同じ曲演奏してるって気にさせてくれるぜ

並んだ、並んだ
走った、走った
金色のアルミの中を
かんぱーい
ガハハッ
ほんとはいないのに、いる
4頭の麒麟と
4人の人間が

 
 

*飲み物統一のオンライン飲み会のアイディアはhmさんよりいただきました