手のある鮒鮨の風景

 

工藤冬里

 
 

箒の持ち方も知らず
悩みや不安もなく
家の排水を二の次にして木の気持ちを大切に
自分から触りにいった
牡丹色の服を着て箸を持った そばに
いーられるーと思い出す きみの
ドールチェアーンドガッバーナーのそーの
蕎麦に痛いと思わせる饂飩
下校途中の子らにさようならと言われて泣き崩れ
距離を感じたり見下されていると感じたりさせなかったので
カレーと一緒にいると落ち着く乾麺
をよく折る地上の水道管を折る
スペクタクルの狭間で!
土地にいつも頼って死ぬ天麩羅の父祖
に頻繁に真剣に折れた水折った泉
〽︎ひとりでいるのがこわくなる
折れた水折った泉水
仲間といる時も折れた水折った泉食べている時も折れた水折った泉
いろいろなタイミングで苦渋を言い表す折れた水折った泉
決定をする後に
助けを祈り求め
人に土筆
土手休み
マッサージチェア壊れて他の自分を優先し他の自分中心もみ・たたき弱中強五段階自己評価
菅総理
で快く許さない許さない熱心すべてに示せよ
予告編によると、ほとんどのメディアから受け入れられず隣人によって殺されることになっていたから手を抜くこともできたがそうはせずガラ聲で熱い小便をした謙信と孫悟空がにちゃにちゃして道
水道管の破裂を予期しながら
不完全な他の自分とは比べ物にならないほど
身体面でも精神面でも完全で周囲のスイマーと圧倒的な差があった 冬
それでも謙遜に睡魔と闘い他の動物としての自分に仕えた
辛さを抱きしめる強さ
仮名に圧力
放して倣うもほうはん
実践男子大
東京男子大
御茶ノ水男子大  
東京男子体育大
東京男子医大
東京男子美大
一貫して辛く抱きしめる強さ
大切な教訓を何度も教え
東京男子大学
男子プロレス
さかなでしこ
身近に感じられるよう助け短大
逆撫出四股
しこたま神社
魚のくせに手が
あるので神経を逆撫でされる

 

 

 

#poetry #rock musician

俳句六首

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

妥貼的真珠
淚水最深處的心
雨中的鼓聲

佛陀的手印
未讀完的《地獄變》
舊約巴別塔

火燙的門楣
注解詩人的晚點
毀壞了重量

晝夜泳不息
銅管吹奏著松濤
淚是漏刻水

最初的時分
天公玉女飲序曲
曰:午時立春。

戰死的旗幟
兩隻乳房在夢中,
迷霧中,歲月。

 

 

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セブン-イレブンに車を駐めて

 

工藤冬里

 
 

セブン-イレブンの前に車を駐めて
二つの時間を生きている
バイデンの時間は皮を被ったまま加速しておりトランプは剥き出しの無時間である
自転車を読んだ男が競輪新聞を停めている
メルボルンの友人が手を振る

 

 

 

#poetry #rock musician

阿部薫はミノが好きだった

 

工藤冬里

 
 

 

藍住にキラ⭐️星という若い夫婦のやっているラーメン屋がありそこには作者が死んだ「喧嘩ラーメン」全巻が揃っている
今日は四巻目を読んだら家系前夜的なものと対決していた
日本人の痴呆はラーメンの糖質から来る、と医者の本にあった
うどんなら機械的に「肉うどん、」としか注文できない肉体労働者達はだから圧倒的に正しい
なるべく麺以外の繊維質と蛋白質から食べるようにして
それでもとうとう麺に箸を付け始めて近づけた顔から突如死にたい、と口を突いて、周りに聞こえなかったか不安になり乍らも、今のこの死にたいは絶対録音できないだろうななどと思いながら食べた
店の裏手に回ると草の中に見事に半球のお玉杓子と柄杓、雷文のラーメン鉢が打ち捨てられていた
阿部薫はミノが好きだった
と今度は音声無しで思った
Bluetoothで聴いていたDUOと題された昔の自分の音源の、ふわふわと捩れたサックスが平田薫という人ではなかったかと考えたからだろう。
ミノは上胃である
何かの小説にギムナジウムでの無味乾燥な学問という描写のために牛の四つの胃のラテン語を暗記させられている場面があったが
音は
ふわふわのガムみたいなホルモンではなくて上ミノでなければならなかった

 

 

 

#poetry #rock musician

伊勢

 

松田朋春

 
 

この街はたぶん
はじまった時からふるびていて
神宮ばかりが青々と生命を集めている

水路も道も
樹皮の皺のように蛇行して
何かを守っている

疫病なんて何度も通り過ぎたと
誰も採らない道端の柑橘がささやく
すれ違うとき

汐の湯につかって
磯のように
表面を溶かす 

水も土も風も
体液と同じ味になるまで
あともうすこし

 

 

 

夜が鳴いている

 

小関千恵

 
 

きみはすぐにあかりをつけるから
夜が行方不明だ

夜が鳴いている

夜がきみを探して鳴いている

あかりを消して
みてごらん

押し入れに隠れた夜のこと
家出をした夜のこと

夜、 夜、 と 呼んでごらん

夜の鳴き真似を してごらん

眠れない夜に
まあるい夜が
寝息を立てているよ

夜はこたつでも
まあるくなるよ

 

 

 

 

 

変容と変化

 

村岡由梨

 
 

火曜日、眠が入院した。
病院の帰りの電車の中で、私は
人目もはばからずに泣いた。
激しい孤独感に襲われて
足がすくんで
周りの音が聞こえなくなった。
夜、ホッケを3切れ焼いた。
米2合は多すぎた。
いつもいた人がいなくなるということは
こういうことなんだな、と思った。

金曜日の夜中、野々歩さんと
新しい映像作品の編集を終えて、
フランスの友人へ送った。
月末までに、送る約束をしていた。
作品の中に出てくる幼い眠の姿を見て、
花が泣いていた。

木曜日、眠の外出許可が下りた。
野々歩さんと、眠と花と
病院の最寄り駅のおそば屋さんで、
天ぷらそばを食べた。
眠は、私が眠に持たせた
「床下の古い時計」という本と
バーネットの「秘密の花園」が
すごく面白かったと言ってくれた。
それから、病室から夕日が見えたことや、
別の病棟に入院しているおばあさんと窓越しに目が合って、
向こうが手を振ったので、こちらも手を振り返した、
と話してくれた。
目に見える傷と目に見えない傷を抱えた人たち、少女たちが
世界から隔絶された場所で
懸命に生きていることを思った。

金曜日の夜、
突然母から電話があった。
「変なことを聞くけれど」
と母は話し始めて、
私と弟は、どれくらい歳が離れているのか、と訊いてきた。
一年と二ヶ月ちょっとじゃない?
と私は答えた。

一年と二ヶ月ちょっと?
それだけしか離れてなかったのね。
じゃあ、あなたは、
そんなに幼くしてお姉ちゃんになったのね。
つわりも酷かったし
母親が一番必要な時期なのに、
あなたに構ってあげられなかった。
悪いことをしたわね。
あなたは弟の手を引いて、
一生懸命お姉ちゃんをしていた。
でも、おしゃぶりをなかなか手離さなかった。
それは、眠と花も同じね。
今、お風呂に入ろうとして、急に思ったのよ。
あなたに悪いことをしたって。

電話を切って、
私は、声をあげて泣いた。

許すとか許さないとか、
そんなおこがましいことを言いたいのではなかった。
親だからといって、
完璧な人間であるわけでも、あるべきでもなく、
時には正しくない選択をしてしまうこともある、
ということが腑に落ちて、
痛いほどわかったような気がしたからだった。
「親である以上、子供の模範となるような存在でなければならない」
「100%の愛情で子供に応えてやらなければならない」
そんな理想に縛られて、
「完璧な親」でいてくれと、
母に強いるようにして、自分は生きてきたのではないか
そう思ったからだった。
人は不完全な存在であるからこそ、
互いに補い合って生きていられるんだ
苦しいのは自分だけじゃない。
そんな当たり前のことに、気が付いた。
靄がかかって行き先の見えない道の途中で
不安で立ち止まっていたけれど、
まっすぐな風が吹いて、スーッと遠くの景色が見えた。
そんなような気がした。

元々壊れやすい人たちが集まって「家族」になって、
やはり壊れてしまって、また再生して、壊れて。

私の中で今、何かが変わろうとしている。
自ら勇気を出して変わろうとしたわけではなく、
否応無しに変わらざるを得なくて、変わった、
という消極的な変化だけれど。
世界の美しいものを素直に肯定できる、
そんな自分になれるような気がしている。
 

土曜日、眠の外泊許可が下りた。
自宅のひと駅手前で降りて、歩いて帰ることにした。
眠が以前、アトリエの帰りによく寄り道をして
遠くの景色を眺めていた歩道橋が無くなって、
おしゃれな建物に変わっていた。
丁度雨が降ってきたので、そこで雨宿りした。
眠と野々歩さんと
酒粕の入ったチーズケーキを食べながら、
雨が止むのを待っていた。
夜、オニオンスープとピーマンの肉詰めを作った。
米は2合で丁度よかった。
テレビはつけなかった。

今日は、夕飯に、銀鱈の西京漬けを4切れ焼いた。
米は2合で丁度良かった。
今日もテレビはつけなかった。
花が泣いた。
今もまだ、私たちは狂乱の只中にいる。
飼い猫のサクラが、お姉ちゃんのナナの頭をなめていた。
その様子を見て、皆で笑った。
眠はもう病院には戻らない。

夜、花と散歩をした。
花といろいろな話をしながら
神社を通って
落ち葉を踏みながら歩いた。
ぽとん、と
どこかで銀杏が落ちる音がした。