エル・スール

 

原田淳子

 
 

 

“あ”と打つと “雨”と変換される”愛”

朱ほおずきを指でなぞれば
“心臓”と変換される
青ほおずきは秋の鞘

Siriは賢く、真実を逸らす
指先のアカウントで世界は変換され
行方不明の身体たちが犇めきあう
抜け殻を拾い、抱きしめる
歌のように体温がまだ残っていた

駅が住処だった燕たちは
幸福のパースペクティブを描き
南へ渡っていった
胸をサーモンピンクに染めて
エジプトにゆくのだろう

彼女から手渡された鏡
割れた破片はひかるゆめ
額縁のなかの荒野で
アレチノギクたちが合唱する
わたしたちこそ、真実です

南にゆきそびれた燕のために
幸福の王子の肩に似た枝を描く
アレチノトリの終の住処

雨あがり
蟲たちの王国の夜の配置がかわる
南から北へ、夏の終焉