きのうは
あさ
モコと
海辺で波の音を聴いていた
ざわざわ
湧き立つものがいて
ブラームスの
子守唄をむかし
暮らした女が歌っていた
雲は流れていった
雲は形をかえて流れていった
わたしに
帰る場所はない
無い声を返す
無い言葉を返す
きのうは
あさ
モコと
海辺で波の音を聴いていた
ざわざわ
湧き立つものがいて
ブラームスの
子守唄をむかし
暮らした女が歌っていた
雲は流れていった
雲は形をかえて流れていった
わたしに
帰る場所はない
無い声を返す
無い言葉を返す
束ねられるっていやだねえ。
俺っち、
高齢な身体障害者よ。
役に立たねえって、
十把一絡げにされちゃ、
かなわねえ。
役立たずの
日本国民って束ねられると、
おお嫌だ。
役に立つ日本国民が
束になってかかって行く、
なんて、
俺っちは御免だぜ。
何んにしたって、
高齢者って、
身体障害者って、
人間を束ねるってのがいやなんだ。
人を束ねて見ちゃいけねって思ったね。
束ねると、
レッテルを貼り付けて、
役にたたねえとか、
敵とか味方とか、
決めつけちゃう。
そいつが良くねえんだ。
高齢者って束ねられたって、
障害者って束ねられたって、
国民って束ねられたって、
役に立とうが立つまいが、
ひとりはひとりよ。
ひとりは弱いって、
弱くて結構よ。
俺っちの人生は全うしなきゃね。
てもね、
闘って勝つには、
束になって向かって行かなきゃなんねってね。
おお嫌だ。
国民って束ねられたら、
たまらないね。
一丸になれってきたら、
糞喰らえ、
アワワ、アワワ、
アワアワンズッテーン。
今朝
海をみてた
休日には
海をみてる
いつも
まだもうしばらくあなたを愛していたいの。
I want to love you a little longer.
愛ってどうなんだろう
わからない
美しいヒトに出会うこともある
海をみてる
森をみてる
京浜東北線の蒲田で降りた
最終の
電車に
乗れなかったから
蒲田で列にならんで
タクシーに
乗った
真っ黒の光るタクシーには
南島訛りの
運転手さんがいて
やさしい声でいくつも飴玉をすすめた
恐ろしかった
やさしさ
昨日も美しい女を見なかった
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
「かずとん、かずと-ん。
んもぉ、またぶつぶつ言ってる。
自分で気がついてるの? 会社とかでも口に出してるんじゃないでしょうね?」
ついついつい
掃除機かけながら
ついついつい
いやあ、困った、困った
困ったちゃん
ファミちゃん
レドちゃん
一人暮らしが長かったせいで
すっかり独り言が多くなっちゃった
「どれ、コーヒーでも飲むか。」
「さて、風呂にでも入るか。」
聞かれてもいないのに
相手もいないのに
言葉が出てきちゃう
壁や机やカーテンに向かって
いくらでも話しかけちゃう
どう思う?
「ヘンダァー、オカシィヨォー、アリエナィー。」
薄っぺらい体を電球にクルクル巻きつけたり解いたりしながら光線君が答える
だよなー、だよなー
困ったちゃん
「また何か独り言。もおぅー。」
外では大丈夫なんだが
一人になると
ついついつい
口を突いて出てくる
その代表格が
「ファミちゃん、レドちゃん」
これ
声に出すのを我慢する方が難しい
実は会社でもトイレに立つ時とかに小声で
ついついつい
困ったちゃんしてるんですよ
ではでは
そっと声に出してみましょう
「ファミちゃん、ファミちゃん、偉いねえ。」
「レドちゃん、レドちゃん、かわいいねえ。」
ぽっ
声に出した途端に
ぽっ
ほら
ぽっ
ほら
出現したでしょ?
ぽっ
では
撫でる仕草をしてみますよ
手首をひねって、5本の指を柔らかく柔らかく動かして
ふわっふわっ
もふっもふっ
ツーッと鼻筋を撫でると
目を細くしてうっとりする
顎に手を伸ばすと
首筋をぐっと伸ばしてもっともっとと促す
光線君も触ってみたら?
ぼくが指し示した場所を
薄い四角い体の先を紐のように細くして恐る恐る突っつく光線君
チョン・・・・・・チョン
ほら
ふわっもふっ
「ホントー、ホントー。」
光線君、体を扇子状にパタパタさせて驚いてる
だよねー、だよねー
いる、みたいな、感触
声に出しただけで
ふわっもふっな姿が
空中にしっかりちゃん
このマンションでは猫は飼えないし
第一、実家に馴染みきった彼らを今更他の場所に移すのは酷なこと
ファミ、レドとは離れて暮らさざるを得ないけど
ついついつい
名前を呼べば
現れる
ついついつい
名前を呼べば
賑やかになる
名前、名前
名前っていいなあ
「ナマエワァー、
ヨブヒトノォー、
ココロモチヲォ-、
アラワスナーリィー、
コエニダセバァー、
スガタモアラワレルナーリィー。」
光線君、よく言った!
その通りなりぃ
食後のお茶を飲んでると
ミヤミヤが不意に湯呑みを置いてぽろり
「かずとんはいつでもファミちゃん、レドちゃんなのね。
ファミちゃんが1番、
レドちゃんが2番、
ミヤミヤが3番。」
えーっ、困ったちゃん
「そんなことあるわけないよ。」ってすぐ返したけど
ぼくに向ける視線にどことなく不満が宿ってる
本当にそんなことないんだよ
だいたいレドはファミと同じくらいかわいがってるし
あ、そういう問題じゃないか
そりゃさ
新婚旅行にスペインに行った時
地下鉄の行き先を確認しようとしてミヤミヤに
「ねえ、ファミちゃん」って話しかけちゃったことはあるさ
「昔の彼女の名前を呼ばれるよりもショック」と睨まれたさ
でもそれはね
ミヤミヤなら
何を聞かれても大丈夫
ってことなのさ
かずとんとミヤミヤは一緒に住み始めて6ヶ月
オナラの音を聞かれても「ま、いっか」って感じになりつつある今
ミヤミヤが傍にいても
一人でくつろいでいるのと同じなのさ
「オナジィー、オナジィー。」
裾をきらきら翻しながら光線君がぼくとミヤミヤの間をさぁーっと走り抜ける
「ミヤミヤが1番に決まってるじゃない。
それより今度の日曜日、小金井公園にウォーキングに行こうよ。」
ウォーキングに行っても
周りに誰もいなくなれば
ついついつい
傍にミヤミヤがいても
ついついつい
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
ファミちゃん、ファミちゃん
レドちゃん、レドちゃん
名前を呼べば
困ったちゃん
みんな一緒に暮らしてるのと
「オナジィー、オナジィー。」
この世に、果てしなく外部へ拡散していく詩と、限りなく内部へと沈潜していく詩と、永久にその場所に佇む詩の三つの詩があるとすれば、吉増選手のこのたびのLineは、1番線からの衝動的発車だろう。
駅には電光表示板に「アリス、アイリス、赤馬、赤城、イシス、イシ、リス、石狩乃香、兎!巨大ナ静カサ、乃、宇!」という行先が電光表示され、怪物君は自家製のドローンかスペースシャトルのようなものに跨って、全世界から全宇宙の隅々までも軽やかに飛翔する。
ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!
怪物君は、怪物くんかもしれないし、最シン・ゴジラかもしれない。
怪物君は、あの手この手の禁じ業、とっておきの奥の手を使って、喚きに喚く。
私たちは、怪物君から放射される無慮無数のLine攻勢を全身に浴びて、至る所で棒立ちになるだろう。
しかし孤独な怪物君は、私たちにいちいち応答を求めているのではない。
虚空に向かって彷徨しながら、ただラアラアと咆哮しているだけなのだ。
ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!
これはいったい何なんだ?
タダのダダの言葉遊びか? 時代遅れのシュルシュルレアリスム?
それとも全地球詩緊急一時回想録?
東北の被災地に生きる人々やその記憶、オリーヴと白桃、阿弥陀仏と孝標女の対話などがアラエッサアサアとばかりに繰りだされてくるが、だからといって怪物君はそこに長く滞在する訳ではない。
ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!
蜜を求めて花から花へと移る気まぐれな蝶のように、あちらこちらにフラフラ立ち寄りながら、限りなく自らを他物と他者に憑依する寄生虫怪物君!
ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!
怪物君は、ひとたびは個我を放棄することによって、世界を無意味に彩る装飾の一部と化し、またしても壁画から飛び出して全世界を遊覧し、随所でコブラがえって痙攣し、股股情動しつつ、スペースシャトルのようにGo!Go!いくたびも発射台に立ち戻る。
「ひーひやら、何ぞ馬鹿囃子!」*
そう、「詩人は考ヘルまへに、歌ッていた」*
これが「おまえの一生ノ音楽だッた」*
それらは全部、詩人の寝息であったのかもしれないネ。
ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!
「手を翳しているだけで、それでよい」*
「手を翳しているだけで、それでよい」*
ウッ、ウッ、ウッ! ワッ、ワッ、ワッ!
空白空白空白*は詩集からの引用です。
久しぶりに履いたヒールは思っていたより自分を大きく見せる。
数十分もすればそんな自分にも慣れてくる。
足の日頃あまり使っていない筋肉だろうか、ピリピリと痛くなる。
それでもヒールがかっこよく履きこなせるのは若いうちだけだろうと思って頑張って歩く。
コツコツと歩く。
久しぶりにお盆休みを使って帰省していた高校の部活の先輩と会うことになった。
3年ぶりぐらいだろうか。
地元では少し名の通ったカフェで待ち合わせをしていた。
自動扉をくぐると、あー本当に懐かしい、当時妹のように可愛がってくれた小柄な先輩の姿が目に入った。
あのときと何も変わらない優しさが滲み出ている笑顔でわたしを待っていてくれていた。
黒い長い髪をきれいめなシュシュでまとめ、化粧も丁寧に仕上げ、まさに都会のOLさんといった風貌だ。
その先輩は見た目からは想像できない行動派で、大学時代には一人で南米を横断している。
お土産でもらったいかにも南米ですと言わんばかりのポシェットを今でも大事に使っている。
音楽も大好きで、今は社会人で結成されたバンドのギター弾きをやっているという。
そんな趣味や仕事でいっぱいの先輩は、数か月前にその時付き合っていた人とはお別れをして今は恋愛には興味がわかないという。
色んな興味がわくことがあることがとっても羨ましい。
そして、失敗してもいいからそういうものすべてに挑戦し続けている先輩がかっこいい。
わたしが高校1年生で出会った先輩はやっぱり今でも先輩だった。
年齢からくる上下関係だけではなくて、なんかいいな、人として尊敬できるな、話を聞いてほしいな、なんだかそんな気持ちが勝手に出てくる。
お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかな。
ぐるぐると想像する。
たった1時間の短い時間の再会だったけれどとてもいい時間だった。
高校の制服姿しか知らなかった先輩のあか抜けた私服姿は新鮮だった。
お酒が強いとわかった先輩と今度は飲みに行く約束をして別れた。
スタスタスタスタと駅に向かっていく先輩の後ろ姿はやっぱりまぶしかった。
昨日こだまの
車窓の
流れる景色を見て出かけてきた
仕事の帰りに
神田の地下鉄の駅の
剥がされた化粧壁の下の汚れた
壁を見た
新丸子では
小さなショウウインドウの
年老いて並んだ姉妹の
ブラウスを見た
いとしいものはそこにいる
わたしではない
久しぶりに履いたヒールは思っていたより自分を大きく見せる。
数十分もすればそんな自分にも慣れてくる。
足の日頃あまり使っていない筋肉だろうか、ピリピリと痛くなる。
それでもヒールがかっこよく履きこなせるのは若いうちだけだろうと思って頑張って歩く。
コツコツと歩く。
久しぶりにお盆休みを使って帰省していた高校の部活の先輩と会うことになった。
3年ぶりぐらいだろうか。
地元では少し名の通ったカフェで待ち合わせをしていた。
自動扉をくぐると、あー本当に懐かしい、当時妹のように可愛がってくれた小柄な先輩の姿が目に入った。
あのときと何も変わらない優しさが滲み出ている笑顔でわたしを待っていてくれていた。
黒い長い髪をきれいめなシュシュでまとめ、化粧も丁寧に仕上げ、まさに都会のOLさんといった風貌だ。
その先輩は見た目からは想像できない行動派で、大学時代には一人で南米を横断している。
お土産でもらったいかにも南米ですと言わんばかりのポシェットを今でも大事に使っている。
音楽も大好きで、今は社会人で結成されたバンドのギター弾きをやっているという。
そんな趣味や仕事でいっぱいの先輩は、数か月前にその時付き合っていた人とはお別れをして今は恋愛には興味がわかないという。
色んな興味がわくことがあることがとっても羨ましい。
そして、失敗してもいいからそういうものすべてに挑戦し続けている先輩がかっこいい。
わたしが高校1年生で出会った先輩はやっぱり今でも先輩だった。
年齢からくる上下関係だけではなくて、なんかいいな、人として尊敬できるな、話を聞いてほしいな、なんだかそんな気持ちが勝手に出てくる。
お姉ちゃんがいたらこんな感じだったのかな。
ぐるぐると想像する。
たった1時間の短い時間の再会だったけれどとてもいい時間だった。
高校の制服姿しか知らなかった先輩のあか抜けた私服姿は新鮮だった。
お酒が強いとわかった先輩と今度は飲みに行く約束をして別れた。
スタスタスタスタと駅に向かっていく先輩の後ろ姿はやっぱりまぶしかった。
お母さん、ぼく午後海に行きますよ。
はい、分かりました。
お父さん、ぼく午後海に行きますよ。
分かりました。
お母さん、東幹久がねえ、比嘉さんに「お前なんかまだ早すぎる」っていったんだよ。
どこで言ったの?
「どんど晴れ」で。
そうなんだ。
お父さん、もう水色の電車走っていないでしょ?
どこの電車?
京浜東北線の古い電車
そうだね、もう走ってないね。
どっか遠くへいっちゃったでしょ。
うん、遠くへいっちゃったね。
京浜東北線に快速ができましたよ。
いつから
昭和63年からだお。
お母さん、ぼく快速急行、好きです。
どこの快速急行?
小田急ですお。
お父さん、新さいたま駅できたよね?
うん。いつできたの?
平成12年だお。
眞さん、近鉄ちょっと揺れるでしょ?
うん、ちょっとね。
お父さん、京浜東北線の快速、新橋は止まらないのよ。
えっ、そうなの?
神田は止まるのよ。
へええ、知らなかったなあ。
お母さん、「障がい者と共に生きる」ってどういうこと?
そ、それはねえ、お父さんやお母さんが、耕君のような障がい者と一緒に生きるってことよ。
お父さん、ぼく「悪いのはお前だ」って言われたよ。
誰に?
クワヤマ君に。
いつ言われたの?
昔ですお。
フルカワさん、病気になっちゃったの?
うん。
お母さん、フルカワさん、眼閉じた? 口も閉じた?
閉じましたよ。
私はフルカワさんです。
こんにちはフルカワさん。
お父さん、薬の英語は?
メディシンだよ。
お母さん、包丁出しておきましたよ。
ありがとう。
お母さん、里帰りってなに?
実家に帰ることよ。誰が里帰りするの?
ゆかりさん。
お父さん、ぼくが笑うと蓮佛さんは?
怒るよ。
ぼく、莫迦笑いしません。
お母さんは?
いま他の電話でお話し中。お父さんじゃだめなの。
グワアアアww
お母さん、うたがうってなに?
うそじゃないかとおもうことよ。
ジュンサイってつるつるだよね。
そうだよ。
ジュンサイ食べられるよね。
食べられるよ。
お母さん、日本生命ってなに?
会社の名前よ。
お父さん「千の風になって」って亡くなったときでしょう?
そうだよ。
ぼく、マルヤマさん怖いんですお。
怖くないよ。優しい人だよ。
怖いですお。
お母さん、ぼく、しあわせになります。
耕君がしあわせになってくれれば、お母さんなにも心配することないわ。
お父さん、しあわせの英語は?
ハッピイだよ
ぼく、しあわせになりますお。
しあわせになってね。
しあわせ、しあわせ、しあわせ。