中古の関係

 

駿河昌樹

 
 

愛人
ということばは好きで
聞くたび
いいなぁ
と思う

なんといっても
愛シテイル人
なんだから
他者を引き立てるための
添え物の意味あいの

なんて
いうのよりも
よっぽど
いい

刺身の妻
より
刺身の愛人
のほうが
やっぱり
いい

とはいえ
愛人
と聞くと
げんなりもする
あゝ つまんない
とも思う

馴染みすぎな感じが
もう
所帯じみた
というか
なれ合い過ぎ
というか
妻でもないのに
新鮮味が
もう
消えてしまっている

愛人
をこしらえて
安住している男って
嫌だな
とまでは思わないが
つまらないな
と思う
愛人
までいかない
不安定な
心理の駆け引きの間だけが
どうにか
こうにか
面白くって
お互いに理解しあったり
大丈夫な人だと
安心してしまったり
って
つらいな
つまらないな
もう
中古の関係じゃないかサ

……と
愛人

長くやっている人の
話を聞いて
思った次第なわけです

 

 

 

招待状

 

みわ はるか

 
 

2年前の物語。

「ご報告 私事で大変恐縮ですがこの度かねてよりお付き合いしていた彼と結婚する運びとなりました。夏ごろに挙式・披露宴を予定しています。ご都合がつけばぜひはるちゃんにも参加してほしいです。詳細に関してはまた後日改めて葉書を送ります。」

空0はるちゃんと言うのはこのメールを受け取ったわたしのことだ。晴れて新婦になる中学時代の友人のわたしに対する呼び方だ。社会人になると名字で呼ばれることがほとんどになったためなんだかとても懐かしい気持ちになった。さらにその友人のお相手はびっくりしたことに同じ中学校の同級生だった。つまり、新郎新婦両方を知っているし、おそらくこの式に招待されるであろう人もほとんどが昔の同級生になるだろう。二十九歳という結婚適齢期をわたしたちは迎えているということを視覚的に認識させられた瞬間だった。わたしたちの間に時は流れた。もう昔のように同じ教室で机と椅子を並べることも、同じ時間割で授業を受けることも、同じ宿題をこなすこともない。みんなそれぞれが自分の未来を考え歩んでいる。それが大人と言うことなんだろうけれど、頭の中では理解しているはずなんだけれど、ものすごく寂しい気持ちになった。窓から空を見上げると灰色がかった雲が太陽を隠していた。

空0小さな田舎町に生まれた。周りは見渡すかぎり木々が生い茂る山に囲まれていて、平気で猿や鹿、猪なんかが出るようなとこだ。畑の農作物はしょっちゅう獣に狙われていたし車との衝突も珍しくはなかった。上流から下流まで流れる川は透き通っていてきれいだった。鮎やアナゴなんかも確か釣れたはずだ。近くに養殖場もあって夏には友人家族と一緒にバーベキューをするのが恒例だった。わたしの小学校の同級生はたったの十四人。中学校でさえ八十人程だった。みんなの顔はもちろん知っていたし、フルネームを漢字で書くこともできた。家族構成もなんとなくは知っていた。わたしたちは男女問わずわりと仲がよかったと思う。なんだかんだブーブー文句を言う男子もいたけれど、それなりに年に一度の合唱コンクールではまとまりが見られた。応援席より選手として出場することが多かった体育祭も最後に涙を流す人が少なくないような感動的なものだった。部活動がどの部もみんながレギュラーだった。中には定員割れの所もあって苦労していた。そのせいだろうか、市の大会に出ると初戦で負けることがどうしても多かった。校内で競争心が持ちにくい環境は大きな欠点となっていたかもしれない。そして、わたしたちは全国のみんなと同じように絶賛思春期だった。甘酸っぱくて、淡くて、清々しい恋の話は楽しかった。わたしはどうしたことか当事者としてはそういうものに興味がなかったけれど、部活の後に聞くそういう話はレストランで最後に出てくるデザートを目の前にした時と似た感情になった。誰かを思う気持ちはいつの年代も、時代もとても美しいと思う。それが仮に思い通りにいかなかったとしても。学生時代にそういう瞬間がもてたということは人間として大きな財産をもつことができたのではないかと感じる。
お互いを知り尽くしたこの時のような友情はこの先には絶対にない。だから今とてもその時のことを愛おしく感じる。

空0高校進学、大学進学、就職を機会にわたしたちは会うことはほとんどなくなった。小さな田舎町では想像できないことの連続にわたしを含め日々戦っているのだと思う。確か大人になって久しぶりにみんなに再会したのは同級生の葬儀だったと思う。こんな形で再会しなければならなかったのはとても無念だった。わたしたちは若くして友人を亡くした。一緒に校庭を駆け回ったやんちゃな子が今では二児の母親となった。上京して、見上げると首が痛くなるほど上の方のビルの中でパチパチとパソコンのキーを叩きながら仕事をしている元生徒会長。農家の長男として大根やニンニク、じゃがいも、白菜、人参と丁寧に丁寧に野菜を育てている友人。東京で少しは名の通るイラストレーターになった友人(アニメのエンディングでその子の名前を見つけた)。一度は遠い土地に嫁いだけれど出戻った友人。当たり前だけれどわたしの知らないところであの時一緒に同じ黒板を見ていた同級生が様々な世界の中で生き続けている。それがとても不思議で興味深かった。

空0新婦となる彼女から来たメールの返信には「もちろん参加させてもらいます。本当におめでとう。会えること楽しみにしています。」と打った。
いつのまにかわたしたちの間に流れた年月が文面の末尾をですます調にさせていることもなんだか自然で悪くないなと思った。

 

 

 

り・わたくし、りり・わたしたち

 

薦田愛

 
 

ねえユウキ
わたしたちの家のなかって
リサイクルショップとジモティー
加えて最近では
クリーンセンターでずいぶん
調達しちゃってるよね
「そうだね。すごくいいシステム。必要なところにちゃんとつながる、つなげてる」
ほんとうにいろんなモノ
あつかってるよね
ベッドやセンターテーブル、本棚にパソコンデスク、ダイニングテーブルに椅子
下駄箱にリクライニングチェア、灯油ファンヒーター
洋服にバッグ、洗濯機やトースター、クリーナーにパソコン
くらいまでは
まあ想像の範囲
でもってフライパンや土鍋やバスタオルに毛布にミル付きコーヒーメーカーの新品
ああ未使用品ね
そして特大木製キャットタワーに三段ケージ

でも
でもね、まさかね、
保護猫譲渡だとか、ドアとか
そう!
玄関のじゃないけど
ドアを譲りますなんて!
そもそもジモティーでドアを探してみようと思いつくひとにもびっくりだけど
(ユウキのことだよ)
出品してるひとがいるってことには
もっとびっくり
十一月だったっけ
はやくに出かけたユウキが昼前
どっしりした白いきれいなドアとドア枠を
積んで帰ってきて車庫のすみに立てかけて
ああほんとだったんだなって

りり りさいくる りゆーす りら るりる
りゆーす りさいくる りりら る りる
使って汚して使ってぶつけて使ってけずれて
ぬぐってみがいて塗りなおして乾かして
ふっ ふ
小傷はありますが
まだまだ使えます
もらってください
なんなら
粗大ごみ処理券ぶんくらいですけど
お礼もしますって

少額の持参金つきで
もろうてや もろうてや
ノークレーム ノーリターンやて
ふっ ふ
ふふ
考えてみればさ
わたしたちも
どこかに
USEDってスタンプ
ぺたん
はは
チューコ セコハン 
はは
り・わたくし、りり・わたしたち
わたし
わたくし

ぬいでうらがえして
りゔぁーす
りばーす
り・ばーす
う・うむ うまれなおす
ほこりたたいて
ふっ ふ
ふふ
りり 裏 りめん
ひろげてほどいて洗って乾かして
シワのばしてぬいあわす
いちど にど
なんどでも なんど でも
めんどう飲みくだして
ふっ ふ
ふふ
ふるいにかけて
のこるもの
なんか
あるかな
ふるびがついて
あじわいになるか
なんて
わからない
はは
悲哀っていうほどの
うわぐすりも
かかってないほどの

でも
りり りるり
り・ばーす
り・ゔぁーす
はは
りり りらる
りめんににじむ
文字
ひろいあげて
ふっ ふ
ふたり
ものがたりを
読もうよ

 

 

 

柊の白い

 

さとう三千魚

 
 

どこにも行かなかった

今日は
憲法記念日

晴れていた

息を
吸ってた

息を吐いてた

“われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する” *

今日も

どこにも
いかなかった

庭の

柊の
枝の葉の

尖ってた

指に

刺さった

柊は
ひいらぎ

葉に
棘があり

英語で
hollyと綴られる

基督の
棘冠の葉

には

棘が
あり

花は白かった

ひいらぎの

白い

梢の下から

見上げていました

あまい香りがした
あまい香り

した

陽水が
歌っていたな

“夢で逢いましょう”って

歌って
いた


“夢で逢いましょう”
“夢で逢いましょう”

陽水が
歌っていた

 
 

* 日本国憲法前文より引用いたしました

 
 

・・・・・

日本国憲法 前文

日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民と協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。

これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらはこれに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する。

われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。

日本国民は、国家の名誉にかけて、全力をあげて崇高な理想と目的を達成することを誓う。

 

日本国憲法(1946年11月3日公布)

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/dl-constitution.htm

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

幾郎終活サッポロマイナス一番

 

工藤冬里

 
 

4月26日―5月3日

4月26日
そろそろまた大失敗しそうだ
歓迎する

4月27日
justiceが存在するなら異星人は居ない
居るとしたら人類の緩慢な死刑は存在しなかった。
離れないために出来ること四つ

¡Qué desdichado soy!

微音生
https://youtu.be/oJwVph72dBY

4月28日
食用
人生の目的
いやしむべきパンとしての身体を
代用肉として与えてはならない
与えられるのは隠されているマナ
煮ても焼いても食えない身体
埋めるしかない身体
散骨は太平洋を汚し
自浄の出口なき牢獄をパクリ食パン

4月29日
sonorous vessels
https://youtu.be/lLH2m-gkyLs
https://youtu.be/6p5HJG6vU3k

薄っぺらい愛国心を 剥がすと
仕事は物質の管理だけになった

4月30日
ライブラブい無頼伊良部らV
ソーシャルディスタンス
いいね
人の言葉を覚えた鳥が愛しているよと言って死ぬ
トラッキングをされても学ぶ無料AI英会話

5月1日
発信

’人‘ 土也 風 フlく


ツイートなしで済ませるはずが死んでるんだと仄めかし

AIを使ったcognitive war
具象と芸能と工芸性に対する印象操作
連休旗日ワクチン
認識戦争の場としてのプラットフォーム

ク抜きでスペクタルと言う人は多いが発音はスペクタこー
スペクタクル忌避も認知戦争の具材
覚えずペットの隣人となる
カラスをタコと思う

芸能運動ワクワク
チンチン電車発射往来オーライ
免疫メンデルスゾーン

空0
優生学パルティータ

幻像肢ワクチンパスポートブルガリアヨーグルト

プラットフォーム無頼
焼け跡ステ頃
ソクラテスラかプラ豚か
反動半導体
熊笹嫉妬の水shit

やだよ
#認知戦争

as a counter-intelligence

Magnetic Strings
https://youtu.be/pZGwxsSDYcE

なあ

Twitterみたいだろ?

https://youtu.be/JE3yqbfH3E4

昔は「いけないことをしたような〜裏切りの花が咲いていた〜」とか唄っていたのが居直って

問題系の中で生きられているうちは本物じゃない

5月2日
昨日さ、こんな感じで怖かったよね
なんか始まるんじゃないかって

絵に戻るっつってもさ、5を通して2に行く、みたいなアレがしつようでしょ

Soy carnal
きみは市民生活を営んでいるのではない
家という生態系に君臨しているだけだ

芸能人やスナックのママが好きな言葉 気は心

5月3日
幾郎終活サッポロマイナス一番
https://youtu.be/Mcr_VqqZ0KM

5月3日の詩
タイトル:幾郎終活サッポロマイナス一番

そろそろまた大失敗しそうだ
歓迎する
justiceが存在するなら異星人は居ない
居るとしたら人類の緩慢な死刑は存在しなかった
離れないために出来ること四つ
¡Qué desdichado soy!
微音生
食用
人生の目的
いやしむべきパンとしての身体を
代用肉として与えてはならない
与えられるのは隠されているマナ
煮ても焼いても食えない身体
埋めるしかない身体
散骨は太平洋を汚し
自浄の出口なき牢獄をパクリ食パン
sonorous vessels
薄っぺらい愛国心を 剥がすと
仕事は物質の管理だけになった
ライブラブい無頼伊良部らV
ソーシャル・ディスタンスって慣れたと思ってましたが
さびしいですね
いいね
人の言葉を覚えた鳥が愛しているよと言って死ぬ #dodoits
トラッキングをされても学ぶ無料AI英会話 #Doo-Doettes
発信

’人‘ 土也 風 フlく


玉曜

ツイートなしで済ませるはずが死んでるんだと仄めかし #都都逸
AIを使ったcognitive war
具象と芸能と工芸性に対する印象操作
連休旗日ワクチン
認識戦争の場としてのプラットフォーム
ク抜きでスペクタルと言う人は多いが発音はスペクタこー
スペクタクル忌避も認知戦争の具材
覚えずペットの隣人となる
カラスをタコと思う
芸能運動ワクワク
チンチン電車発射往来オーライ
免疫メンデルスゾーン

空0
優生学パルティータ

幻像肢ワクチンパスポートブルガリアヨーグルト
プラットフォーム無頼
焼け跡ステ頃
ソクラテスラかプラ豚か
反動半導体
熊笹嫉妬の水shit
やだよ #認知戦争
as a counter-intelligence
Magnetic Strings
なあ
Twitterみたいだろ?
昔は「いけないことをしたような〜裏切りの花が咲いていた〜」とか唄っていたのが居直って
問題系の中で生きられているうちは本物じゃない
敵は
昨日さ、こんな感じで怖かったよね
なんか始まるんじゃないかって
絵に戻るっつってもさ、5次元を通して2次元に行く、みたいなアレがしつようでしょ
麦秋フライデー
Soy carnal
きみは市民生活を営んでいるのではない
家という生態系に君臨しているだけだ
芸能人やスナックのママが好きな言葉 気は心
幾郎終活サッポロマイナス一番

 

 

 

#poetry #rock musician

洗濯

 

塔島ひろみ

 
 

全自動洗濯機が洗濯をしている
音を立てて、乱暴にまわり、
これでもか、これでもか、これでもか、
汚れた白衣を、
黒ずんだ泡のなかに引きずり込み、
ひねりあげ、振りまわし、殴打するのを、
男は見ていた
分厚い手を腰にあて、ランニング姿でまっすぐ立ち、
ぎょろついた目で、白衣から、卵液、油、汗垢、髪の毛、羽虫(死骸)、大腸菌、その他さまざまなゴミ類が暴力的に引き剥がされるさまを、じっと見ていた
上の方に浮いてきた「汚れ」が男と顔を合わせきまり悪そうにニヤニヤし、また渦の中に見えなくなる
突然回転がとまり、ごぼごぼと水が落ちだした
洗濯機はピーと先生のように笛を吹き、蓋を閉じるように要求する 男は静かに蓋を閉じる 
洗濯槽が見えなくなると勢いよく何かが始まった
つぶれたそば屋の白衣がこの洗濯槽の中にいる
ゴーと地鳴りのような音が聞こえ、洗濯機がゴトゴト痙攣する
用無しとなったそば屋の白衣がこの中にいる
男は揺れ続ける洗濯機の蓋をじっと見ていた

4階建アパートの2階に男はいた
店賃が払いきれなくなり 3日前男は商店街の端っこにあるそば屋を閉じた
白衣を毎日この洗濯機で洗っていた
風呂に入っている間にすませたから
白衣を洗っていたのは男ではなく、洗濯機で
男は、しみだらけの白衣が強烈な臭いのする泡のなかでさんざんいたぶられ小突きまわされたあげく再生するさまを
今、初めて見ている
4階建アパートの2階で見ている
外階段から2階にあがると廊下があり、ずうっと奥まで見通せる
廊下に沿って8個ほどドアが並ぶ、そのドアのひとつの内側で
口をまっすぐに結んだまま、洗濯機の蓋を見つめるその男の姿は
廊下から見えない
その見えない男が3日前まで着ていた白衣が
洗濯機の蓋の下の男からも見えない暗い地下牢のような場所で
ぐるぐると回転にかけられていた
最後の回転にかけられていた
外では雨が降っていた
傘を差した人がとぼとぼと駅方向に歩いている
たった今横長の古ぼけたアパートの横を通り過ぎたことも気に留めないで 歩いている

アパートの上の階にはベランダがあり、部屋ごとに似た竿が吊るされ似た室外機が置かれていた
雨が上がったら、その南に向いた窓のひとつが開き
洗いあがったそば屋の白衣が
長年活躍した白衣が
もう誰も着ることのない白衣が
ごつごつとした分厚い手で丁寧に陽に干されるだろう
太陽がそれを見るだろう

 

(4月某日、亀有5丁目で)

 

 

 

「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第90回

 

佐々木 眞

 
 

 

西暦2020年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

私が提出した何度目かの業務改革の提案は、私がいくらVサインを出しても、その都度上層部によって闇に葬られ、永久に日の目を見そうになかった。2/1

船の什器がまだ揃っていないので、私はまだ出発進行の合図を出せないでいる。2//2

理想の子供服とは何か? 私はこの難問を、半世紀以上も追及するうちに、どんどん歳をとって、よぼよぼの老人になってしまった。2/3

某有名評論家が、映画の内部に忍び入っては、登場人物を吹き矢で殺すので、映画探偵の私は、五社から頼まれて消された人物の息を吹き返すのが、主要な仕事になってしまった。2/4

東レのテキスタイル情報を、ワールドの社長が盗んだのではないか、という疑いが生じたので、彼は、急遽海外へ斗横暴したのだが、国内できちんと弁明した方が、良かったのではないか。2/5

マーラーの交響曲を演奏する時には、反逆点で反逆音を響かせることが大事だ、と何度も教えたのに、小澤征爾はとうとう理解できないようだった。2/6

いくら悪戦苦闘しても、この人世が我が身にそぐわないので、私は早く来世へ移動してから活躍しよう、と思うようになった。2/7

私が身に纏っている衣服が、次々に映像化されたが、それらが、余りにもチープだったので、恥ずかしいやら哀しいやらで、思わず涙がちょちょ切れてしまったよ。2/8

不倫に関する電話のアンケートが、一日に何回もかかって来るのは何故だろう。「不倫ではなく浮気に関するアンケートなら答えてやる」というたら、「しばらくお待ちください。上司と相談してから、また連絡します」というたきり、音沙汰がない。2/9

久しぶりに京に住むことになり、さてどこにしようか。と探していたら、中京に格好のしもうたやがある、というので、そこに決めました。2/10

気が付くと、私は出世が遅れ、かつては自分の部下だった年下の男の下についているのであったが、幸い墓地の管理以外は、さしたる仕事もないので、毎日墓碑銘を刻んでいた。2/11

ある日思い立って、石屋の石長からもらった大理石に、私の来歴を斧で刻んでおいたら、森鴎外に似た掃苔者がじっと眺めていた。2/12

私は、かくて全員が死者であるところの村に着いて、直ちにモンミ事件の捜査を開始したが、なにせ住民が死者ばかりなので、さっぱり有力な証言を得られなかった。2/13

隕石直撃が忍び寄る地球最後の日に備えて、わいらあは、全世界人民の安全安心の整然たる火星脱出計画を樹立したが、結局は、各国各民族の競争と対立が災いして時を失い、地球はあっさり滅びた。2/14

ボクは、陽気なフルート吹き。南仏の地中海沿岸の避暑地を訪ねて、演奏して回るのが日課なんだ。2/15

「人類とコロナウイルスの戦いでは、当面は人類の負け戦が続くでしょう」と、神様がのたもうた。2/16

私は自分が出演している映画が上映されている、全国の映画館をすべて見て回ったが、どこもガラガラだったので、いたく傷つき、もう引退しようと思ったが、そうすればどうやって生き延びるか、何のあてもないのだった。2/17

「私は、その問題には、真正面から取り組んではいませんでした、」と告白すると、「その他の問題にもでしょ」と、誰かが揶揄したので、思わず赤面したのよ。2/18

大変難しいゲシュタルト問題が、やっぱり大量に出題されたので、私はまたしても第1志望の学校に入れなかった。2/19

オタマ入りの味噌汁を飲んだ社員は、他社の広告を入れるべきところに、自社広告を入れてしまったので、社長にえらく怒られてしまった。2/20

どおゆう風の吹き回しか、迷いこんだ場所が裁判所の法廷で、若い女が被告である。傍聴席にいる私は、彼女は無罪であると思いこみ、なんとかしてやろうと方策を考えるのだが、案を考え付くたびに地震が起こり、それがだんだん酷くなって来る。2/21

分限者の大酋長に、何から何までお世話になっている超貧乏人の私が、とうとう一穫千金の宝くじに当たったのだが、何パーセントのお礼をしたらいいのか、大いに悩んでいるところだ。2/22

ノノヘイのことを、今までアホかと思っていたが、よく考えてみれば、けっしてそんなことはない。清く正しくぐあんばっている青年だ。私は、そのことを彼に早く伝えて、頭を下げて謝ろうと思った。2/23

久しぶりに気分が高まったので、「弦楽四重奏のための緩徐楽章」というタイトルの詩を書いていたのだが、その題名の意味にとらわれすぎたので、最悪の結果、すなわち詩の放棄に終ってしまった。2/24

小中学の教科書のどこを探しても、「日本がほぼ世界中を相手に戦争をした」などと書かれていないので、驚いて先生に聞くと、「そんなこたあ、どうでもいいじゃん」と答えるのだった。2/25

佐々木家は「隅立て四つ目」の家紋なり。どうじゃ恐れ入ったか、と誰かがえらそうに言うので、「そんなこたあ、どうでもええやん」と答えた。2/26

イケダノブオが「ササキさん、なんかいいアイデアないすか?」と尋ねるので、「さあねえ、海のものとも、山のものとも、つかないなあ」と答えたら、「じゃあまず、その、海のものから聞かせてくださいよ」と迫るので、困ってしまった。2/27

いままさに物凄く興味深い夢を見ていると思うのだが、夢とおらっちとの間に、半熟の卵の表層の幕のようなものがあって、映画館の裏口で耳を澄ましている少年、のような映画の理解しかできない。2/28

 
 

2020年弥生蝶人酔生夢死幾百夜

 

いつのまにか、富士山が超スリムになってしまった。おらっちは、8合目辺りにベランダを作り、それをハンモック替わりにして、昼寝しているところだ。3/1

最前線に「重機」に代わって「商業」が出てからは、戦闘はやや下火になってきたので、敵味方ともに喜んだ。3/2

僕は、いわゆる機会主義者の一人に、一目でも会いたい、と切望しているのだが、そののぞみは、まだ叶えられそうにない。3/3

ケイサツゴッコをしながら、テレフォンごっごで遊んでいるうちに、季節は、ぐるぐると廻っていった。でも人は…… 3/4

ミクロ妃が、「この世では生きづらい」とさんざん泣きごとをいうのを、黙って30分間聴いていたので、疲労困憊してしまったずら。3/5

北陸地方を歩きながら、めぼしい芸能文化を記録しているが、やはり生活歌にまさる資料はなさそうだ。3/6

久しぶりに地下鉄に乗って銀座に出たら、旧知の映画会社の人から、試写会に誘われた。それが10時半から始まって、終るのが8時半だといので、大いに迷っているわたし。3/7

銀座通りを歩きながら、昔むかしのその昔、この松屋や松坂屋の前の小川にも、たくさんのウナギが泳いでいたことを、私は懐かしく思い出していた。3/8

旧知の人々から、大量の遺言状を手渡されたが、はてさて、これらをどうしたものか、と私は思いまどうばかりだった。3/9

私がしばらくのあいだ人間だった頃、四季は温暖に巡り、人々は私に優しかった。3/10

この睡眠から下手に覚めると、現実世界がもはや存在していないかもしれないので、わざと二度寝、三度寝して、様子をうかがっているのよ。3/11

完全な負け戦ではあったが、退役した老将軍の指揮ぶりは、いかにも老練そのものに洗練されており、一言にして尽くせば、見事であった。312

駅構内の、それぞれの地点での、人の流れを研究していると、いろいろな改善点が、おのずと浮かび上がってくるのであった。3/13

城壁の修理を頼まれた私ら土木業者は、複数の石を、美しく交叉させたり、エレメントの交響化に配慮しつつ、従来の布石を再編成させながら、より強靭な砦の完成に力を尽くした。3/14

3種類の日本文学全集を、あれこれつまみ食い式に読みあさっているうちに、どれをどこまで読んだのか、分からなくなってしまったずら。3/15

テレビを観終わってから、家を出て満員電車に乗ったのだが、なぜかリモコンを持って出たので、どこに置くか大いに迷っているところ。3/15

今まで暇だったのに、急に仕事が忙しくなって来たので、部下のサカイ君に3つほど応援を頼んだが、いつまで経っても返事がないので、どうしたのかと思ってデスクを訪ねると、もうだいぶ前に亡くなっていたのを、私が忘れていたことが分かった。3/16

余身が武そうに人のえつ会のような淑経になり裸の部分がなかった。3/17

その病院では、看護師が医者から莫迦にされているので、その腹いせに患者を莫迦にしているので、そのつけが病院全体に及んで、コロナ禍のさなかに倒産してしまった。3/18

誰もが、己の物語を動画を交えて、ものがたるのであるが、その男は、昔ながらの紙芝居方式でものがたるので、かえって新鮮かつ好評だったのよ。3/19

私は鉄人28号に変身したつもりで、秘密の抜け道を、全部ふさぎながら、グングン進んでいった。3/20

紳士衣料店の倉庫を襲撃した夜盗の群れは、それらの盗品を、やはり盗んだキッチンカーに乗せて、全国で売りさばいたのである。3/21

実際に歌手がやって来て歌うと、それをすぐにCDに焼いて、出口で即売することで音楽業界はひといきつけたのよ。3/22

私は、ある日自分が戦後間違った生き方をしていたことが、はじめて分かったので、その翌日から、そんな自分を弾劾する大行脚に出発したのだった。3/23

10年間、毎日何の仕事もせず、駄眠を貪り、美食と美女を求めるだけの生活に飽きただけではなく、途轍もない恐怖を覚えたので、私は万事を放擲して深山に籠った。3/23

ハシモト画伯は、その奴隷の叛乱の話を、絵にしようかどうしようか、とかなり長い間迷っていたが、ようやく一歩進んで太い鉛筆を手に取った。3/24

僕らは、夜になると飯を食いに行く代わりに、或る種のコーフン剤を飲んで仕事に励んだが、それは最終的には、精神の統一と仕事への集中を妨げる結果に終わった。3/25

「この折れた歯の右はなんとか使えそうですから、左半分を麻酔をして切り取ってしまいましょう」と、岸本医師はいと軽くのたもうのであった。3/26

その経理担当者は、私に向かって「早くここから出て行け」と偉そうに言うたのだが、何十年も経った後で、彼は竜宮で事故死していたことが分かった。3/27

故郷あやべの西本町から、裏西町のうらぶれた民家を少し行きすぎると、薔薇の生垣で囲まれた私の家の庭があり、そこには四季折々の野菜を植えた畑や、おいしいグミやユスラウメ、イチジク、カキ、ナツメなどが生る何本かの樹木もあった。3/28

1億の民が、毎日せっせせっせとマスクを棄てるので、その道は「白いコロナの道」と呼ばれるようになった。3/29

この街には、明治の文豪が住んでいたというので、屋敷などは取り壊されて跡形もないにもかかわらず、彼の足跡を尋ねる人々で、いつも大賑わいだった。3/30

1人の電気工は、鎌倉関東日本電工、もう1人の電気工は、日本アジア世界電工の社員と名乗ったので、私らは前者を採用した。3/31