坂の上の家

 

スイッチが入った
思ったときから
安全な言葉をえんえんと
書き続けることしかできなくなった初老の詩人

学校や組織の理屈に
さからって生きるのだと
四十年以上逃げまわり続けて
ついに自分というものを持ちえなかったと気づく六十男

フリーのミュージシャンはいい
一人で、二人で、三人で
合わせるわけでもなくそれぞれの即興をぶつけながら
二度と来れない世界を目指していく

となり町の
CDが世界中で細々と売れているという
Aさんにギターを習っている
あわただしすぎないペースで
好きなことを花のように育てていく

かたい弦できれいな音が出るようになるまで
カッティングの練習
最後はビートルズのコピーで声も合わせる
いま死を目の前にしている人がいても
ぼくのエクスタシーはこわれない

坂をのぼっていく