「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第93回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2012年水無月蝶人酔生夢死幾百夜

 

公社の男女の社員がまるで仕事をするように生真面目に乱交している姿を、私は唖然として見つめていた。6/1 

青山トンネルを出ると、星条旗通りだった。夜の底がお星様だらけになった。「ササキさあん!」という呼び声に霊園の方を見ると、ハーレーダヴィットソンに跨って黒革のジャンプスーツを纏った若い女が、赤信号の交差点で対向車に激突し、空中で1回転して、白く柔らかな頬を、鋪道に叩きつけられる姿が見えた。6/2

「もしもあなたが先に亡くなって、もしも私が90歳までも長生きしたら、私は1階のあなたの南向きの書斎のお部屋に、南北の方向にベッドを置いて、毎晩ゆったりと眠ることにするわ」と、彼女が言うので、「いいよ、君の好きなようにしなさい」と、私は答えた。6/3

その外資系ブランドでは、本社と支社との関係が急速に悪化して、支社長は、「今後一切本社の指令を無視せよ」と全員に通達を出したのよ。6/4

D社の企画担当にワタナベという独裁者が就任したので、居たたまれなくなった私は、志願して地下の清掃工場で寝起きするようになったのだが、お陰で私は、ここに並べられている汚れたユニフォームを、一瞬で青い背広に変身させる魔術を習得することができたのさ。6/5

イケダノブオは、ツモリチサトの洋服や雑貨が気に入ったようで、大きく両手を広げて、所謂ひとつのラック買いと称される大人買いを始めたのだが、もしかするとイケダ選手は、むかしツモリ選手のアシスタントをしていたのではなかったか?6/6

「そうか、田舎土産に川魚が欲しいんか。しばらくそこらで待っとれよ」、と叫ぶと、おらっちは、マシラのように深い深い谷底の川に飛び込み、名物の落ち鮎を、両手に握りしめて戻ってきた。6/7

会社が倒産すると分かったと同時に、私がデスクの上に置いていたブルーレイプレーヤーは、誰かによって持ち去られ、その行方は、杳として知れなかった。6/8

横須賀から乗ったペンキ塗りたての船が、どうやら底に穴が開いていたようで、出発3時間後にどんどん沈み始めたので、さてどうしたものか、と腕組みをしているわたし。6/9

この地方の人は、なぜか全員上手なおふらんす語でしゃべっているようだ。私に向かってシッポを振りながら近づいてきたゴールデン・レトリバーに「どこへ行くの?」と尋ねたら、「コンセールへ」と答えたので驚いた。6/10

無茶苦茶に大きなエレベーターに乗って法務室へ入ると、モトムラ氏が大審問官のように居丈高な口調で、「One 40,Oh240を持ってきてくれ」と命じるので、余は「それが何であるかも知らないので出来ない」と断った。6/11

いつものように、飛ぶ教室の絨毯に乗って、サトウさんちへ行き、サトウさんとモコを乗せて、日本海と太平洋と大西洋を越えて巴里へ行ったら、ピカソ美術館が、久しぶりに営業しているというので、今度は飛ぶ教室バスに乗って出かけた。6/12

せっかく異色の新人たちを登用して人気番組に成り上がったのに、それに満足して高慢と自惚れの無眼回路に嵌まり込んだこいつらは、プロデユーサーの私が、いくら次のステップに駆け上るように促しても、一向に目を覚まさない。6/13

思い出多き家なれども、このたびの大震災で、あっという間に倒壊してしまったので、おらっちは、後ろを振り返ることなく、スタスタと歩み去ったのであった。6/14

つまらんロックコンサートが終わって、5人で歩いていたら、拳くらいの大きさの5人の小人が、両手に刀とピストルを持って、「金を出せ」とうるさく付きまとい始めたので、1人1殺で踏み殺してやったずら。6/15

会社がとっくの昔に倒産してしまったというのに、キムラ氏をはじめ、元野球部のメンバーは、まだ残っている食堂に毎日手弁当でやってきて、朝から晩まで、練習することもなく、ただいたずらに通い詰めていた。6/16

他にすることもないので、毎日私の会社にやってきて、デスクワークに夢中で取り組んでいた私が、ふと目をやると、大通りに面したビルの窓の外に、長男のコウ君が、まるで動物園のチンパンジーのようにぶら下って遊んでいるので、吃驚仰天したよ。6/17

31,30,29,28,27,26,25,24,23,22,21,20,19,18,17,16,15,14,13,12,11,10,9,8,7,6,5,4,3,2,1  6/18

マンハッタンの超高層ビルの谷底から、パンツを穿かずに這い上がって窓を拭く青年がいたが、てっぺんに到着していざ拭こうとした途端に、頭をどつかれて叩き落されてしまうのだが、それでもそのノーパン青年は、またしても脚立に乗って、上へ上へと高層ビルを這いあがってくるのだが、またしてもドタマを叩かれ 6/19

おらっちとサカイ君が、レリアンの広告タイアッップの不始末をどうもみ消そうか、とひそひそ話し合っていると、マエ課長が聞き耳を立て始めたので、これはヤバイ、とアオキ嬢をこっそり呼び寄せ、おらっちはとんずらしたのよ。6/20

大学の同級生のニシムラ君とメールを遣り取りしていたら、「君のメールには女の匂いがしないね」と言われたので、念のためにパソコンに鼻を摺り寄せておらっちが書いたメールの匂いを嗅いでみたが、なんの匂いもしなかったずら。6/21

今度のタカハシゲンイチローの講演会では、どんな本にサインしてもらおうかと思って、本箱の中を探したが、ただの1冊も無かったのだった。6/22

昔テレビの料理番組で見たヤキブタセットというのが美味そうだったので、作ってみようと思ったが、材料もレシピもないので、頭の中で想像するだけにした。6/22

おらっちは、「自分で作ったワクチンを、自分で注射したんや」、と自慢そうに喋ったので、どうやら町内から村八分になったようだ。6/23

この教会の執事をしている長老は、街をぶらついている放浪児の私をつかまえて、早くまともな仕事を探して独立するように促すのだが、いううことを聴かない私は、いつまでもそこらをほっつき歩いているのだった。6/24

小さな村の村長になった私だったが、何もしないうちに任期が終わり、すみやかに村人から忘れ去られていった。6/25

ニシムラ君から「君のメールからは女の匂いがしないね」と言われて以来、何でもかんでも匂いを嗅ぐようになってしまった。以来わが国の首相や閣僚が喋っているTVに近寄ると物凄い口臭がするし、プーさんやプーチンが喋っているTVを嗅ぐと、死臭がするようになったずら。6/26

中華街で中国人に雇われて中華料理を作っている私は、シェフからホウヤレホーのクマガイモリイチを持ってこいと命じられたが、てんで意味不明なので、ずっと考え込んでいるばかりだ。6/27

時々売り場には「透明ブランドのキリル」というのが登場するのだが、なんせ服も売り子もデザイナーも姿を見せないので、始末に負えない。6/28

夏の舗道を、女と歩いている。若くて美しい女は、バレリーナが着るチュチュというのか、超ミニのドレスを着ているが、その薄紫色が素敵なので、思わず目がくらくらするのら。6/29