広瀬 勉
東京・世田谷北沢界隈。
俺っち、
詩集を出すことにしたっちゃあ、
ブン、
ブン、
ワンサカサッサア。
タイトルは、
「化石詩人は御免だぜ、
でも言葉はね」
としたっちゃあ。
ブン、
ブン、
ワンサカサッサア。
そこらのおじさん、おばさん、
そこのおねえさん、おにいさん、
書肆山田さんが、
手塩にかけて、
出してくれるから、
どこぞの大きな本屋か、
アマゾンかで買って、
読んでくれっすっすっす。
ブン、
ブン、
ワンサカサッサア。
俺っち、
十六の年から
八十一のこの年まで、
六十五年間も、
詩を書いてきて、
言葉、コトバで、
足元から、
化石化してるっちゃ、
詩集を出して、
コトバを乗り越えて、
生き身になるっちゃ。
詩が印刷された紙の束、
海老塚さんの綺麗な装丁、
手にした重み、
触って、
眺めて、
血が通って来るっちゃ。
今まで書いた詩を乗り越えて、
生き身になるっちゃ。
ブン、
ブン、
沢山の人に、
読んでもらいたいっちゃ。
そんでもって、
詩の歴史に残れば、
なんて、
思ってるっちゃ。
その思いで、
血が通ってくるっちゃ。
詩の歴史を乗り越えるっちゃ。
ワンサカサッサア、
ワンサカサッサア。
まあ、
でも、わかってるっちゃ。
読んでくれる人は、
知人、友人と
ごく僅かのご贔屓さん。
そして、
やがて、
忘れて去られる。
それが、
俺っちの詩集の、
運命ざんすね。
それでいいっすっす。
また、また、
次に、
ひょこり、
ひょこり、
ってね。
ブン、
ブン、
ブン、
サッサア。
美しい五月よ
三里塚には、もう革命児サパタも戦うパンチョ・ビラもいない。
廃墟と化した巨大な空港の高みに、ミラージュやコンコルドが舞っているばかり。
美しい五月よ
西新宿の大通りには、もう夜鷹もルンペン・プロレタリアートもいない。
四谷区民ホールのガードマンが、夜鍋しているだけだ。
美しい五月よ
新宿御苑の広大な敷地で、草上の昼食を楽しむ中産階級の市民は、もういない。
日がな一日画眉鳥が、「再見再見」と鳴いているばかり。
美しい五月よ
甍が無惨に崩れ落ちた熊本城には、もう誰もいない。
くまモンと鉄腕アトムと鉄人28号とドラえもんとのび太としずかちゃんと六つ子だけが、懸命に石垣を直そうとしている。
美しい五月よ
傲岸不遜な為政者たちは、もうこの国にはいない。
ビア樽ポルカのような奥さんと世界各地を訪れ、わが世の春を謳歌している。
美しい五月よ
十二所村の旧家の屋根の上では、もう親子の鯉幟は泳がない。
遠く旅立った一卵性双生児の息子が今どこにいるのか、誰も知らない。
美しい五月よ
時ならぬ横時雨に躑躅の花は忽ち散り失せ、もうアオバセセリはやって来ない。
はじめての恋は色褪せ、虚ろに開かれた四つの目を、夕闇がゆるやかに閉じる。
怪しい男が、可愛い女の子と一緒に教室に入ってきた。
鈍く光るナイフを突き付けられて蒼ざめているのは、
なんと私の昔の恋人ヨイコではないか。
私は、いきなりヨイコの腕を摑んで、教室の外へ飛び出した。
すると男も、あわてて私らの後を追ってくる。
私らは、キャンパスの坂道を転がるように駈け下りて全速力で走ったが、男に追い付かれそうになってしまった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からおそ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になっておそ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中から一松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になって一松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からカラ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってカラ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からチョロ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってチョロ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中からトド松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってトド松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは、持っていたバッグの中から十四松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になって十四松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに収めた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコ子は着ていたセーターを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコ子は着ていた天使のブラを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
その隙に、私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコ子は着ていたスカートを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
その隙に私らは全速力で逃げ出したが、しばらくすると、またしてもその男に追い付かれそうになった。
あわや、というその瞬間、ヨイコ子は身につけていた黒いパンティーを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男が夢中になってそれを拾おうとしたので、私は思わずヨイコの手をふり離し、それを拾って素早く自分の身につけたのだった。