辻 和人
耳をぴくんとさせるや否や
背中をくるっとほどいて
軽く波打ちながら降りてきて
たん、と床に立つ
真ん丸黒目をまっすぐこちらに向けてくるけど
ぴたっと同じ位置に静止して
それ以上近づいてこない
さっきまで
冷蔵庫の上で寝そべっていたファミとレドだ
アパートでかまっていたノラ猫を実家に預けて
もう8年
預けた当初は毎週様子を見に行っていたけど
最近は半年に一度くらいしか顔を見せてない
この人、ミルクくれた…っけ
抱っこしてくれた…っけ
ススキで猫じゃらし作って遊んでくれた…っけ
ぴたっと動かない真ん丸黒目の中で
ぼくの像、ゆらゆら揺れてるぞ
知ってる…っけ
知らない…っけ
知ってる…っけ
知らない…っけ
しっぽの先がぴらぴら震えてる
おいで
膝を折って床に座り左右の人差し指を差し出す
ちょっ、ちょっ、ちょっ
2匹は並んで近づいてきて人差し指の臭いを嗅ぐ
知ってる…っけ
震えを止めたしっぽをぴーんと立てて
背をうねらせ近づいてくる
だから
ぽん、ぽん
しっぽの付け根を力を入れて撫でてやるんだ
*この作品は、杉中昌樹編集発行の詩誌「つまり猫が好きなんです 第1号」に掲載されたものの再掲になります。