致死

 

爽生ハム

 

 

吐息の旋回はまだまだまだ
帰ってこないよ
長靴に雪がつもってから時間が
たったような、たってない気も
僕のフトモモ
ばらばらになってく銀世界で煙草をくゆらす
カツサンドを食べる彼女のほお紅がほのおに見えて、しょうがない
はさんである雪の弾力に
負けじとお肉が
さいごの息をする
地上と地下のまんなかを溶接してる気分だ
これは机の上の学生に似てる
ペンが白い紙に刺さって机が受けとめて、学生の身体は熱くなる
学生の頬っぺたに肉まんがあっつくペタつく
ここで寝ては死んでしまうよと
棒立ちの木々にすがる
美しいモノの無力化、あまりにも激しい対比
夜食を運んだのは幽霊か
煙草の煙も幽霊か
重たいまなこも幽霊か
燻製のお肉が幽霊のように痕跡をQす、あきらめた長靴は重くなるだけ

 

 

 

きぬかつぎ

 

今井義行

 

 

ひとには うえと したが あると いう
【天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず】*引用
ひとは すべてに 平等ということでなく
学んだか そうでないかで あると いう
けれど揉まれても卒業は無いのではないか
自らの心の持ちよう、っていうことなのか

二色の街の 情景の中に わたしはいました
会社勤務を していたころの はなしです
定収入を漫然と得ていたころのはなしです
ここは夜だ、と 神楽坂下に たたずんで
神楽坂からなだらかにつづく灯りをたどり
(【大日本】印刷が すぐ傍にありました)
ひとりでカウンターにいたことがあります
(【大日本】印刷が すぐ傍にありました)
(【大日本】印刷は 外国人就労者が多く)
(彼ら安く危険な 断裁機を扱わされてた)
ここはどこ、と 神楽坂下から たどって
ひとりでカウンターにいたことがあります

「はい、きぬかつぎ」と
小鉢に はいった つきだしを だされて
わたしは 真冬に ビールを 飲みました
(経済観念が あいまい でしたから・・・)
その大瓶は 結構 高かったんじゃないか

【きぬかつぎは、サトイモの小芋を皮のまま蒸し、その皮を剥いて食べる料理。
サトイモの皮のついた様子を、平安時代の女性の衣装・衣被ぎ(きぬかつぎ)
になぞらえて名付けたもので由来からきぬかづきとも呼ばれたり「絹かつぎ」
と表記される場合もある。】*引用

曲解に曲解を重ねられて
十二単をひきずる人たち
が いきている この世

だれが すくうの なにが すくうの
たとえば 「あ、うううう・・・・・・」
そのように ないてる おんなたちを

おんなにはおんなの鬱憤
が 溜まり 摺った墨汁を

撒き散らし紋様を作るよ
この世の しろい部分に
それは多彩な黒い華紋様

会社を 辞めてから 七年が たちます
わたしは 組織で働くのが ずっと厭で
けれど 賞与で 詩集を 上梓しました
その詩集の中に「わたしは給料泥棒だ」
という一節があり 経営陣が読みました
わたしは 詩を 書きたかっただけの者
でしたので 辞職勧告され 当然でした

24年間 会社に利益をもたらすことは 唯の一度も考えませんでした

勤務時間も 詩を書いていました 「詩」が人生の 目的でしたから
しかし 「給料泥棒」に 本当に 「詩」が書けるわけないでしょう
漫然と盗んできた 者に 本当の 「詩」が書けるわけないでしょう

わたしは いまは無職で 僅かな貯えと福祉等
に依って暮しています 今夜は きぬかつぎを
惣菜としました 平井商店街で安く買えたので
電子レンジで 温めて 一合お米も炊きました

小芋があって そこから 仔芋という娘が垂れ
サトイモの仔芋ではなく 小芋のほうから──
わたしは 夕飯に きぬかつぎを たべました

何気なくたべましたが何処も官能的な丸みです
由来など忘れて 皮を剥かずにたべたのでした

衣被ぎ(きぬかつぎ)で あるというのならば
皮を剥いてたべるのがマナーであったでしょう

小芋には丁寧にあいさつせず いただきますと
皮を剥かずにたべて 大変に失礼いたしました

想像力をめぐらせるべきだったのでしょう──
皮にしみた塩味があまりによい具合だったので

白肌にふれるのが遅くなりましたごめんなさい
娘さんによろしくお伝えくださいごめんなさい

またサトイモの季節がきたら あなたや娘さん
に逢うことでしょう そのときにはきっと・・・・

つるんと皮を剥いて たべることにしましょう
サトイモのぬめりは血を滑らかにするそうです

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

勤務時間も 詩を書いていました 「詩」が人生の 目的でしたから

ひとには うえと したが あると いう
それは 仕組や性差、の不協和だけでない

サトイモのぬめりは血を滑らかにするそうです
ここは どこ・・・・と 神楽坂下から たどって
ひとりでカウンターに いた ことがあります

夜に神楽坂から 飯田橋駅まで 靡いていった
くしゃくしゃにされた 一枚の チラシとして
冷たい風に マフラーを 巻いていた わたし

寒気団の 気流の半ばは 端から凍みてきたな

抹茶の香り漂う 甘味処 「紀の善」を過ぎて
流行ったジャズバーは 別のバーになっていた
神楽小路で 艶やかな華芸妓さんが ────

流々としている わたしを 掌でひろってくれた・・・・・・「かぜひくよ、くしゃっん」

老境に達しても 襟足だけは 老いないんだね
楚々と歩き芳香を 仄かに漂わせる華芸妓さん
華芸妓さんも 坂をのぼり飯田橋駅へ漂うのか

華街から次第に 遠ざかって いったのだった
江戸城の 名残り 神田川の ながれ・・・・・・・・
わたしは 突風に吹かれ川面の方へと 翔んだ

きょう一日 蛋白質を 摂らなかったなあ・・・・・・

わたしのからだは 白空間をかたちづくる──蛋白質で出来ています
けれども わたしは きぬかつぎ という 「からだ」を
蛋白質で出来ている きぬかつぎ という 「からだ」を
ぷるぷると纏わりつく 蛋白質を食べたはず というわけなんだ
卵白のように 泡立つ 蛋白質 を・・・・・・

それは 生き物を成す 大きな成分の一つ
生き物を成す 大きな成分の一つ そのような
ものとして ひとをかたちづくっていく 要素なのだ

一昨日の 冬の午後 荒れてきた 毛髪を切りに 出かけた
冷たい ハサミが入り 毛髪が 布に 散りゆくたびに
お肉としての わたしの 眉間が 拡がっていった
蛋白質、としての お肉
年齢なりに膚は渇いてた
散った毛髪に白があった

曲解に曲解を重ねられて
十二単をひきずるあなた

わたしは、散々 唾液を
撒き、散らし、あなたの
「尊厳」という輝きへと
執拗に・・・・ 斬りつけた

あなたにはあなたの鬱憤
が溜まり 摺った墨汁を
撒き散らし前科を作った

いまから 死ぬから、ね
あなたの慟哭は刃を握り

前科女(もの)になった
それは自然な現象であり

美しい前科女(もの)へ
鬱々とした漆黒を吐いた
わたし前科男(もの)が

そのような者に過ぎない
わたし前科男(もの)が
衣被ぎ(きぬかつぎ)を

抱きしめにへやへ帰った
冬の風が 囁いていたよ

西へと歩きなさい 銀杏の舞を見れるでしょう

南へと歩きなさい 熟した花を知れるでしょう

暖房に 温もった寝台に
華の黒紋様の肌着をきた
おんなが横たわっていた

わたしは おんなに かさなり「髪、切りすぎたかな」と訊いた
おんなは ことさらなにも いわなかった

100均の店で購入した
左手に在る 手の鏡は
気遣いを 持っていた

蒸気に 曇りを造らせ
わたしの眉間を精確に
映し出さなかったから

わたしたちには わたしたちの時間があって

水色の空には水色の時間があるが時間の色が

わたしたちにもひろがってそれぞれの時間が

長く短く異なっては連なって輝くのでしょう

わたしは おんなの衣(きぬ)を剥いて しろいからだにしました
わたしも はだかに なりました
脂肪層、という 冬の質が 震えていたよ

ひとには うえと したが あると いう
だから、うえに したに なりあったよ
おんなの衣(きぬ)に隠れていた しろい乳房はゆたかな蛋白質で
ぷるぷると 纏わりつく 弾力があり
わたしは 夢中で しろい乳首を食したのです

はじめてみたとき しろい乳首は粒のようで 窪んでさえいた
けれど 日を重ね 吸いつづけていくと
それは芽をだし 人さし指の 爪ほどの大きさの 真珠にまで育った

「夕飯は、パエリアを作ってみる」
おんなは 衣(きぬ)を被ぐことなく 台所へ向った

おんなの横隔膜の息の奥へと 歩いていったとき ちいさな室の中には
ちいさなおんなの娘がいて ぽろぽろいまに至るまで泣きつづけていた
いままで誰もおんなの娘の涙を拭ってやらなかったのか・・・・ 髪の毛を
撫でてやらなかったのか それ故に泣いているおんなの娘はいじられて
いない紫の原石のようでもあった でもいまこそは救われるべきだった

・・・・・・ やがて、宵闇が 訪れた

サフラン色の葱と鶏のパエリアが
弧を描くように 鉄鍋に広がって
いるその光景は満月のように輝き
檸檬を絞ると 葱は涙滴のように
鶏は動悸のようになり わたしは
心臓を探していた 何処にも無い
おんなも心臓を探していたそれは
どこか哀しい生きていく動機です
月は、まるいなあ大きいなあ・・・・

まるいなあとわたしたちは頷いた
ありがとうね、
ありがとうね、

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

心のなかの 満月は 心のなかの 満月は、

宵闇に灯る おそらく
蒼空 なんだろう 蒼空 なんだろう───

≪詩を、書きつづけていこうよ≫

わたしは ≪カミ≫という 媒体に依らずとも 自由気儘に描く
自由気儘 に 描いて
そうして いつか 「詩集、という、空間」 を 生みだすんだ

 

 

 

rainbow 虹

 

新丸子の
夜道を

キュアーの
ドリームの歌を聴いて

帰ったのか

歌は
叫びから

うまれた

なぜ
引き裂かれるのか

なぜ
殺すのか

虹をみたことが
ある

あれは橋のようだね
無い橋のようだ

きみは虹を見たことがあるかい

いない
きみがいた

 

 

 

淡々とじゃなく、タン、タン、タン

 

辻 和人

 

 

タン、タン、タン
タン、タン

来ちゃいました
お引っ越しの日
淡々と
起きてセンベイ布団をそのまま粗大ゴミに出し部屋に戻ったら
冷たい朝日が
畳の目のささくれを浮かび上がらせてる
見慣れたこいつがもうすぐ永遠に見られなくなるなんて
まだ目の前にある
まだ触れられる
座って指の先っちょでちょいちょい突く
ささ、くれ、ささ、くれ
歌ってるよ
ふふっ、お茶目な奴
知ってる?
君が今、急速に
懐かしくなりつつあるんだってこと
懐かしいよ、懐かしいよ君、ちょん、ちょん
タン、タン

ヤマト運輸のにいちゃんたち、手際いいなあ
ぼくの「仲間たち」だったものは
運ばれていくしかないもんな
淡々と
遂にトラックが出発
ご近所さんに挨拶した後
タン、タン、タン
からっぽの部屋に最後のご挨拶だ
薄手の壁と裸電球とちっちゃなキッチン
のっぺりした四角い空間
20年前、初めて来た時の姿のまま
カーテンはずすとこんな陽射しが入ってくるのか
「お世話になりましたっ。」
ぺこり
タン、タン

そこへ、だっさいTシャツ&ジーンズ姿の20代のぼくが
陽に透けながらつーっと滑り込んでくる
腕組みして周りを眺め、ポンと手を打つと
「いいんじゃない? よし、ここに決めた。」と呟いた
ほう、これが始まりのシーンか
どうせ聞こえないだろう、と思って
「この部屋探してくれてありがとう。」と小声で礼を言うと
くるっと振り向き
どうしよう目が合っちゃった!
「どう致しましてっ。」
皺のない顔をにっこりさせ
だっさいシャツを翻して昼の光線の中に溶けていった
タン、タン、タン
ありがとう
ありがとう
20年前のぼく
タン、タン

も、いいでしょ
さ、息を整えて
鍵、閉めようぜ
最後の、最後、せーの!
タン、タン、タン
タン、タン

「お疲れーっ、待ってたよーっ。」
笑顔で迎えてくれるミヤコさん
2週間前に引っ越し終わってるミヤコさんは余裕の表情
武蔵小金井の2LDK、ダンボールが記入された数字の通りに
タン、タン、タン
運びこまれていきますぞ
タン、タン
これはキッチン、これは居間、これは書斎
淡々と
区別されて運ばれていきますぞ
床を傷つけないように丁寧にシートを敷きながら作業していくんじゃなー
ぼくは缶コーヒー飲みながら時折質問に答えるだけでいいんじゃなー
20年前の引っ越しの時とは大違いじゃなー
ありゃま、もう作業終了ですか
タン、タン、タン

新居のフローリングは清潔そのもの
2階の窓から見渡せる庭には桜がたくさん植わっていて春が楽しみ
衣類や生活用品の整理は3時間弱で終わった
お次は本とCD、これはすぐには無理かな
タン、タン
タン、タン、タン
む、見てよ、これ
ダンボールから取り出された彼らの表情を
何て穏やかなんだ
まるで仏様みたいだ
きらーっきらーっきらーっ
冷たい肌の妖気はどこにも、ない
本は紙に、CDは金属に
きらーっきらーっきらーっ
うん、安らかな顔
君たちにはいつも抱きしめられてたから
今度は、棚に納める前に抱きしめてやるか
タン、タン
むむ、ミヤコさんが呼ぶ声がするぞ
ご飯できたって
それじゃ、これからも
淡々と、じゃなく
大事にするからね
タン、タン、タン

タン、タン
ミヤコさんが作ってくれたシチューを食べた
この家でとる最初の食事はあったかかった
食後に飲んだお茶はあったかかった
それからお風呂に入った
掬ったお湯がきらきらして
あったかかった
湯気の中から
閉める寸前の祐天寺のがらーんとした部屋の光景が
ふゅるるるんって立ち昇ってきて
おいって腕伸ばして立ち上がりかけたら
ゆらっと笑ってまた湯気の中に
あったかく消えた
それからそれから
お風呂からあがって髪を乾かし始めたミヤコさんの肩が
右肩も左肩も
しっとりとあったかかった
何とまあ
ジャージに着替えたぼくの
首も胸も腕も
めっちゃあったかかったよ
タン、タン、タン

タン、タン
明日は市役所で入籍の手続き
つまり、ここで過ごす初日となる今夜は
違う姓の2人としての
あったかい
最後の夜ってことさ
タン、タン、タン

タン、タン
暖房ちょっと強めにして
タン、タン、タン
名前を呼ぶと
タン、タン
呼び返してくれる
タン、タン、タン
握ると
タン、タン
握り返してくれる
タン、タン、タン
丸みを帯びた息が
タン、タン
こんなに近くで波打ってる
タン、タン、タン
よしよし
タン、タン
よしよし
タン、タン、タン
思えばファミやレドや、いなくなってしまったソラは
かわいがって欲しい時
よくしっぽをぴーんと立てながらスリスリしてきたものだけど
タン、タン
ぼくたちも同じだね
タン、タン、タン
ファミちゃんもレドちゃんもソラちゃんもぼくたちも
タン、タン
あったかさが溢れて弾んで飛び跳ねるのは
タン、タン、タン
触れ合うってことがあってこそ
タン、タン

 

 

 

花瓶は茶封筒

 

爽生ハム

 

 

からし揚を口にする祖母の頬が赤らむ。満足そうに手をはね、昔も今も変わらない文章を投げかけてきた。愛くるしい元気かというようなこと、忘れつつあるボウリングのこと、天気のことなど、夕方がまたやってくる。暗くなるまで電気をつけないせいで苦い。夕方をドリップする度に怖くなる、祖母のミルクの時間が。
飲み込めない物を飲み込む時間。
すぐさま、水につけないと容れ物にこびりついてしまう。放置してると花を飾ってみたくもなる、こういう花瓶を捜してたんだと思う。

 

 

 

足取りカルク

 

長田典子

 

 

とつぜん
火が噴いた

股間から
ささーっ、と
なにかが流れ出てきた
驚いて確かめると
血液だった
小学生のときのこと
学校から帰って
ほっ、と
椅子に座ったあの瞬間

あの、
衝撃、
のように

帰宅すると
もうぜんと
パソコンを立ち上げる
その日の学習内容をまとめる
宿題の作文を書くジャーナルを書くサマリーを書く
気が付くと明け方になっている
3、4時間眠る
教室へは誰よりも先に到着し着席する
まずは気持ちを落ち着けるところから始める
(そんなことは生まれて初めて)

気が付く
長い間やりたかったのは
このことだったのだと
英語が話されるその場所で英語を勉強したかったのだと

2011年10月5日
スティーブ・ジョブズ氏の死亡を知った夜
偶然 YOU TUBEで
2005年のスタンフォード大学卒業式でのスピーチを聴いた
ここに来てから10か月が過ぎようとしていた
ジョブズ氏のコトバのいくつかに
これ以上ないほど共感し合点した
からだじゅうを
血が駆け巡り
顔が熱くなった
鼻の穴から血が噴き出しそうになった

Don’t be trapped by dogma, which is living with the results of other people’s thinking.
(ドグマの罠にはまるな、ドグマとは他の人間の思考の結果を生きることだから)

55歳を過ぎて
ようやっと
ここまで来ることができた

And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become.
(そして、最も重要なことはあなたの心と直感に従う勇気を持つことだ。それらは、どういうわけか、あなたが本当になりたいものを知っている)

長い間
切望していた
そのことが今
現実になっている

Stay hungry, Stay foolish.
(ハングリーであれ、ばかものであれ)

ハングリーであり続けたつもりだったけど
ばかものになるほどではなかった
いままでは
人の期待に応えるようにして生きてきた

ばかものになれ
ばかものになれ
ばかものであれ

始まった
始まっている
ようやく
わたしはわたしを始めているのだ

その晩は
熱い炎のような塊を
胸に抱いて
眠った

夢の中で
大きな黒い山を登っていた
山頂の
黄色く煌々と光るものを目指して
いっしんに
曲がりくねる
白く細い道を登っていた
足取りカルク
こころ躍らせながら


マンハッタンの
朝の空気はぴんと乾燥している
チーズやベーグルの焼け焦げるにおいがする
高層ビルの先に広がる青空は
ビルの隙間をストローにして
からだの奥底に留まっていた重い重い枷、
のようなものを
きゅるきゅる吸い上げてくれる
ニューヨーカーが足早なのは
泥棒よけが始まりらしいけど
からだの重みを青空に吸収されて
日々
わたしは軽くなる
月面歩行よろしく
ぴょんぴょこ
軽く カルク かるく
透き通り
景色に
溶け込んでいく

ばかものであれ
ばかものであれ

自分の生き方をしていけ
自分だけの生き方をしろ

足取りカルク
こころ躍らせながら

 

 

※文中の英文はすべてスティーブ・ジョブズ氏のスピーチより引用