michio sato について

つり人です。 休みの日にはひとりで海にボートで浮かんでいます。 魚はたまに釣れますが、 糸を垂らしているのはもっとわけのわからないものを探しているのです。 ほぼ毎日、さとう三千魚の詩と毎月15日にゲストの作品を掲載します。

生盛薬館

 

廿楽順治

 
 

せいせいやかんのばいやくは
(オイチニイサン)

上手に数えることで
世界はまっすぐに暮れていくが
いったい

実人生とはなんであるか
咳なのか

ラッパのように鳴り出す路地で

足されることも
まして風景から引かれることもなく
生きていくことに

オイチニイサン
貴様はすこし泣いているのではないか

(せいせいやかんのばいやくは)

数のふりして
やかましく
膨らんでいくが

ずっとは
生きていけない内臓なのさ

 

 

 

花より団子

 

佐々木 眞

 
 

花より団子
団子よりタンゴ
タンゴより丹後

丹後より丹波
丹波より哲郎 
哲郎より鉄道 

鉄道より自転車
自転車より散歩
散歩より散髪

散髪よりパーマ
パーマよりパーマン
パーマンよりアンパンマン

アンパンマンよりセールスマン
セールスマンよりウルトラマン
ウルトラマンより人世マン

人世マンよりマントヒヒ
マントヒヒよりネアンデルタール
ネアンデルタールよりホモ・サピエンス

ホモ・サピエンスよりホモ・セクシャル
ホモ・セクシャルより野茂英雄
野茂英雄より野口英雄

野口英雄よりリービ英雄
リービ英雄よりリーバイス
リーバイスよりストラウス

ストラウスよりシュトラウス
シュトラウスよりベートーヴェン
ベートーヴェンよりモーツァルト

モーツァルトよりモンドリアン
モンドリアンよりエイリアン
エイリアンよりシガニー・ウィバー

シガニー・ウィバーよりマリリン・モンロー
マリリン・モンローよりオードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーンより若尾文子

 

 

 

雫石

 

道 ケージ

 
 

雫石をどうすべきかは
皆知っているようだ
何もわからない私は
途方に暮れる

なんのためにあるのか
どこにあるのかさえ
わからない

調べてくれる田村は
二階の片づけに忙しい

橙の水玉模様
板状らしい

どこで知ったのかわからない
それをどうするのか
なんのためにあるのか
わからない

ともかくも
何かに必要らしい
雫石は何になる

あやめたい朝に
曇が映る
好都合のように

露がたまると
もう不吉ではいられない

走らされ
シャツを引き裂くと
それが合図のようだ

ハバロフスクあたりの
郊外の水で
犬の死体を見た

 

 

 

また旅だより 51

 

尾仲浩二

 
 

母を病院に連れて行くために実家に戻っている。
母は同じ話を繰り返す。
幾度も財布の中身を数える。
家の中は大量のモノが溢れている。
ふたつの冷蔵庫はぎっしりと詰まっている。
この原稿を書くからとループする話を止めて二階へ上がった。
今にも降りだしそうな空を窓から眺めている。

2022年11月14日 千葉県君津にて

 

 

 

 

無柄眼類の胎児 *

 

さとう三千魚

 
 

女が
台所で

洗い物をしている

水の音が
聴こえる

金木犀の木立の中で

今朝も
雀たち

鳴いていた

朝の光の中でナメクジが金色に光るのを見たことがある

柄眼類なのだろう
体の端から

触覚の眼を伸ばしていた

伸びる触覚の眼がない者が
無柄眼類というのだろうか

黒く大きな瞳をしていた
黒く大きな瞳をしていた


きみは

黒い瞳で空を見ていた

 
 

* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”ひからびた胎児” より

 

 

 

#poetry #no poetry,no life