141124 机上

広瀬 勉

 

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三千魚さん、角館の朝市で、おばちゃん達から買った野菜を漬けてみました。赤大根、ハヤトウリ。いぶりがっこは、干して燻しただけの状態のモノを丸で求め、甘さを入れず、自分で調味し漬けました。白い大根は、出来上がりを入手、この季節に出回る柿漬け。渋柿を使うそうです。

 

 

 

下町、霜月の

 

薦田 愛

 

 

二の酉、通りは人ひと人の
しらない顔かたちにあふれている
下町、くるわ、のおかれていた近く
こんじきの文字を掲げたお社はあり
隙間なくならぶ提灯しらしらと照らす境内へ
うねうね長い行列のひとりとなって進む
久しく
詣ることのなかった神さまのもとへ
しらない顔かたちの
人ひと人のあとにつづく

列をなして対面、神さまと
列をなして対面、神さまと
神さまと対面するいっしゅん目指して
列をなす
しらない顔かたちどうし

すごいねぇ、とまばたきする
しっている顔かたち
旧い友と、友の友
すごいって?
しらず張り上げる声かき消える
路地の闇
すれちがう人の肩におどる
通称かっこめ、つまり
鶴亀松竹梅大判小判俵七福神干支のひつじ
そして福相のおみなすなわち
おかめを飾った
熊手
揺れて
通りを渡る
神輿のように

旧い熊手はこちらへ
ゆるみのない誘導
境内は狭いですから押さないで押さないで
神さまは公平ですから
列をなし
対面まであと少し
お賽銭の遠投をこころみる
初老短髪腕に覚えありと書いてある顔
ちいさくうなる放物線の
くりかえし刻まれるいちにち

列をなして対面、神さまと
列をなして対面、神さまと
おもいおもいの個別を証しだてる術はなく
おもいおもいの重さ大きさをはかる野暮もなく

いっしゅんののち
ぐにゃっとほどけて
ちりぢりの人ひと人
しらない顔かたちも友の顔も
おもいおもいにあおぐ見あげる
とりどりあまたの
かっこめ
大鷲の爪のつよさにあやかって
つかまえよ財宝、つかまえよ福を、と
つぶやいてみる

ああ、手拍子だ

 

 

 

貿易

 

爽生ハム

 

 

生乾きの胴体が二年後にやっと乾く。

わたしの焼身はスケッチされて終わる。

(心配だ、信用するべきか、慣れたから許せるのか。)

快音響く鳩のぱたぱたを追いかけ、羽の細やかさに目を疑う。

突然に襲われた。後頭部への打撃、むせる口もと、
茶番に興じる。休日の人

茶番と判断する人は、永久に鳴りやまない訪問者に褒められ続ける。
そして、また褒められる為に功績が欲しくなる。

わたしは
悲惨でなおかつ、暇だから、唾で日本酒をはねかえして、人の淵を温めて過ごす事にした。

 

 

 

おおおおおおおわたしは反省するぞ

 

駿河昌樹

 

 

ブルックナーをふと聴きたくなって

(たくさん演奏は持っているのだが、
(奥のCD書庫に行くのはちょっと面倒で
(手近にあるアーノンクールの箱に手を伸ばし

しかし
その前にメンデルスゾーンの『イタリア』を
なぜか聴きたくもなって
手近のブリュッヘンの演奏をとり

そこから遠くないところに見つかった
ブロムシュテット演奏の『ロマンティック』
ブルックナー第4番も手にとり

(これらが今の気分にいちばん合うものではないのは
(わかっているのだが
(手近さから
(面倒くささから

アーノンクールのブルックナーとあわせて
ステレオの前のテーブルに置き
アーノンクールから聴きはじめたが

(TELDECの2012年発売のこのボックスは
(ちょっと違うシャープなブルックナーが聴けて
(買った当座はずいぶん聴きこんだが

どうしたことかナ

今日はピンとこない
あんなに現代そのもののようにシャープな音だったのが
今日はヌルくなって聴こえる

つまらない
つまらない
つまらない

ので
ブロムシュテットに替える

買った当座はなかなか味わい深く感じたこれも
今日は鈍く感じ

つまらない
つまらない
つまらない

どうしたのかな
よかったんだけどな
DENONのこれ
こんなにつまらなかったかな

やめる

ブリュッヘンの『イタリア』
メンデルスゾーンに

ああ
これはいい
シャープな音
切れがいい
もたつかない

…シャープさを求めているのか?
演奏に
演奏にまで
つめたさと
シャープさと
ガラスと新建材でできた
新しい巨大なさびしさを湛えた高層ビルの
どこかの廊下やロビーでうっかりひとりになって
じ・ぶ・ん
などというものがすっかり透視され切って
(…切・っ・て
(…切・っ・て
しまっている時の感覚のような
演奏

響き
そして響きの切断を
求めて
いるのか?…

のか?…

ブリュッヘンの『イタリア』を
ぜんぶ
聴いてしまう

聴いてしまった

聴いてしまった

(アーノンクールも
(ブロムシュテットも
(ぜんぶ
(捨ててしまおうかナ…
(売るのではなく
(燃えるゴミの
(袋に入れて
(断罪
(してしまおうかな

ま、
べつの時には
べつの気分
(―生マレ変ワリノ機会ヲ与エヨ
(―蘇リノ
(―機会ヲ奪ウナ

(どんな演奏を集めても
(CDなど
(ようするにプラスチック
(君ハぷらすちっく相手ニ歓ビ
(落胆シ
(興奮シタリ
(オゾマシクモ文化シヨウトシタリ

ニーチェを最近忘れているんじゃないかキミ?

(ああ
(プラスチックな
(キミよ
(おプラスチックな
(おキミよ


バレンボイムが1994年にベルリンフィルをふった時の
ブルックナー第8番もこんなところにあるが

…かけてみる

ああ
つまらない
音の厚みはいいけどな
つまらない
つまらない
つまらない
こんなにつまらなかったかな

やめる

こんな時にちいさな生のむなしさが
おもむろに水位をあげて
ひたひた
ひたひた
ちゃぽん
ちゃぽん
足首まで
もう没して
こころの
足首
ひたひた
ちゃぽん
ちゃぽん
人生
ジンセイ
ジンセエ
なんて
どこにも
けっきょく向かわない
脳内3Dだったということが
わかっちゃうとねエ
(小津映画でも見て
(セルフ鎮魂
(セルフ鎮まり
(しますか…
(しますか…
(しますかァ…

ことばは鎮魂

あわれなアナタ
生きてる細胞の泥沼の戦場
あわれなアナタ
キレイゴト言ってもキレイゴト夢見ても動植物の殺戮者
新陳代謝
死滅し続ける細胞たち
巨大企業のように
あなたの体が解雇し続ける無数の細胞たち
期限つきで生き残って酷使される現細胞たち
アワレといわずしてなんと言おう
生の条件
生は差別と選別と見捨てと殺戮の無限連鎖

…と

最近
めったに聞かない
グレン・グールドのバッハ『ピアノ協奏曲集』
目に留まる
発見
CD書架のわきに入れっぱなしのままで
隠していたわけではないんだけれど

バッハのチェンバロ協奏曲
ピアノを使えばピアノ協奏曲
オーボエで演奏している人もいたりするが
ほんとうに大好きな曲集でネ
いっぱい
いっぱい
演奏
持ってる
あるよ

(ワタシ、コレクター
(では
(ないアルヨ
(あれこれ聴き集めてたら
(いっぱいに
(なっちゃった
(ダケ
(ダケ
(物欲でもないアルネ
(なりゆき
(ものの
(ハズミ
(我ガ人生の
(すべての
(ように
(…アーメン

グールドの演奏はネ
けっして最良とはいえない
コロンビア交響楽団をバックに
バーンスタインや
ゴルシュマンなんかとやったのが
SONYから出ているけれど
やっぱり
古楽器のチェンバロ奏者の名手たちが弾いたのには負けている
グールド節があまり通用しない曲なのか
あのバーンスタインらが
やっぱりグールドとは反りがあわないのか
とにかく
聴くんならグールドではないものを―
となってしまう
他の奏者のものを

グールド
かわいそ
グルード
かわいそ

だが
ひさしぶり
見つけちゃったから
かけてみる
聴かないで放っておくと
CDにも埃はつくし
黴ることもあるし
ときどき
使ってみる
いい
こと
アルヨ
モノ
物質の
アワレサ




(かけている



(かけてみている


よかったんだよ
グールド
これ

現代の録音技術から見れば
録音には切れがない
雑音がある
ところが
そんなものを超えた切れ味がある
なんだ
この切れ味は
バッハから来るものか

いや
いや
切れ味とかシャープさとか
そんなもの
どうでもいいんだと思わせられる
そんな演奏
けっこう手作り
手作り感満載
こちらの
価値観や消費者的要望を
切ってくる
ゴシゴシ
いつのまにか
こそぎ落としてくる
そんな
経験
ちょっと分厚い空気で包まれ直すような
経験

グールドだから
伝説だのあれこれのエピソードだの
そんなものもワッと蘇るから
そんなもののためかもしれないが
それでも
馬鹿正直に突き進んだ人の
(その人はもういないのに…
(その人はもういないけど…
熱が
ワッと来る
モコモコ
もこもこ
そこに
している
熱が
なのダヨ
熱が
もこもこ
もこもこ
うぉわーっと
ふぉわーっと
ふんぉわーっと
んぉわーっと

グールドの熱
グールドには熱があるのだよ
あったのだよ

その熱に
ひさしぶりに会ったよ

わたしは自分の求めていたものを反省した

会うべきものを誤っていたのではないか
たぶん他の間違いも犯しているのではないか
犯し続けているのではないか
わたしは反省しなければいけないのではないか

あれもこれも
いろいろと
たくさんのことを
自分の感覚も考えも価値観もだ

おおおおおおおわたしは反省するぞ

まだまだ大展開するぞ

しなきゃいけないのだ

今日の今のここまでのわたしはわたしにとって殻である
わたしは変わる
ついさっきまでグールドの熱を忘れていたではないか
そんなわたしはわたしにとって大切ななにかであるか
ノン
ノン
ノン
絶対にノンである
わたしは転回する
わたしはいま変わる
いまからさらに変わる
まだまだ変わらなければいけなかったのだ
くそくらえ年齢体調時代文化教養経験こびりついたわたし認識
わたしはいまから変わる
Beau ciel, vrai ciel, regarde-moi qui change!*
Beau ciel, vrai ciel, regarde-moi qui change!
(…美しい空、真の空、さあ見よ、わたしが変わるのを!)
(…美しい空、真の空、さあ見よ、わたしが変わるのを!)
ヴァレリーさん!
こんな意味で言ったのかあなたも
あなたの側に行こうなんて思っちゃいない
しかしこの文句は共有する
ヴァレリーさん!
Beau ciel, vrai ciel, regarde-moi qui change!
Beau ciel, vrai ciel, regarde-moi qui change!
(…美しい空、真の空、さあ見よ、わたしが変わるのを!)
(…美しい空、真の空、さあ見よ、わたしが変わるのを!)

さあ見よ、わたしが変わるのを!
あなたもだ!
今のままで安定飛行していこうなんてダメだ!
このまま楽なところへ降下して行こうなんてダメだ!
さあ見よ、あなたも変わる!
もう大人だから?
もう老いも来ようとしているから?
もう終末も遠くないから?
ノン!
ノン!
ノン!
墓碑銘にNONと記したセリーヌ!
ノン!
ノン!
ノン!
ここからが始まりだ!
美しい空!
真の空!
さあ見よ、わたしは変わる!
あなたは変わる!
彼は変わる!
彼女は変わる!
出発だ!
さあ見よ!
われらは変わる!
さあ見よ!
さあ!
さあ!
さあ!

 

 

*Paul Valéry : Le cimetière marin
ポール・ヴァレリー『海辺の墓地』