マスク

 

工藤冬里

 
 

マスクの中で
湿った呼気は循環する
補聴器の中では
アイルランド緑の藻が張り付いた自分の声が
ホルンのように響く
殻の中は
白茶けた岩場を往くさまよい飽きているロトの
視線だけが蒸れている絵画で
外の世界とは界面で接している
微笑みは透過しない
ピンクのプラスチックの蝶を着けたうた声は透過しない
外を愛している人はいない
外にあるものを愛しているだけだ
幸とは土の下に¥があること
ガメラの肉は思いの外柔らかかった
アジの開き運動に参加したら硬くなるだろう
マスクの内側にあらゆる色も闘争も塗り込められている
睫毛の演技で外を征服する
微笑みは透過しない
かつてはあった、あらゆるものを透過するジンの草いきれ
全ての年号は遠くなりにけり
年号の人は鼓膜を透過する声を識別できず、雷が鳴ったとしか思えない
マスクメロンの外側は地図の送信に曝されている
果肉色した絵画の中で
つり革を握る諸個人が
ひかりのあるうちに犀になって夕を歩んでいたとき、
ひかりと思っていたものは絵の具だった
フィルターで淹れられたうたは滓を残した
それはスペイン語の冷蔵庫の臭い消しに使われた
暴発的な咳が
沢山のビッグバンによる、沢山の内側を創り出した
微笑みだけは、
透過しなかった

 

 

 

spring without winter

 

工藤冬里

 
 

「冬なしの春」

 
文房具屋のノートにはもうだまされなくなった?
「うん」 低い声だった
それから
笑い転げた

着膨れした現存在が十六夜に躄(イザ)り歩く
全き春を脱ぎ捨て寒暖は灘に消える
花は自分で根を引き抜いて放浪する
これは俺の永仁の壺なのだ
私は純粋に遭難した
雨の音は私を食べている音だった
私は、私がちっぽけな存在であることを思い知らされました
私は白骨化しました

「語呂はあってるかもしれんがそれだけじゃねえ。真実を突いてんだ」フアン・ルルフォ「北の渡し」

19世紀末から20世紀初頭と比べると進歩というものは殆どなくなっていて葡萄玉くらいの雨の音で起こされ警備のバイト忘れて辞めたいけれど制服一式失くしていて辞められないまま21世紀も随分過ぎている

白について書かれた本には原研哉の「白百」があった。ハン・ガンの「すべての、白いものたちの」もその系譜に属すが、両者を比較すると白磁の苦闘のようにして白の上の白が見えてくる。

冬なしの春なら二月の手帳には「暴力革命上等」と記す

 

「冬なしの白」

 
活字吹雪の梅ヶ枝に
声色使う朗読の
〽あんたは必ず、多くの国の人々の父となる
遠い稜線は心には仕舞い易い
カニ道楽色の廃油の路地
スレッドの絡まりは鞠として蹴られ
四代目が戻ってきた
今の流れがこうなるということを予告していた
息子は息子のまま老人になり
メダリヨンは魚の額に貼りついていた
月の暦を追う時の温度
ハルは冬なしでやって来て
洋風のインド語族の白を盗む
赤い糸の貼り付く地表
なんの教訓があるというのか
九十で子を産め
執事は助けてくれる
カレー食わないのか
オチのない崖っ淵の
白亜
その白はヒンと言う
還元の石の青白
その玉を
ひとりで持っている
イチジクは
死ななければならない
べらんめえ調の真理はあるか
どうしたら種子から殺せるか
法外な埒外の清浄
近道に使うな
地表は中庭なので
怒りの赤糸が展がる
岩盤を削り事故に至る
数日後の死に向けて掘鑿していく
スリムな俺が喋る
いつまで金属を舐め続けるか
大流行は特色のひとつ
目は電子版に馴らされ
ディスプレイに血が飛び散る
白羊色てウールのことか・・・
ぎょっとして星々に振り向き
昼の不足の奪略を星々に誓う
星々に誓ったりするからだめなんだ

 

「コロナ」

 
こうなろうと思ってあの頃奈良から六甲にトンコロしたわけじゃないんですがこの子ナロー粉野郎コロッケ何個なん?とか泣かれコロッと太陽黒点コロナイダーになって熟れたナローロード

「語呂はあってるかもしれんがそれだけじゃねえ。真実を突いてんだ」フアン・ルルフォ「北の渡し」

蕗の薹幾つか採って一つ遣り
蕗の薹浮かべて春に苦さなし断頭の日の密かにくるう
蕗の薹浮かべて春に苦さなし暖冬の非に密かにくるう
これからはDJも詩も参加型だね
コミュニティのないラッパーのように

 

「歌謡ショー」

 
leprosy
India song
1918年から1919年にかけて流行したインフルエンザ(スペイン風邪)は感染者5億人、死者5,000万~1億人でした
太陽の中を人の形をしたものが歩いているのが見えます
内側を食い尽くすものが反転して
地上では外側が汎デミックの氾濫
ちなみにうちのエアコンはコロナ社製
朱鱗洞もそれで死んだ
最近平気
細菌兵器
地震併記
自身兵器
too wetな日本のジャズ
代償としてのフリージャズ
涙目のパトロン
網走番外地の歌詞の文法的破綻
その裂け目から生まれている
wet wet wet
リュウグウノツカイの死体置場のモノローグ
腐乱
焼芋
三本の同じナイフ
切干

 

「the slope of cedars」

 
同じセリフ同じ時
というフレーズが露天で聴こえて
真の命とは永遠の命のことなので
入れ替わる従兄弟丼
死ぬようには造られていないので
ロトの二人の娘のトラウマ
従兄弟の伊作のようには
ミシュランなしで結果を味わう
永絶するものがある
珍の命
朕や貂や
島々の奪い取り
レアメタル・グラインド
筆致
線の代わりに彫るパイロットが
点検を続ける
好ましい変化を遂げ続けているでしょうか
池が妨げ、溜め池が!
茨の蒔かれた茨城県
富の誘惑富山県
高い生活レベルを維持したい
塞ぐとは完全に絞め殺すこと
無理な要求を掴むこと
首が曲がっている
民族を横断する顔が
傾いている 九十年以来
杉の列
切られたトラウマ
絵の根に毛が生えている
ヒヤシンスの根はポキポキ
杉のかたちに鋳抜かれている
jubilee
send all the punks away free
視聴覚教室
元気だった頃
澄ました声の九十六歳と
白い海生哺乳類の肌の
型押し
油紙に鋏を入れる
赤の反転塗り潰し
恩讐の彼方
ササクレのない渡り廊下
マッチ棒を刺して足
暇がなくなると思っている奴
無駄な労苦がなくなるだけだ
家に興味はない
穴でいい
煮て溶かす失透白
自由の中に白の斜線がある
jubileeには斜線があるのだ
杉の斜面が

 

 

 

三つ巴

 

工藤冬里

 
 

歳を取るほど忙しくなるのは
時間が減って休息を許す余裕も減るから
狂わないで
一文字違うだけだ
ここがほんとうのはきだめなら
却って背筋を伸ばせ
水道管は殺された
涙の蛇口とか
農業は一月早まった
キウイとか
実話現代
ボルヘスの国から来た人が
共有相手が見つかりませんと言って
ドロップを呉れたが
人殺しの味もしたし
温泉で野菜売るか
と突っ込み革命
確かにナスの焼いたのしか
作らなかった母は
身罷りし父を悔やみ
カードが出てこない
よし寝よう
時間つぶそう
空耳ドンドン

映像が積み重なって
その天辺で男が歌っている
映像の天辺をどれにするか

話し方じたいは救いになれない
まやくのぼくめつはできない
あんさつされるのでコントロールできない
サタンと私達の不完全さの三つ巴
顔の上に線などない
恭しくあるべき
男が出来たのかと思われてはいけない
症例エ×ラルド
細線端
行って淫行の妻を娶れ
労働と安息の対立ではない
大抵のことは三つ巴なのだ
企業と労組の対立ではないのだ
爽××××
話し方は描線に似ている
いつからそんな書き方になった
家畜も仕事をしてはいけなかった
石組みの会堂
帆布
古城の窓が緑
亀裂
波が洗う岩礁
楽にして食べて飲んで楽しめ
過酷な奴隷状態
ねる機械
שבת sabbath
テレビのパロディー
やぎの角のドアノブ
宿舎から違う

 

 

 

二月

 

工藤冬里

 
 

私達はあと数ページで終わろうとしていたが
新しい年はもう大分過ぎていた
村山槐太がだんだらの、と呼んだ紅梅色の空を
数えていくとトーンが定まってきた
また翼か!
ウージェニーグランデが
眠くても書けることを探している
馬の首を折る
せっかちな窮乏を
ほんとうに望んでいるなら
耳を揃えて私が払ってあげます
一日百円以下で生活している人が十億人居るのですから
今は悪い時代です
私達の終わるあと数ページで
予防ではなく結果outcomeに目を向ける

 

 

 

焼肉屋

 

工藤冬里

 
 

異言語が鏡に映って一対の羽根になり
滅ぼすことにした、と読み取れたが
窓の位置が箱舟だったのか
同じ耳をした一対が入っていった
眼鏡を外すと
ルクレツィア・ボルジアだった
すべての顔は大雨に打たれる動物のようだったので
地下の湖に滑り込ませた
顎髭の似合う顔を探し当てたが
それは困っている人の顔だった
人に恋するのか動物に恋するのか
どちらかにしてくれと言われ続けたが
かえって詩をビニール袋に包んで隠しておいた
切られた空が明るくなりはじめ
持っていない資産まで取り上げられた
僕は自分がひとつの頭陀袋になったような気がした
仕合わせそうな客たちの中で僕は誰よりも食べるのが速かった
それは食事ではなくなにか別のものだった
動物を焼く前に
千円札をぽろぽろ使って
シャワーだけは仕切り直せる個室だったのに
いくら浴びてもストラングラーズのドラムのおじさんみたいな襤褸切れだった
僕は全ての服を裏返しに着た
せめて真っ新のゴミ袋くらいにはなりたかった
強い風が吹いて洪水後の地面は乾いていった
羽根が生えてしまうので紙を裏返しにすると
紙が盛り上がってきた
虫でさえ翅がありそれらは手ではない
やり方を間違うと死ぬことになる
両手一杯分の粉末をもって入っていった
さびしいから人を呼んで腎臓を一緒に食べたい
羽根の先と先の間の空間に煙は立ち込めるか
フューズ管を覗くように異言語が語る
あなたはどうしたいと思いますか
ホルモンはなかなか焦げないです
命は決して終わらない

 

 

 

自販機

 

工藤冬里

 
 

あたらしい断念は
ふるい希望に基づいていたが
さらに真新しい今のこの
寝食忘れる犠牲の煙が
谷を覆う
肋骨型に剥ぎ取られてゆく
女性名詞の蓋然性
ニブフは女性を虐待した
路地出身という名目で
革を張った盾に油を塗って修理する
どんな希望があるか
もったいないという気持ちが元兇だった
しっかり汚染
裕福
満たすと露わになる山々のように
地球の欲で満たされた
果たせなくなる
経絡とは何の関係もないが
内側から見上げると
星座のようだ
自販機に矢が刺さっている

 

 

 

森で眠るようになる

 

工藤冬里

 
 

森で眠るようになる
栞紐が二つも付いている
小さな手帳なのに
足の裏が蛇の頭に触れる
ゴモラに行って確かめます
山はよく見た
いや見てない
見足りない?
いや見た
目出度い額
産まれた時兄たちは
死にたい
うつな描画のように
億年は矛盾しないもんだいだということですね
ハコフグ森進一
動物の世話に何故失敗するか
きみの生態を解明できない
動物を見せた理由は
欠落を知るためだったが
知りすぎた挙句に
この欠落だ
少年は髪型を少年にして
声を少年にした
空間の上の水を飲んだら
それが喫茶だった
種があるから果物なので
肉だからではない
小さい方には夜を見守らせた
それは良かった
万事快調
I saw that it was good.
belly vest of navel
アダムの臍
信頼できるのは病気だけだ
乾いた石が転がされ
persist 根深いものがある
participants were persistent
転がされていく謙遜さ
上ってゆく岩
きみは動物で
きみの動物は
語尾がにぃである
母音省略の動物性
空白空白空白0という訳ではない
私の前に連れて来られる
森の中で眠れるように
虹の怪獣が潜む区域
緑や臙脂の

胎芽から
胎児
タイガからタイジへの
財産の移行
道を歩くときも
寝るときも
十字に裂けて固まった表面
幼い時からドブ浚い
とげをおしこむ
どんなことでも乗り越えられる
風に
運ばれて
追い風
風のかわりに耳鳴りが来た
紅海のドルドラムを行く
額は広い
青と緑
いい風

切る
頭を切る
首から上を切る
舟はどこに向かっているか
森で眠るようになる
新しい世界
黄土色と黄緑
川床の工事
森で眠るようになる

 

 

 

酢waters

 

工藤冬里

 
 

きみの夫は
だめだったのだ
そのまま押し上げられた高みには
きみの夫が単独でとどまることができるほどのデポジットがなかった
きみの夫は下層であった

死にたいなあ
どうしたら死にたいだろうか【文字起こしママ】

悪の中に階層をもとめ
しんみりと浸っているきみの夫は
太陽もアレゴリーにすぎなかったことを知り
桟敷の筵に坐る
活字になりたがる宮殿は
大気圏外から見える平屋で
門に錠前はない
浩宮はタメどころではなく年下で
立ち直るのは難しい
刷り間違えたラベルの
SP盤は回り
きみの夫は山を穿って住みたい
定期券の薄さで
巨大な壺が燃えている
酢watersでは
Aの台形の中を
字たちが這い登ってゆく
睫毛たちは縦横の線を作り出しながら屡叩かせる
きみの夫はもうすぐいなくなる
門の外から覗く参賀の
百合のラッパの技術が
捌く群青
暗い廊下を渡り
最初に露天にやって来たのは
ゲイのカップルだった
二番目に入って来たのは
三人の孫と祖父だった
暗いホテルの
しょうたいに応じる
時間給でしかない正体
暗い切り通しを超え
町に還れば
植えた植えないで
恥は巡り
ぎしぎしとした暗さの中で
酢watersは飲まれ
それでもあたふたしないきみの夫は
最初の合意に拠るねたみさえ理解する
死も墓も投げ込まれる池は何も出さない
粟色したjedismはとうに褪せ
きみの夫にはフォースがない

 

 

 

大阪で

 

工藤冬里

 
 

縮尺も方位もない地図を渡され
同緯度同縮尺のつもりで
分割された区域を囲む
口からナイフ
死体を啄もうとして鳥等は集まり
桜鍋にされる白馬もいる
地上で極めて不快なものたちの母
ひかりの 北九州行く?
免除されて住んでいた
役立つ点をはっきりアイコンごとに知らせる
小物語の集積が囲まれ
それをさらに白馬が囲む
白馬に囲まれる
命と新世界を天秤に掛ける

 

 

 

興味を失くしたようだ

 

工藤冬里

 
 

ウーマンラッシュアワーのは漫才のネタではなく種である
ヤマザキパンのdoughはパンの種ではなくパンのネタである
アダムとエバの子孫は種ではなく彼らのネタである
豊後水道のアジは関アジと呼ばれる時寿司の種で岬(ハナ)アジの時はネタである
ジャズマンが転倒させた種はインスピレーションソースであった
ネタと種を往来しようとする試みを続けていた人類はこれから痴呆状態に入る
中世に戻るのだ

 
その星はずっと雨がびゃあびゃあ降っていた
光といえば欲望と裏切りが交互に点滅しているだけだった
言葉は呪いにしか使われていなかった
記憶はトラウマしか残っていなかった
技術を学習する者はいなかったので
音楽は単旋律に退化していた
女は全員同じ顔をしていた
全員安中リナという名前だった

 
興味を失くしたようだ
浜辺で立ち止まった
七つも頭があると
海から上るのも
彫刻像を作るのも大変だ
地から上るのは英語である
トモダチは皆離脱を支持する
呼気はカエルのカタチをしていて
元カレも元カノも召集される
ドロドロに踏み潰される
服を汚すなと言いながら
鉢の中身をぶちまける
海の中の生き物は全て死に
川と水は血になった

カウンシルハウスの上の雲は竜の形をしている
トモダチは屋上で野獣の旗を揚げる
券売場に反対の署名
赤鉛筆の立ち飲み屋で芯を剥き出しにする
睫毛が長すぎてピューと吹くジャガーさんみたいに目がないので
本心に立ち返る隙がない
障害があって結婚しない人が
忘れられている