広瀬 勉
#photograph #photographer #concrete block wall
じゃがいもの窪みが黒くなってて、包丁のヘリで掘っても掘ってもどこまでも黒くて結局向こう側に到達しちゃって、なんだこのいもダメじゃん、てことがよくある。この前はナスでも同じことがあり途中で青虫の死体みたいのが出てきたので捨てた。
そのいもの窪みと似た傷が手の甲にある老人が、公園で子供に傷を見せていた
戦争で、ラバウルという南の島で、弾が当たって、それがまだ手に入っている、とウソを言って見せている
子供たちは「やばい」と言いながら熱心に「弾の入った手」を見つめる みんな100円ずつ払っている
「さわらして」とひとりが言った
「じゃああと100円」子供たちは財布から小銭をつまみだし、老人に払う
「イタタタタタ!」触られたとたん老人は悲鳴をあげる
「まだ痛いの?」
「手の中でタマが少しずつ溶けているんだな、それで痛いから優しくさわろうね」
こどもたちはこわごわなでるように傷をさわり、それから念入りに手を洗って遊具に戻った
老人は集めた小銭を首からぶら下げた小袋に入れ、次の公園に行き、えものを探す
公園では私がひとりで鉄棒で遊んでいた
声をかけられ100円払うと、垢だらけのがさついた手が差し出された
中指と薬指の間がおぞましく窪み、奥まで黒く、中はどうなっているのだろう。掘ってみたい。青虫の死体が入っているのかしら。切り刻んでみたい。捨ててみたい。
もう100円払って触らしてもらう 硬くなっている所を押すと、老人は飛びあがり、泡を吹いてベンチから落ちた その泡だらけの口にもう100円、もう100円と入れていく
もっと触らせてよ、暴かせてよ、男にまたがり、顔面をなぐり、抱きしめる
男は臭くて、私は泣いていて、男は優しかったが、傷の正体は最後まで見せてくれない
その手が乾いたコッペパンを持って、口のところへ運んでいった 口が開きカサカサのコッペパンを飲みこんでいる 唾液が出て乾いたコッペパンが湿った 口の上には髭があり、髭の先にコッペパンのカスがつく 口の下方に首があって喉仏がびくんと大きく動き、コッペパンは老人の体内に深く入り、老人になった
髭についたパンカスはコッペパンのままなのに
手の傷も老人にならず傷のままなのに
スーパーで、大きなグレープフルーツをかごに入れた老いた女が、次に苺を選んでかごに入れ、ああ、何か違うとカートにもたれて考える
そして自分はいまグループホームに住んでいて、食事はそこで配されることを思い出した
女の手の甲には、じゃがいものウロのような、黒く深い傷がある いつか見たことがある傷がある
左手でさわるとむずむずし、押すと痛い
ああなんだ、これは私の傷だ、と女は気づく
かごには大きなグレープフルーツと真っ赤な苺が入っていた
傷を左手で包み、大事に隠しながら、女はカートを押した ぐいぐいと押した
レジへ並ぶ
今日はこのフルーツを食べようと思う
犬と老人 夕焼けのベンチ
犬が老人の右手を舐める
ああ気持ちいい ああ気持ちいい ああ気持ちいい
傷は深くやさしく 老人の体の奥へ広がって
少しずつ老人になっていく
ベンチには穏やかに腐りかけた老人が ポツンとじゃがいものように座っている
もう子供たちは寄り付かない
( 2月某日 公園で )
from morning
it was raining
it was raining hard
on the windowsill
neither white-eye nor bulbul came
I couldn’t see the west mountains
rain clouds fell and wrapped around the port town
is the west mountains about 500 meters above sea level
there seems to be a big hawk
someday
photographers had come to shoot in “Collapse”
the big hawk will fly
will fly high
will turn
・
The mountain is about 1,000 meters above sea level *
朝から
雨だった
強く降っていた
窓辺に
メジロも
ヒヨドリも来なかった
西の山は見えなかった
雨雲が降りて港町をつつんでいた
西の山は海抜500メートルくらいか
大鷹がいるらしい
いつか
カメラマンたちが
大崩れに撮影に来ていたことがあった
大鷹は
飛ぶだろう
高く飛ぶだろう
旋回するだろう
・
その山は海抜約1000メートルだ *
* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.
#poetry #no poetry,no life
その瞬間から解体に向かう雲
その瞬間から解体に向かう国
#poetry #rock musician
sunday
afternoon
I talked to my old sister in Akita on the phone
“already”
“the snow on the road has disappeared”
“it’s sunny today”
“ate lunch with my friends”
so
my old sister said
her husband is gone
the dog also died
her child went out to the city
she lives with a cat
she said she was up at 4am and shoveling snow
it was snowing
it is snowing
・
Snow is falling thick and fast *
日曜日
午後
秋田の姉と電話で話した
もう
道路は
雪が消えたよ
今日は晴れて
友達とランチを食べてきたの
そう
言った
義兄は逝き
犬も死んだ
子どもは都会に出た
姉は猫と暮らしている
朝4時に起きて雪かきをしていると言ってた
雪が降っていた
雪は降っている
・
雪がどんどん降っている *
* twitterの「楽しい例文」さんから引用させていただきました.
#poetry #no poetry,no life
祈りだけが現在である
呼吸は方便に過ぎない
口寄せのビルは更地にされ
ピンクの石板に引っ掻き傷が見える
大きなパブの中で
常に追われていないふりをしている
#poetry #rock musician
真っ黒に焼けた顔でにかっと笑うとき
少し黄ばんだ歯がのぞくのを覚えている
その口で
俺は学がないからねといつも口癖のように
学がないということの意味はそのうちにわかってきた
祖父母の意向で長男だけは上の学校に進めなかったこと
代々の土地を
畑作を守るためのひとだという理由で
さして年も変わらぬおばは女学校に
兄弟姉妹を親が働く間子守りまでしていたのはそのひとだというのに
にかっと笑うその笑顔はすこしさみしそうで
自嘲気味のことばも
意味がわかってくるたびにかなしくて
存分に与えられたのはお金だったろうか
本当に欲しいものは
ほんとうは
愛情だったのではないかと
気弱な父と姑に逆らえぬ母をそれでも慕う
そのおじが
旅立った
いつもかあさん、いるかい?
と裏口から入ってきて
人形遊びをしている姪にちらりと視線をくれるひと
親同士が仲違いをしてもうしばらくになった
会うこともかなわなかった
こうしてひとりひとりのおじやおばが
旅立っていく
わたしにすこしのさみしさと
温もりのある記憶をおいて
行かないでと幼ければ泣いたろう
いまは
行ってしまうことの安らぎを願う
またあたらしい日々が戻れば
週明けにはにかっと笑うのではないか
幼いわたしに残したおじの笑顔が
焼きついて消えない