白馬に囲まれる *

 

空白から

はじめたのか

なぜ
空白から

はじめたのか

そこに波だつものがいたからか
そこに波だつうなばらの

女がいたからか

そうなのか

はじめたのか
同緯度同縮尺のつもりで *

旅に
でても

空白を連れていく

波だつもの


白馬

そこにわたしだけの白馬が裸足で佇ってる

女だ
白馬だ

白馬に囲まれる *
白馬に囲まれる *

白馬の汚れた長い髪を撫でる
白馬の汚れた長い髪を撫でる

うなばらの
汚れた長い髪の
女の
首の
白馬の

抱きしめている

うなばらに佇つ女の
白馬の

しろい首を抱いている

 
 

* 工藤冬里の詩「大阪で」からの引用

 

 

 

ごっ……くんっ

 

辻 和人

 
 

さあさあ
デジカメで撮った写真
パソコンに移すんだ
USBケーブル引っ込抜いて
乱暴にキーボードの上に投げ出したら
ケーブルは
そろりそろりとキーボードの上を滑るんだ

(ひと呼吸)

垂れ下がったかと思ったら

(1/2呼吸)

椅子をかすめ
しなる、しなる
しなって、床へ落ちるんだ

(1/4呼吸)

落ちた
何、これ?
さっき、さっき……

(ゼロ呼吸)

おおっ、これ、知ってます
つい、つい
さっき
ぼくはペットボトルの水を口に流し込んだんだ
その時、喉の筋肉は
伸びたり縮んだりしたんだ

ごっ……くんっ

(ひと呼吸)
(1/2呼吸)
(1/4呼吸)
(ゼロ呼吸)

誰にも知られるはずはない
ぼくの動作だったんだ
誰にも見られてない
まるで意識していない
ぼくの動作だったんだ
それがこんな風に
(滑って、垂れ下がって、しなって、落ちて)
かすめ取られて
再現されて
目の前に突きつけられるとは

もっかい
辺りを見渡すんだ
やっぱり誰もいないんだ
ドアには鍵もかかってるんだ
カーテンも降りてるんだ

ごっ……くんっ

ふぅーっ
ま、いいでしょ
気を取り直して写真をパソコンに取り込むんだ
そこにはたくさんの昔の時間が
再現を待ってるんだ
待ってるんだ

(ひと呼吸)
(1/2呼吸)
(1/4呼吸)
(ゼロ呼吸)

さあさあ
床に落ちたままぐったりしているUSBケーブルを拾い上げるんだ
そして
相似をなした者同士
改めて顔を見合わせるんだ

ごっ……くんっ