michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

国道

 

塔島ひろみ

 
 

うしろに大きな川がある
大きなモノたちが流れている
町を貫いて 幅をきかして流れる ニンゲンがつくった川のふちに
取り囲んで あしげにして 
追いつめていく
なにも悪くない彼を 白いへびを
逃げ場のない場所に追い込んで
執拗にいじめる
巨大なモノらは猛烈なスピード 轟音をとどろかせ
耳がおかしくなってしまいそう
頭がこわれてしまいそう
胸がつぶれてしまいそう
おそろしくて くやしくてしょうがなくて
彼を打つのだ
抵抗しようのない 弱い(そうに見える)へびを
バシンバシン 打っても打っても川の音にかき消されるからより強く 激しく 大勢で打つ
血が出ている 舌を出している

ニンゲンの川に近付いちゃいけない
あのモノにはみんなニンゲンが入ってて
流れの先は海じゃない
ニンゲンがいっぱい集まって
殺してるんだ
ニンゲンがニンゲンを 殺してるんだ
巻き込まれたらうちら ひとたまりもない 

白へびは痛そうで かわいそうで みじめで
うごかなかったけど生きていた
目をとじていたけど 聞いていた
その小さな耳に口を近づけ
うちらには ニンゲンさまがついてんだい!
と私はわめいた
へびは少しピクピクとする
おれらには ニンゲンさまがついてんだぞい!
仲間も叫んだ

川ができるまえは 向こうに行けたよ
ちょっと行くと海があって空があって およいだり とんだり いろんなのがいる

2階のベランダでキツネが洗濯物を干している 
キツネは太陽を探していた

 
 

(篠崎2、京葉道路そばで)

 

 

 

山中湖畔

 

たいい りょう

 
 

湖畔のコテージで
仲間と過ごす一夜

湖は 黒く光り
ディオニュソスを蘇らせる

想うのは 
妻のこと 息子のこと 友のこと

眠れない夜

星たちは 夜空にきらめき
生命の輝きを讃える

ますらをぶりのあの山は
早朝 山頂が紅色に染まり
しだいに 黄色くなり
いつもの朝がやってくる

夜明けは もうすぐだ

すべてのもののけたちが眠りにつくときが やってきた

わたしも しばし 筆を置いて 眠りにつこうか

 

 

 

半透明雲

 

藤生すゆ葉

 
 

右へ 左へ  意図せず揺れる
前へ 後ろへ 意図せず揺れる
こんなつもりじゃなかったと
白い天井に話しかけ
身体の記憶を確認する

ぼんやり見える
光をたよりに

落ちた”葉”が触れ
混ざりあった色を感じる
秋だね、と
みえない私にほほえみかける

足もとの白い”羽”が
話したそうに静かに見上げる

両足に伝わる規則的な同じ形
この道もでこぼこだ、と
みえない私にほほえみかける

前を向いたまま深呼吸して
重心を思い出す

生きている感じがする?
生かされている感じがする

綿毛が土に着地する
でこぼこな道に
意図せず揺れながら

————–
高齢父との散歩道

 

 

 

ボビーとオリビア2023

 

ヒヨコブタ

 
 

永い眠りについたその人は
わたしの片思いびとだ
子どもの頃からそう公言し、何度もあきれられてきた
けれども彼の歌のボビーのように諦めることもなく数えればながい時間が経っていた
歌詞の意味がわからないほど子どもだったわたしには、それすら懐かしく思える
初めて家を出る、というのを文字通りに捉えて家族もあきれていたがそれも今では可愛い思い出のよう
彼が居なく、難しすぎるピアノ伴奏を作り上げることもなく、語学を学ぶこともなく、突然海外に行ってしまうこともないと思うと
やはり悲しい
悲しいとしか言いようがない
いつまでも私の思いびとは変わらずこのひとなのだ
東大を目指すといったこともあるな、音大に入ると言ってもいたな
けれども彼が人生最高の伴侶を見つけたとき
嬉しくて悲しくて部屋で飲みつぶれたな
だめだよ、彼女を置いていくなんて早すぎるよ
そんな珍しい病気になってしまうなんて、あなたらしすぎて悲しいよ

毎日どれかは口ずさみ、じぶんの脳内にどれほど彼の曲が遺されたかを知る
そしてその度涙が出る

あんなに優しくて心遣いも一流なアーティストのあなたが
もう居ないなんてこの世界は何なのだろう
わたしには考えれば考えるほどわからないのだ
あなたが美人と公言して憧れたひともあなたを思う記事を書いていたよ
なんだ、本当に良かったじゃないか
がんばったね、大好きなひと

わたしはあなたの遺した演奏会の幕が閉じても立ち上がれずに泣いているあの日と同じようにまだ、泣いているんだ

 

 

 

部屋に入る

 

さとう三千魚

 
 

ワイングラスを探していた

背丈が10cmほどの
吹きガラスの

ワイングラスを
探してた

丸子の

匠宿にも
駅中の駿河楽市にも

なかった

デパートにも
なかった

車を走らせて
探し歩いた

厚く割れない吹きガラスのワイングラスを探し歩いた

帰ったらモコ
居間の絨毯に眠っていた

くの字で眠っていた

夏には弱って歩けなかった
傍にいないといけなかった

今日は

帰って
本のある部屋に入った

アルバート・アイラーの”Deep River”を聴いた *

繰り返し
聴いてた

 

 

* アルバート・アイラーのCD「GOIN’HOME」のなかの曲”Deep River”のこと

 

 

 

#poetry #no poetry,no life