クレプトマニア

 

村岡由梨

 
 

不潔で醜い男たちと交わる夢を見る。
その男たちが私自身だと気付いたのは、
小学校高学年の頃だっただろうか。

あなたと永遠の別れになる前に、
ひとつ告白をさせて下さい。
私は嘘つきな子供でした。
盗んだのは1回だけ、と言ったけれど、
実際は365回でした。

何度も何度も盗んで、
何度も何度も食べました。
そのうち、おでこにたくさんのニキビが出来て
これが神様から与えられた罪の刻印なんだなと思いました。

やがて、その日がやってきて、
私は丸裸で店の奥に連れて行かれました。
涙で視界がぼやけて、
何も見えず、何も聞こえず、息も出来ずに、
暗い水の底を歩いているような時間が
永遠に続くような気がしました。

帰ってきたあなたは、私を麺打ち棒でメッタ打ちにして
それから、泣きながら私の体をきつく抱きしめました。
それ以降、私はパタリと盗みをやめました。

けれど私の外形は醜いまま。
醜い私を愛してくれる人など、いるわけもなく
私は私を愛するしかなかった。
肉体的に交わることによって。

お母さん助けて。
顔がかゆい。かゆくてたまらない。
いっそ顔中をかきむしって、
髪の毛を一本残らず引きちぎってしまいたい。

お母さん、お姉ちゃん、弟、お父さん。友達。
たくさんの人達を傷つけながら生きてきた。
私の生活は今、
たくさんの人達の不幸の上に成り立っている。

「お前たちは育ちが悪い」
「由梨はヤク中」

お父さん、誇れるような人間でなくて、ごめんなさい。

お父さん、私のことが嫌いですか?
私は、私のことが嫌いです。

中学3年生の娘が言いました。
「『嫌い』っていう言葉は人を傷つけるためにある言葉だから、
簡単に口に出してはいけないよ」

でも、私は、私のことが嫌いです。

小学6年生の娘が言いました。
「私が私のお友達になれたらいいのに」

私が、私のお友達になれたらいいのに。
私が、私のお友達になれたらいいのに。

 
 

この詩を一気に書き上げて、
「切れない刃物でメッタ刺しにされているような気分。」
と夫から言葉をもらい、
決して誰かを傷つけるわけではなかったと
中途半端な言い訳をして、
決して虚構を演じているわけではないけれど、
私の中に詩という真実があるのか、
詩の中に私は生きているのか。

「ママさん ママさん」
そう言って、ねむは
はにかみながら私を抱きしめる。
「人ってハグすると、ストレスが3分の1になるらしいよ」
そう言って、はなが
ガバっと覆いかぶさってくる。
幼い頃の大きな渦に飲み込まれたまま
いつしか私は
抱きしめるだけではなく、
抱きしめられる立場に、また、なっていた。

私たち三人は、きつく抱きしめ合って大きな塊になったまま、
その瞬間、
間違いなく詩の中に生きていた。
詩の中に生きていた。

 

 

 

塀 181008, 181010, 181016, 181026.

 

広瀬 勉

 
 


41:181008 東京・中野 中央

 


42:181008 東京・中野 中央

 


43:181008 東京・中野 中央

 


44:181008 東京・中野 中野

 


45:181010 神奈川・逗子 逗子

 


46:181016 東京・武蔵野 西久保

 


47:181026 東京・杉並 成田東

 


48:181026 東京・杉並 阿佐谷南