フィアンセに死なれて

 

工藤冬里

 
 

市役所職員の健診で十戒がすでに読まれましたが、指で記す死にフィアンとしてのキャラのハードルは高く、「休まなければならない。」と思いました。ラジオ深夜便的な死にフィアンが
鷲の翼に乗せられて
命は震えている
死について本当のことを知って
黄色が光る

 

 

 

#poetry #rock musician

悪夢

 

村岡由梨

 
 

山の斜面の
水が引いた時にしか通れない道で
少女たちが一斉に列車に飛び込む
飛び散った無数の肉片を
ランドセル姿の幼女がペロッと舐めた。

目が覚める

いつもとは違う
投げやりな態度の先生が
拘束衣を片手に私の話を聞く。
私たち家族4人
別々の部屋の前に立たされる。
おかっぱ頭の、幼い眠が
泣きべそをかきながら
私に訴える。
「ママ、わたし、この部屋に入りたくない」

目が覚める

心臓の鼓動をぶつ切りにされるような衝撃で
何度も何度も目が覚めた。
私の知らない場所で
眠もまた
眠れず天井を見つめているのだろうか。

拘束衣を着せられた私の口元に
誰かがそっとガーゼを押しあてた。

自分の顔がわからない。
今すぐ笑顔の眠に会いたい

 

 

 

遠近法

 

長尾高弘

 
 

遠くに子どもがいるよと思ったら、
近づいてみるとおばさんだったり、
遠くからおじさんが来るよと思ったら、
女子高生とすれ違ったりする。
昔からこんなだったかな?
ちょっと前のことでも覚えてないよ。
歳を取るってこういうことなのかな?

 

 

 

ピアノとの時間

 

ヒヨコブタ

 
 

指をのせる
呼吸して無心になる
無心にならないとき
ピアノにはわかってしまうのではないかと思う
本気ではないと
向き合っていないということが

なめらかでなくともいつかなめらかにと
またその日を願いながら弾く

いつからかピアノと向き合うことの楽しさが
難しさが
深くなって
適当に弾いていればそれでも音は鳴るというのに
それでは済まなくなった
わたしのなかで

向き合えば音はこたえてくれるのだということ
とても落ち着くのだということ
指が絡まれば音も絡まり続けていく
不思議な時間
ピアノの前を離れたくないと思う不思議な時間
いつまでも続いてほしいとすら思う不思議な時間

 

 

 

島影 22

 

白石ちえこ

 
 

千葉県 久留里

城のある町へ向かった日。房総半島旧道。
白い鳥がたくさんとまっている樹が遠くに見えて、近づいてみると鳥ではなくて大きなモクレンの花が咲いていた。
その近くにあった樹は土に埋まった蹄のある動物の頭部にも見えた。
幹がぐんぐんとのびた角に見えたり、または、木肌を押し破って出てきた白猿が東に向かって頭を下げ、手を合わせて拝んでいるようにも見えた。
鏡の中の、もうひとつの国に迷い込んでしまったような奇妙な一日だった。

 

 

 

怖れ

 

工藤冬里

 
 

絶望するしかないわけではありません
埃のように私は舞う
食事と睡眠どっちが怖いか分かりません
エルピスというのかギリシャ語で希望
なんていうんだろう絶望は
疎開先では飢えが怖い
入って来ないように灯りを消そう
書く欄がありません
ソーランを養う
山鳩は歌う
力強い羽音に狂う
今日はトンボたちだけが酔う
一緒に住むことを快く思う
って言ってるだけじゃだめなんだって
空の青に剣
飲み物としての眠気も怖い
決意ができていない
早く起きろよ

 

 

 

#poetry #rock musician