雀は地面に落ちる *

 

高速バスで出かけていった

金曜日
午後

由比の港を見て
車窓から駿河湾の平らに光るのを見ていた

中野のギャラリー街道の羽鳥書店で小島一郎を買った
ほしかった写真集だった

それから
高円寺のバー鳥渡でビールを飲んだ

もう一軒
行った

翌日は

また
街道で

尾仲浩二さんの写真集”Faraway Boat”を買った

雨の中
おんなが歩いていた

それかららんか社のたかはしけいすけさんに会い
“オレゴンの旅”をいただいた

これもほしかった本だ

銀座に出て曽根さんと会い
原さんの絵を見た

神田で曽根さんと日本酒を飲んだ
ラグビーで騒がしかった

馬込の曽根さんのアパートに泊まらせてもらった
部屋には版画の鉄の機械が置いてあった

翌日は日曜日だった

恵比寿の写真美術館で”Her Own Way”という展示を見た
ポーランドの女性作家たちの展示だった

アイマスクをしたおんなが「教授!教授!教授!教授!教授!」と何度も叫んでいる映像を見た

雀は地面に落ちる *
落ちるように降りる *

雀が土の上のパン屑を拾って飛び去るのを四谷三栄町の公園で見たことがある

 

* 工藤冬里の詩「愛の計量化の試み」からの引用

 

 

 

愛の計量化の試み

 

工藤冬里

 
 

目を閉じて
色を思い描こうとするが
●目を閉じると
●マチエールは思い描けるが
色を思い描
色は思い描けなかった
色は思い浮かばなかった
●色を思い浮かべることはできなかった
●目を閉じると
●色は記号化されていた
目を閉じると
色は思い描けなかった
脳内に言語として貼り付けられているだけのように思われた

目を閉じて
色をひとつひとつ
ひとつひとつ色を思い浮かべようとしたが
目を閉じると
色を思い浮か
色は思い浮かばなかった
目を閉じると
色は記号化されていた
色は言語
色は記号化されている
目を閉じれば
色は記号化されている
●瞼を閉じれば
●色はただ記号なのであった
目を閉じれば
色はただ記号
目を閉じると
色は
瞼を閉じれば
色は記号化されていることがわかる
色は目
色は
脳に貼り付けられている
瞼を閉じれば分かることだが
色は
脳に貼り付けられた言語である
なぜ放置されていたのか
色も折れるのか
気持ちが沈んでいるのではないか
どうしたいと思っているのか
再建させてください
家は荒れているんです
壁の色を思い描けない
焼かれたままになっているのに
見たことのない輪郭に色はない
そのオブジェに色をつけることは出来る
ただそれよりも
瞼の裏の残光が強い
記号は光ではないからだ
弁当箱の昆布の佃煮のような声だったから
黒だが
前にもこんなことがあった
記録はスマホで

空白空白空0

また同じ場所

また同じ場所で
上と下に伸びて行く
根も実もないが
手負いの獣のように
宙空に出現する

空白空白空0

考えに高低があること
天と地ほどに差があるということ
傷付いたので言う
何種類の昆虫を見たか
感覚の拡張
光に縁取られた葉
太い線でうちそとを分けるタイプの
薄い色のマシン
犠牲で測る大きさ
考えに高低があるように
愛は計量化される
撫肩の威厳
すべての撫肩の威厳よ
すべての役割語の語尾よ
鉤括弧の外の句点 中の句点
髪の毛の数と色
雀は地面に落ちる
落ちるように降りる
十万本
数える
ユダの長所
字が綺麗
ぶしゅぶしゅと世の空気が入った巨躯
心を大小で計量する
血管の膨らみ
人によって異なる川
川が踵を返して青く逆流してくる
つまらなかった
トキ
遅れ
早まり
金土
頭の形で国を識別
SFの映像
ユキは脆い石像のようだ
両生類の声
錦帯橋の堅牢
筆致にも高低がある
太い線細い線 赤
両生類と思っていたが ハギ
畑に耳を植える
威厳というソース
血管
カーテン
白粉(おしろい)
胴回り
城門
信頼
手の窪み
白い鞘の中に寝そべる

濁った海水
釣り上げる
赤い下地こわい
細い木目
弱い
91
35
きらいだけれども幸福
汚れ仕事
黒が濃すぎる
ていうか 浮いてる

きらいだけれどもたのしむ
信頼を計量化できるか
名前の移行は緩やかに行われた
母は百五歳

 

 

 

虫の音でミタス

 

正山千夏

 
 

夜の公園を歩く
虫の音の充満する9月の終わり

夏草から枯葉に変わりはじめた草
ざくざくと踏み

虫の音の向こうには
高速道路クルマ走る唸る声

夕暮れから夜に変わりはじめた空
まだうろこ雲が見える

頭の中ぎゅうぎゅうに詰まった
ツマラナイ刺激のループ手放せば

入り込んでくる虫の音で
私が満たされていく

 

 

 

秋が近づくとわたしは

 

ヒヨコブタ

 
 

秋が
近づくとわたしは
秋がうつくしいことも
冬への準備が始まっていることも
見たくなくなってしまう

落ち葉となる葉を選んで踏み歩くというのに
そのこころは軽やかになるはずと知っているのに
なぜだ
すっとしみる記憶の日々が連なる秋が
いつも
すこしだけ見たくなくて
けれども
冬に続くその時季を
ほんとうは
愛していると

ゆれる
ずっとずいぶんゆれる
こころがゆれる
ゆらす手は
わたしの手だと
知っていても
すこしだけいつも
こわいとも思うのは
うつくしさもかなしみも両方なのか

だいじょうぶ
ほんとうは知っているのだから
うつくしさのある世界を

 

 

 

鎌倉三文オペラ<全4幕>

音楽の慰め 第34回

 

佐々木 眞

 
 

序幕

 
亡年亡日
昔ひとりのあきんどが、諸国一見の旅をしながら、屑払いの仕事で僅かに口を糊していました。

わいらあ、しょこくいちげんの屑はらい
クズイイイ、くずいい、おたくのどこかに、屑はないかいなあ
いままでみんなが捨てていたあんなもの、こんなもの、みーんなまとめて超々高値で引き取りまっせ

いくらで引き取るかって?
例えば、初代のリカチャン人形→、5万円以上
ビックリマンシール「スーパーゼウス」、10万円以上
壊れたオーディオ機器、8万円
昔使っていたバイクのヘルメット、1万円
状態によって金額は前後するけど、このように意外な品物に意外な金額がつくことが、ほんまにしょっちゅうありまっせ

んで、おたくにこんなもん、あらしまへんかいな

毛皮のコート、スーツ、洋服全般、ジーパン、デジタルモンスター、ブランドバッグ、ブランド洋服、参考書、鉄道チケット、ゴルフ用品、ウクレレ、貴金属、使い古したアクセサリー、片方のピアス、石の取れた指輪、イミテーションアクセサリー、ネクタイピン、カフス、ピンバッチ、エアコン、車のバッテリー、シンセサイザー、こけし人形、贈答品のお皿類、亀の剥製、火鉢、革製品、自転車、車のパーツ、電子ドラム、ウオシュレット、スポーツ用品、お酒、ワイン、ブランデイ、ウイスキー、芝刈り機、圧力鍋、包丁、ミキサー、ギター、釣り竿、ルアー、キャンプ用品、筋肉マン消しゴム、レゴ、ファミコン、プレステ、ネオジオ、pcエンジン、ゲームソフト、古いキューピー人形、美容器具、健康器具、TOMY、市松人形、キャラクターカード類、切手、収入印紙、コイン類、レコードプレーヤー、オープンリールデッキ、望遠鏡、三味線ばち、ハッピーセットの景品、映画の半券、期限切れの仕立券、トランシーバー、カラオケセット、昔の携帯電話、電子ピアノ、ブランデーの空き箱、炊飯器、サーフボート、リモコン、カタログ、取り扱い説明書、ポイントカード、懸賞応募シール、芸能人記載の新聞紙、象牙、サックス、パイプタバコ、シルバニアファミリー、リカちゃん人形、ペコちゃん人形、マルちゃん人形、エースコック人形、壊れたエレキギター、古いバイオリン、フィギュア、ヒーローものオモチャ、使えなくなったカメラ、骨董品、鉄器、鉄瓶、茶器、銀盃、香道具、日本刀、学生制服、様々な業種の制服、天然流木、古びた漫画、チョロQ、ミニカー、アンプ、昔のapple製品、ビックリマンシール、ギザ10、MDプレーヤー、ポケモンカード、テレフォンカード、フロッピーディスク、ウオークマン、壊れたカセットレコーダー、昔のカセットテープ、ブランデーの空ビン、南京虫(婦人用時計)、古いアンプ、昔のベータテープ、工具、壊れたパソコン、鉄製のミシン、壊れた時計、使い古しの化粧品、香水、ブランド品の空箱、F1ポスター、欠品プラモデル、のこぎりの刃

などなど、なんでも高値で引き取りまっせ

 

第2幕 片方のピアス

 
亡年亡日
昔沖縄で結婚式を挙げた時に、白い砂浜に片方の青いピアスを忘れてしまった八島洋子ちゃんは、小町通りを左に折れた鏑木清方記念美術館の前で、赤瀬川原平氏と連れだって歩いていたこおろぎ嬢と出会った。

左の耳に青いピアスを付けた八島洋子ちゃんは、朝顔の柄の浴衣を着て、紅いぽっくりを履いたこおろぎ嬢めがけて、ぐんぐん近づいていく。

こおろぎ嬢の右の耳には、青いピアスが小町通りの夕陽にキラキラと輝いていた。

 

第3幕 期限切れの仕立券

 
亡年亡日
若い母親たちから、憲法9条についての講演を頼まれた劇作家の井上ひさし氏は、御成小学校の中にある木造校舎の一室で、レジュメを出そうとしてポケットの中をさぐっていた。

すると、昨夜書いた講演会のためのレジュメの代わりに、皺くちゃになった紙切れが出てきた。

それを広げて良く見ると、銀座三越の特選スーツの無料仕立券であったが、生憎ちょうど昨日で期限が切れている。

井上ひさし氏は、チエっと舌打ちすると、その仕立券を丸めて、部屋の片隅にあった屑籠にポーンと投げ入れた。

 

終幕 壊れた時計

 
亡年亡日
新橋の内幸町のNHKホールで大道具のアルバイトをしていた、当時慶應義塾大学商学部4年生の加藤幸吉君は、「歌のグランドショー」の裏方の仕事を夢中になってやっている間に、父の形見のオメガの銀時計を失くしてしまった。

加藤君は「歌のグランドショー」の空舞台の最前列で、「こんちくしょおおお! こんちくしょおおお!」と、何度も何度も悲痛な声で嘆き悲しんだが、いくら探しても、いくら叫んでも、時計はとうとう出てこなかった。

それから何十年も経ち、リタイアしてから鎌倉に住む加藤君は、市立中央図書館の帰りに、ニンニクもニラも入れない山本餃子の餃子をお昼に食べようと思いついた。
餃子の本場中国では、ニンニクもニラも入れないのである。

狭い山本餃子の横一列のカウンターには、幸い一人しか先客はいなかった。

やれうれしや、とグラグラと不安定なイスタンドに腰を下ろした加藤君は、いつものように餃子9個入りの「餃子定食中」を頼んでから、ふと隣の客を見ると、加藤君とほぼ同年代の後期高齢者が、次々に餃子を平らげている。

しばらくして加藤君は、その男の左腕に、古いオメガの銀時計が嵌っているのを認めた。
さっきから秒針はまったく動いていないので、きっと伊達時計だと思われるが、その時計は、昔むかし若き日の彼が、内幸町のNHKホールで失くしたオメガに、じつによく似ていた。

気がつくと加藤君は、すでに勘定をすませて店の外へ出ようとするその男の左腕を、ムンズと掴んでいた。

 

*この作品は、我が家に配達された「珍品新聞号外」の文章を、出張買取「トータル」の代表、坂根太郎さんのお許しを得て一部リライトして使用しました。

 

 

 

私にだけ支えがない *

 

おとといの夜に
帰ってきた

女は
シンガポールから

帰ってきた

飛行機は台風の渦の外側に沿って
飛んできたのだろう

日曜の夜
酒を飲まず

男は車で駅まで迎えにいった

土曜日と
日曜日と

ソファーでモコと横になっていた

一度だけ
水曜文庫に行って

矢川澄子を買った

美しい女だ
美しい女がいた

奇跡のようだ

どこかに美しい男もいるのだろう

美しいは
ヒトの

感情だろう
鮮やかで快く感じられ

綺麗と
場合によっては

口に
するだろう

どうなんだろうか

十年くらいは通用するだろうか
一万年くらいは通用する感情だろうか

矢川澄子は美しい

死んでいった
死んでしまった

蜂のような うなり声がする *
蜂のような うなり声がする *

それは 男のうなり声だ
グールドのようにうなっている

私にだけ支えがない *
私にだけ支えがない *

男のうなり声は宇宙を吹き過ぎる風だ
男のうなり声は宇宙の暗黒のふるえる声だ

 
 

* 工藤冬里の詩「裏返った初夏の凄惨」からの引用

 

 

 

裏返った初夏の凄惨

 

工藤冬里

 
 

こんなに晴れた秋の日なのに
空から毒が降ってくる
命は
捨てようとすれば近づき
遠ざかろうとしてしがみ付く
証拠とは見えないもの
維持するためだけのものではないデザイン
毒味してみてよと言われて
飲んでみせる
治ったり解決したりはしない
母の死んだ子の 襟が直角に交わってめいろのようだ
黒い扇形が
地形を均す
オレンジジュースが 暴れる
ブルドーザーの頬に板を充て
はつかり号にする
心に納めていた
山吹がかった丸
ディスプレイに段の畑の波が拡がる
濃い緑が頬に垂れ
その層から塩が流れ出してしまう
左手に剣
左手を突き上げる
裏返った初夏の凄惨
マスコミと云わなくなった
七一歳の顔を見る
放射線をかわすとオーロラになる
DNAとRNA タンパク質
私達は家と工場を往復している
設計図をコピーしパーツとしてのタンパク質を組み立てる
私にだけ支えがない
ばさばさと論証する
結末をしっかり予告する
蜂のような うなり声がする
水の浄化のデザインを知った人は
警告を受ける
そのルールと力、
繊細さと複雑さ、
によって警告を受ける
知識人から注意深く隠す
黄や茶色から
経穴から胃に来る
髭を剃る時のオレンジの明彩の変化
団塊の鼻息としての外向
イエローの分配、
初夏の裏返しの紫の凄惨
薄緑や青の中に
オレンジの

せいぜいがカートゥーン色

 

 

 

The BirthMark (2017年1月)

 

今井義行

 
 

アルジェリーとは Facebookで しりあった
あしばやに ちかづきあって
あしばやに
私は フィリピンへ翔んだ

2017年1月 ──

彼女は 1977年生まれの シングルマザーだ
娘が 3人いる
[もと夫は 暴力のひとでした
泣かされたけど
私は 愛そうと しました]

ブラカンの 新興住宅街にある あなたの家に
私は 行った
[この家に 招いた 男性は あなたが初めてです]
[どうもありがとう]

ここから 世界言語である 英語も交えてみる
誰が 読んでくれるか わからないから ──

フィリピンでの初夜 蒸し暑い部屋 大きな扇風機が廻る
The first Night in the Philippines  Hot and humid room  A big fan turns around
わたしとあなたは 全体で 愛しあい続けている・・・・・・・・
Me and You  On the Whole  Keep Loving············
*+*+*+*+*+*
隣の部屋で 3人の娘たちが まだ起きている
In the next Room 3 daughters Are still awake
長女(17歳) 次女(12歳) 三女(7歳)
Eldest daughter (17 ) Second daughter (12 ) Third daughter (7 )
そこには 携帯電話 衣類 お菓子が 散乱している
There Mobile phone Clothing Confectionery  Is scattered
彼女たちは 父親について ほとんど 知らない
They know  Little  About their Father
彼女たちは わたしたちの 音を 多分 知っている
They Probably Know Our Sounds
 

I like your name Argerie very much
わたしは アルジェリー という あなたの 名前が とても好きです
That’s because it’s a name that starts with A
A から はじまる 名前 だから です
Beginning day はじまりの日

Argerie  The first Night in the Philippines  You told me
アルジェリー フィリピンでの初夜 あなたは わたしに 言ったね

〈Look at my right Breast  Around  I have a big Red Spot〉
〈わたしの右の乳房を見て 周りに 大きな紅斑があるの〉

Argerie  I replied to You  アルジェリー わたしは あなたに 答えたね

〈 Is it born 痣(AZA)・・・・・・? 〉
〈それは 生まれつきの 痣 ですか・・・・・・?〉

This is my BirthMark
コレハ ワタシノ BirthMark デス
It is Given アタエラレタ モノデス

I am proud of the Given BirthMark
ワタシハ アタエラレタ BirthMark ヲ ホコリニ オモウ

〈痣〉と 漢字で書けば 痛々しくも 思われる
If writing with kanji with 〈痣〉 It seems painful
 

紅い斑 に ついて
About Red Spot

産まれる前に 赤い血管が ときに 密集して できる
Red Blood vessels before being Born Sometimes
They can be crowded together

皮膚から 透けるもの それが紅斑=痣だといいます
From the skin Through it It is said that Red Spot = 痣
But, The Word of BirthMark seems to be Bloody
けれど、
BirthMarkという言葉には血がかよっているように思われる
 

It seems like an Island country of Roses
それは ばらのしまぐに のようだ
It bridges the Island state and the Island country
それは しまぐにとしまぐに に 橋を架けます

Argerie I think that TheBirthMark is Beautiful

アルジェリー わたしは TheBirthMarkを うつくしいと 思っています
 

BirthMark is The, BirthMark
BirthMarkは The, BirthMarkです
 

The, BirthMark is Your Own The, BirthMark
The, BirthMarkは あなた固有のBirthMarkですね
 

わたしは 覚えている
I Remember

翌朝 よく 晴れていました
Next Morning
It was Sunny.
 

4girls+1boyの 5人家族 4 girls + 1 boy 5 Family
屈託の無い 朝ごはん A carefree Breakfast
〈もしくは、 長女は知らぬふりをしていたか〉
3人の青い娘 青いくだものを切り分けた 競うように
Three Blue Daughters  Cut the Blue Fruit Just like to Compete
それは 青い 光景だった
It was a Blue Sight そして And
アルジェリーは わたしに 青い水を 差し出したのだった ──
Argerie offered Me Blue Water …… ……
 

[さあ、めしあがれ ヨシユキ!]

 

 

 

とってもよいことが起きる日

 

長田典子

 
 

つよい北風がふいて
ドアは
たすけてたすけてたすけて
と言いながら
閉まった

たすけ
てた
すけて

たすけくん
出た ドアから
すけて
とうめいにんげん
出た

ドアは閉じて開いた
はろはろはろはろはろー
と言いながら
たすけくん
ドアを
ぱたりぱたりぱたりした
音だけがした
たすけくん
だれも気がつかない

たすけくん
てけすたてけすたてけすたこらさっさ
丸テーブルの上にあったお土産のずんだもち
たべた
たすけくん
ずんだもちたべた
ずんだもちのすけになった
もちもちねばねばざらざらする
ぱたりぱたりする
つよいつよい山形だだちゃ豆の
山形ずんだもちのすけになった

つよい風がふいて
山形ずんだもちのすけさん
ドアをぱたりぱたりぱたりして
はろはろはろはろーって
ドアを開けて
てけすたてけすたこらさっさ
丸テーブルに向かって歩いていった
だだちゃ豆色の燕尾服きた紳士の
山形ずんだもちのすけさん
ふかくゆっくり椅子に座った

きょうは
なんの日?

知らない
でも
とってもよいことが起きる日さ

山形ずんだもちのすけ男爵は
てけすたてけすたこら
さっさっさ
あご髭をすぅっとなでたんだぁ

 

 

 

「夢は第2の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」 第76回

 

佐々木 眞

 
 

 

私はシゲハラ印刷に頼んでAPフェアの5点セットPOPを作ってもらい、それを全国各地の百貨店の売り場に飾りつけると、日本の名城をデザインした扇子を額に鉢巻きで巻いて、カッポレカッポレを唄いながらそこらを練り歩いた。7/1

女の子の家庭教師をやっていると、必ずその子が涙する時がやってくると先輩がいうので、私は何年も待っているのだが、まだその時は来ない。7/2

いつも京に来ると道に迷ってしまうのだが、今日も山科の里山辺で、どっちが駅なのか分からなくなってしまった。道を聞いても言葉が通じないし、そのうち私は、私自身が何者であるのかすら、茫洋となってきた。こんなことは初めてだ。7/4

京都駅から下り電車に乗ったら、鳥取や島根方面に行くおばはんたちが大勢乗っている。聞けば彼女たちは、みな地元の町会議員で、党派は違うが、研修という名目で京で観光してきたそうだ。7/5

久しぶりに五反田のダーバンへ行ったら、ナベショウ氏につかまって、彼が海外で買い集めた玩具のミニトロッコの御託を耳にする羽目に陥っていたく消耗していたら、折り良くミズノ氏から、「ちょっと来いよ」という電話があったので、これ幸いと逃げ出した。7/6

私は中原中也の真似をして、詩集の初校を持って、あちこちで見せびらかしているうちに、1枚、また1枚とどこかへ消えてしまい、しまいには全部無くなってしまった。7/7

家の鍵とか車の鍵とか、探しても探しても、長い間見つからなかった紛失物が、次々に出てくるので、夢かと喜んだのだが、目覚めてみると、それは全部夢だったので、コンチクショウメと歯ぎしりしている私。7/8

東京に本社があるために、いつも東京ファーストで東日本地区のことしか頭になかった私は、時々大阪支店の連中から、苦情と警告を受ける羽目になった。7/9

ルックのオオムラさんが、芸大の教授になったというので、私はいったいどういう裏技を使って、そういう芸当ができたのかを知りたかったのだが、オオムラ氏は、それは企業秘密ですというて、どうしても教えてくれない。7/10

私は昨夜の夢を、ケイターメールにしたためておいたので、それからは安心して、朝まで眠ることができた。本当は、夢見た直後に蒲団の中で録音しておけばいいのだが、それでは家人を起こすことになるので、要注意だ。7/12

アカプルコの海岸のカフェバーで、日向ぼっこをしていたら、店の女の子が、ここらへんは殺し屋の殺し屋がうじゃうじゃいるから、中に入っていたほうがいい、という。でも、どうしておらっちが殺し屋と分かったんだろう。もしかして彼女も殺し屋?7/13

宿命のライバルである我々は、アメフトの試合の途中で大乱闘となり、お互いに殴る蹴るの乱暴狼藉を繰り返しているうちに、多数の負傷者どころか、死者まで出てきたのだが、調停役のレフリーが、とっくの昔に逃亡していたので、誰も止める者がない。7/14

飛行機の前でマゴマゴしていると、衝突しそうになったので、どうも縁起が悪いな、と思いつつ、最前列に乗り込むと、ちょうど真向かいに停止中の飛行機の窓から、私を狙っているライフルが見えたので、すぐにカウンターに戻って、搭乗をキャンセルした。7/15

◎◎市の○内の範囲では、うんとん家が惹き起した暴動に巻き込まれているという情報が、テレビの速報で流れた。7/16

どういう風の吹きまわしか、馬鹿殿の不興を買ってしまったので、なんとかして元通りに修復したいと思うのだが、なんせ相手が相手なので、どうすればいいのか、妙案を思い付けずにいる次第。7/17

世界最短詩の候補として、愛、愚、凡、穴、人、友、生、死、無、息、根、交、神などの漢字が浮かんだが、そういう既成の単語以外に、新造語や絵文字、混成語もあるのではないかと思い付いた。7/18

7月になって、朗報が飛び込んできた。私の芝居を、紀伊国屋ホールで上演するというのだが、ついては200万円寄越せというので、それはどういうことかと、文無しの私は、吃驚仰天だった。7/19

台所の床下収納庫の蓋を開けたら、底に巨大な魚の目玉が爛々と輝いていたので驚いた。この目の大きさからすると、地球上に棲息する魚ではなく、もしかすると、伝説上の大魚、鯤鵬ではないだろうか?7/20

内田百閒の「東京焼盡」から霊感を受けて、たった1晩で書き上げた私の「こうすれば10の天変地異から身を守ることができる」という本は、あっという間に、ベストセラーになってしまった。7/21

イデ君と素材メーカーとの打ち合わせに出張してきたのだが、バスを降りてから峠道を歩いても歩いても、目的地に着かない。そのうちイデ君が、道端でちょっと小用を足すから先に行ってくれというので、どんどん登っていったら、三差路に差し掛かり、イデ君もどこかへ消えてしまった。7/22

神宮球場のスタンドで、次の投球を打者がホームランすれば、私の歯痛が治るはずだ、と確信して待ったが、生憎三振に終わってしまったので、痛みは倍増するようだった。7/23

うみうし氏は、おもむろに懐の中から魚を取り出して机の上に並べ、若き兵士たちに食べさせてから、降り注ぐ弾雨をものともせずに戦場に飛び出し、まだ息のある若者を背負って、次々に塹壕の中に引きずりこむのだった。7/24

どういう風の吹きまわしだか、イケダノブオのアルファロメオの新車の助手席に乗ってしまった私は、シカゴ市警の全パトカーから追われる身となってしまった。7/25

誰かの詩集のなかに、1本の木の写真が挿入されていたのだが、それがあまりにも美しいので、書かれた詩のことなど、すっかり忘れ去ってしまった。7/26

戦況が思わしくないので、かつて戦場で一度も敗れたことのないスナフキン野郎を思い切って投入したのだが、敵軍の強襲に、たちまち撃退されてしまった。7/28

オオキさんチのアパートの近くで、誰かにどーんとぶつかられて、ばったり倒れてしまい、身動きできないでいると、またしても、そいつがのしかかってきたので、ひらりと身を交わして、避けたのよ。7/29

「世界大変」「世界大乱」「世界最凶」などの言葉が駆け巡って「万事快調」と覇を競い合うので、なかなか眠れなかった。7/30

これからの自動車業界を展望するS氏の本が刊行されたが、特別付録の、S氏が所属するA社の社長と、そのライバルのB、C社の社長との対談が面白いというので、業界の話題になって、アマゾン売上のトップに躍り出た。7/31