michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

Man is bound to die.
人間は必ず死ぬ。 *

 

さとう三千魚

 
 

how is it

do not know
what

is it sad
do not know

what
what is it

this morning

I walked

I’m alone on the banks of the stream
I walked

white bird
was there

it was standing in shallow water

notice
did it notice me

it flew away

the white bird flew away
the white bird flew away

it went
it flew away

there were no words

I didn’t understand
such a thing

Man is bound to die *

 
 

どうなんだろうか

わからない
なにが

かなしいのか
わからない

なにか
なにかが

今朝

歩いたよ

小川のほとりを
歩いたよ

白い鳥が
いたよ

浅瀬に佇っていたよ

気づいて
気づいてか

飛んでいったよ

白い鳥は飛んでいったよ
白い鳥は飛んでいったよ

いったよ
いった

言葉はなかった

わからなかった
そんなこと

人間は必ず死ぬ *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

阿部薫はミノが好きだった

 

工藤冬里

 
 

 

藍住にキラ⭐️星という若い夫婦のやっているラーメン屋がありそこには作者が死んだ「喧嘩ラーメン」全巻が揃っている
今日は四巻目を読んだら家系前夜的なものと対決していた
日本人の痴呆はラーメンの糖質から来る、と医者の本にあった
うどんなら機械的に「肉うどん、」としか注文できない肉体労働者達はだから圧倒的に正しい
なるべく麺以外の繊維質と蛋白質から食べるようにして
それでもとうとう麺に箸を付け始めて近づけた顔から突如死にたい、と口を突いて、周りに聞こえなかったか不安になり乍らも、今のこの死にたいは絶対録音できないだろうななどと思いながら食べた
店の裏手に回ると草の中に見事に半球のお玉杓子と柄杓、雷文のラーメン鉢が打ち捨てられていた
阿部薫はミノが好きだった
と今度は音声無しで思った
Bluetoothで聴いていたDUOと題された昔の自分の音源の、ふわふわと捩れたサックスが平田薫という人ではなかったかと考えたからだろう。
ミノは上胃である
何かの小説にギムナジウムでの無味乾燥な学問という描写のために牛の四つの胃のラテン語を暗記させられている場面があったが
音は
ふわふわのガムみたいなホルモンではなくて上ミノでなければならなかった

 

 

 

#poetry #rock musician

伊勢

 

松田朋春

 
 

この街はたぶん
はじまった時からふるびていて
神宮ばかりが青々と生命を集めている

水路も道も
樹皮の皺のように蛇行して
何かを守っている

疫病なんて何度も通り過ぎたと
誰も採らない道端の柑橘がささやく
すれ違うとき

汐の湯につかって
磯のように
表面を溶かす 

水も土も風も
体液と同じ味になるまで
あともうすこし

 

 

 

夜が鳴いている

 

小関千恵

 
 

きみはすぐにあかりをつけるから
夜が行方不明だ

夜が鳴いている

夜がきみを探して鳴いている

あかりを消して
みてごらん

押し入れに隠れた夜のこと
家出をした夜のこと

夜、 夜、 と 呼んでごらん

夜の鳴き真似を してごらん

眠れない夜に
まあるい夜が
寝息を立てているよ

夜はこたつでも
まあるくなるよ

 

 

 

 

 

変容と変化

 

村岡由梨

 
 

火曜日、眠が入院した。
病院の帰りの電車の中で、私は
人目もはばからずに泣いた。
激しい孤独感に襲われて
足がすくんで
周りの音が聞こえなくなった。
夜、ホッケを3切れ焼いた。
米2合は多すぎた。
いつもいた人がいなくなるということは
こういうことなんだな、と思った。

金曜日の夜中、野々歩さんと
新しい映像作品の編集を終えて、
フランスの友人へ送った。
月末までに、送る約束をしていた。
作品の中に出てくる幼い眠の姿を見て、
花が泣いていた。

木曜日、眠の外出許可が下りた。
野々歩さんと、眠と花と
病院の最寄り駅のおそば屋さんで、
天ぷらそばを食べた。
眠は、私が眠に持たせた
「床下の古い時計」という本と
バーネットの「秘密の花園」が
すごく面白かったと言ってくれた。
それから、病室から夕日が見えたことや、
別の病棟に入院しているおばあさんと窓越しに目が合って、
向こうが手を振ったので、こちらも手を振り返した、
と話してくれた。
目に見える傷と目に見えない傷を抱えた人たち、少女たちが
世界から隔絶された場所で
懸命に生きていることを思った。

金曜日の夜、
突然母から電話があった。
「変なことを聞くけれど」
と母は話し始めて、
私と弟は、どれくらい歳が離れているのか、と訊いてきた。
一年と二ヶ月ちょっとじゃない?
と私は答えた。

一年と二ヶ月ちょっと?
それだけしか離れてなかったのね。
じゃあ、あなたは、
そんなに幼くしてお姉ちゃんになったのね。
つわりも酷かったし
母親が一番必要な時期なのに、
あなたに構ってあげられなかった。
悪いことをしたわね。
あなたは弟の手を引いて、
一生懸命お姉ちゃんをしていた。
でも、おしゃぶりをなかなか手離さなかった。
それは、眠と花も同じね。
今、お風呂に入ろうとして、急に思ったのよ。
あなたに悪いことをしたって。

電話を切って、
私は、声をあげて泣いた。

許すとか許さないとか、
そんなおこがましいことを言いたいのではなかった。
親だからといって、
完璧な人間であるわけでも、あるべきでもなく、
時には正しくない選択をしてしまうこともある、
ということが腑に落ちて、
痛いほどわかったような気がしたからだった。
「親である以上、子供の模範となるような存在でなければならない」
「100%の愛情で子供に応えてやらなければならない」
そんな理想に縛られて、
「完璧な親」でいてくれと、
母に強いるようにして、自分は生きてきたのではないか
そう思ったからだった。
人は不完全な存在であるからこそ、
互いに補い合って生きていられるんだ
苦しいのは自分だけじゃない。
そんな当たり前のことに、気が付いた。
靄がかかって行き先の見えない道の途中で
不安で立ち止まっていたけれど、
まっすぐな風が吹いて、スーッと遠くの景色が見えた。
そんなような気がした。

元々壊れやすい人たちが集まって「家族」になって、
やはり壊れてしまって、また再生して、壊れて。

私の中で今、何かが変わろうとしている。
自ら勇気を出して変わろうとしたわけではなく、
否応無しに変わらざるを得なくて、変わった、
という消極的な変化だけれど。
世界の美しいものを素直に肯定できる、
そんな自分になれるような気がしている。
 

土曜日、眠の外泊許可が下りた。
自宅のひと駅手前で降りて、歩いて帰ることにした。
眠が以前、アトリエの帰りによく寄り道をして
遠くの景色を眺めていた歩道橋が無くなって、
おしゃれな建物に変わっていた。
丁度雨が降ってきたので、そこで雨宿りした。
眠と野々歩さんと
酒粕の入ったチーズケーキを食べながら、
雨が止むのを待っていた。
夜、オニオンスープとピーマンの肉詰めを作った。
米は2合で丁度よかった。
テレビはつけなかった。

今日は、夕飯に、銀鱈の西京漬けを4切れ焼いた。
米は2合で丁度良かった。
今日もテレビはつけなかった。
花が泣いた。
今もまだ、私たちは狂乱の只中にいる。
飼い猫のサクラが、お姉ちゃんのナナの頭をなめていた。
その様子を見て、皆で笑った。
眠はもう病院には戻らない。

夜、花と散歩をした。
花といろいろな話をしながら
神社を通って
落ち葉を踏みながら歩いた。
ぽとん、と
どこかで銀杏が落ちる音がした。

 

 

 

吉野秀雄の『含紅集』

 

駿河昌樹

 
 

手術後の湯治に行くと目覚ましの時計鞄に入るる妻あはれ

金借るは苦しかりけりむきだしの紙幣(さつ)を抛るがごとく渡さる

空白空白空じっくりとは読んでいなかったので
空白空白空吉野秀雄の最後の歌集『含紅集』をゆっくり進めているが
空白空白空やはり
空白空白空いい歌が多い

空席もなく立つ人もなき夜汽車に安らぎ見えて年立たむとす

われ死なば靴磨きせむと妻はいふどうかその節は磨かせ下され

空白空白空というより
空白空白空精神のありようが
空白空白空歌そのものに染まり切った人のことばは
空白空白空どれも
空白空白空歌であることを外れない

老い樹黒く枝の小枝の先ざきもくれなゐにほふ高遠桜

病危ふかりし去年(こぞ)のいま頃ぞ辞世まがひの愚か歌残る

空白空白空生涯多病だった吉野秀雄は
空白空白空気管支性喘息
空白空白空肺炎
空白空白空糖尿病
空白空白空リウマチ
空白空白空心臓喘息
空白空白空などに苛まれ続け
空白空白空つねに貧困のうちにあったともいい
空白空白空65歳の人生を
空白空白空よくもまぁ
空白空白空苦しみつつも
空白空白空文に歌に書に精励した
空白空白空と感心する

みづうみの魚は食ひ得ず親子丼あてがはれ一浴して諏訪を去る

老いの眼は風にも涙湧きやすしまして刺す如き秋の夕風

空白空白空糟糠の妻を胃癌で亡くしてから
空白空白空四人も子があったものだから
空白空白空八木重吉の未亡人とみに手伝いに来てもらい
空白空白空やがて再婚することになったが
空白空白空この時にとみは八木重吉の遺稿を渡し
空白空白空以後
空白空白空吉野秀雄が八木重吉の価値の普及に努めることになる

六十を老いとせねども若きより病み病みて重ね得し齢なる

病むわれを見に来し友は今朝の富士の裾まで雪にかがやくを言ふ

空白空白空いうまでもないが
空白空白空良寛の普及に努めたのも
空白空白空吉野秀雄であった

わが死後は間借しなどして暮せよとはかなきことを今日洩らしけり

臥処より首もたげ舞楽右舞左舞のテレビのぞくも命なりけり

病をも死をも売りものにはせじと無理して書けばフイクションに似つ

便の始末してもらふ妻は尊けれその都度あたま下げて礼言ふ

静脈の注射するにもこのごろは場所なくなりて指の股に射す

垢のため血管わかぬ手の甲を湯タオルにごしごし拭きて注射す

空白空白空自分の宿命を
空白空白空次のようにも歌うものの

よき事も限りありとかわが悪しき運も極まりあるを恃まむ

空白空白空生涯
空白空白空毀誉褒貶の場たる
空白空白空そこはそれ
空白空白空権力争いの山猿たちの狭小の場たる
空白空白空歌壇とは
空白空白空関わりを持たず
空白空白空おそらく
空白空白空鎌倉アカデミアで得た知己だけを中心として
空白空白空歌人と認められた吉野秀雄にも
空白空白空悪しき運
空白空白空ならぬ
空白空白空よき運も
空白空白空やはりあったと見なければならないだろう

さらさらとして淡雅なる趣きをわれは好めど世の移りけり

われ死なば山崎方代かなしまむ失恋譚の聞き手失くして

サルトル氏の講演は切抜かせおきたれどつぶさに読まむ力最早なし

足萎へのわれは車に運ばれてかもかくも春の草に置かれぬ

今日妻と喜びしこと挿入便器(さしこみ)の中のわが物よきを覗きて

一生はただ刻刻の移りなり刻刻をこそ老いて知りつれ

 

 

 

We took shelter from the rain under a tall tree.
私達は高い木の下に雨宿りした。 *

 

さとう三千魚

 
 

on the phone
talked

I talked to that person on the phone

I sent a book to that person and he called me

now he puts a bed in the concrete upstairs living room
he is lying down

with his wife
lying down

when I was young
I went to that person’s classroom

it was a poetry class

when I was young, I lived with the heart of an abandoned dog
I lived with a young woman

now
I’m not an abandoned dog

I’m holding a black umbrella

in the rain

that person
he was growing a big thick branch

We took shelter from the rain under a tall tree *

 
 

電話で
話した

そのヒトと

電話で話した

本を送ったから
電話をくれたのだった

いまは鉄筋コンクリートの二階の居間にベッドを置いて
横になっている

奥さんと
横になっている

若い頃
そのヒトの教室にかよった

詩の教室だった

若い頃は捨て犬の心でわたし暮らしていた
若い女と暮らしていた

いまは
捨て犬ではない

黒い傘を
さして

雨の中にいる

そのヒトは
大きな太い枝を伸ばしていた

私達は高い木の下に雨宿りした *

 

 

* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

聴き漏らして命を落とす男

 

工藤冬里

 
 

見ることのヘマ
聴くことのデマ
見て触って従うママ
よりもdeep listeningして思い描くシェーマ
ジャーゴンをTV言葉に翻案していくネカマ
ハラワタからつつく音声記号はサンマ
秋の刀だとか明石家さんまだとかを断ち切り
意味の腑を掴め
シニフィアン連鎖はオヤジギャグじゃないぜ
聴き漏らして命を落とす男にアクマ
詩の大使はマグマ
人を襲うクマ
煮炊きする土間
傷を増やして喧嘩独楽
郡上は春駒
音凪は天満
帯を直しながら階段上るチーママ
スマホ禁止の車
急に神聖なものにチェンジした奥の間
台湾の右に波照間
走航は
メラトニン不足の赦されぬまま

 

 

 

#poetry #rock musician