Sigismund Schlomo Freud
(זיגיסמונד שלמה פרויד‎‎)

 

工藤冬里

 
 

きみが何も分かっていないことを思い知らされながら読んでいくと
今更乍らに驚かされる
多様性を弁え知る訓練になるとでも言うのだろうか
原父殺しがそんなものなら人生なんて楽勝だ
エチオピア演歌の夕暮れに
エフェクターを踏み込むだけだ

過払い金のCMが流れる路上が
解像度を間違えているのは
カバラを思い出すからだ
きみの父が三歳のきみにプレゼントしたのだ
革表紙を打ち直して

今更乍らにきみの居た路上は
まさしくこの風化した解像度であった
トラウマを小出しにして
この午後を過ぎ往かせよ

小屋で暑さに震えるウサギ
子らのやる菜の萎れて
死はここにもやってくるだろう

きみはユングとか弟子の多神教野郎達に本当は耐えられなかった筈だ
ただそのきみでさえ葛の花のように萎れて

この解像度の中で路上に散ったのだ

 

 

 

#poetry #rock musician

jouissance

 

工藤冬里

 
 

岩場に曳き摺っていく材木は頭より太く
完全な言葉と雖もキレネ人シモンの助けがなければ運べなかった
シモンはアレクサンデルとルフォスの父であった
アレクサンデルとルフォスは何故書かれたのであろうか

詩の場所を欲望に置き
書 かれることをやめない音声を捨て
書 かれないことをやめない剰余享楽を詩の場所として
書かれないことをやめる文字の沈殿を待つ

 

 

 

#poetry #rock musician

Mort sans cadre

 

工藤冬里

 
 

死んだのかなあ
嫌だなあ
夜にだって遠近はある
手前が一番暗い
透徹してしまうと死ぬ
ふたりだけになると死ぬ
ふたりだけになって死ぬ
月がきいろくふとっても死ぬ
星がテニスボールくらいにふとっても死ぬ
どんなにきれいでも死ぬ
ぶっしつに帰る
野晒しのまま朽ちていく
アザラシも野晒しに!
ただ死ぬ前は写真はきたなくなる
なぜだかはわからない
見えないものしか愛せないからかもしれない

いや死んでないよ
アーカンソーArkansasはアカンそうなので
イリノイIllinoisで割のいい仕事を探す
アイオワIowaで愛終わり
テキサスTexasで敵刺す
要するに
旅に出たんだ
写真が1947のフルトヴェングラーみたいに
詰まっていてきれいだ
フレームのない死は
もうすぐだとしても

 

 

 

#poetry #rock musician

無下

 

工藤冬里

 
 

カミキリムシを集める山で
カマキリとゴキブリは親戚と知ったが
失くしたものに感傷的価値は無く
無くならないトラウマを即座にラップするだけ
タラコスパゲッティで太っている
走って行って抱きしめようとする
よたよたとゴキブリ
時間がかかる
陽性は
和田かマリ
ひとにわだかまり
歩く力がない
彼は裁かれないためにあらゆることをした

隠棲要請
院生養成
妖精幼生
Yo! say insane

ズポン暑い
無上と最高の違いは上がないかあるか
上は愛するよう期待する権利を持っている
下は苦しみを説明できない
最高の喜び方を教えよう
反対方向に向かっていたゴキブリの顎に鍵を引っ掛けて
振り向かせた
無上の喜びと無下の苦しみは
このような関係であった

 

 

 

#poetry #rock musician

フィアンセに死なれて

 

工藤冬里

 
 

市役所職員の健診で十戒がすでに読まれましたが、指で記す死にフィアンとしてのキャラのハードルは高く、「休まなければならない。」と思いました。ラジオ深夜便的な死にフィアンが
鷲の翼に乗せられて
命は震えている
死について本当のことを知って
黄色が光る

 

 

 

#poetry #rock musician

怖れ

 

工藤冬里

 
 

絶望するしかないわけではありません
埃のように私は舞う
食事と睡眠どっちが怖いか分かりません
エルピスというのかギリシャ語で希望
なんていうんだろう絶望は
疎開先では飢えが怖い
入って来ないように灯りを消そう
書く欄がありません
ソーランを養う
山鳩は歌う
力強い羽音に狂う
今日はトンボたちだけが酔う
一緒に住むことを快く思う
って言ってるだけじゃだめなんだって
空の青に剣
飲み物としての眠気も怖い
決意ができていない
早く起きろよ

 

 

 

#poetry #rock musician

迷い出た羊のバラード

 

工藤冬里

 
 

ababbcbC
ababbcbC
ababbcbC
bcbC

解像度という飲み物
居酒屋のような明かり
垂れ下がる洗濯物
柿の実は太り
髪もくるり
やましさの故に
飲めないくすり
二つの夕方の間に

愛されてはぐれ者
雲塊に阻まれる祈り
彷徨うのは標野
以前の死者との隔たり
わたしを自分で屠り
食用のために
自分で調理
二つの夕方の間に

モオブからモノ
日本と同じみどり
納屋から斧
作業の滞り
思いは偏り
試練を蝶結びに
アクアパッツァにはアサリ
二つの夕方の間に

道は先細り
羊は南(エル・スール/ネゲブ)に
食べるなら微塵切り
二つの夕方の間に

 

 

 

#poetry #rock musician

すすり泣く曇り空のバラード

 

工藤冬里

 
 

ababbcbC
ababbcbC
ababbcbC
bcbC

暑いが曇っている
夏も終わりだ
事物は震えている
きっと冷房のせいだ
木々の緑は殆ど黒だ
花もなく
道といえば獣道だけだ
曇り空の下ですすり泣く

うす青い峰々が白濁している
病院から見える景色はみな同じだ
車は車道を走る
薬もあの時と一緒だ
死ぬ元気が出るほど元気だ
今は夏だけが往く
夏だけが終わりだ
曇り空の下ですすり泣く

来ないまま死ぬと思っている
のはだめだ
生きているうちに来る
と思っているのもだめだ
いつ来てもいいと思っていなければだめだ
病気も死もなく
トラウマを思い出すこともなくなるのだ
曇り空の下ですすり泣く

いつ来てもいいように待っていなければだめだ
恐れもなく
思い出すこともなくなるのだ
曇り空の下ですすり泣く

 

 

 

#poetry #rock musician

さらぬ別れ

 

工藤冬里

 
 

むかし、男ありけり。よしがありやられこし野菜を誰にも知らせで一人食ひ、滑らかなる黒の石の板を夜の奥にずらししゆく心地して、人に、

ひとり泣きしほたれネカフェに無農薬野菜を食ひしためしやあらむ

 
昔男が居た。事情があって送られてきた野菜を誰にも知らせずに一人で食べ、滑らかな黒の石の板を夜の奥にスライドしていく心地がして、人に、

泣きながら野菜を食べたことがあるだろうか

 

 

 

#poetry #rock musician