千年花月

 

工藤冬里

 
 

ユダの声色で
腑の出た魚
トリチウムの様(やう)に捨てられた旧神は剥(ムク)れる

千年花月

薄つぺらい写真で出来上がつてゐる菊人形状の身体から満月を剥がし
その欠落について補填するのなんの
減収のはなびらで装ひ
理由のある唯一の札を引くやうに
現実と永遠を重ねる
オートバイは失恋を吠え
罪のレセプターに給油する
その愛はリッター何兆円ですか
何かわるいことをしたのではないが質(むかはり)になつてねこの視線にまで入り込んだ
生き返らせるには写真アルシーヴの配列を変へるだけでいい
サイズでも作成日時でもなく人は名前で並べ
パオの中で火が燃え
ねこは内側に揺蕩(たゆた)ふ
外で繋がれてゐた人間はウヰルスのついた無酵母の煎餅様(やう)を食べた
とりわけ白茶けた一葉が抜き取られた
決して到達しない花月に向けて

ある種のマリン・ブルーを敷き詰めた部屋で
法律用語こそが最上等リアルだつた
それを知ることはそれを愛すること
その乖離に竦(スク)み
生き返つたねこの視線を骨組みとした天蓋の白を以て
いぬの目に降る花月に揺蕩へ

 

 

 
#poetry #rock musician

千年ランチ

 

工藤冬里

 
 

音楽の中世化が必然であったのであれば思想もまた中世化しなければならない
必要なのは超越ではなく退却なのだ

栄光を示すと言う
これまで二回示したしこれからも示すと言う
目に見えないけれど声を出すことが栄光を現すことになるらしい
じゃあぼくは声を出し続けていてしかも目に見えるからずっと栄光を表していることになるけど
そうならないのは全てを反映させていないからか
その欠落の周りに欲望が生じているのか

演劇の一部として使って際立たせるというのが音楽を活ける方法だったが、詩に花道はあるか。

非対称が際立ちすぎてはいけない
自力で飛べないならリーダーになってはいけない
変哲ない木立の写真に
絡まった見えない羊を探せば
鉄格子越しのきみの顔が見えるだろう
羊頭からのその折り返しは変身しない隊員のようだ
スマートではあってもヒーローではない
コロナ怪獣対策の隊員はTVの中で
令和に昭和を滑り込ませている
お兄さんキャラがドブ板に白黒で立ち上がる
御同輩!と紙一重の電化羽根
パンシロンのバンカーは禁令下の駐在地で妻のランチを
首を切られた白鳥のように
詩を活ける室町にする
頬痩けたスーパーマンの力強くげっそりして
アメリカでも中国でもない
灰色のキャラメルごと飛ぶ宇宙船のなかの静止画像の地染め前の伏糊感
おお 立体よ
バナナのように直立しマカダミアの顳顬を持つ
一九六ニ年から西暦しか使わなくなった韓国に昭和はあったか
生き残る人に共通していたのは

掃除機の空洞を思い浮かべてみる
コロナじゃないよ花粉だよ
と抗弁している仮想の現実を
受け入れているかどうかだ
画面を見るとゆうちゃんて一家の中心なんだね
髪の分け目の用水路が上に延びて
今は令和だ
あらゆるGIFがあるように思える中で
欠落のみに注目しよう
英語にはないニュアンスは集められて
仕分けられぬまま
春のゴミ屋敷に
菜花として生え
生首として活けられる
天には無い光景として
生花は切られ
タイで絞められ
鯛は不躾に活け締められるから
称賛しないなら弟子にならないで済むと
花の下で論語教師の落としたUSBの
早口のワクチンのデータを届ける
光る柿の芽を早く食べなきゃ
大艱難が始まってしまうが
アーカイブは花瓶に活けられなければならない
選ばれることはミュージシャンの願いや努力にではなく憐みのあるコロナにかかっている
授業がストップして学力の差が出ることを心肺している
選ばれることと選ばれていないことの界面はない
アゴニストとアンタゴニストの汐に晒されるが
その内面は孤児レセプターのリガンドとして
高潔さを捨てずに歩む

アルシーヴに忙しすぎて見れない(ラ抜きすいません)と過ぎ越して
今年もやはり桜を見ることは出来なかったと桜の下でホカ弁のランチを食べながら思う
いつかきっと花を見れる(ラ抜きすいません)日が来る、
というのは決して充足することのない対象aであり
今年も花見なのに花の欠落を見るということになる

人の写真がアルシーヴに這入り込んでくる
見えない道徳律を守れないのだから見えないコロナから身を守るなどということはできない

いつ死ぬかわからないのに引き落とし契約などできない

 

 

 
#poetry #rock musician

花からもしっかりと見られているのでなければ

 

駿河昌樹

 
 

桜が咲きはじめている

もう満開のようになっている木もある
まだほとんど咲いていない木もある

ひとりひとり
異なった宿命を与えられている人の世のようだとも思いながら
桜の並木づたいに歩いていく

花を見る
花を愛でる
などと
平気で言ってしまいがちだが
見ることや
愛でることは
やはり
ほんとうにむずかしい
希少な瞬間に恵まれなければ
かなわない
ことでもある

花を見るとき
花からもしっかりと見られているのでなければ
見たとはいえないのだろう

この頃はよくわかっている

花がこちらを見てくれるまでには
ずいぶんと時間がかかり
こころの沈黙もかかる

こちらのこころの沈黙だけが芳香を発して
かれらの注意を引きよせる
沈黙が底知れぬ淵を出現させ
そこから花々を惹きつける芳香がのぼる

桜に見られたことはあるか

どのくらい
あるか

あったか?

それほどまでに
どのくらい
“居ない”
ことが
できてきていたか

 

 

 

春灯や 窓越し交わす ”生きている”

 

一条美由紀

 
 


私は半分
半分生きている
半分寝ている
半分話してる
半分知っている

あなたはその接触不良な存在で全部?

 


もっともなわたくし

 


明日へ走る 
ハンドルは汗ばんでいる 犯した罪は丸めて消した
誰かの悲鳴が聞こえたけれど 知らないフリ 
未熟という存在であり続けることが願い
恐怖と不安のレイヤーは どこへ捨てればいいのか

 

 

 

千年安全剃刀

 

工藤冬里

 
 

彼は川の地方の雇われたかみそり、と呼ばれていた
どすのメッキーとか
京成サブ
みたいなものだ
(ずっと咳してる奴がいるな)
悪が悪を挫くという
白竜みたいな図式が
イニシエからあったのだ
(ずっと咳してる奴がいるな)
いまや悪い奴らの方が真剣だ、とは「ソシアリズム」の台詞だが、
時代はさらに進んで善人も悪人もともにコロナの婚宴に招待される道ゆきとなった
(ずっと咳してる奴がいるな)
彼の真剣さが意味をなさず
十部族の(真剣な)曖昧さも意味をなさなくなったのがこの春だ
(ずっと咳してる奴がいるな)
春はコロナを見ておらず
コロナは春を見ていなかった
(ずっと咳してる奴がいるな)
おれはアーカイブ化に勤しんでいて
春にもあらずコロナにもあらず
大他者になり得ぬそれらを通して
小文字の欲望を形成することなどしなかった
最後の春はそのように換骨堕胎されて過ぎる
(ずっと咳してる奴がいるな)
春の手の中で石のように硬く
コロナの手の中で粘土のように柔らかい
でもあと一周走り忘れています、
と顳顬の光る平面によって構成されている多面体としての頭部が語る
人種の違いよりもパーツのアフォーダンスのようなものが際立つ
(ずっと咳してる奴がいるな)
経験とは後追いの電影であり
知っていたが見るまでは思い出せない記憶だ
(それにしてもずっと咳してる奴がいるな)

 

 

 
#poetry #rock musician

ポップコーン・デイズ

 

薦田愛

 
 

ちょっと古びた打ちっ放しの外壁
ちいさな集合住宅の
ここは
リビンングダイニングの壁ひとつが
いちめん型ガラス
その向かい側がベランダに出る窓
型ガラスの
外は
こぢんまりと中庭
だから
ほのかに透けて
みどり
五月だった
はじめて
足を踏み入れ
射られた
しんと
ほの暗いなかに
明るい
みどり
みどりがさしこむ
みどりに射ぬかれ
うなずき合った
合わせた目を
真向かう
ベランダの側にうつせば

大きな樹
もしかすると
桜かなあ? 桜だったら
部屋からお花見できるね
「いいねえ、花見」
そうして決まった
こころ
心を決めた
ここに住む

仕事帰りのユウキ
そのレジ袋は何?
「ポップコーン、買ってきた」
えっ、ポップコーン?
なんで?
「だって、ポップコーンみたいじゃない?
満開の桜って。
見てると食べたくなるんだ、ポップコーン」
そうかなあ
満開の
ポップコーン
なんだか
アメリカン・テイスト
ニューヨークかどこかで桜を見ながら
ポップコーン頬張ってるひとって
いるのかな
ベランダの向こうの
〈もしかして〉が
もみじ、はだか木
〈やっぱり〉になり
寒さのゆるむ速度を追い越すように
ある日
色づくつぼみに気づくと
そこからあっという間
雨に濡れた枝からしたたる滴もあたたかいのか
見れば二輪、三輪
ほころんで
ユウキ
咲き始めたよ
「ほんとだ」
言葉少なに見やっていたのが
つい三日前だったか

アルミケースのフライパン型パッケージ
へえ、やっぱりアメリカ製なんだ
火にかけると
ぽぽっ ぽぽぽっ
ぱぱぱぱ ぱぱん ぽぽぽぽぽ
ユウキの手もと
みるみる
ミルクイエローの花はな花
リビングダイニングいっぱいコーンの匂い
「どうぞ」と澄まして注いでくれるビール
鉢に山盛りの花はな花
ポップコーンって
映画館で手探りしながら食べるだけじゃなかったんだね
塩と油にまみれた指をなめなめ
泡と花とを交互に口にする
あけはなつ窓からの風は
まだ少し冷たい
むすうの花はな花を抱えて身震いする
いっぽんの

明けの声
メジロにスズメ、ヒヨドリにアゲハ
蜜は日に日に吸われ
いっさんに散るとき
白いと見えていたものが薄あかい
吹き寄せられて
側溝に溜まる紅が朽ち
枝ひとつも忘れない入念さで若葉が覆い尽くすと
それはそのまま
蝉のねぐら

そして

ふたたびの春
ちいさな集合住宅のある町
その町のあるクニ
その、クニのある星いちめん
覆い尽くす
おそれ
はやりやまい
声をあわせ笑いあい
くみかわすことを
あきらめこらえようと
こもる人びとの窓
けれど
二輪、三輪、先を競う
花はな花は
枝枝からこぼれ
きこえない声に
揺れ
「買ってきたよ、ポップコーン」
それにビールね
この窓の内側
小さな集合住宅の
リビングダイニングをコーンの匂いに染めて
ふたり
咲ききって散り初める
いちにちを寿ごう