縮小

 

工藤冬里

 
 

今や緑は緑だけで諧調を整え
花水木を待ってさえいない
白人リベラルは半分に縮小し
犬猫は半々を分け合う
紙媒体はそれでも数万を保持し
維新のように一定の力を振るう
通路は赤で指し示され
退路は緑で覆われる

あちこちに散水栓は仕組まれ
店舗のない地下道で都市の希望も
本屋にない雑誌のように縮小する
坂道発進の過去もフォークリフトの資格も
四角い平安の牛角のデザインに縮小する
僕は
縮小する

延期に次ぐ延期
未整理のまま
毒を盛られて
中央線の「死にたい」がキノコ雲
縮小する
キランキランした余命で嫁入り
縮小する
弱火の鬼火で終活カレー
縮小する
人の言葉を覚えた鳥が昔の人の名前を呼んだ
カワサキ川崎一人きり
縮小
白髪はワタリガラスの廊下を滑る
思わず君が家に至る
表層の亘 焦燥の渉 航走の航
わたるくんたちが点在するわたるくんたちの妻も点在する
ヘコリプタアが田圃に堕ちた
背中に盛り上がる癌細胞の瘤
自暴自棄な死亡時期磁気嵐磁器荒らし
生存期間まで短縮営業

軽に草刈機を積んで
僕はもう日本語を捨てよう
日本語が悪いんだ
悪いのは日本語なんだ

 

 

 

#poetry #rock musician

夏の日に ***

 

無一物野郎の詩、乃至 無詩! 38     nobuyo 様へ

さとう三千魚

 
 

遠い日

過ぎて
きた

夏の
遠い日を

過ぎて

ディゴの
花の

下には
逢瀬があった

花は
揺れてた

風に揺れていた

 

 

***memo.

2023年5月27日(土)、しずおか一箱古本市の会場「水曜文庫」での即興詩イベント、
「 無一物野郎の詩、乃至 無詩!」第十三回で作った38個めの詩です。

タイトル ”夏の日に”
好きな花 ”ディゴ”

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

みえてみえない、あなたと

 

藤生すゆ葉

 
 

私には大切な山がある
暑いといえば風が吹き
寒いといえば陽が照らしてくれる

こころがグレーになると鳥が音楽を奏で
こころがグリーンになると風と木が手を繋ぐ

一枚の水音 ありのままの姿が濃淡をつける
一瞬の静穏 自然の先端が目前を通り過ぎる

 
人工の音が 聞こえる

 
他の声が身体に溶け込み こころの色調が変化する

鳥が音楽を奏で始め 陽が照らされる

 
人間の音が近づく 近づいた
やわらかい挨拶とともに空気が前進する

人間の音が遠のく 遠のいた
小さなひと粒の光から言葉が渡される

漂う空気のなかで泡に変わり
風を纏わせ 色をも遊ばせる

いつの間にか 風と木が手を繋ぐ
足元の青みずの子供も

自然が
人が
あなたが
寄り添う 山がある

 
平らな地面に足をのせる

 
笑って 笑って

 
無限の気配が
遠く彼方のほうから
微笑みかけた

 

地上の姿から抜け出した
あなたのような気がした

 

———————————–

草花は虹を映し
時を連ねる木々が佇む
大切な 山

 
自然が創り出す色彩を感じながら足を進める
自然の中にいる私なのか
私は自然そのものなのか
境目がどこかへ去った時間があった

一粒の雫が落ちるように スマートフォンが鳴る
祖母の訃報の連絡だった
行年100歳 だった

身軽になった彼女は
最期にどこを散歩しているのだろう、か

浮かぶ道を景色が横切り
離れた自然を体感する

私は今生きている
そう思った

 
葉擦れに新しい音がそっと重なる
親子が通り過ぎた

私を追い越し見えなくなる寸前で
お姉さんも頑張って
と香る響きをくれた

もちろん自然も

太陽と入れ替わるように
瞳を交わした方々が集まる
内緒で宴を計画してくれていた

笑い声が絶えない時間を 共にした

ふと空を見上げる

煌めきあう星たちが
見守っているようだった

どんな時もたくさん笑うのよ

そんな言葉が寄り添っていた

 

 
ありがとう

 

 

 

ヒロシマをみるひと、立ちどまるひと

 

ヒヨコブタ

 
 

そのひとがヒロシマに降り立ったとき
わたしはなんとも言えぬ気持ちになった
祖国で多くの犠牲があり、その只中にいる国のリーダーが
ほんとうにヒロシマに来るとは心底驚いたのだ

わたしはいつも戦争が嫌いだと思って生きてきた
何もうまれずそこに誰かの欲があからさまに見え
そのために多くのひとが日常を奪われる
ときに命も

まったく理不尽なことだと思う

そのために時折わたしは涙する
平和というあたりまえに平等に皆が得られるはずのことがなぜあたりまえに得られぬのか
時折怒りで震えるほどだ

幼いわたしが夏の日、原爆資料館を訪れたとき
あまりの残酷さにトイレに駆け込んで胃の中のものをすべてもどした
そこに溢れる過去の現実が苦しくて
心配そうにもう出ようという親を振り切って
最後まで展示を見た
10に満たないこどもでもわかる、見なければという現実があった

過ちは繰り返さないという思いは叶うのだろうか
わたしにはそれすらわからない
あんなに恐ろしい現実からまだ100年も経たぬのに
世界の一部は核を容認し続けている
どこの誰にも他者をあんな目にあわせる権利などない

相手が武器を持つからこちらも武器を持つ
そういった考えを心底悲しく、憎む
1つの武器を得れば、強くなるはずもない
武器は弱さの象徴だとわたしはずっと涙する

なぜこんなイタチごっこを繰り返すのか
過ちを繰り返すつもりなのか
わたしはそれがなくなる世界をいつも待っている
そのままこの星ごと壊されたとしても
わたしのこころや他の平和を求めるひとのこころまで
どんな武器も壊すことはできない
わたしが影のように石に焼きつけられるなら
望むところだ
愚かなことをしようとするなら
わたしから奪えとさえ思う
わたしごと総てを誰かが奪おうとしても
わたしは最後まで平和を希求するだろう

わたしの生まれた夏、それはいつも戦争が愚かだと知らされる夏だった
この夏もわたしは思うだろう
より強く思うだろう

最後の被爆国としてこの世界が平和を取り戻せますようにと
こどものわたしからの宿題を頑なに
願い続けるのだ