盆波に乗せよ馳せよ

 

一条美由紀

 
 


その危うさは武器なのか、
それとも自由な思想のための踏み台なのか。
彼女は行く。
上手くいかないことを数えては忘れ、
淡い夢をしたたかさに変えて、、。

 


熱帯雨林の街
異常気象も慣れてくればなんとかなるさ
無敵な人間たちは今のひとときが楽しければ明日もチョロい
そして
未来への提言はいつもプラカードのままに終わる

 


誰かがいつもたくさん欲しがるから
誰かがいつも何か足りない

 

 

 

かの鳥は塔の岪(へつり)に住む

 

一条美由紀

 
 


彼女は正義の味方だった
鉄腕アトムは彼女の仮の姿だった
少女の時はなぜ世間は窮屈で偏見に満ちているのかと思っていた
大人になり、いろんなこととうまく距離を持つことを覚え、
母になり悩みながらも子供に多くの愛情が自分から生まれてくることに驚いた
その中でも彼女は正義の味方だった
時に間違いも犯したが、いつも正しいと思うことを目指した
今彼女は少し背中が丸くなり、膝は歩くたびに痛む
アトムだった女は、もう正義の味方ではなく、自分自身の味方となった

 


生(せい)のあるものだけが知っているフィクション
Yesの意味は無限にあり、どれを選んでも正解である

 


変形自在な価値観が世界を覆い、
自分の目と感覚の自信が壊れてしまう。
迷い児となり助けを求めても、
流れをやめない喧騒に溶けて行く

 

 

 

テレパシーの取説

 

一条美由紀

 
 


コピーされたDNAが考えたフリをして
銀色の手袋をしてる
頭脳をハッキング
秘密はもはや得られない
全人類に共有の記憶 体験 感情
ギクシャクとしたダンスでタップを踏んでいる
承認はいらない
フロントガラスも傷だらけ
システムをクラッシュして
笑い声と眠りの中を泳いで行く。
乳母車の中で眠っているのは誰なの?

 


5年前のあの日の写真 あなたの声が立ちあがる。
青空が憎くなる気持ちを持て余し、
ヒールに履き替え、駅に急ぐ

 


今が真実ならそれでいい
真実もまた変化するものだから

 

 

 

ただ在るように在りたい

 

一条美由紀

 
 


不安ばかりで不確定な日々は、過ぎた時が答えを見せる
いつも見守ってくれる人がいたのだと
感謝を伝えたいと思う時、なぜいつも遅すぎるのだろう
私もあなたも伝えたいことを秘めたまま消えていくのだ

 


すべてが敵のように思い込む若さが
必要だったと、
今わかる

 


少し小さくなったその顔は蝋人形のように黙っていた
いい歯医者さんを見つけたんだ、あの時言ってたね
待っている私たちの前に息を切らしてやってきたのはそれから半年後
遠くから写真を撮った
なぜもっと記録しておかなかったのか
消えてしまうその前に
記録しておかねばならない
記録は記憶となる
そして記憶も白檀の香りと共にいつか消える

 

 

 

夜道で会った人と話をするべからず

 

一条美由紀

 
 


死んだらいいのに
言っちゃいけないことだから
思っちゃいけないことだから
バチが当たったらいやだし
でもこう思うこともある
死んだらいいのに
ナイフを持って
深夜を一人歩いて
泣くための悲しい話を探して
死んだらいいのに
他人を自分を
目に見える全てを憎んで
死んだらいいのに

 


遠い地で不思議な大地を撮り続け、
長い旅から帰ると、
故郷の空気は美しく私を出迎えた
見えてないだけだった
謎が生まれたところに答えも同時に存在するのだった

 


1本の電線は会えない母の存在の証
電話での会話は時々意味が通じない
遠くにいる後ろめたさが背中を覆う
まだ大丈夫 まだ大丈夫
でもいつか大丈夫じゃなくなる
背中を映すことのない今日が
明日に変わるのが怖い

 

 

 

利己的な遺伝子

 

一条美由紀

 
 


6畳の箱に住む住人
ゲームの山は優しく、
震える声は希望なのか
怒号ばかりの画面に、自分は
何者かに変わっていく。
怖さの中に
全てを簡単に単純に
ただ過ごしていく。

 


理想を追うほどに人は追い詰められる
最初は他人を否定し、
次に自分を否定して闇に閉じ込められる
だが、追いかけてきた先にドアはいくつか開かれている

 


半透明の子供が通り過ぎる
背中に落ちた枯れ葉が重い
石畳は過去の匂いを放つ

 

 

 

君の脚音を集めて飲んだ

 

一条美由紀

 
 


美しい言葉の奥に潜む自己満足のあざとさに
むしろ醜いままの方がマシだと思う

 


乗客は残り少ない
何処かへ行かねば、、
目的は必要なのだ
たとえ嘘でも

 


日は沈み影絵のなかに車は滑る
宇宙のことわりの中に
答えのない問いかけは増えてゆく

 

 

 

理解するには時間が必要

 

一条美由紀

 
 


私は神である
神は誰からも求められず、誰をも求めない。
神はまた何も求めず、あるものをただ消費し、
食い散らかす。

 


私から吐き出る言葉を食べてみて、、、甘いから。
私の視線を聞いてみて、、、闇だから。

 


長すぎる待ち時間
同じことを繰り返す未来を持っている

 

 

 

愛する人たちが、この世を去った時、
まだここに留まりたいと思うだろうか?

 

一条美由紀

 
 


あなたの瞳は別な世界を映している。
友達だった時間は、金緑石に変化した。
たくさん話そう。
たくさん話そう。
あなたの世界へ、
わたしも雲をすり抜けていく時が来たら。

 


答えは孤独からは生まれない
でも孤独は質問してくる

 


わたしの見えない触角で
あなたの見えない触角に伝える
”積み木の色は、青くて少し甘辛い”

 

 

 

列車を見送ったのは、ホームに記憶された影たちだった

 

一条美由紀

 
 


鬼は人間をバクバク食べるのが好き。
人間の悲鳴もちょいとしたスパイスだ。
ある時変な人間を食べてしまった。
そいつは食べてくれてありがとうといい、
そいつを噛み砕いている時、
うふふ、うふふと喜んでいた。
何十年何百年と年月は過ぎていったが、
鬼はあの人間の喜ぶ声が忘れられなくて、
ある日あの人間に変わってしまい、
食べてくれる鬼を探し続けることとなった。

 


言葉を探すのはつらい
考えてる時、頭の中に言葉はない
感覚の湖の中にドブんと沈み込み
そこでキラキラしたものを探してる
言葉で現実に戻そうとしたって
言葉は嘘つきだから
キライ

 


私が猫だったら、
いつも可愛い可愛いと言ってくれるのかな。
うっかりあなたの大切なものを壊しても
仕方ないか、猫だもの。と言って許してくれる。
私が猫だったら、
いつも側に来て優しく撫でてくれるのかな。
そしていつかあなたより先に死んでいっても
あなたには私との美しい思い出しか残らないのだ。