ものを見つめる

 

駿河昌樹

 
 

けっきょく
ものをたくさん持っていても
ものをあまり持っていなくても
ものをほとんど持っていなくても
どうでもいい

ひとつのものを
よく見つめるときには
そのひとつしか見られないので
ほかにたくさん持っていても
ほかのものは
見つめられない

ものを見つめる
ということが
おのずと強いてくる
おそるべき
平等性
というものが
ある

なにも持ってないときには
きっと
指や手を
腕を
足先や
足裏まで
ほんとうに
よく
見つめるだろう

なにかひとつでも
持っているものを見つめていたら
指も手も
腕も
足先も
もちろん
足裏も
まったく見つめないだろう

 

 

 

疾る剥製

 

長谷川哲士

 
 

黒塗りダンプの運転手初老でそして
リーゼントだせっ執拗に遅い速度で
走行こちらニヤニヤ見てる
馬鹿野郎殺すぞ目脂止まらぬ

夢幻地獄と生活苦と午前五時の薄明
またもや朝がやって来る
身体の中を軽石が漂う毎日
ふわふわと綿菓子肺の中身で浮遊

 
隣の心臓は色仕掛けで全身を誘惑す
躍起になっちゃって艶々の桃色

ブルーモーニングおはよう
今青く重たい雨が降ってる
ふと長い舌で顔を巻き取られ
頭蓋の内と外がひっくり返ってローリング
三度目のチャンス失し更なる三度笠

坊ちゃん三度目の正直なんてねえよ
知らなかったとは言わせねえよ
もう言葉も無く陰毛も抜け落ちてしまい
愚かしく可愛らしく
眼を碧くして号泣しよう
二度とない青春の日々よ
夜に突っ走ればいいさ