道 ケージ
葬式のあるたび
父は火葬場の裏に
私を連れて行った
黒い鉄扉は薄汚れ
丸いのぞき穴は
炎で何も見えない
「これが人間たい」
パイプ椅子に置き去りにされ
不思議へ傾く
「不浄観」だったのか?
煙流れて
煙流れて眺むれば
コンロの炎も
付き具合が悪い
電化製品は壊れる
三月の風は肉まんの香り
土饅頭を二、三
満州歓喜嶺の土埃に
五族協和の屍を晒す
父は満州から帰り
ブンヤの傍ら考古学
私たち兄弟を古墳に連れ廻した
「なんもならんやったね」
最後の見舞いの時
父はそう言った
* * * * *
谷崎潤一郎「少将滋幹の母」に
「不浄観」が出ている
若妻を甥の藤原時平の策略で
奪われた帥の大納言藤原国経は
夜な夜な屍体を見つめに墓場に出かける
月の光は・・・雪が積ったと同じに、いろ〱のものを燐のような色で一様に塗りつぶしてしまうので、父を密かにつけた茂幹は最初の一刹那その地上に横たわるものの正体が摑めない
「・・・長い髪の毛は皮膚ぐるみ鬘のように頭蓋から脱落し、顔は押しつぶされたとも膨れ上がったとも見える一塊の肉のかたまりになり、腹部からは内臓が流れ出して、一面に蛆がうごめいていた。・・・」
屍体を眺めすべてはこのように成り果てていくと達観すれば、やがてあらゆるものが不浄、無常と見えてくる。絶世の美人も血膿の塊として映じ、飯粒も白い虫ヘと変じる
茂幹は父に聞く
「迷いがお晴れになったのでしょうか」
父は山の端へ目をやり
「なかなか晴れるどころではない。不浄観を成就するのは、容易いものではない」
そうため息のように漏らした