野上麻衣
ぷかぷかと浮かぶ
雲みたいな声は
本人ではなく
だれかのいるほうから
聞こえてきた
(声はその人が持っていなかった)
まず椅子を用意する
声が座れるように
ぜんぶで8つ
どちらかあまってしまっても
かさなってゆくから
心配ない
(声は椅子に座りたがらない)
それから
舟をくみ立てる
泡はからだに沿って音をたてる
そのかたちをたどり
水面を漕いでゆくことにした
(声は舟に乗ってくれるだろうか)
2メートル先
水の中で声がする
ぷぅーと吹かれたラッパのように
からだがふるえる
ずっと手のひらにあった
ひとの、声