訪問看護はいかがでしょう? Ⅱ

 

今井義行

 
 

ドアを開けたら ああ・・・とうとう あの 娘(コ)が 玄関に 立っていた
薄いピンクの マスクなど 付けて・・・

「お久しぶり」「お久しぶりですネッ!」

(その ネッ!っていう 感じが いかにも 親しげで イヤ〜!)

親しげだというのに まったく 笑顔というものが ない・・・
お若いのにね・・・どこまでも 無愛想な 訪問看護師さんの 〇〇さん・・・

(ああッ・・・ホントウに 無愛想で イヤだなぁ〜!)

「どうぞ おあがりください」
「はい はい」

(ああッ・・・その靴の雑な脱ぎ方 ホントウに 無愛想で イヤだなぁ〜!)

あまりにも 無愛想過ぎて つくづく
(ムダな 30分間を 過ごしたなぁ〜)と 猛烈に感じて 訪問看護ステーションの 
所長さんに 「あの 〇〇さんという  看護師さんだけは わたしに 派遣しないで
ください!!」と 電話をしかけた わたしだった・・・

その〇〇さん わたしの部屋に 入るなり
サッサと 足をくずして
サッサと 羽根さえ 伸ばしているようだった・・・

(ああ そのくつろぎ方・・・ホントウに 無愛想で イヤだなぁ〜!)

(無愛想〜!無愛想〜!無愛想〜!無愛想〜!無愛想〜!)

わたしは 訪ねてくる どの訪問看護師さんより 30歳くらい年上なので どの娘(コ)たちにも むすめみたいに 気を遣いながら 接してきたつもり だったのだが・・・

(申し訳ないが この看護師さんだけは ダメ〜!!)

「まず バイタル(血圧・脈拍・体温)を 測定しましょう!!」

わたしの腕に ゴムのチューブを ギューッと 巻き付けて
「血圧 上 128 下 86 はい 問題ナシ!」と 彼女は言った

(その 無愛想で 勝ち誇ったような 感じ 何だか とっても イヤだなぁ〜!)

ところが彼女・・・そのあと 脈拍・体温の測定を終えてから アパートの部屋の 
斜め上の 空間を そっと 見上げながら

「実は ワタシには 100万個くらいの 悩みが あるんです よ・・・」と わたしに 
言った・・・・

「100万個ですか それは ずいぶん 多くないですか?」

「はい ものすごく 多いんです・・・」

「失礼ですが あの どのような 悩みを 抱えていらっしゃるのですか・・・?」

「訪問看護ステーションの 看護師さんたちって 〇〇さんも 〇〇さんも 誰もが 
看護師さんらしい 看護師さんじゃありませんか・・・? 
ところが ワタシときたら・・・」

(ははーん この看護師さん 無愛想過ぎて 訪問看護ステーションに クレームが 相当 殺到しているのに 違いないな!)

「ワタシ その100万個の悩みを 1つずつ つぶして なんていうか 自己肯定っていうんですか・・・毎日 そういう事に 取り組んでいるんです・・・」

よく見ると 彼女の瞼には 薄く 銀の真珠の粉が塗られている・・・

(ああ 彼女 は 軽くお化粧を してきて いるんだな それに 彼女の睫毛には
気のせいかもしれないけれど 泪のようなものが 少し滲んでいる ような・・・)

(ああ 〇〇さん・・・100万個の悩みの事は 少しずつ 彼女の 親しい
女ともだちだけに 打ち明けてきているんだろうなぁ・・・)

そんな 彼女の 仕草を見つめていたら
わたし 何だか その娘(コ)が 少しずつ カワイクなって きちゃったんだ な・・・

「どんなお宅に 訪問するたびにも 胸の鼓動が 激しく鳴ってしまって・・・
あの お願いなんですが ワタシの・・・左の胸の上に そうっと 手を 置いてみて
もらえませんか?」

「えぇッ!! 左の胸の上に?」

わたしは 重い精神疾患を 患っているから 男性性なんて 既に すっかり 失っているのだけれど・・・だから 言われるままに 彼女の 左の胸の上に 手を 置いて
みた 

「ああ 確かに 静かな鼓動が 伝わってきます ね」 そうして わたしは 重い
精神疾患者だといいながらも イタズラごころで 彼女の乳首も ちょっと つまんで
みた よ

「ああ 乳首はダメです これでも 敏感な ほうなんですから・・・」

わたしは真珠の粉が 薄く 塗ってある 彼女の瞼を じっと 見つめた 

そうしたら 去年の10月 わたしが通っている 作業所のメンバーで 茨城県・大洗の水族館に 行った事を 思い出してしまった・・・

わたしは 体調が悪くて うまく歩けなかったので 受け付けで 車イスを借りて 
女性スタッフの 鈴岡さんに ゆっくり 車イスを 押してもらいながら 幅広い通路の水族館を泳いでいる 魚たちを 眺めていったのだった

(ああ 広い 水族館には 小魚たちが 気もち良さそうに 右に左に 上に下に 
群がって キレイに 回遊しているなぁ あの 銀色に輝く 小魚たちは きっと イワシたちなんだろうなぁ・・・)

(あの たくさんのイワシたちは たくさんの たくさんの 銀色の粒々のように 見える
よなぁ・・・)

「ああ 魚たち いっぱい 泳いでいるわねぇ とっても とっても キレイねぇ・・・」と スタッフの鈴岡さんも 感嘆していた

あの 銀色の 粒子のような イワシたち それが 今日 訪れた 訪問看護師 
〇〇さんの 薄いお化粧に すっかり 重なって わたしには 感じられてしまったの
だった・・・

それから わたしは アパートの部屋の 斜め上の 空間を ずっと 見上げている
訪問看護師さんの 〇〇さんに 思わず 話しかけていたのだった

「ああ・・・アナタは とても 素敵な ヒトだなぁと感じますよ 1人の 女性としても 
とても 素敵だと感じるし 1人の 訪問看護師さんとしても とても 素敵だなぁ・・・と
感じますよ!」

「えぇっ ホントウですか!?」

そのとき わたしは ふと 彼女の 「乳首」についての 話を 思い出した

(ああ 〇〇さんの その 敏感な乳首・・・おそらく 彼女には 彼女が寄り添う
素敵な 彼氏が いるのだろう なぁ・・・)

(だから 〇〇さんは あまり多くを わたしに 語らないのかもしれない なぁ・・・)

「ホントウです とっても失礼ながら 今頃になって わたしは アナタの魅力を 
しっかりと 感じたようなんです よ」
 
「じゃあ こんな ワタシでも また 訪問看護に来ても いいんですか・・・?」

「モチロンですよ!」

わたしは 彼女の右手を取って
「良かったら 訪問看護師さんとしてだけではなく わたしの・・・お友だちにも なって いただけませんか・・・?」

・・・・・・・・・・・

「・・・ハイ ワタシで良ければ」

それから わたしたちは LINEの交換をして お互いに 笑いあった

「アナタは シフトがいろいろあって なかなか 都合がつかないでしょうから アナタの 時間が空きそうなときに 連絡をください ご覧の通り わたしは こんなふうに 
1日中 横になっていることが 多いんですから・・・」

「・・・ハイ 連絡します ネ」

(ああ もう 無愛想な感じが しないなぁ〜 それは 何だか 随分と 不思議な事
だなぁ〜!!)

「この近くの 荒川沿いに 千本桜という 広くて キレイな 公園が あるんです 
モチロン 今の時期 サクラは 咲いていませんが・・・そこに いっしょに 行って
みませんか?」

「とっても キレイそうです ネ その千本桜という公園 行ってみたいです」

「もしも 千本桜という公園で わたしたちが 手をつないで 歩いてみたら・・・
わたしたちは どんなふうに 見えるのかなぁ〜・・・」

「手をつないでいても・・・やっぱり 親子に 見えるのかしら でも ワタシ とっても 楽しみにしています!」

それから 彼女は 玄関のドアを開けて 次の訪問先へと 向かっていった
ときどき こちらを 振り返りながら

・・・・・・・・・・・・・・・・

ああ そのような事を 「詩」に 書きとめている わたし

この詩が みじかい 人情噺に 終わってしまわない事を わたしは 強く 願っているワケです・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・

(ああ・・・愛しあい方にも いろいろ あるんだなぁ〜!!)って ネ

 

 

 

光だった

 

さとう三千魚

 
 

今朝も
モコに起こされた

一度
3時に起こされて

おしっこに
連れていった

庭に降ろすと
モコは

暗闇にしゃがんで

した

それで
ベッドに戻って眠った

次は
6時だった

もう
外は明るかった

大風が過ぎて空は晴れわたっていた

洗濯機をまわした
録画してあった中村哲さん追悼のアフガンのドキュメンタリーを見た

「武器ではなく 命の水を」
というタイトルの映像だった

“彼らには分からぬ幸せと喜びが、地上にはある。” *
“乾いた大地で水を得て、歓喜する者の気持ちを我々は知っている。” *

中村哲さんの手記が
テロップで流されていた

“彼ら”

とは
アメリカや日本や連合国の人たちだったろう

“長い戦乱の後の干ばつで喰うものもない者たちの上に爆弾を降らせるのか”と中村哲さんは語っていた

午後には
RC寺田の息子さんに電話して

クルマの切れたテールランプを交換してもらった
古いクルマだからランプカバーを固定するボルトが錆びて固まっていた

息子さんはクルマの下に潜り込んで
汗と埃にまみれて

ランプを交換してくれた

帰って
夕方に

モコと
散歩にいった

西の山の上の群青の空に星が光っていた

金星だった

いつだったか
桑原正彦が電話で”光だ”と言っていた

光だった
光っていた

 

 

* NHKドキュメンタリー「武器ではなく 命の水を」から引用しました

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ZOOMTOWN RATS

 

工藤冬里

 
 

「オリンピックの後で」というタイトルで、
9月以降に、
工藤さんのワンマンをZOOMで検討しているのですが、
いかがでしょうか?

2021年8月8日

さとう 拝
 

zoomtown rats
break out rooms
はい
 

工藤さん

おはようございます。

zoomによる
工藤さんのワンマン
「オリンピックの後で」ですが、

10月11日(月)スポーツの日は、
オリンピック対応により祝日が消滅していました。

10月10日(日)か、
10月17日(日)でお願いしたいです。

ご都合、いかがですか?
どうぞ、
よろしく、ご確認ください。

2021年9月9日

さとう三千魚 拝
 

AI労働による筋力の低下と世界新の更新は二極化がここでも進んでいることを示しています。スポーツ平和党猪木は過ぎ去りワクチンによるジェンダーレスアンドロイド兵士化が進んでいます。
身体性の問題はバリケードの内側では気合いで乗り越えるものでしたが、気合いが一人歩きして波動になり、それもまた言葉の周波数を貶めています。
身体は自然に騙され、自然は身体を通して誤解されています。相模湾は採掘場跡の水溜りに過ぎず、富士山は採掘屑のボタ山に過ぎません。
南アルプスは折られた巨木の切り株の石化であり、海岸の礫は石ではなく石化した木の破片です。
川は根の痕であるか採掘された創であるかのどちらかです。
こうして二種類の自然があり、身体は嘘をついてはいけません。

9月14日
二年近く会ってないと夢に出てくる知り合いが「極端な東洋医学否定」とか勝手にキャラ立ちし過ぎちゃってんじゃないですか?

右の、震え
背中ではなく
我々はさいきん、右の腹を見ているのだ
https://gnomelife.bandcamp.com/album/visions-of-the-country

地べた目線しかないだろう https://twitter.com/merleaupontybot/status/1437541615321501698?s=20

ヘビじゃん
https://twitter.com/TiffanyAndCo/status/1426027301267861505?s=20

ヤブツルアズキ
小豆より美味しい
原種

オッフェンバック軍隊風を聴いていて、クラシックのチェロの高音と久下風のドラムというのは合う、と思った

・19世紀末はオギュスタ・オルメスを中心に動いていた
・癌は余命が分かる上、頭脳は明晰なままなので身辺整理の出来る病気である

タイヤじゃん
https://twitter.com/TiffanyAndCo/status/1426024990676193282?s=20

9月15日
アンドレイ・ガヴリーロフでグリーグを初めて良いと思った
こういうクリームみたいなのもありだなと

「サヨ族」に
針の穴を通るためには多くのものを捨てなければならない。しかし捨てることじたいが目的なのでなない。穴を通って入ることが目的ならばフタコブラクダはどうするだろうか?まずヒトコブラクダになるのだろうか?そうだ、まずヒトコブラクダになったのだ。それだけでもたいへんなことだ。

9月16日
ミズキの実のあかい枝はまさに森の珊瑚と申せましょう

詩の感触は
南極に取り囲まれ
床で羽撃く
目の大きな右翼の黒渋の
クレーター様の空振り
バサバサの頭に間欠泉跡
紅麻のドレスを紐に撚り
亜麻の茎の間に匿い
三日間西荻高架下の洞窟に寝て
干しイチヂクと水で過ごすようにと
北の空を何もない所に広げ、無の上に浮く円また球を空間に浮かせている
ツートンカラーの狸が過(よぎ)る
派遣バイトのように白と黄だ
ポジティブな非正規の黄色い灯りを床に置く
その周波数だと真っ黒い種が下にある
血栓川中島
建てるのではなく設計を学んで恥じるため

https://youtu.be/VPJxncopG6g


https://youtu.be/d8vNZowPwRk

https://youtu.be/CtydXmiuGXU

9月17日
律法のジュビリー近いとモラルハザード
前もって恩赦計画モラルハザード
どうせ死ぬ食べたり飲んだりしようぜ今日は
大理石の漢になるか愚脳死す
それは俺だとワイダ言い
ぼくんちもハザードマップに入ってる
リザードランプ周章ててチカチカ
海に羽根バイオハザード弓に松脂

アナグラムフラットアーサー王伝説きさらぎ駅で会った人だね
遠宅の円卓囲む円タク待
某君寝ろと諭す毒井戸

el que saca el tema una y otra vez separa a los buenos amigos

今は2世紀からの歴史の編集の時間であり、それはどうにでもなり得るし、ある意味どうでもいいものである

https://youtu.be/0eh9TvX4Ae8
巨漢にウクレレの元ネタが分かりすぎるからあれだけど小錦のもいいですよhttps://youtu.be/0eh9TvX4Ae8ただこの曲はもっと怖ろしいんですよ

セレンで治すケレン味
マグネシウム風呂にマグニチュード9
ユールーズユアビタミンシー

埋葬の煙が分かれたアンティゴネー生きてる間はアンチのミー

9月18日
かつぱさん きおつけてくださいね

決壊前に避難し虫絶えて朝

岸本佐知子@karyobinga
いかす装幀、かっこいい出だし、ぴったりの訳者、ブチ上がる要素しかない https://twitter.com/karyobinga/status/1438827383558074370?s=20
原則と律法の区別がないとこうなる https://twitter.com/looking_awry_/status/1438995713795375105?s=20

原則の適用ができないと判断力を批判される https://twitter.com/k_s_g_2/status/1438637831904190466?s=20

これは第三批判のラカン的適用のことではなくブレーキを踏むか踏まないかといったこと

殊更に強調された は と ま の下部

バタイユ的にデフォルメされた い の跳ね

三輪田米山展(愛媛県美、10月2日〜
鉄斎はセザンヌより上、というような言い方を好む自称通人は沢山いるけど、米山はゴッホより上、と言う研究者もいたな。愛はあるが情けない褒め方だ。僕は砥部小の同級生の福岡栄一君の土という字が好きで部屋に貼っていたことがある。米山はそういうものだ。

キチャハツ(黃茶初)[別名:ヨゴレシロハツ] ベニタケ科ベニタケ属
無味とあるので食べないようですがどうなんですか

9月19日
プルサーマル河野暗殺計画阻止、で調整

赤目柏が先ず群生し原は立体となる
屋根の有り難さを知った者がそこに住み始める
鳥にとっても宿り場は重要である
雨嵐からの隠れ場所Shelter from the Storm、という歌が血の轍にあった
それは恐らくイザヤ32:2から盗られている
定義が意外である時のみ耳を欹てる
明るい林で耳を欹てる

ヘビじゃん
https://twitter.com/TiffanyAndCo/status/1426026994936909826?s=20

珍しく花が咲くに至ったローソン裏のアレチノギク





きたない
https://twitter.com/TiffanyAndCo/status/1426024673075077121?s=20

蚊もいない

ハゼランは3時すぎないと咲かないですが食べられます

みにくい
https://twitter.com/TiffanyAndCo/status/1426026222073438211?s=20

心の大部分が愛であったとしても
一滴の不純物で墜落してしまう

きみがわるい
https://twitter.com/TiffanyAndCo/status/1426025815683207174?s=20
 

 

#poetry #rock musician

家族の肖像~親子の対話 その55

 

佐々木 眞

 
 

 

お父さん、咲くの英語は?
ブルームだよ。

お母さん、ばんごはん、お赤飯にしてください。
なんでお赤飯? まいいか。分かりましたあ。

お母さん、ボク「みんなの歌」好きですお。
お母さんもよ。

お母さん、きょうサケごはんとコーンスープにしてね。
分かりました。

お父さん、今日2つとも録画してくださいね。
分かりましたあ。バッチリだよ。

夢中って、なに?
とってもイッショウケンメイなことよ。

これ以上って、なあに?
それよりもっと、だよ。

大賛成ってなに?
すごくいいね、ってことよ。

お父さん、信号鳴っちゃったんですお。
信号嫌いなの?
信号、苦手なんですお。
そうなんだ。

お父さん、大好きですお。
お父さんも!

お父さん、きのう2つとも録画してくれた?
バッチリ録画しましたよ。
ロクガ、ロクガ、ロクガ。

ぼく、タタタタというのが怖いの。
そうなんだ。困ったね。

ぼく、お父さんにチュウイされたお。

笑ったら、連佛さんは?
「コウさん、アホ笑いしないでね」っていうよ。

ぼく、お父さんに、チュウイされたお。

ぼくは、コンドウマサオミ、好きになったよ。
そうなんだ。

将棋はドンジャラみたいに?
まあそうだね。
ショウギ、ショウギ、ショウギね。

ぼく「日本びっくり新記録」好きですお。
なにそれ?
テレビでやってましたお、むかし。
そうなんだ。

お母さん、この歌好きだお。
正平さんの「こころ旅」の音楽ね。

高速道路、お金を払えばいいんでしょう?
そうだね。

 

 

 

アザミのように

 

原田淳子

 
 

 

頭に金魚鉢を乗せて歩いている

アザミの花のように
わたしは金魚鉢

鉢のなかには美しい魚が泳ぎ
豊かに果実が実る世界があるが
わたしは頭の上にある世界をみることは出来ない

上界の美しい世界を夢みて
氾濫させないように
割らないように
歩いてゆかなければならない

現実なんてそういうものよ
金魚鉢のなかの夢が笑う

閉じられた頁のなかの
萎びた花束をまだ描いてる
瞼の奥の残像が消えるまで

 

 

 

世界の終わりを見ている猫

 

村岡由梨

 
 

夕暮れ時、飼い猫のクルミが窓辺に座って外を見ていた。
窓の外は燃えるように赤い空だった。
窓の内側には青空が広がっていた。
きっとクルミは
「晴れてるな」「電線に鳥がとまってる」「車の音が聞こえる」
と思っていただけで、
まさか「窓」が世界を「内側」と「外側」に分断しているなどとは
思っていなかっただろう。
意味付けをするのは、いつも人間の勝手で、
空は美しい。
世界は美しい。
とか言いながら、ほんの一握りの人たちが、
「美しい世界」を真っ二つに分断してしまった。
そして、大多数の人たちは無自覚にその世界に身を委ねてしまっている。

 

ちょうど10年前のあの日、あの人は、
経堂のコーヒーショップで
地面の激しい揺れに怯えてパニックになった人たちを尻目に、
「自分は落ち着き払って悠然とカフェオレを飲んでいた」
と得意気に語っていた。
自分だけは助かると思っていたのか。
自分なんか助からなくていいと思っていたのか。
自分以外の人たちが死のうが生きようか、
自分には関係ないし、どうでもいいと思っていたのか。

また、ある人は安全が約束された快適な部屋で、
布団に包まれて、日がな一日テレビを見て
人の不幸にいちいち反応している。
「今日の感染者数は1496人だって」
「今日は1273人だって」
「こわいねー」
「かわいそうだねー」
自分は
安全で
快適な
部屋にいて、
外界の狂騒など
まるで他人事のように

**********************************************************************

ところで今日私は、
「大勢の人を見殺しにして、その死の上にあぐらをかいてのうのうと生きてきた罪」
で、処刑される。
正方形の死刑執行室の真ん中に正座して、部屋のぐるりを見渡すと、
壁に奇妙な絵が掛けてあって、血の付いたヤギの頭と奇妙な記号が描かれていた。
床には長い黒髪のカツラが無造作に転がっていた。

死刑執行室の向かいに、もう一つ正方形の部屋が繋がっていて、
そこには遺族が座っていた。
なぜか、私の母もいた。

赤ん坊を抱いた女性がすっと立ち上がると、
まっすぐ私のそばまで歩いてきて、
頭を抱えてうずくまる私の背中をナイフでメッタ刺しにした。
私は泣きながら「ごめんなさい」「ごめんなさい」と許しを乞うた。

すでに血まみれで瀕死の私の為に、
部屋の中央に大きくて透明な筒が、急いで設置された。
長さは2メートルくらい、人一人がやっと入れるくらいの細い筒だ。
それに私を立ったまま入れて、水を注入し、溺死させる仕組みだ。

私の体が筒に入れられる。
ヌルヌルとした水の注入が始まる。
足首、膝、足の付け根、腹、胸
どんどん水かさが増してくる。
私は叫ぶ。
「もう、しません」「もう、しません」「ごめんなさい」
「おかあさん たすけて!!!」泣き叫ぶ。
こわいよ
くるしいよ
いきができない
おかあさん たすけて
おかあさん たすけて
おかあさん おかあさん おかあさん

おかあさん
ごめんなさい

みせたくなかった こんなわたしを
ごめんね
さよなら

 

自分だけは助かると思っていたのか。
自分なんか助からなくていいと思っていたのか。
自分以外の人たちが死のうが生きようか、
自分には関係ないし、どうでもいいと思っていたのか。

世界中の誰もがそう思うようになったら、
きっと世界は終わってしまうだろう。

人間から国籍を剥いで名前を剥いで肩書きを剥いで年齢を剥いで性別を剥いで性的嗜好を剥いで、詩まで剥いだら、きっと
意味を持たないただの肉の塊と、一片の悲しみしか残らない。

誰もいないはずの暗闇に気配を感じて、足早に通り過ぎる。
夜、雷鳴のない稲光に震えて、急いで自転車を漕ぐ。
雷はとうに止んでいるのに、
地面が、故障した自転車のヘッドライトに照らされて
稲光のようにピカッピカッと怒っている。

人はいつも何かに怯えて生きていて
人が生きていくには、必ず誰かの助けが必要だ。
だからと言って
「みんなの気持ちを私が代弁する」
そんなヒロイズムに酔った詩を書きたいわけではなく
たった二人の娘に伝えたい。
世界が終わっても、生き延びて欲しいと。

 

今日もクルミは窓辺に座って、
世界が終わりつつあるのをただ眺めている。
娘たちや、世界中の子供たちや、
善良な人々が生き延びることが出来るのならば
退廃的な私たちは無責任な死を選ぼう。
そうすれば、世界の終わりはきっと美しい。
そう思ってしまったのだ。