夏、海の日に綴る

 

みわ はるか

 
 

蚊に刺されて目が覚めた。
ブタの形をした蚊取り線香に手を伸ばしスイッチを入れる。
しばらくするとその特有の臭いが漂ってくる。
不思議とこの臭いは嫌いではない。

日用品の買い物に出掛けた。
エアコンのフィン用のスプレーや、日焼け止め、花火等が入り口近くにたくさん並べてある。
本当に夏が来たんだと視覚的に感じられる瞬間だ。
かごに必要なものを入れ、レジに並ぶ。
列の先頭にはいくつか商品が入ったかごを前に清算の準備をする70代くらいのお婆さんがいた。
きれいな短めの白髪に、少し腰の曲がった小柄なお婆さん。
たまごボーロ、米製品のおかし、角砂糖がまぶしてあるいかにも甘そうな煎餅。
ふと突然に今は亡き祖母を思い出した。
祖母もこんなようなおかしをよく買っていたなと思い出した。
孫にも厳しい性格の持ち主だった。
ちょっと近所に足を運ぶのにも身なりをきちっとしていきなさいと諭すような人だった。
近所のドラッグストアにラフすぎる格好で来ている今のわたしを見たら叱責されそうだ。
少し冷や汗が出た。
だけれどもものすごく会いたくもなった。

ローラースケートにはまっている。
河川敷沿いにきれいに舗装された道がある。
タイムを計りながらランニングしている人、犬の散歩をしている人、キックボードをしている人男子小学生、しろつめ草で冠を作っている保育園児。
思い思いに仕事終わりや学校終わりの明るさが残るわずかな時間をそこで過ごしている。
そこで、赤い小さな自転車に乗る、これまた赤いヘルメットをかぶった小さな男の子に出会った。
年を聞くと4才だと言う。
何に興味を持ったのか、ローラースケートで滑るわたしの後を一生懸命ついてくる。
ほんわり優しい気持ちになった。
遠くでその男の子の付き添いで来たと思われる白髪のおじいさんがにこにこ縁石に座ってこちらを見ている。
軽く会釈をした。
汗だくになってきたわたしは地面に座り込んだ。
ヘルメットをとって休憩していると、その男の子がじっーとこちらを見ながら「お姉ちゃん、頭べちゃべちゃじゃん。」と笑った。
思わずケラケラわたしも笑ってしまった。
子供は思ったことをストレートに言えていいな~と羨ましくなった。
大人になると愛想笑いや思ったことも言えない窮屈な場面がたくさんあるなと悲しくなる。
わたしが「まだ自転車乗るの!?」と訪ねると「まだ頭べちゃべちゃじゃないもーん。」とこれまた心に突き刺さるようなことをずばっと言われた。
またケラケラと笑った。
男の子に大きく手をふって別れた。
またここに来たら会えるといいなと心から思った。

入道雲がもこもこと空を覆いつくす夏が来た。
どこか前向きな気持ちにさせてくれるこんな空が大好きだ。
夏は始まったばかりだ。