日常のさざなみは強く

 

ヒヨコブタ

 
 

わたしの日常はざわめきつつも守られているのか
どうしてふつうを生きていられるのだろうか
なぜなにどうしてが重なって
ぷつんと糸が切れるような

このような世界を想像しなかったわたしは
平和にとぼけて生きていたのだろか
世界に目を向けていればその兆候に気がついたのだろうか
そしてできたことはあったのだろうか
また今できることは何なのだろうか

ベビーカーが広場に並ぶ
なくなった子供の数だという
避難して駆け込む先は地下
それすらも守られていないばしょ
大江戸線ほど深いという
まだまだ寒いだろう
そこで夜が明けるのを待つ日々のひとのこころをわたしは知らない
知った気になることはゆるさない

かつて子どもだったわたしは
先祖の墓参りすら許されぬことを悲しんだ
その国にもその人々にも先祖がいるだろうに

せめてもの墓参り
そこで暮らした日々に思いを馳せる日
それが政治により叶わぬ年があることに
ときに苛立った

不意をつかれたような戦争だ
脅威というのは別のところにあると思っていた

なんの理由があって祖国を暮らしを生活を奪う
根こそぎ破壊しそれでも足りずに命まで奪うのだ

わたしは考えることをときにやめる
その人たちが救われる道を考えることも
疲れて横たわる
体を横たえて思考をとめる

誰もが親族を亡くしたあの戦争は
ついこの前だと大人になってから思う
こどもの頃には大昔だと思っていた
田舎町には関係ないと思っていた

それがどうだろう
ただ語られないうちに時が進んだだけだったとは
もうこどもでいられないわたしは
知ることを選び
知ることを拒絶もする

ずるいと思う大人には
わたしはなりたくないのに

桜が咲き誇る
かなしい気持ちでみている
桜を穏やかに眺めていたい
ふたつの気持ちがどこにもいかない
それらを持って今日を明日を生きるのだと

 

 

 

島影 41

 

白石ちえこ

 
 


群馬県桐生市

 

暑かった夏の日
いつまでも分かれ道を右へ、左へ、
うろうろした
団地の先に、ふと、古い消防署が現れた
見たことのない火の見櫓、監視塔
半円の通路
ファインダーを覗くと、時代も場所もわからない夢の中の風景のようであった

 

 

 

まだ言えないけれどこれから起こること

 

辻 和人

 
 

3月に入った
表に出ろ
まだ言えないけれどこれから大きなことが起こる
3月は一年で一番好きな月でね
まだちょっと寒い空気、その中に
ほんのり暖かい芽
表に出ると
わかる
家の駐車場の脇に小さな花壇がある
ホース引っ張り出して元栓ひねって
ジャーッ
水、出た
まる裸のヤマアジサイ
冬の間に乾ききって
カッサカッサ
でも枝の先っちょちょっぴり緑色っぽい
剪定バサミが
バッサバッサ
切断した、その先っちょに
小指の半分くらいの緑っぽい紡錘形
膨らもう膨らもう、として
膨らみきらない膨らみきらない、まま
ちゅっちゅっ
よく見るとちっちゃい角みたいなの2つ突き出てる
いつか
割れるぞ
開くぞ
飛び出すぞ
ジャーッジャーッ
水、やる
乾ききった肌が無表情のまま飲んでる
これでいい
表に出ろ
かわいい花咲かせるなんか
後でいい
表に出ろよ
まだ言えないけれど
これから大きなことが起こる
ジャーッジャーッ
ぼくを揺るがす
これから起きること
おっと靴ちょっと濡らしちゃった
ちょっと冷たいな
平気、平気
ほんのり暖かくてほんのり緑っぽい芽
そのうち表に出てくる
出て来いよ

 

 

 

現れについて 07

 

狩野雅之

 
 


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Description

 
影はひかりの反対概念ではなくひかりの一部としてそこに在ることを知る。

FUJIFILM X-T2, FUJINON XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS

Masayuki Kano