広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
2023年7月
お父さん、いまどこ?
病院だよ。
お母さんは?
トウキューで買い物だよ。
ウエハラミツキ、髪短くしたね?
そうね。短いね。
あしたあ、ハス見にいってえ、セイユー行きます。
そうか、お父さんも、一緒にハス見に行っていい?
いいですお。
女たらしって、なに?
だらしないひとのことよ。
ぼく、これからお昼寝しますお。
してくださいな。
お父さん、録画した?
コウ君、バッチリしましたよ。
お父さん、いま録画みますよ。
そうですか。じゃあ見ましょうね。
はい、分りましたあ。
お父さん、「寂しい」の英語は?
ロンリーだよ。コウ君、寂しいの?
寂しくないですお。
「菱」はタを突き出してるよね。
なぬ、おや、確かに突き出してるね。
お父さん、大好きですお。
お父さんも。
お母さん、リハビリって、なに?
傷ついた手とか足とかを元に戻すことよ
テラオさん入院したの?
そうよ。
治りますよ。ぼく祈りますよ。ほら、治りましたお!
あら、あら。
おじさん、ウエハラミツキ好き?
好きですよ。
おばさん、ウエハラミツキ好き?
好きですよ。といっときゃいいのね。
おねえさあん、ウエハラミツキ好き?
好きですよ。―小林理髪店にて
お父さん、金曜日にフクモト・リコ、録画してくださいね。
分りましたあ。
ウエハラミツキ、髪の毛短くしたお。
そうだね。コウ君よく見てるね。
お父さん、起きてください!起きてください!
いま何時?
7時ですお。
分りましたあ。
2023年8月
お父さん、きょう石原さとみ、録画してください!
はい、分りましたあ。
お父さん、ぼく、イシハラサトミのビデオ見ますお。
いま見たいの?
いま見たいですお、
分りましたあ。
お母さん、ぼく図書館行ってえ、ハス見てえ、セイユウ行きますお。
分りましたあ。
お父さん、洗濯もの外で干してる?
外で干してるよ?
ぼく、カーブミラー好きですお。
お父さんも。
ぼく、布袋草、好きですお。
お母さんも。
ぼく、遅くなってもいいですお。
ぼく、ウチダアサヒです。
こんにちは、ウチダアサヒさん。
お母さん、ぜいたくって、なに?
いらないものまで、どんどん買ってしまうことよ。
ぼく、前、オシン見ましたよ。
そうなの。
ぼく、オシン好きですお。
そうなんだ。
ぼく、責任持ちます。
そうなの。
2023年9月
お父さん、明後日ビデオ撮って。
なんのビデオ?
トリリオンゲーム。
誰が出るやつ?
フクモトリコがでるやつ。
分りましたあ。
お母さん、リハビリって、なに?
手や足を、元に戻すのよ。
タカオさん、入院したの?
そうよ。
ぼく、祈りますよ。治りますよ。治りましたよ。
お父さん、雨ですお。今日おうちに帰りたいですよお!
そしたら、まず職員さんと相談しなさい。
分りましたあ!
お母さん、お菓子食べたいですよ。
食べなさいな。
はい。
「トリリオンゲーム」、こんど最終回?
そうみたいだよ。
残念ですか?
残念ですお。
ぼく「さくら」みましたお。
そう、良かったね。
大雨で幼稚園お休みになったんだって。
そうなんだ。
接続って、つながることでしょ?
そうだね。
セツゾク、セツゾク。
ぜいたくって、なに?
いらない無駄なものをいっぱい買い込むことよ。
ぼく、ゼイタクしませんお。
そしてね。
マリちゃん、元気になりましたか?
元気になりましたよ。
ぜいたくって、なに?
いらない無駄なものをいっぱい買い込むことよ。
ぼく、ゼイタクしませんお。
そうしてね。
マリちゃん、元気になりましたか?
元気になりましたよ。
コウ君さあ、イトウサンちが無くなっていて、びっくりしなかった?
びっくりしましたおお。
ウエハラミツキ、お腹に赤ちゃん入ってるってよ。
そうなのよ。来年はじめに、生まれるんですって。
ぼく、ウエハラミツキ、好きになりましたお。
なんでウエハラミツキ、好きなの?
優しいから。
へえー、そうなんだ。前は可愛いからだったのにね。
サミットで肉を持っていた
ぐしゃぐしゃの肉を持っていた
誰の肉かわからない肉を持って
歩きまわる
左手で子どもの手を引き
右手で肉を持つ女
そして肉を買う女
外に出る
サミットの外にはどうしようもない空地が広がる
立ち入り禁止の 雑草が生え乱れるゴミだらけの空地は暗くて
左手に子ども 右手に肉を持った私は仕返しが怖い
走って通り過ぎ 倉庫に出る
月額11000円の 断熱材入り倉庫がいくつもいくつも
同じ色 同じ形をして静かに じっとりと 連なっている
空を見上げる
空は倉庫と同じ色をして 倉庫のように四角くて
両手に袋を抱えていた
娘はわからないと言った
帰れるかわからないと言った
帰る場所がわからないと言った
私の顔がわからないと言った
自転車が斜めに置かれて そこに蔦が絡まっている
サルスベリの枝が伸びすぎて 窓を突き破りそうだ
白い壁の家の中にはなんでもある
冷蔵庫も パン焼き器も ピアノも 船も 町も 海も
足りないものはサミットで買う
ライフもできた
倉庫までできた
それでも彼は帰らない
肉を買う女 肉を食う女はガンになる
そして死んだ
わからないと言った
誰の肉だかわからないと言った
タレをつけた
びしゃびしゃだ
何もわからない
自分が誰かもわからない
お祭があると老人が言った
祭の幟をガードレールに結わえていた
太鼓の音が響いていた
知らないと言った
お祭がどこであるかは知らないと老人は言った
半被を着ていた
連なっていた
半被を着た老人が ずっと先まで連なっていた
彼は帰らない
お祭りでも帰らない
女が死んでも帰らない
肉を焼いた
おいしいと言った
この肉はすごくおいしいと娘が言った
わかると言った
私の顔はわからないのに
だから
サミットで私を見つけられると言った
サミットで会おうねと言った
(9月某日、鎌倉1丁目の空家前で)
点滴が
嫌だという
モコを
犬猫病院に
連れてゆく
先生は
点滴を
もいちど
教えてくれた
震えて
モコ
がまんしていた
帰って
海を見にいく
海浜公園の
駐車場の
ヤブタビラコの
黄色の
花の
揺れていた
遠い海で
客船が
白く光っていた
***memo.
2023年10月1日(日)、自宅で、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」として作った52個めの詩です。
犬のモコの体調が悪く、静岡駅北口地下広場での即興詩パフォーマンスができませんでした。
タイトル ”ヤブタビラコ”
好きな花 ”ヤブタビラコ”
#poetry #no poetry,no life
荒誕祭
や
やば豚でトン活
普通の道を歩いていても蜘蛛の糸を突破しているらしく顔や手に貼り付くのを
あれはアレチヌスビトハギ
廃船にいつも居る三羽の鵜が小鷺に挨拶されていくのを受け流して 童話のような親密 でも風が吹いて来た
それはアカクキミズキ
秋風や逆さに振りし頭陀袋
これはカキオドシ
も
モールで働らくおねえさん
の
脳味噌やられたおにいさん
ひ
日が暮れるまであと少し
充分寒いと思うけれども
地球に払う時給がない
生きをするように息ていてと言い切ってみると夜明けの三つの音がして刺身しかもまかない軍艦
走馬灯死ぬのかなを三回言って体の電源全部切る
衝上断層に今年もようけ落ちとるけどわしとこ以外誰も拾いやせんけんの
も
モールで働らくおねえさん
の
脳味噌やられたおにいさん
ひ
日が暮れるまであと少し
恋ヶ窪で必死にネトウヨを構ってあげようとしている男がプツン
ほら映画でよくある握った手を離してしまう落下寸前の
糸
糸魚川で左右に割れて離れて行くよアクリル板もなしに
互いに見下ろす断層面・断層面
連絡船のテープみたいに
も
モールで働らくおねえさん
の
脳味噌やられたおにいさん
ひ
日が暮れるまであと少し
会場で打ち上げってなんだ 唐揚げとか出るのか唐揚げとか
ハッピーターンとか出るのかハッピーターンとか
ハッピーサッドとか知ってるのかティム・バックレーの
煮凍りみたいなやつじゃないのはたしかだ
前もってきっとそこの格差だ
離れていたかった鱧の死体だ
サードウェーブなんてとうに終わり何周目かの深煎り
バスケットボールを腹に入れて寝そべってオペラを歌っている
抑
肋の如き刷毛の白
も
モールで働らくおねえさん
の
脳味噌やられたおにいさん
ひ
日が暮れるまであと少し
敗戦 僕とは敗戦に帰した全能感 全脳が泣けた マジ泣けるッス 善のうたうたうわたしに それは歌だヒカルだ ゼレン味のあるスキーム夏のゲレンデ アジェンデにチャボがフルクサス草津花柳病 加硫の巷膀胱癌いかんがな彼岸花脳死の牛脳死の牛No豚の囀り
ゲーテは精神だけは進んでいくと言うけれど5G端末がアタマの近くでonになっててもそうなのだろうかとてもそうはおもえない材木デスじゃろアルジャーノン
も
モールで働らくおねえさん
の
脳味噌やられたおにいさん
ひ
日が暮れるまであと少し
再訪問への暗礁
曲解セルフポア*
ロールオーバー亀之助
2p 3:16の逆向加速主義
隙間産業的更地としてのナイーブの道連れ
アカアシドゥクラングールの肖像
も
モールで働らくおねえさん
の
脳味噌やられたおにいさん
ひ
日が暮れるまであと少し
肉に沈んだ爪の
細すぎるフォントの
海に消えかかる
外延の明晰な十六夜なのか
反転した海と陸が左右の思い出を交換しているのを
眺めるだろうか
眺めるのだろうか
も
モーニングが目玉焼なのはとてもめずらしい
*https://courrier.jp/news/archives/328823/
#poetry #rock musician
アスファルトの空に
横切る
列なす彗星
多摩川土手の自転車道
月曜の炎暑の道に
身をジッと擦り付け
ひと刷毛の
尾を伸ばす
雨後の朝
蚯蚓たちは息継ぎに出て
白昼に干からび
踏まれ踏みつけられ
証しを地に残す
赤茶の沁みが
箒のような尾を引き
いくつもいくつも
点在している
垂れ糞とも螢火とも
脳漿と内臓が沁み入る
地の神の目ん玉として
夜空の彗星も
擦り付けているのだろうか
地の星の尾っぽは
執念、邪念とも呼ばれ
みっともないわけだが
あらゆる染みは死体である
あらゆる死体は作品である
どうすり込もうか
頭からおろす
足先から入れ込んで
脊髄を伸ばす
土を食(は)み沃土を放(ひ)る
蚯蚓
潜ることで残せたら
足先に垂線の涙を伸ばし
核を溶かし尾へ導く
茶色の体液の箒星よ
家族で関門トンネルを歩いた
隧道で蚯蚓になる
何を残したのか
空洞を走る空音(からおと)
また小田急と田都が蚯蚓であるのなら
不愉快な乗客はすべて土塊(つちくれ)の糞であり
沃土である
新宿駅を下痢のように降りる
私たちは沃土である
擦り付けなくとも
すでに干からびつつ
潰されつつ
アスファルトを
擦過している