腐る

 

さとう三千魚

 
 

女が

家に
いる

このところ
いる

昼過ぎに
比呂美さんの若い頃の「カノコ殺し」の朗読を聴いた

野々歩さんがvimeoに上げてくれたのだ
痛かった

午後に
女とデパートに行った

デパートの8階で美味いもの市があるのだという

女は
わたしに

米沢の老舗牛めしと
他の店の搾菜とモツ煮を買ってくれた

それで
ひとり帰ってきた

女は友だちと食事するのだという

帰って
夕方に

小川の傍を歩いてきた

土手に紅い彼岸花が朽ちていた
赤黒く花は腐っていた

小川の水面を見ていた
水面に空が映っていた

空を見て
歩いた

灰色のまるい雲が空に浮かんでいた

比呂美さんの朗読を聴いて痛かった
ガザの地で人々が虫けらのように殺されている

どうだろう

言葉はどうだろう
言葉はどうだろう

痛かった
紅い花が腐っていた

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

黄表紙

 

工藤冬里

 
 

ハンドルにガバと伏せ唐草の曲線で舵を切るように(頻繁に)車線を変えながら渋滞の夕暮れ
誓いの中、黒い卵のように後頭は並んで。エンブレムの佇まいで燻されて出てくる一群
エケケケ・・未明の黒い雨の爆撃に中身汁サークルの欠損はまた(また)拡がり
今何が地球で生じても以前のように持ち堪えられる気がしない
タトゥーは黄表紙のように捨てられ姉は卵を飲み込む
心配事​があまり​に​多い​と,夢​を​見る​こと​に​なる。(ecc5:3)

 

 

 

#poetry #rock musician

新縦型物語

 

工藤冬里

 
 

大きな物語も小さな物語もベクレもヘタレもワクもヤクも
転生した竜や清掃員のフリした金持ちの新縦型物語のアドレナリン分泌に如かない
大なる者も少なる者も
マッチ強迫とジェノサイドゲームアプリのドーパミン過剰となって
思い出した鮎川さんのこと
スーパーマリオをやりながら死んだ抒情詩

 

 

 

#poetry #rock musician

そこにいた **

 

さとう三千魚

 
 

どこにも
いなかった

テーブルには
緑茶のグラスがあった

台湾みやげの
お菓子が皿に盛られていた

しばらく前には
いたんだとという

白と黒の猫は撫でられてもいた

という
どこにもいない

 

・・・

 

** この詩は、
2025年9月26日 金曜日に、書肆「猫に縁側」にて開催された「やさしい詩のつどい」第21回で、参加された皆さんと一緒にさとうが即興で書いた詩です。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

こんなふうに

 

辻 和人

 
 

こんなふうに
コミヤミヤとこかずとんがそろって
両手バンザイのカッコで
すぅっすぅっお昼寝の波に入っていくとね
ほっとして
やがていろんな雑念が浮かんでくる
あ、ヤなこと浮かんできた
友人と子供2人で暮らしていた母親が
生後5カ月の赤ちゃんを置き去りにしたまま数日外泊して
友人も世話しなくなって
赤ちゃん餓死しちゃった
数年前に起きた事件だ
詳しくは知らない
ニュースを知った頃は赤ちゃんかわいそうだなとしか思わなかったけれど
こんなふうに
すぅっすぅっお腹波打ってるコミヤミヤとこかずとん眺めていると
ズキッとくる
恐ろしいただ恐ろしい
お父さんはどうした?、2歳の長男は大丈夫?、友人って誰?
謎が多い事件だけど
5カ月の赤ちゃんが
お腹が空いてお腹が空いて
空いてるという感覚もなくなって
ぎゃおーバタバタしてたのがだんだん静かになって
ふうっ、消える
「ごみが散乱した悪臭が漂う部屋」*
こんなふうに
すぅっすぅっなんて二度とできない
直接手は下さない
置き去りにする時間と
置き去りにされた時間は
同時に流れていた
置き去りにする方は
赤ちゃんのことは頭のどっかに引っかかってたけど
引っかけたまま
別のことしてた
それはその人にとって
引っかけたことより何かしら楽しいことだったのかもしれない
その人には引っかけたままにしかできなかった
何らかの理由があったんだ
置き去りにされた方は
言葉もなく
ただただ干からびていく苦しみを味わって
干からびていった
飢えというより乾きだろうな
苦し紛れに
ゴミの中を這い回るくらいのことはしただろうな
またズキッとくる
どっちにしても
楽しかったと苦しかった、が
同時に流れたんだ
すぅっすぅっが流れているように
流れた

その時だ
コミヤミヤがころっ、ちょっと遅れてこかずとんがころっ
うつ伏せになったぞ
2人とももう自在に寝返りが打てるんだ
5カ月ってそういう時期
向かい合わせに顔を横に向けて
背中すぅっすぅっ波打ってる
頬っぺまんまる、お尻まんまる
お昼寝前に飲んだミルクが体じゅうを巡って
すぅっすぅっ波打ってる
この先、どんな風に波打っていくのかな
ずぅっと見守ることができたらいいな
コミヤミヤの指の先がぴくっとして
こかずとんの首がぷるっと揺れる
こんなふうに
こんなふうに
ずぅっとすぅっと
見守り続けられたらいいな

 

*地裁の判決理由より

 

 

 

帽子

 

塔島ひろみ

 
 

黄色い帽子たちが迫ってくる
背の順にならんで石をけり 傘をふりまわし
ゴミを蹴散らし 捨て猫を踏み
竹をなぎたおし 看板をぶっとばし
おならをし
通り過ぎていった橋のたもとに
交通誘導員の死骸がある
大きな穴があいていた
私は うっすら見える山を見ていた
土手の向こうに
京成が走る
黄色い帽子たちは何しろこれから
戦争にいくのだ
零戦に乗るのだ
一番背が低い帽子の
背中だけ見え
それから吸い込まれるみたいに
見えなくなった

 

 

 

鳥がいた

 

さとう三千魚

 
 

今朝も

ゴンチチの
ラヂヲを聴いて

小川の傍を歩いてきた

小川には
白鷺がいて

川鵜もいる

雀も
磯ヒヨドリも

たまに翡翠もいる

春には
燕たちもやってくる

小川には

野花も
咲いている

ラヂヲからは
遠藤賢司の”カレーライス”の歌が聴こえてた

ばかだなばかだな *

だれかがおなかをきっちゃったって *
う〜ん とってもとってもいたいだろうにね *

一昨日の夕方には
HIBARI Booksの店の前の木立に

雀かな

たくさん
群れてた

たくさん
たくさん

群れて鳴いていた

たくさん群れて
たくさん鳴いて

いまを
いた

鳥がいた
生きていた

 

* 遠藤賢司「カレーライス」の歌から引用しました。

 

 

 

#poetry #no poetry,no life

ひー頑張んな

 

工藤冬里

 
 

決定する能力は批判されるべきではない
昭和に鞭して
身体の決定は常に「眠れ」
終わりの時代に工藝性は必要なのか?
そうやって結論ありきでAIに相談してるといつかヤラベアム化するぞ

 

 

 

#poetry #rock musician

 

廿楽順治

 
 

わたしの足は
けっして洗わないでください

多くの足が
そう言い出してきかない

(うるさい地面の夜が来る)

がむしゃらに菜めしを
喰っているものに
そのかかとをあげてやりましたが

ある日
きみはわたしの足を
知らないと三度まで言うだろう

喰ったにわとりの足は静か

などと うつくしく
詩に書いてしまうだろう

その詩は
足に来た夜でも
だれの地面でもないというのに

 

 

 

小石を拾う

 

さとう三千魚

 
 

昨日は
立石の

二人展の後に *
駅前のブンカ堂で飲んだ

それから
桑原正彦の墓所に向かった **

立石の
桑原の

墓石に水を掛けた
手を合わせていた

墓石の下の
小石を拾い

ポケットに入れて
最終の新幹線で帰ってきた

今朝
義母の仏壇の

大日の足元に石を置いた
そこには

一昨年
女と登った

不二の小石もふたつ置いてある

赤い石と
黒い石と

溶岩石を置いてある

去年の
出雲崎の良寛記念館の

裏庭の
拾った瓦の欠片も

置いてある
小石や瓦はそこにある

あることのほかにはない

記憶が
曖昧になって

いる

亡き者たちを抱いて
無き者になっている

 

* 二人展:つげ忠男 × 中里和人 二人展「東京原風景・サブが居た街」のこと
** 桑原正彦:画家 桑原正彦のこと

 

 

 

#poetry #no poetry,no life