オリンピック(いくたびも雪の深さを尋ねけり 子規)

 

工藤冬里

 
 

走ることが競争ではなく走り「きる」ことだと知っていたら強迫神経症にならずに済んでいたでしょう
「美味しゅうございました」で通じるほどに膾炙しているのは是認を得ようとする欲望への本能的な疑義が立ち昇るからでしょう
狭い道を躓かないように犇めき合ってアニメのように走った
愛に裏道はなく抜け道に義はなかった
表参道にも竹下通りにも愛はなかった
蚊はいた
水平に張り出された「く」の字を地軸の傾きで受ける美しい肘タッチの練習動画
雇われたアイコンの素材の傾向を分析してみせた展示
美味しゅうございました
走り過ぎた子規は病床からいくたびもソーシャルディスタンス街宣の深さを尋ねた
雇われた者たちのアイコンはアニメの平たさとして広がり
肘タッチの太陽高度は深さとして林立した
いくたびも尋ねた雪の深さ 哉

 

 

 

#poetry #rock musician

危険外来

 

工藤冬里

 
 

空が破けて史上最高量の情報が一気にダウンロードされたが
それに耐えることができなかった田螺がショッキングピンクになって畦に張り付いている
春の黄を芒の秋に、秋桜の橙を春に持って来て
国々の秋は存亡を偽りながら選挙を続けていく
靴の泥までチェックしても
秋津島にはショッキングピンクの頭蓋に白いマスクをした群生が蔓延る
軍政が雌蕊に施術する大陸から他感作用の強い愛の生物が入ってきて
肘タッチの礼法を小笠原流がブラッシュアップする

 

 

 

#poetry #rock musician

夜の歌に似た歌

 

工藤冬里

 
 

殺されるとは初耳です
話さなかったのは一緒にいたからです
今日、過去を明け渡したので
開戦前夜のドブの上澄みみたいに清々しい。
フルートを持って上って行く祭りの夜の歌に似た歌
あれは駆除される浣熊
雨なので車から出られません
決戦投票前にすでに世を征服しました
J-popがおれの屋根に当たる
ヘルパーは来ません

 

 

 

#poetry #rock musician

zoom会議

 

工藤冬里

 
 

国々のまだあるうちに私たちに卵子が与えられる
当然のものではない死が価値を持つ
not all deaths matter
むしけらの初物を買い取る
天井には鼬鼠
納屋には土蛙
初めてのおつかい
かれならできる
途中で雨が降っても
袋が破れても
持ち場のモチベーション
机に乗りたがる大群衆
市民となるために分断されるので
新言語を学ばなければならない
うちの八割れは味覚がないようだ
コロナかもしれない
走れヘイトマン疾風(ルビ振るならカゼ)よりも速く
カネのことを語りなさい
福岡さんは野菜食べてるんだろうか
今日は礼子は歌ってるんだろうか
今月はコニーちゃんは儲かってるんだろうか
チャバネゴキブリはいつもいた
にゃんつーは外に行けよもう
誰かと親しくなるには
時間を共にする必要があります
距離はそんなに障害ではありません
会ったことはありませんが愛しています
最近みんな背景を白にしてる

 

 

 

#poetry #rock musician

l’esquisse ⅰ

 

工藤冬里

 
 

カボチャのカボチャ色の花がばかでかい
地面にのたっと横たわっている
背骨がないわけではない
激しい雨が降ったけれども止んだ

それはファシズムではない
泣きに来ているのだヒヨドリは
背骨がないわけではない
雨が怒髪のように立っていたのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

海辺の叙景 Ⅱ

 

工藤冬里

 
 

人が死ぬというのに明るい声で
否認段階の痛みをやり過ごすように
観光地としての死を自撮りする
ガレルめいて白化したzoomの背景画像が離れた者たちのリアルとなり
宇宙をペンキ絵のショーにしたまま
聖地巡礼は換骨堕胎され
地と海と空だけなのに墓となる
感情史に於いては
クライマックスに於ける無感情が正史となる
いかなる革命もない
刺のあるまま進み
墓を撤去する

 

 

 

#poetry #rock musician

地球の歩き方

 

工藤冬里

 
 

あなたはなにをしてきたのか、どこからきたのか

自分で穿いたズボンのバンドを締め上げ地球を巡り歩きたい所を
歩き回っていました
もっと若かった頃は
地上そのものが牢獄なのだから場所の移動など何の意味もないと考えてみたりしてましたが

歩き回れなくなって愈々、
玉虫厨子とかを除けば、
見た、行った、が何の足しにもならなかったと身に染みました
ああそれでも
今よりもっと若くて元気だった頃は歩き回っていました
見た気になった仮想の平等主義を批判しながら
絵葉書にさえ納まりました
それが年​を​取る​と
自分でズボンも穿けず
はい万歳してー、
と言われて伸ばす手からすっぽり
拘束衣を​被せられ
徒刑場に​連れ​て​いかれます
それが申し込んだツアーの結末
となりました

 

 

 

#poetry #rock musician

海辺の叙景

 

工藤冬里

 
 

曲がった世代の曲は曲がっていた
開いていく正しさとの距離を反芻しながら
遠ざかりのうちに非難されない立体を彫塑するには
三次元は手狭だった
諦めて近づいていく遠ざかりがpopなら
音は遠ざかろうとして却って近海沖に沈む
ロックアウトされた艦内で冴えた状態を保つのは
語る服が同じ柄の果物なので難しい
自分の落ち度が原因で
最高気温は二八度だった
聞いて理解して思いやる
聞いて理解して思いやるには
三次元は手狭だった
曲がった世代の曲は曲がりにまがり
近海の水は濁りに濁り
同じ間隔を保って付いて行く敗北の中で
ビオは飲まれ
像は倒されるが
定点に留まることによって遠ざかろうとするサングラスの
縁取りの中に浮かぶ黒い箱からテクストは
陽炎の中で
黒く垂れるか

 

 

 

#poetry #rock musician

パンタロン

 

工藤冬里

 
 

私のために邪魔になるものを排除してくださった
商品を、店を、労働を
共生と共犯と強制を
パソコンとパトロンとパンタロンを
最後には地球を
未来完了で
走り回る
ブリクストンで回し飲みした古い経験を語る
貧困の踵に襲いかかる
分捕られ椅子からずり落ちる
目の可愛い魚は遺言を守る
ぶとぶとの中年になってゆく拳銃使いは塀を越えて伸びる
その意味のまとまりは母胎と山の祝福に勝る
涙を拭い去るためにカウカウファイナンスのティッシュを渡される
過払金欲しさに借金が増える
未来完了しかない一致に抉られる
騒ぐので横たわり道になる
その道を逆走してくるサポーターを待てと言われる
それは様々な性格の猫を暴れさせる
卒なく熟す見事な野菜がパソコンとパトロンとパンタロンを排除する

 

 

 

#poetry #rock musician