華 (はなび) 美

 

今井義行

 
 

ふっと 華美ら(はなびら)なんて 思い描いてしまう 日本人のわたし はなびらではなく 華美ら(はなびら) です
どの華の季節にも いつも、華美ら(はなびら)の 訪れる予感はしていて、

ああ、SNS は 華盛りですよ ────

Facebook には 日本を縦断するように華盛りのことばや写真が寄せられています
わたしも 投稿しているひとりです

華 (はなび) 美 華美ら(はなびら)の指先とふれあう その楽しみ

Facebook のお友達は 長く日本人ばかりだったので
ユーザーは 日本人ばかりのように 錯誤をしていた
やがて 海外からのお友達申請が届くようになった

男性よりも 女性のひとたちが多かった そうして

女性たちは 地球ネットワークの中から おおむね
「Are you married?」と問いかけてきた 直截的だ

ある華の季節に アフガニスタンのアメリカ女性軍曹 Tracy から
メッセージが届いた 志願兵部隊では 輪姦されっぱなしだという
「I have been raped since I was a child. I want to withdraw from this unit. To do that,
I need money to dispose of confidential information.
(わたしは幼い頃から レイプされっぱなしです。私は、この部隊を離脱したい。
その為には、機密情報を処分するためのお金が必要です)」

わたしは「NO」と言った すると、彼女は 途端に自らのアカウントを消した
それが SNS の ひとつの側面なのだった───

共通する FB フレンドの パキスタン人の男性に尋ねてみた
Tracy について 何かご存知か、と
すると彼から「関心ハ無イデス」という返信が来た

ネット上では よくある話だ

やがて、インドネシア、カンボジアと 東南アジアの華 (はなび) 美が訪れてきて
・・・・・・・・・ 中東のカタール国で秘書をしている
フィリピン人女性 Argerie から お友達申請が届いた

1977 年生まれ じきに 40 歳 シングルマザー
タイムラインを観ると 日本人男性の FB フレンドの写真がタイルの ように びっしり貼られていた

(一体 どのような ことを 想っているの か)
そんな 素朴な疑問に 衝き動かされた

Argerie もまた 「Are you married?」とたずねかけてきた
私は 「NO」と答えた

≪詐欺≫ ということばが 頭に 浮かんだ

Argerie アルジェリー・ドミンゴ・ハビエル
≪ハジメマシテ ワタシト ナカヨク シテクダサイ
ワタシハ ニホンニ トテモ キョウミガ アリマス≫

アルジェリーは そのように 私に自己紹介した

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫
≪ワタシハ ワルイ フィリピーナ デハ アリマセン≫

それから 彼女は たくさんの写真を 送信してきた
出稼ぎ労働者として毅然と働く姿 華 (はなび) 美 フィリピーナ同士ランチを 愉しむ姿 華 (はなび) 美
故郷のフィリピンの家で娘たちと戯れる姿 華 (はなび) 美

彼女を疑おうと思えば いくらでも疑えたのだが

私は そういう心情にならなかった 華 (はなび) 美 が 綺麗に見えたから ヲんな は 生きていて
「お」より「ヲ」のほうが 弓のような しなりを 感じるのだった

わたしは精神障害者認定されて5年余り
もう、人を差別することからもされることからも解放されたかった
入国管理局も厚生労働省の視線も わたしからすれば酷似していた
わたしは知り合ったばかりの アルジェリーを 疑いながらも メッセージの送受信を続け ていった Google 翻訳を 使いながら。
「I am Poor Japanese」華 (はなび) 美「No Problem」華 (はなび) 美
「I have No Job Because It is a Disabled Person (障害者)」華 (はなび) 美
「No Problem」華 (はなび) 美

富裕層でも貧困層でも 日本国籍を取得するのが お目当ならば
あの手この手で カモにするのは とても簡単なことだろう
しかし、どんなにわたしが警戒心をあらわに言葉を送り返しても
「No Problem」という返信が 直球で返って来るのだった

(わたしは、こころの何処かに 希望=華 (はなび) 美を持っていたような気がする)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「Love is no Money」──── それは、ある 夕刻のこと
彼女から 送信されてきた 一文です

それから ビデオ通話が始まった 〈I’m at Break Time〉
原色のシャツ 笑顔の表情筋は 彼女が時間を掛けて育ててきた褐色のばらだった
華 (はなび) 美
彼女はイヤフォンをつけ 広過ぎる砂漠に囲まれた通りを歩いていた
華 (はなび) 美
〈Are you Happy?〉〈・・・・・・・・〉〈I am Lonely〉
わたしの mobile 画面の右下には東京下町のアパートの部屋で蹲っているわたしの姿が 映し出されていた 〈・・・・・・・・ワタシタチ ハ 何処カデ 遭ッタコト ハ
アリマセンカ・・・・・・・・?〉 Google 翻訳を使いながら わたしは 日本語と英語の
混ざった 奇妙な言語で 伝えていた 〈・・・・・・・・, Maybe〉

それから 一カ月の間 一日も 途絶えることなく
言語の違いも 膚の色の違いも 時差も気に懸けず
わたしたちは、お互いの写真や暮らしの光景を送信しあっていった・・・・・・・・・・・・・・

How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
ドーハ(Qatar) と 東京(Japan) の 時差は 6時間 あるので
日本時間 夜明け前に 「Oyasuminasai」 の 言葉が とどく
・・・・・・・・・・・・・ Nakayoshi zutto ・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ Nakayoshi zutto ・・・・・・・・・・・・

わたしたちは 14 歳差の双極性のふたごのように送受信を交わした

華 (はなび) 美

日毎スパークして 黒い手元に舞う光りの砂がとても目映ゆかった

華 (はなび) 美

愛が 愛なら わたしは あなたと いつまでも 一緒に 居たい
あなたが ずっと 居て くれたならば
小さな孤独なんて 吹っ飛んで しまうさ ────

けれど、このことを 旧友も主治医も フィリピン人の妻を持つ FB フレンドも 節度ある 心持ちから わたしを 懸念した ────

アルジェリーは わたしを包みながら 過去を次第に語りだしてくれた
「My X husbaund (元夫) was too much Lazy……………」「………..」
(Google 翻訳、辞書など介在させ、) 奇妙なニュアンスの
文字面で彼女はつづけた ────
「彼 姦リタクナルト
現レテ 私ヘ種, 植エツケマシタ ,,Splash,,// Semen,,// カソリック
教徒ダッタカラ ,,Splash,,// Semen,,// 私達 避妊;堕胎 選択肢持タナカッタデ ス ,,Angry,,//With,,//」

私は 返信した

「I have always been a Single Man え、なぜかって? 数回の恋人は
すべて Already Married 孤独でもあったがそれは自然現象の様相でもあった」

旧友は〈その関係性が進展していったとして、今井さんにその結果 何事も受け止められる力はありそうですか〉とわたしに告げた
主治医は〈精神疾患を持つ患者にとってそれもまた依存の形ではないか〉 とわたしに告げた
フィリピン人の妻を持つ FB フレンドは〈そのお相手が、そうして日本人 に目を向ける理由は、日本国籍を取得して外貨を目的としている・・・・・・ ということはやはり否めないのではないでしょうか〉とわたしに告げた

「三度目ノ出産後 姦ルコトノホカ Lazy ノ X husbaund ヲ Papa ト兄 Lee ・・・・・・血祭リニシタ ,,Splash,,// Blood,,// 血祭リ、血祭リ、」
「ソノ後、Doha へ働キニ出タ
ソシテ 私ハ English Man ト恋愛ヲシタ デモ彼ハ Already Married ダッタ 私ハ激シク嫉妬シタ彼ハ言ッタ〈Let’s Leave Three daughters and get Married in London with Me〉私ハ English Man トノ関係ヲ辞メマシタ 彼ハ裕福ダッタガ〈Love is no Money〉and〈Important is the ability to make Decisions 決定力〉,,Splash,,// Decisions ,,// ,,Splash,,// Decisions,,//」

・・・・・・・・・・・・・・ How are you ? ・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ How are you ? ・・・・・・・・・・・・・

夜明け前に mobile の窓を開きあってビデオ通話が始まる 働き終えて
華 (はなび) 美
化粧を落とした アルジェリー の褐色の顔は半ば敷布に沈み瞬きをしている
華 (はなび) 美

・・・・・・・・・・・・・ 〈Oyasumi,nasai〉 ・・・・・・・・・・・・ 華 (はなび) 美
・・・・・・・・・・・・・ 〈Oyasumi,nasai〉 ・・・・・・・・・・・・ 華 (はなび) 美

華 (はなび) 美 が ひかっていたんだ

 

 

 

風が時間を洗っている *

 

ひとりの女と
犬と

暮らしている

犬の名はモコという

風が
時間を洗っている *

時間は
見えない

そこにいるのに

見えない
子どもを連れている

歩いて
きた

遠い道を歩いてきた

風が吹いている
風が時間を洗っている *

モコの金色の毛が光っている

ことばは

時間は
尾をひいて

消えた

光っている
風が吹いている

 

* 工藤冬里の詩「あらゆる希望を超えて待ち望む」からの引用

 

 

 

黄ぼう

 

小関千恵

 
 

 

深夜バスの暗闇で

流れるまま書きつけていた

最後だけ ゆうれいのことば

かなしいゆうれいが 急にでてきて 元気になったら、とか 明日を見る、なんて

言って

そのまま
朝になるまでノートを握っていた

朝 光に映しても

読める文字だったので感心した

 

 

いつも光にかまけているね

そうして光の中で眠っているね

背中のいとの絡まりも見えないまま

光 さえ あれ ば かまけている わたしたちの

眠ってしまう からだの踊りよ

 

 

 

エノコログサの穂

 

駿河昌樹

 
 

上野駅の常磐線ホームの
後端というのか
他より空いているはずなので
最後尾の車両に乗ろうと
端っこのほうで待っていた

近い線路と
むこうの線路とのあいだに
ちょっとした園のように秋草が茂って
ことに
エノコログサが
まだ若い
きれいな穂をつけて
何本も
何本も
風に揺れている

昼間なので
陽はちょっと暑いくらいに射して
いい
眺めだ

エノコログサの穂というのは
なんというか
ちょうどいいかたちで
幸せだった子ども時代を
象徴してくれているように見える

ほんとうに幸せだったにしろ
そうではなかったにしろ
それほどでもなかったにしろ
エノコログサを見ていると
やはり
幸せというものはあったかのような
気にさせてくれる

何本も
何本も
風に揺れている

列車が
なかなか来ないのも
いい

何本も
何本も
風に揺れている

 

 

 

あらゆる希望を超えて待ち望む *

 

工藤冬里

 
 

タイムウィンドというよりウィンドタイムだ
風が時間を洗っている

風は時間よりも爽やかだ
内臓の岩に吹く
プレハブのモルタルの現在
フルートの管の中を
痛みを運ぶ
空白空0電気にのせて
翼は鏡に刺さり
ヨブはあたらしい陶片を手に取る


ぼくはもう何も期待していなかったし、期待できることは何もないと重々承知していた、現状に関するぼくの分析は完全で確実に思えた。人間の精神には知られていない領域があり、それはあまり開拓されていないからだ、幸いにもその領域を探索する羽目になる人は少なく、その作業を行った人は十分な理性を持たないがゆえに、これなら分かるという描写には至れないのだ。そのゾーンには、実際に思い出せる限りただ一つの表現、「あらゆる希望を超えて待ち望む」という、逆説的で不条理な表現を使うことでしか近づくことができない。それは夜と同義ではない、さらに悪い。そして、個人的に経験はないものの、実際、真の夜、半年続く極夜の中でも、太陽のイメージや思い出は残るのではという気がした。ぼくは終わりのない夜に入りこんでいたが、それでいながら、自分の憶測に何かが残っていた、希望と言っては言い過ぎの、不確実性とでもいうべき何かが。同様に、個人的に勝負に負けて、最後のカードまで出してしまっても、ある人たちにはーあくまでも全員にではないがー天で何かがもう一度状況を作り直し、新しいカードを恣意的に配分してくれて、もう一度サイコロを振り直してくれるという気持ちが残っている。神などというものの介入や存在さえ人生で一度も感じはせず、自分に好意的な神の采配に特に特に値しないと感じていても、そして自分が人生を構築する上で限りなく過ちを重ねてきたとみなし、誰よりもそのような采配を受けるに足らないと気がついていても。
ウェルベック「セロトニン」関口涼子訳

三番町のSAORI皮膚科で
処方されたジェネリックのステロイドのお陰で
眠気という采配を受ける

風は
臍にまで達する
血に至るまで抵抗したことのない胎児には
もどれませんよといわんばかりに

 

 

 

くり返されるオレンジという出来事 5

 

芦田みゆき

 
 

犬は球体を吐き出す。

夕暮れだった。
いや、空は重たい発色だが、それは昼下がりなのかも知れない。
ともかく、犬は球体を吐き出し、よだれを垂らし、こちらをじっと見ている。
吐き出された球体が少し動いた。動いた、ように、見えた。
次の瞬間、
犬は鎖を引きちぎり暴走する。
スクリーンから犬ははみ出し、
もう見ることができない。
雨が降りはじめる。
球体は身もだえるかのようにもぞもぞと揺れて、転がり始める。初めはゆっくり。次第に、次第に速く、速く、速く、犬を追うかのように速く。

 

 

 

 

 

 

 

 

家族の肖像~親子の対話 その42

 

佐々木 眞

 
 

 

去るって、なに?いなくなること?
そうだよ。

駅構内は?
駅の中よ。きっぷ買って入るとこよ。

お父さん、保土ヶ谷、保土ヶ谷区でしょう?
そうだよ。

お母さん、ゼンジさんねえ、近鉄丹波橋でお仕事してる?
そうよ。

お父さん、ご無沙汰って、なに?
お久し振りですね、のことだよ。

お母さん、ジョウトってなに?
譲り渡すことよ。
そうよ、そうよ、ジョウト、ジョウト。

テレビで新木場って言ったよ。ぼく今度、新木場行きますよ。
そう、いつ行くの?
わかりませんお。

お母さん、くつろぐって、なに?
ゆっくりすることよ。

お父さん、ロープウエイ、止まってますよ。
どこのロープウエイ?
大涌谷の。
ああ、箱根のね。

愛子さん、平成14年に亡くなったよ。
平成14年って、西暦なんねん?
2002年だお。
コウ君に聞くと、なんでもすぐわかるから便利でいいわ。

お父さん、それからの英語は?
アンドだよ。
それから、それから。

コウ君、この葉書、出してきてくれる?
いいですよ。
車に気をつけてね!
わかりましたお。

お母さん、居酒屋ってなに?
お酒を飲むところよ。

ご先祖さまって、なに?
おじいちゃんとかおばちゃんとかよ。

ホソカワさん、社長だったでしょう?
そうだったねえ。

お父さん、やりにくいって、なに?
それは、やりにくいことだよ。コウ君分かるでしょ?
分かりますお。

お父さん、左足の英語は?
レフト・フットだよ。
ひだりあし、ひだりあし。

お父さん、完成ってつくることでしょ?
そうだよ。でもなかなか作れないんだよね。

お母さん、予感って、なに?
そういう気がすることよ。

お母さん、感じるって、なに?
思うことよ。

座布団、綿でしょ?
そうだね。

お母さん、申すと甲、違うでしょう?
違うね。

お母さん、申し込むって、なに?
お願いします、のことよ。

結構、いいことでしょ?
そうだね。

お父さん、難しいの英語は?
ディフィカルトだよ。
デエフィカルト?
ディだよ。ディフィカルト。
デエフィカルト、デエフィカルト。

明日、西友行きます、お母さん。
分かりました。

離山好きですお。
離山って?
大船の。
ああ、ウダさんちのあるとこね。

ぼく、オオツカ先生好きだお。
そう。良かったね。

絶対離れちゃだめだお。

ぼく、ジュンサイ好きですお。
そう。
ジュンサイ、ハスに似ているよ。
そうね。

ミエコさーん、ぼく、さいたま市すきですお。
そう、お母さんも好きですよ。今度一緒に行きましょう。
いやですお。サイタマシ、サイタマシ。

お母さん、ぼく心配ないですよ。
何が?
マスイですお。
マスイ、できそうですか?
できそうですお。

お母さん、下らないってなに?
つまらないことよ。

遅れてるって、なに?
遅れてるってことよ。

だからって、なに?
それだから、よ。

コウ君、きょう夕飯なににしようかな?
コンスープがいいですお。コンスープにしてね。
分かりました。

お母さん、いかんにたえないってなに?
残念、残念ということよ。

お母さん、孤独ってなに?
ひとりのこと。耕君、孤独ですか?
孤独じゃないよ。

ワタナベさん、逗子に引っ越したの?
そうよ。

お父さん、スーパーワイドドア、凄いですよ。
そうなんだ。

お父さん、ケイタイ無くしました。
どこで?
ふきのとう舎の2階で。
あったの?
無かったお。

「若し」は若いっていう字でしょ?
そうだね。

お母さん、抜群って、なに?
ほんとにすごいことよ。

お父さん、ぼく地下鉄す好きですお。ブルーライン、ブルーライン。
ブルーラインてなに?
横浜の地下鉄ですお。坂東橋、坂東橋。

お母さん、御無沙汰って、なに?
長いことお目にかかっていませんね、よ。

 

 

 

夏の終わりに

 

みわ はるか

 
 

コスモスはあんなに細い茎なのに真っすぐ長く背伸びするように存在している。
一番てっぺんにはあんなにも可愛らしい花を咲かせる。
仲間と共に集団で並んでいて、不思議なことに多少の強風には身を任せるだけで折れている所をほとんど見たことがない。
風に吹かれてゆらゆら揺れている姿にはか弱い印象ながらもあるがままを受け入れるたくましささえも感じる。
その上空には早くもトンボが飛び始めていた。
秋はもういつの間にかやってきたみたいだ。

9月の1回目の3連休、わたしは地元の友人宅に招かれてバーベキューをした。
メンバーは3人で中学を卒業してからは疎遠になっていたが、それぞれが大学生のころから定期的に再開するようになった。
そこで必ずやるのはトランプの大富豪だ。
わたしがトランプ係になぜかなってしまったのでいつも忘れないように気を付けている。
掌サイズの小さいもので、裏にはクリスマスの時にかぶるような帽子をかぶったクマがデザインされている。
「Merry X’mas」と大きな文字で書かれてもいる。
かれこれ10年近く使っているのでボロボロになってしまった。
小さくてシャッフルしにくいとか色々ぶつぶつ文句もでるけれどどうしてもわたしはそれを使い続けたい。
思い出に勝るものはなかなかないと思っているから。
だからその日持って行ったトランプももちろんそのボロボロのトランプだった。

雲一つない青空、気温も容赦なく昼に近づくにつれ上がっていった。
外の木陰にいるにも関わらず次から次へと汗が滴り落ちる。
炭と着火剤を使って火をおこすとあっという間に炎が姿を見せる。
せっかく奮発していい飛騨牛を買ったのにみるみるうちに黒焦げになってしまった。
みんなでトングをせわしなく動かして肉を救出した。
貝殻の上にのったホタテはいまいち火が通ったのか分からなかったのでひっくり返して貝殻が上になるようにしてみた。
そしたらなんといい具合に焦げ目がついて醤油を垂らすとそれはとっても美味しかった。
殻ごと焼いた大きなエビは手をベタベタにして殻をむいて食べた。
まるで子供みたいに体裁を気にせずかぶりついた。
肉、野菜、海鮮・・・・・・、様々な新鮮な食材を網に並べると色鮮やかできれいだった。
炎天下の元、ジューといい音が食欲をそそった。
みんな笑っていた。
それはわたしが昔から、ずっとずっと昔から知っている友人の笑顔だった。
大人になった分顔も少しは変化する。
だけど、笑った時にできるえくぼ、生まれた時からずっとそこにあるほくろの位置、切れ長になる目。
変わらない部分を確認できたときものすごくほっとするのはわたしだけだろうか。
どんなライフステージにいてもやっぱり人間笑っている顔が一番いいなと思った。
それが自分の家族や友人、大切な人ならきっとなおさら。

〆のラーメンを食べた後、エアコンで涼しくなった部屋の中でもちろんトランプをした。
それは3時間程に及んだ。
ずーっとほぼ大富豪。
たまに飽きてきたら7並べ。
それの繰り返し。
よく飽きないなと言われるけれど、みんなの顔色をうかがってカードを出していくゲームはただ単純に面白い。
たまには何時間も熱中してアナログのカードゲームをするのも悪くない。
色んな事、ぜーんぶ忘れてただ目の前のカードの数字に集中する。
勝利を確認してニヤっとしたり、逆転されて本気で落ち込んだり、敢えてカードを止めてちょっと意地悪してみたり。
そんな時間は何にも代えがたい宝物になる。

「stand by me」という映画がある。
幼少の頃の友情は貴重で永遠で、二度と戻ることはできないけれど忘れるとこはできない瞬間である。
そんなメッセージを伝えているものだ。
わたしは古い友人に会う時、この映画をよく思い出す。
古い友人と言える人がいてくれてよかったな、それだけで人生は豊かだなと思える。
これからはもっと会う頻度は減っていくと思うけれど、みんなの心にはきっと薄れることのないそんな日々が残っている。
それだけできっと十分だ、そんな気がする。

 

 

 

ラッパと長靴

 

塔島ひろみ

 
 

ゴルフ練習場から球を打つ音が聞こえてくる。
その裏に沿い神社へと続く道は行商豆腐屋の通り道で、
今日もラッパを吹きながらバイクを低速で走らせていると
「お豆腐屋さーん!」と声がかかった。
それは古い木造アパート脇の静かな場所だ。
高齢の男性が2階から声をかけ、タッパーを手に降りてくるまでの間に豆腐屋はバイクを降り、スタンドを立てると、チョコレート色のガードレールに近づいた。
おいしそうな色のガードレールが整然と続き、歩道を歩く人を交通災害から守っていた。
根元ではところどころにペンペン草がこんもりと茂り、生温かい風に揺れている。
豆腐屋はガードレールの上部を両手で持ち、長靴の足で強く、蹴りを入れた。
それから下の雑草の辺りも、ゴンゴンゴン!と、蹴り潰す。
豆腐屋の顔は戦争のように厳しく、暗く、一言も発さない。

高齢の男性が到着した。
その頃豆腐屋はバイクに戻り、荷台にくくりつけた冷蔵ボックスの蓋に手をかけて男性を迎える。
腰が曲がり、足の弱った男性をいたわり、体の様子を聞き注文を受ける。豆腐を男性の持ってきた容器に入れ、油揚げをポリ袋に入れて手渡し、金を受け取る。

すべてが終わり、男性は家へ、豆腐屋はヘルメットをかぶり直し、バイクにまたがる。エンジンをかけ、出発する。
プーププー。豆腐屋の息を含んだラッパの音は、次第に薄く、遠くなる。

代わりに、思い出したようにゴルフ球を打つ間延びした音が聞こえ出し、黄砂のように辺り一帯に充満する。

・・・・・

路肩に停車するオレンジ色のトラックのドアが、静かに開いた。
中でパンを食べていた犯人は、帽子を被り大きなマスクを装着し、
高齢男性と豆腐屋がいなくなった道にコソと降り立つ。
そして豆腐屋が蹴り飛ばしたガードレールのところへ行った。
ガードレールは傷はなく、汚れてさえいない。
雑草は少し折れているが、もともと折れていたのかもしれない。枯れ始めて汚らしい雑草だった。

犯人はしばらくガードレールを触って豆腐屋を思った。

 
 

(9月28日、新小岩サニーゴルフの裏手で)

 

 

 

Mobile Destiny

 

今井義行

 
 

ボブ・ディラン は、1964年に
「時代は変わる」と言った そして、いまも、時代は 変わり続けてる

≪I miss you≫ ≪I need you too≫ ≪I promise≫ ≪I promise too≫

小室 哲哉(引退) は 、Electro Meister 堕ちたと言われても 再評価 間違いない
世界進出を 目論まなかったのが 良かった 旋律に日本語を 載せ切れた人だ
「1990年代後半から 表現への接しられ方が
決定的に変わってきてしまった」と 2017年に 言って る

≪I need you≫ ≪I miss you too≫ ≪I promise≫ ≪I promise too≫

「ストリーミングの時代になり シャッフル再生が 当然 と なり
アルバムの 曲順構成は もう 意味を 成さなくなった」 と ────

≪Just be patient and careful to yourself… think good things in life that can happen to us… smile and be happy… I wanna be with you for the rest of my life!≫

と いうことを 考えると 「詩集」 という 器 の中の 詩の 並び順
と いうのも 今後 おおきな 意味を 成さなくなるので はないかな?
気に入った詩から読み、そうでない詩は、あとにまわす
気に入った詩は 読み、そうでない 詩は、スキップしてしまう。

スキップ!!

アルジェリーは、ドーハで 会社秘書を している フィリピン人 女性
わたしは、東京の 江戸川区で 暮らしている 日本人
出会いは Facebook上の一瞬の出来事 昔から知ってる者同士みたいな気がした

はじまりから メッセージや ビデオコールの 送受信を 1日も 絶やしていない
Mobile Destiny
私は 私たちの関わり方を そう名づけた

アルジェリーとわたしの ビデオ対話は 1日 僅か5分
それは とても尊い 5分・・・・・・・・
わたしは 彼女との コミュニケーション能力を 高めたくて
毎朝3時から4時までを
スマホでの(ベッドで横たわったままの)
英語学習に 充てて る

そのとき アルジェリーから「Good Night, My Yuki」という
メッセージが届き 対話がはじまる。
時差があるから わたしは「Good Morning, My Argerie」だ

「I miss you」 「I miss you too」 「I want you」 「I want you too」

対話をしなから ふと 液晶パネルを 見ると
アルジェリーが 泣いている ことがある 「Naze,Crying?」
「Watashi wa ,Lonliness………」「Lonliness………? 私は、ここにいるよ!」
共有時間を 多く持てないことも あるかもしれないけれど
聞けば 彼女には9人のボスがいて それぞれ国籍が異なり
1日中 おこられどおしで 仕事が終わることもあるらしい

「Watashi wa ,Lonliness………」
「Take Care, よくねむれますように………」

≪I wanna be with you for the rest of my life!≫

アルジェリーは 表通りを 忙しく 歩き回る時 おそらく 笑顔の綺麗な 楽天的な
女性だろうとおもう だから、多くのことを 任され過ぎるのだと おもう
3人の娘たちの教育費 実家への送金 なみだを晒してもらえるのは嬉しい

スキップ!!

2009年 4月11日
Britain’s Got Talent に出場した 垢抜けないおばさんが
レ・ミゼラブルの ≪夢やぶれて≫を 朗々と歌い上げて
観客や視聴者の気持ちを 鷲掴みにした
≪夢やぶれて≫どころか その日 夢はかなったのだ ──

Susan Magdalane Boyle の話 そんな人もいる

スキップ!!

アルジェリー、私たちが 結婚して 日本で暮らすなら
富めるときも 貧しきときも 健やかなるときも 病めるときも

、、、、、、、 いや、富めるときは、ない。
いま 私は 困難な問題に 直面しているのですか

もしも わたしたち ここ での
Mobile Destiny もとめるなら まだるっこしい 助詞は要らない
わたしたち  深まるため  方法  覚えあう
覚えあう

「We pray」  「We pray」  「We pray」

アルジェリーの 宝物は 家族 家族への愛の 還元が、私を含む
家族 みんなを いかしめる

私は、3人の娘を養女にするつもりです、アルジェリー
3人の娘は 5人家族に なりたがって る
愛しあっていれ ば あたりまえの こと でしょう ・・・・・・・?

富めるときも 貧しきときも 健やかなるときも 病めるときも

、、、、、、、 いや、富めるときは、ない。
いま 私は 困難な問題に 直面しているのですか

みんな しあわせ なりたい けど
いま 私 困難な問題に 直面 しています ───

多くの// 人が// 越えて// 生きたいと おもってる

スキップ!!

フィリピンのカーニバルのエレポップが聴こえてくる
駅の階段の下には

乞食が 死んでも いるだろう

今年のクリスマスから 来年のニューイヤーに
かけては フィリピンで 過ごす予定

それが 最期に ならないことを いのる