あたりいちめんのしろは

 

ヒヨコブタ

 
 

寒波が数十年ぶりだと
積もり始めた日の朝には儚さを思い
午後にはこれは長引くと
ラッシュのころ報道されなくなっているばしょで
何が起きているか
その感覚はあの日のおそれにも似て

数日融けぬ雪が氷となり
すれ違う幼女は
なんでずっととけないの? と母親に

わたしに子がいたらなにを言いなんと答えたらう
そのぶぶんは雪より冷たい
こころのなかで雪よりも氷よりも

けれども雪はほんとうは降るほどにあたたかなのを
わたしは知っているから
そう半分じぶんを騙すように
笑わずに

 

 

 

ぎが

 

夜中に目覚めた

それで
朝になった

おじさんは
朝にはなるんだね

ぎがを
聴いてた

知久寿焼さんの歌うぎがを聴いてた

金色の髪の毛のぎが
10回払いで買ったぎが

おじさんは
会社辞めます

三月に会社をやめて詩人になります

お金のために働いた
のでなかった

きみたちのためにも働いた

 

 

 

のっぺり四角いものがだんだんと

 

辻 和人

 
 

のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん

降りている
伊勢原の実家近くの県営団地ですよ
ミヤミヤと年始の挨拶に行く途中
八幡様で今年の無事を祈願した後
のっぺり
現れた

ああ、これ
ぼくが小学生の時にできたんだよ
ぴっかぴかだったなあ
まあたらしいコンクリートの無臭がぷんぷんきてね
ほら、一軒家って何となく臭いがあるじゃん
そいつが全然なくってさ
スッ、スッ、スッ

段々畑みたいな坂をかっこよく降りてた
もう名前忘れちゃったけど
友達の1人がこの団地の4階に住んでたんだよ
階段の硬さがかっこいい
ちょっと息が切れるけど高いところまで昇るってもかっこいい
部屋の感じも四角くってかっこいい
胸にズキッとくる
四角の力だ
ぼくは新築の一軒家に住んでたんだけど
こんなところに住めたらなあ
高い窓からの眺めはいいなあ

それが何とまあ、今は
のっぺり、のっぺり、のっぺり
コンクリートって年を取るんだよね
四角は相変わらずだけど
線の縁がね
ボロ、ボロ、ボロ、ってくるんだ
名前忘れたあいつの家族、まだここに住んでんのかなあ
エレベーターないから部屋に辿り着くのも大変だ

実家への道を歩きながらミヤミヤに
「さっき通った団地、小さい頃は新しくてすごくかっこよかったんだよ。」って言ったら
「70年代頃に建てられたんだね。ウチの近くの団地もあんな感じじゃない。」
そういやそうだ
広くて緑の多い敷地に余裕たっぷりに配置された白くて四角い建物群
スーパーも郵便局も保育園も公園もある
若い夫婦が入居して
赤ちゃんの泣き声がいっぱいで
夕方になると「〇〇ちゃん、もうご飯よ。」なんて声がいっぱい
だったんだろうなあ
けど今は
のっぺり、のっぺり、のっぺり
杖をついて歩く人がいっぱい
残業を終えて10時頃通りがかると
しぃーん
灯りがついている部屋の方が少ない
「住居は福祉」という幟が立ってるから
もしかしたら建て替えの話が出てるのかもしれない

小さい時、テレビを見てて
怪獣が発した火の玉を受けてウルトラマンが勢いよく倒れこんだ先が
こんな団地だったなあ
四角く、四角く、四角く
くっそー
怒ったウルトラマンがL字型に腕を組んで光線を放つと
お見事! 怪獣は木っ端微塵だ
さて
幼いぼくがこの快感を得るために
スッ、スッ、スッ

四角く並んだ団地は絶対必要なものだったね
団地ってさ
豊かさの象徴、安定の象徴、新しい時代の象徴
かっこいいの象徴
そいつをぶち壊されたんじゃたまらない
ウルトラマン、頑張れーっ
やっつけろーっ

のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん

降りていっちゃった
実家が近くなるってことは団地が遠くなるってことだ
野菜畑の中の細い道を歩く
カラスがカーカー鳴いて、富士山がご機嫌な姿見せてる
ここからの光景、昔から全然変わんない
けど
まあ多分ぼくが気づかないだけだろう
スッ、スッ、スッ

のっぺり、のっぺり、のっぺり
になっていったように
カーカー&富士山、も
だん、だん、だん、と
変わっていってる
長い間独りだったぼくも
ミヤミヤという伴侶を見つけて
変わっていったさ
実家もいつまで実家でいられるかわかんないぞ
それでも着いたらみんなに新年の挨拶だぞ
おせちとお雑煮が楽しみだぞ
のっぺり、のっぺり、のっぺり、したものが
四角く、四角く、四角く、
だん、だん、だん、と
続いていくんだぞ

 

 

 

浜辺にて

 

おじさんに友はいた

だが
おじさんは

友をあてにする

わけには
いかない

真理も
普遍性も

あまりあてにできない

浜辺で
海をみてたりする

うぬぼれでもない
ロマンチックでもない

この波だった

きみのためではない
わたしのためでもない

ポリフォニーのなかにいた

 

 

 

山崎方代に捧げる歌 26

 

私に早く帰ろう水楢の落葉の下に早く帰ろう

 

夜中に
林拓のあざらしの恋を聴いてる

昨日は
神田の鶴亀で飲んだのだったか

おじさんたちの隣りでひとり
飲んだのだったか

おじさんたちには友がいた

おじさんは
おとなしい

あざらしの息吹のように飲む

早く帰ろう
早く帰ろう

 

 

 

イマノザマ

 

たかはしけいすけ

 
 

こわごわ生きている

子どもの頃
先生が言ったっけ

人は
自信か実力のどちらかがあれば
生きていけるのよ

ぼくは実力があったってことか

いやいや
両方ないってこともあるだろう

ぼくの
イマノザマ
ってのは

どうだい?

なけるぜ

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その25

 

佐々木 眞

 
 

 

お母さん、海の幸ってなに?
海の中のいいもののことよ。
さっちゃんの幸だよね。
そうよ。

お父さん、笑うと連佛さんは?
「耕さん、アホ笑いしないでね」って言うよ
ぼくアホ笑いしませんお。

お父さん、しっかり食べないと死んじゃうでしょ?
そうだよ。
死んじゃう、死んじゃう、死んじゃう

ニューバージョンてなに?
新しいかたちのことよ。

お母さん、ぼくマーガレット好きですお。
お母さんも好きよ。
マーガレットどこにありますか?
今は無いのよ。今度植えますか?
植えてください。

お母さん、あしたお赤飯にして!
分かりました。

お父さん、まっすぐの英語は?
ストレートだよ。
まっすぐ、まっすぐ。

ドキドキってなに?
ドキドキすることよ。
怖い?
耕君、怖いことあるの?
ないよ、ないよ。

お母さん、きわめる、ってなに?
めいっぱいやり尽くすことよ。

シブいってなに?
ちょっと塩っ辛いことかなあ。
(父)そうじゃないよ、カッコイイことだよ。
シブい、シブい、シブい

お母さん、ぼくこんどインドネシア行きます。
そうなの、行ってくださいね。

お母さん、感じるってなに?
こうだなあ、って思うことよ。
感じる、感じる。

お母さん、ほんま、ってなに?
「ほんとう」のことよ。

お母さん、ナナちゃん入院したの?
うん。
どこの病院?
フジノ町の病院だって。

お母さん、ぼく海行きたいです。
えっ、海?
今年も海行きたいです。
そうなんだあ、分かったよ。

お父さん、しまった、は失敗した、でしょ?
そうだよ。

お母さん、ありふれたは?
よくある、よ。

 

 

 

すき

 

長田典子

 
 

ねぇ
わたしのこと すき?
すき
どのくらい すき?
すごく すき

せかいで いちばんすき?
すき

ちきゅういっぱい すき?
すき
うちゅういっぱい すき?
すき
うちゅうの そとがわまで すき?
うちゅうの そとがわには なにも ないの
やだ そんなの
だから
今生でいちばん
きみが すき
今生で
いっぱい いっぱい
きみが すきなの
とりあえず今夜はこのへんで
おやすみ

またあしたね