十一月ソノ二

 

工藤冬里

 
 

隠し場所を見付けられず元気がない
このインクもそろそろ終わりだ
爆発は口から
弁償のランチ
葉は一様に水分不足を訴えている
真理とは間違いからの自由
奴隷ではないので選べる
足を組み替え
家主の話を聴く
殺人したら追い出す
死にたいは録音できない
先祖の薬物
千八百万人の習慣からの自由
声を聴くってアナ雪みたいだね
結論を言ってから そして というのはやめてくれないかな
うろこ雲はイワシのフライのようにえぐれている
村山も武蔵野だった
唄えなかった
強制されて从(シタガ)う
三十年待って
f(x)=ax+bのグラフ
蛙の目玉
骸骨のママ
レール上を歩いていく陳腐
一台だけ売る外車屋
花弁波打つ周縁
房べり
花弁の房べり
水筒を落とすと
茶にガラスが混じる
種の中の柿の芽のように浮き出る
カーブの続く山道
死にたい は録音できない
死ねシネマよ
シネマへ
死ねおまえ
きのうやった
写真の継ぎ目はwaterfall
台形
ゲームのワーム
フォークで耕す 掌
子供を愛することを教わる必要があった
意識的に子供に愛情を表現する必要があった

起きれないので
空0ラ抜きは駄目だな
起きられないので
三十九度の追い焚きにして
温めようとした
出かけるには温めるしかなかった
その手続きがどうしても必要だから
使われても勤められないだろう
空0東京の勤め人は大変だろうな
空0六十年代的な瞬間の美学が悪いのだ
小便もしたいが寒いので後にする
水の中で水を我慢しているのがおかしい
水の中に水を入れた袋があるのと一緒だ
水は温まりにくく冷めにくい
体は水であるのでなかなか暖まらない
体はレトルトのカレーにすぎない
ただの水分の詰まった袋なのにものを考えたりしてすごいと思う
設定温度に近づくと四十度の熱とかやばいと思う
空0やばいとかあんまり使いたくないな
余程の炎症がないと体温はそんなに上がらないだろう
熱いものを飲むと自分を冷やそうとして体温は下がる
熱い湯に入るとそれでも徐々に体温は上昇するのだろうか
冷たいものを飲んで体に年寄りの冷や水を浴びせると
子供の頃の顔が柿の種の中の芽のように浮かび上がる

作者がいない映画
最大公約数に落ち着くのではなく
銅の代わりに金を携え入れる
臭みを除き
何年も先のことを決める
平たい赤い街の線描
のような声
干し煉瓦に新聞を貼った壁
作者のいない映画の
制作に参加できない者だけが作者であった
嫉みで曇らされて、批評どころではなかった
欠けていたので、殺してしまおうと思った
子供の頃の顔を殺そうとしたのだ
周りに立つ人々のために言っています
参加できない作者は語らされた

最高の仕事とは嘘を暴く仕事です
彼らはそれで爽やかさを得ることができます

問題はエネルギーが限られているということだけです

車は、頭であるか体であるかのどちらかだ。後部の窓が吊り上がった眦であるときその直下は目の下の整形の弛みとなるが、体であるならば凹凸は悉く四躯の筋肉となる。大型車でも頭だけのものもいる。外車は動物の体全体が多い。厄介なのは頭と体が混合しているもので、それをバッドデザインと呼ぶ。

象徴界にもピンキリがある
という言い方は想像界的だ
学問的には象徴界にピンキリはない
ということは象徴界という用語は無意味だ
象徴界という用語はそのために存在するのではないか

花ではなく実の色で飾るとは恐ろしいことだ

いきなり命
十代
二十代
三十代
六十代
七十代
short lives
をやり直せるなら

それも同じことだ
支配する者が
支配される者よりも先に死んでしまう

薬品業界のコンシューマー
延命商人

くの字型の死
アダムは九三十歳
十億倍の使用に耐える

今から
四万キロで地球一周

多様
才能性格能力
猫のような多様性

片道五十年の旅行

百五十億人
一ヘクタール
三千三百坪

山々の頂で豊作

獅子の歯の
黒地にレモンイエロー
香月泰男

投げ捨てることにより支払う

爽✖️✖️✖️✖️

Θυγάτηρ
thygater
娘よ
蛍光黄緑の爽✖️✖️✖️✖️

紫キャベツの色

湖に注ぐ川の
完結
だらだら流れる力じゃなくて

腕を通す喜び

脛骨の四番
首が折れる

最高の仕事とはうそを暴くという仕事
絶望の荷を引きずったまま生きる

一人一人が持つエネルギーは限られている

余ったエネルギーを使っていた

いつの間にか赤を入れられ

だらだら流れる力じゃなくて

がまんすればするぼど強くなります

 

 

 

11月

 

工藤冬里

 
 

私たちはどのようにして生きているのかというと車のデザインを見せられて野獣や涙目の動向を見せられて生きているのです
あとはヴィノ・ノヴェッロで現在世界を読まされて生きているのです
絵画によって生きているのではありません
家族の物語によって生きているのでもありません

私たちは車の威圧によって生きているのです
あるいは舌の先の金属の味によって

草によってみどりを得ているのではなく
その生え方や生え際によって強迫されているだけなのです

枝ぶりは
なくならなければ自然とは言えません

光と影は
産道以外の意味で使われてはなりません

薬局が量販店になったのがいけなかったのです
それで松が死にました
子供たち、横断歩道を渡る時は首をかき切られないように気をつけてください!
車が、ナイフだからです
みどりはすべて図鑑の緑になってしまった
彩色を行う手がふるびてしまってもうどうしようもない

 
失敗と戦争の間につながりがあり
そのつながりは渦であり
渦は腐っている
腐った渦は失敗のビオから出て
巻き貝のペンダントは直ぐに千切られ
港の対岸の島はあまりにも近く
えりかさんの翼は滑走路をはみ出す
節目に生えるのが羽根なら
見落とし勝ちな歩行者を轢くのは
モーセの体を巡る論争の螺旋
注射針の痕に四角い絆創膏を貼って
ゆきさんはクジラの温さを盛り付け
源の安全も忘れて命を落とす
ディスプレイを磨いて死んで四日経つまで待つ

 
おもしろい夢
夢はおもしろい
きみはでてこない
きみってだれですか
きみじゃないよ
しにたい朝
朝はしにたい
きみのせいで
わたしのせいですか
きみじゃないよ
つめたい足
足はつめたい
しんだらもっとつめたくなった
ぼくの足ですか
きみの足だよ

 

 

 

切断線のある風景

 

工藤冬里

 
 

東温上空は川内の北方で8月から絵に描いたような偽の分断を仕掛けられている。その偽の分断に対してノーと言うこれもまた偽の左右勢力から「令和だ安全だ」という叫びが上がる時に真の切断が始まる。無気力にも音程があるとしたら無力そのものを一人サーバーに向かって吠えさせねばならない。

それを前にして表現における倫理なき切断は最早意味を持たない
プログレもtiktokも同じことだ
俺が、俺の身体が切断されるのだ
分かるか? 股から八つ裂きにされるのだ

なんの希望もなく、ただ八つ裂きにされるのだ
イカのように!
スメルジャコフならまだ良かった
これじゃスルメ雑魚フだ

糸電話が泣くのではなくて、糸が泣くだけなんだけれども、その糸は、ただの悔し涙にも反応するものなのか?だとしたら、俺の九四国フェリーのピアノで泣いたというOの涙も、そういうことだ。犬も食わない哀しみを抒情と呼ぶ乎。

犬も食わないから哀しみなのよと開き直るやつもいるが、その苦闘を鑑賞するなどというのは演者にとっては磁器やドルフィーと同じで地獄以外の何物でもない。

それにつけても、全てを敵に回す仕草の、なんと古びて陳腐なことか。そして、だからといって、世間の明け暮れは朝刊の字面のようにフォントとしては何も少しも変わりはしないのだ。

もうすぐ陽を浴びて皇帝ダリアが眼に沁みるだろう
そして僕は皇帝ダリアも皇帝ダリア飼育係も、と例年のように呟くだろう
鎌倉の近代文学館の庭の、被曝前の夢のなかのような写真も想い出すだろう
ブレていて、白い着物がゆうれいのように翻っていた
その幹は竹のようでよく伸びるので僕は恐ろしかった

作務衣を着た陶芸家の作務衣は妻が洗うのか?リベラルは消滅してそのコンテンツはジャンケンで陣営に分けられた。その分配、分捕り方には何らの倫理も働かなかった。分断は混乱のためだけに発想された。

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イギリスのローカルチャート
くらいの辺境
魚の顔して
モニターの背景の青の映り込みが違って
実体の方が沈んでいる
撫で肩の円熟が悪魔の思い上がりを語り
赤とオレンジは合わない
時間をパンのように割く
複雑に捕らわれそうになったら
慰める
痛みの最大の薬は理解
勤勉さと同程度の思考力が必要
管理人としてその能力を使う
dorcas in doldrum ドルイド
発進前に下顎を左右に動かす
土気色ゾンビ
画面映りでその気になった顔を円熟と呼ぶ乎
がぶり寄り荒勢
真ん中分け
なんで豚が主人公なんだ ああ豚にされたからか 最後は人間になるんだった
表情と内容が一致している
二本指 指は太い
ステレオタイプすぎて仮面に近づくくらい素面
三本指も太い
あるときは父親のように
あるときは母親のように
薄すぎて本当
上半身アニメ
家族のように親しくなる
と言い切った
土気色の魚
死んだ目の優しさとは何だろう
顔の筋肉だろうか
豚の鼻の孔
鸚䳇
蒲鉾型の赤味を帯びたトンネルが想像界を貫いている
フクロウ!!
タイとハンカチの柄を合わせ
頭を上げて
角度がモアイ
勇気を絞って と言った
最後までサイコパス
父と娘の絆が
赤味がかったトンネルの
想像界の花道を出てゆく
みみずく!!
トレーナーが限界を引き上げてくれる
二重瞼の給水所
下の歯が見える人種
どこから来ましたか
笑っている
笑えている
本心なのだろう
六角とか八角とか
何によって定められるのだろう
今は九角以上あるな
愛はあるものを喜び あるものを喜ばない
ということは 愛は何かを見分ける助けになる
感情の真を導きとするのではない
ぼたん系とオレンジ系は合わないのに
愛は覆う
直射日光から
愛は原則に基づく意思決定である故に
あなたは嵐のように彼らを襲う (俺以外の左右上下全てが、嵐のように俺を襲うだろう)
なめくじ姉妹
偽りの安心感を抱かせる
ずっと目を見ている
目だけを見ている
額に穴
胃や腸ではない体の周縁に話しかけている
私たちはもう子供であってはならず,波にもまれるかのように翻弄されたり,風に吹かれるかのようにさまざまな教えに振り回されたりしてはなりません。人に欺かれたり,ずる賢いたくらみに乗せられたりしてはならないのです。
法は力を吹き込む (九条は人に力を吹き込まないことを僕は知っている。その一点で俺はリベラルから切断されるだろう。)
腐敗の要素が全くないエチレンガスを放出
体の各部が共同し合う
総力戦の時となりました
心のドアは内側しかノブが付いてない
全開にして全体像を見ないと進まない
炎は小さく調整できない
消極的な見方は炎を消してしまう冷水でしかない
背広の肩のラインに 切断がある
多くの男性は
愛されることよりも敬意を払われることを望む
赤ん坊の泣き声が
蚊のように耳の後ろに上った

 

 

 

洞門行

 

工藤冬里

 
 

辻の気狂い
ただの行き違い
吉祥寺の頃から

体の中に茶筒があって
捻ると音がする

溝(ドブ)の黒
収穫は終わった
セメンの中の果実色した宝石
こげ茶のN/
納得できない事柄を考え続けるより
目の前の物を楽しむほうが良い
うずら
こわばり

 

 

 

逃げ足の速い静止した時間の瞬間移動の白黒

 

工藤冬里

 
 

頭から食べられるので
目を開けていられないほど疲れて
大陸は唐揚げに靡いていた
しっとりした眠気のなかで
犬の顔した肌が続いていた
焦げた皮膚は中身を覆い
足をとっ払いながら
椅子はよろめかないで歩いていく
すっかり安倍川に
よろめかずに歩いていく
いや歩いていたのではない
時間の経つままそこに立っていただけだ
草色の直線が引かれれば
椅子をさらにドミネイトできるだろう
逃げ足の速さは瞬間移動並みのマシーン
で検索すると
クレーターがあった
やすみなく働いていた肌だ
名前には肌がある
肌のない人が居るが
ギ酸エチルの焼けたような甘いにおいがして
宇宙にも洞門のあることが分かる
いい人なので分からせてあげて下さい
ため池なので声は
堰は皮で出来ていて
ドミネイトする夜の店の外
暗闇は宇宙に繋がっていて
クレーターの記憶を指でなぞっている
香港で生まれたこんな目立たない私でも
パンと叩いたスリッパの下には何もない
逃げ足の速い静止した時間
潰瘍をなめる清掃動物は
大きな変化を感じる
それは金属の溶接の煙の味であった
皮膚を破って声がして
世界には木のない赤土が拡がっていて
皮膚を被って声色を変え乍ら死や復活の劇に
使われている
髪は頭から生え
その下へ毛のない皮膚が
拡がっている
目を瞑って静止の瞬間移動をしようとすると
五角形だ
そんな気がする
デザインに目を向けると
緑も黄もなく
さまざまな灰だ
谷が欠けている 欲

互いに行き来できない
深い谷がある

もうすぐ僕は書けなくなるだろう
もうすぐ僕は歌わなくなるだろう
もうすぐ僕は笑わなくなるのだろう
僕はもう泣きもしなくなるのだろう
生きながら葬られ
墓の中から口ずさむだろう
絶望に旋律があるなら
それが最後の歌になるだろう

谷を飛行機が走っている
うすくらがりの谷を
セキレイのように
窓から漏れる暖色はともしびのようだ
あの人は燃えるたいまつflaming torchでした
偉大なクリエイター בּ֣וֹרְאֶ֔יךָボーレエイカー
譜面のように刻まれている
泣く糸電話

感情 ではない。糸が泣くだけなのだ
さらなる災厄をもって災厄を乗り越えてゆく
世界一高い木はハイペリオンと呼ばれるセコイア
世界一太い木はエル・トゥーレと呼ばれる杉
世界一成長の速いのは竹 一日で一メートル以上伸びることがある
三万 魚
一万 鳥
百万 昆虫
タコの頭が長い
羽が生えちゃって困る
ハエが止まって動かない
力は天蓋の形をしている
白か黒か
二進法で進む
それは光と大いに関係がある
タコの頭から下の動きで
白黒で進む

 

 

 

stray sheep

 

工藤冬里

 
 

三四郎は感嘆した
そこまで心を広げることができるとは
心臓がどきどきして苦しい
八つ裂きに遭うまでの命だが
茶色いアジアが広がってゆく
土塗れのモオヴよ
司書を目指す
胡座の十代
映画は黄色い肉が引き攣っている
丘の腹に墓地がある
黒い背広は着ない
爪先のクリーム色
嵐ヶ丘で引き千切る
セの発音の群青の空
胡座の十代の声
平行線をつけ足すことで絵にする
伏せた傘の手の切れそうなエッジ
乳白の青が帯となっている
がしっと植えられた木が今
金も内臓も場所は決められている
手伝ってくれる動物がいない
私は憎まれる
グリス塗れの球がシャフトのベアリングに詰まって黒い

 

 

 

ABOUND

 

工藤冬里

 
 

 

散文的な夜に
散文的な夜には
話し掛けてくる逆光の輪郭はずれ
冒した過ちは
原始的な蓋の容れ物に三角に押し込む
声を大きくすると
秘密を真珠にして

一喜一憂するふたつの管
が水平に下りてゆく黒暗
水平なのに下りてゆく気がするのは
耕作地の向こうが闇だからだ
発音を何度も聴き
神はふたりだけ
流れ込む(merge)支流が行き場を失って溢れた
名前年齢身長服の特徴
水槽の脇で
地元を案内
白黒の鞘入り乱れ
玉蜀黍を思わせる
穴は上昇する
河床勾配は5/1000
湿った灰水色
rover時代のmini
スバルN360を大事に乗っていたら
蛾の服に穴はない
邪悪な天使
ある人は怒るかもしれません
あなたの神は偽の神
光る竹観たすぎ
嫌らしい和風
祭りと祭りを合わせ
穴と穴を合わせる
篤い人
LGBTのガスボンベを交換
旅を良いものにしてくれる筈
本当かどうかは
付いて行かねばわからない
その辺を二つ穴から考えてゆくことにいたしましょう
門構えの形をした門が見える
視線の歩むべき道を教える
秘密を明らかにする
友情について
愛の壮大
一時的に間違った
失われたカ行の発音
さらに愛情深い
父親
オレンジnaranjaの車
書き順を逆に 寄り添う
蒔くと鳥の群れ
ミトコンドリア型錠剤
抉れた左部分が光っている
実際に崇拝されている神はふたり
像 帽子
世とは
ふたりの銀座
本流支流どちらかを選べ
ふたつの管を逆上る
美雨はしゃあしゃあ
抜け殻に本体の蝉の響
釈放されてもすぐに去るのではなかった
ABOUND
掴め
ただ持つんじゃなくて掴め
keep a tight grip
in the word of life
let your love abound
in the hard rain
abound with this hard rain
knowing I ran in vain
or worked hard in vain
be flawless
in the hard rain
knowing that I have run in vain
or worked hard in vain
be flowless
有機体の内部では痒みは
とどめられるどころか
かえって広まっている
be flowless
in the word of this organism
in this flow
river flows
through this organism

 

 

 

あらゆる希望を超えて待ち望む *

 

工藤冬里

 
 

タイムウィンドというよりウィンドタイムだ
風が時間を洗っている

風は時間よりも爽やかだ
内臓の岩に吹く
プレハブのモルタルの現在
フルートの管の中を
痛みを運ぶ
空白空0電気にのせて
翼は鏡に刺さり
ヨブはあたらしい陶片を手に取る


ぼくはもう何も期待していなかったし、期待できることは何もないと重々承知していた、現状に関するぼくの分析は完全で確実に思えた。人間の精神には知られていない領域があり、それはあまり開拓されていないからだ、幸いにもその領域を探索する羽目になる人は少なく、その作業を行った人は十分な理性を持たないがゆえに、これなら分かるという描写には至れないのだ。そのゾーンには、実際に思い出せる限りただ一つの表現、「あらゆる希望を超えて待ち望む」という、逆説的で不条理な表現を使うことでしか近づくことができない。それは夜と同義ではない、さらに悪い。そして、個人的に経験はないものの、実際、真の夜、半年続く極夜の中でも、太陽のイメージや思い出は残るのではという気がした。ぼくは終わりのない夜に入りこんでいたが、それでいながら、自分の憶測に何かが残っていた、希望と言っては言い過ぎの、不確実性とでもいうべき何かが。同様に、個人的に勝負に負けて、最後のカードまで出してしまっても、ある人たちにはーあくまでも全員にではないがー天で何かがもう一度状況を作り直し、新しいカードを恣意的に配分してくれて、もう一度サイコロを振り直してくれるという気持ちが残っている。神などというものの介入や存在さえ人生で一度も感じはせず、自分に好意的な神の采配に特に特に値しないと感じていても、そして自分が人生を構築する上で限りなく過ちを重ねてきたとみなし、誰よりもそのような采配を受けるに足らないと気がついていても。
ウェルベック「セロトニン」関口涼子訳

三番町のSAORI皮膚科で
処方されたジェネリックのステロイドのお陰で
眠気という采配を受ける

風は
臍にまで達する
血に至るまで抵抗したことのない胎児には
もどれませんよといわんばかりに

 

 

 

愛の計量化の試み

 

工藤冬里

 
 

目を閉じて
色を思い描こうとするが
●目を閉じると
●マチエールは思い描けるが
色を思い描
色は思い描けなかった
色は思い浮かばなかった
●色を思い浮かべることはできなかった
●目を閉じると
●色は記号化されていた
目を閉じると
色は思い描けなかった
脳内に言語として貼り付けられているだけのように思われた

目を閉じて
色をひとつひとつ
ひとつひとつ色を思い浮かべようとしたが
目を閉じると
色を思い浮か
色は思い浮かばなかった
目を閉じると
色は記号化されていた
色は言語
色は記号化されている
目を閉じれば
色は記号化されている
●瞼を閉じれば
●色はただ記号なのであった
目を閉じれば
色はただ記号
目を閉じると
色は
瞼を閉じれば
色は記号化されていることがわかる
色は目
色は
脳に貼り付けられている
瞼を閉じれば分かることだが
色は
脳に貼り付けられた言語である
なぜ放置されていたのか
色も折れるのか
気持ちが沈んでいるのではないか
どうしたいと思っているのか
再建させてください
家は荒れているんです
壁の色を思い描けない
焼かれたままになっているのに
見たことのない輪郭に色はない
そのオブジェに色をつけることは出来る
ただそれよりも
瞼の裏の残光が強い
記号は光ではないからだ
弁当箱の昆布の佃煮のような声だったから
黒だが
前にもこんなことがあった
記録はスマホで

空白空白空0

また同じ場所

また同じ場所で
上と下に伸びて行く
根も実もないが
手負いの獣のように
宙空に出現する

空白空白空0

考えに高低があること
天と地ほどに差があるということ
傷付いたので言う
何種類の昆虫を見たか
感覚の拡張
光に縁取られた葉
太い線でうちそとを分けるタイプの
薄い色のマシン
犠牲で測る大きさ
考えに高低があるように
愛は計量化される
撫肩の威厳
すべての撫肩の威厳よ
すべての役割語の語尾よ
鉤括弧の外の句点 中の句点
髪の毛の数と色
雀は地面に落ちる
落ちるように降りる
十万本
数える
ユダの長所
字が綺麗
ぶしゅぶしゅと世の空気が入った巨躯
心を大小で計量する
血管の膨らみ
人によって異なる川
川が踵を返して青く逆流してくる
つまらなかった
トキ
遅れ
早まり
金土
頭の形で国を識別
SFの映像
ユキは脆い石像のようだ
両生類の声
錦帯橋の堅牢
筆致にも高低がある
太い線細い線 赤
両生類と思っていたが ハギ
畑に耳を植える
威厳というソース
血管
カーテン
白粉(おしろい)
胴回り
城門
信頼
手の窪み
白い鞘の中に寝そべる

濁った海水
釣り上げる
赤い下地こわい
細い木目
弱い
91
35
きらいだけれども幸福
汚れ仕事
黒が濃すぎる
ていうか 浮いてる

きらいだけれどもたのしむ
信頼を計量化できるか
名前の移行は緩やかに行われた
母は百五歳

 

 

 

裏返った初夏の凄惨

 

工藤冬里

 
 

こんなに晴れた秋の日なのに
空から毒が降ってくる
命は
捨てようとすれば近づき
遠ざかろうとしてしがみ付く
証拠とは見えないもの
維持するためだけのものではないデザイン
毒味してみてよと言われて
飲んでみせる
治ったり解決したりはしない
母の死んだ子の 襟が直角に交わってめいろのようだ
黒い扇形が
地形を均す
オレンジジュースが 暴れる
ブルドーザーの頬に板を充て
はつかり号にする
心に納めていた
山吹がかった丸
ディスプレイに段の畑の波が拡がる
濃い緑が頬に垂れ
その層から塩が流れ出してしまう
左手に剣
左手を突き上げる
裏返った初夏の凄惨
マスコミと云わなくなった
七一歳の顔を見る
放射線をかわすとオーロラになる
DNAとRNA タンパク質
私達は家と工場を往復している
設計図をコピーしパーツとしてのタンパク質を組み立てる
私にだけ支えがない
ばさばさと論証する
結末をしっかり予告する
蜂のような うなり声がする
水の浄化のデザインを知った人は
警告を受ける
そのルールと力、
繊細さと複雑さ、
によって警告を受ける
知識人から注意深く隠す
黄や茶色から
経穴から胃に来る
髭を剃る時のオレンジの明彩の変化
団塊の鼻息としての外向
イエローの分配、
初夏の裏返しの紫の凄惨
薄緑や青の中に
オレンジの

せいぜいがカートゥーン色