廿楽順治
せいせいやかんのばいやくは
(オイチニイサン)
上手に数えることで
世界はまっすぐに暮れていくが
いったい
実人生とはなんであるか
咳なのか
ラッパのように鳴り出す路地で
足されることも
まして風景から引かれることもなく
生きていくことに
オイチニイサン
貴様はすこし泣いているのではないか
(せいせいやかんのばいやくは)
数のふりして
やかましく
膨らんでいくが
ずっとは
生きていけない内臓なのさ
せいせいやかんのばいやくは
(オイチニイサン)
上手に数えることで
世界はまっすぐに暮れていくが
いったい
実人生とはなんであるか
咳なのか
ラッパのように鳴り出す路地で
足されることも
まして風景から引かれることもなく
生きていくことに
オイチニイサン
貴様はすこし泣いているのではないか
(せいせいやかんのばいやくは)
数のふりして
やかましく
膨らんでいくが
ずっとは
生きていけない内臓なのさ
花より団子
団子よりタンゴ
タンゴより丹後
丹後より丹波
丹波より哲郎
哲郎より鉄道
鉄道より自転車
自転車より散歩
散歩より散髪
散髪よりパーマ
パーマよりパーマン
パーマンよりアンパンマン
アンパンマンよりセールスマン
セールスマンよりウルトラマン
ウルトラマンより人世マン
人世マンよりマントヒヒ
マントヒヒよりネアンデルタール
ネアンデルタールよりホモ・サピエンス
ホモ・サピエンスよりホモ・セクシャル
ホモ・セクシャルより野茂英雄
野茂英雄より野口英雄
野口英雄よりリービ英雄
リービ英雄よりリーバイス
リーバイスよりストラウス
ストラウスよりシュトラウス
シュトラウスよりベートーヴェン
ベートーヴェンよりモーツァルト
モーツァルトよりモンドリアン
モンドリアンよりエイリアン
エイリアンよりシガニー・ウィバー
シガニー・ウィバーよりマリリン・モンロー
マリリン・モンローよりオードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーンより若尾文子
雫石をどうすべきかは
皆知っているようだ
何もわからない私は
途方に暮れる
なんのためにあるのか
どこにあるのかさえ
わからない
調べてくれる田村は
二階の片づけに忙しい
橙の水玉模様
板状らしい
どこで知ったのかわからない
それをどうするのか
なんのためにあるのか
わからない
ともかくも
何かに必要らしい
雫石は何になる
あやめたい朝に
曇が映る
好都合のように
露がたまると
もう不吉ではいられない
走らされ
シャツを引き裂くと
それが合図のようだ
ハバロフスクあたりの
郊外の水で
犬の死体を見た
女が
台所で
洗い物をしている
水の音が
聴こえる
金木犀の木立の中で
今朝も
雀たち
鳴いていた
朝の光の中でナメクジが金色に光るのを見たことがある
柄眼類なのだろう
体の端から
触覚の眼を伸ばしていた
伸びる触覚の眼がない者が
無柄眼類というのだろうか
黒く大きな瞳をしていた
黒く大きな瞳をしていた
朝
きみは
黒い瞳で空を見ていた
* 高橋悠治のCD「サティ・ピアノ曲集 02 諧謔の時代」”ひからびた胎児” より
#poetry #no poetry,no life