バベルの塔

 

佐々木 眞

 
 

バベルの塔、倒れた。
スカイツリー、倒れた。
トランプタワー、倒れた。

すってんコロリと、倒れてしもうた。
なんでか知らんけど、倒れてしもうた。

神を恐れず、神々がいます天空の彼方を無遠慮に侵犯せんとする人間どもの野望に、
コナクソ、ハナクソ、アベノミクソ
ついに、ついに、鉄槌が下ったんや。

浅草十二階、倒れた。
ロンドン塔、倒れた。
エッフェル塔、倒れた

ドドシシ、ドッシーンと、倒れてしもうた。
ベリベリ、ベキューンと、倒れてしもうた。

こないだ西新宿の京王プラザホテルで、エイコ先生と打ち合わせをしとったら、
突然ビル全体が揺れだして、5分間ほど生きた心地がせんかった。
わいらあタモリやないけんど、高いところは苦手やねん。
中也はんは好きやけど、「ゆあーん、ゆよーん」も苦手やねん。

エンパイア・ステート・ビル、倒れた。
クライスラー・ビル、倒れた。
ワールド・トレードセンター、倒れた。

むかしむかし、佐々木小太郎という名前のおじいさんが丹波の国で下駄屋を営んでおりました。
小太郎さんは、孫の私をとても可愛がっていましたが、時々こんなことを申しました。
「高い所へ登るのは、アホウとセンチムシじゃよ」

東京タワー、倒れた。
京都タワー、倒れた。
大阪万博ビル、倒れた。

センチムシちゅうのは、雪隠に住む黄色いウジ虫のこと。
ちん隠しの下を覗くと、小さなウジ虫は地獄から地上を目指す杜氏春のように、
せっせ、せっせと、便器を伝って這い上ってくるんやで。

霞が関ビル、倒れた。
さっぽろテレビ塔、倒れた。
瀬戸デジタルタワー、倒れた。

ラリラリ、ラーンと、倒れてしもうた。
ガチャガチャポーンと、倒れてしもうた。

小太郎おじいちゃんだけやない。
おかあちゃんも、おとうちゃんも、
「高いとこへ上がるやつは阿呆や」いうとった。

ドバイのブルジュ・ファリハ、倒れた。
中国の上海中心、倒れた。
メッカのアブラージュ・アル・ベイト・タワー、倒れた。

そう、僕らはアホウ。僕らはセンチムシ。
狭くてむさくるしい外下界は厭になった、とばかりに、はるかなる高みを目指して
一歩一歩、せっせ、せっせとのし上がる。

福岡タワー、倒れた。
名古屋テレビ塔、倒れた。
海峡ゆめタワー、倒れた。

わいらあ、エベレストに登ったことは、ありまへん。
富士山に登ったことも、あらへんで。
下界を見下ろすペントハウスに住もうと思ったことも、ありまへん。

カナダのCNタワー、倒れた。
ロシアのオスタンキノ・タワー、倒れた。
クウエートの解放タワー、倒れた。

ドドシシ、ドッシーンと、倒れてしもうた。
ベリベリ、ベキューンと、倒れてしもうた。

それにしても、人はなんで高い所に登るのか?
なんで高い所に住みたがるんか?
天にまします八百万神に、1センチでも近づきたいんか?

ソウルの第2ロッテワールドタワー、倒れた。
シカゴのウイリスタワー、倒れた。
NYの1ワールドトレードセンター、倒れた。

それとも人間どもは、空気の薄いところで酸欠したいのか?
巷をいやがうえにも低く見て、地べたを這うアリどもを見下したいのか?
至高の存在とやらに額づいて、おのれに余光をもたらしたいんか?

おお、友よ!
親愛なる全国の学友諸君よ!
わいらあがこうして駄弁を垂れ流している間にも、

中国の広州塔、倒れた。
イランのボルジェ・ミーラード、倒れた。
マレーシアのKLタワー、倒れた。

ラリラリ、ラーンと、倒れてしもうた。
ガチャガチャポーンと、倒れてしもうた。

この世で、死なないものはない。
この世で、落ちないものはない。
この世で、倒れぬものもない。

バベルの塔、倒れた。
スカイツリー、倒れた。
トランプタワー、倒れた。

すってんコロリと、倒れてしもうた。
なんでか知らんけど、倒れてしもうた。