道 ケージ

 
 

オヤジの名は
カツヒコ
自分の柔らかい名より
その名が好きで
子供の頃よく漢字を書いた

なんでタカヒコにせんやったと
「そりゃ考えんやったな」

戦勝祈念のカツヒコは
満州建国大学にて学徒動員
歓喜嶺の砂塵で野菜を作る
高粱(こうりゃん)を大車(ダーチョ)に

継いだものは
乾布摩擦
そして、頽頭(デカダン)

夏休み、オヤジと
釣川で釣り
いつものように釣れず
オヤジはどこまでも下流へ
緑にまぎれ
行方知れず

かきわける芒(かや)
草いきれに動悸
かさね、切り傷が走る

飼いならすのだと言い聞かす
慣れっこじゃないか
ほら、思い出すのだ

釣り針のミミズが
切れ落ちて
何かを示そうとしている
じたばたと
砂が字を書く

ズックで
☓(ばつ)
もう一つ
また

 
 

註一 (  )内の表記は本来はフリガナです。このヴァージョンではルビを振ることができないため、このような表記にしています。

註二 「釣川」は福岡県宗像市の実在の川の名。玄界灘に注ぐ。萱からできた長太郎河童の伝説を持つ。