虚構について

 

長尾高弘

 
 

世界のなかのできごとは
決して反復せず、
同じことが繰り返されたように見えても、
それは細かい差異を無視したから同じに見えただけなのに、
できごとを表す言葉は、
まったく同じ形で反復することができる。
寸分たがわず同じ言葉が、
何度でも出現できる。
無視された細部は、
無視されるに値する
取るに足らないものだから、
無視しても構わないと言っても
いいのかもしれない。
差異は瞬間的に無視され、
というか気付かれず、
消えていってしまう。
私たちに残されたのは、
何度でも反復できる言葉だけだ。
私たちは世界で直接考えることはできず、
反復可能な言葉でしか考えられない。
ときには意識される差異さえ無視して、
異なるものを強引に同じだと言うことによって、
何かがわかったような気になる。
いや、そうしなければわかったような気になれない。
そのような言葉が、
現実にある世界とは別の
虚であり実でもある世界を作り出してしまうのは、
当然なのかもしれない。