美というよりも罪の匂いし彼岸花

 

一条美由紀

 
 


不便な天国より便利な地獄

 


ハグする時のやわらかい髪が言葉を伝える
笑い合う瞳は生きていい許可のよう
幸せや愛は儚いからそっと手のひらに隠す

 


色々あるよね?
うん、休みなしに色々と事は起こる
疲れちゃって、もういいやと思うことある
うん、やめたいな、、と思ったりする
でもなんとかね、どうにかね、明日も行くんだよね
うん、仕方ないよね たまにいいこともあるしね

 

 

 

ブドウひとつメールひとつ

 

一条美由紀

 
 


落ちていく
螺旋を描いて誰も追いつけない深淵へ
流れていく
身体をうねらせて
生命の源に
溶けてゆく

 


不安は忍び寄る
囁く声は優しいのに
目の奥に淡く光る真実はなんの味かわからない
安心して暮らせる世界はないと神は言う

喘ぐ彼女の願いは傲慢と欲にまみれ
振り返る彼の目的は溶けて流れてしまった

小さな幸せがあれば満足だと思った時を
思い出せなくなってる

 


上目遣いでニャーとなく子猫のように
素直なわがまま娘に戻れたらいいな
青空にボールを追って遊び疲れてしまう
赤ん坊のような男の子に変われたらいいな

 

 

 

あなたの議論は数式である

 

一条美由紀

 
 


鏡の中の私の顔は覇気がない
変顔で自分自身のウケを狙う
よし、先日買ったブラウスで仕事に行こう
イヤミを連発するあいつの顔が
靴を履いてる時浮かんで消える
評価4.8の居酒屋で集合のLINEを流す
噂話にゃ負けないよ
休日に2次元推しを観まくれば
ふわっと社会に慣れてゆく

 


苦労話が好きな男
不幸話を集める女

 


始めは抵抗のあったうそも
今は流行りのゲームのごとし
胸しめつける嫉妬も
自己を俯瞰するためのテクニック

 

 

 

少女の蜘蛛の囲

 

一条美由紀

 
 


最後の船に乗れる顔ぶれは、
眼窩に黒い光をためている
神の望みは薄れたインクで読めやしない
答えのない問いは皆んなに愛される
ララ、と鼻歌に乗せる彼方の夕闇が
信じたい唯一の真実だった

 


クリエイティブは
自己肯定と自己否定の先にある

 


街に流れる夢を語る歌詞は渋い舌触り
可能性の天秤に痛さを逃れる
ダルく優しく毎日を過ごす
胸からもれる景色を無視しながら