用雙重的季節向妳致意。
二つに重なる季節の挨拶を君に贈る。

 

Sanmu CHEN / 陳式森

 
 

等一等,黑沉沉的玫瑰;
重傷的青銅已沉默不歌。
不辭的心充盈着秋闇的餘輝。

等一等,賦格的玫瑰;
醉舟離開妳睫毛的星座
離開星星的群島。

等一等,不眠的玫瑰;
詩節骨離,杯酒往何處?
最 !
瀝血的刻度寸斷象牙。

以後,我詩中的玫瑰不再是玫瑰。

 

 

待ってくれ、黒々としたバラよ;
深く傷ついたブロンズはもう沈黙して歌わない。
諦めない心は秋の闇の余韻に満たされている。

待ってくれ、フーガのバラよ;
酔いどれ船は君のまつげの星座を離れ、
星の島々を離れる。

待ってくれ、眠らぬバラよ;
詩片はバラバラになり、グラスの酒はどこに向かうのか。
最高じゃないか!
血の滴る目盛りは、象牙を寸断する。

これから、私の詩の中のバラは、もうバラではない。

 

日本語訳:木之内誠

 

 

 

 

パンドラモン、雨が降り始める

 

サトミ セキ

 

九月一日の朝 空気のにおいが変わった
雨の降りそうなにおいがしますね
と机から顔を上げて言うと
そうなんだ と上司は書類を見たままぼんやり答える
その昔 季節が変わる日
においと気圧と音の聞こえ方と微妙な気温の下がり方が違うやろ
と理科教師の母は言った
(湿度が上がると空気中の水分量が多くなって、水分が振動して遠くの音が聞こえやすくなるんよ。普段聞こえない踏切の音、隣町の中学校のチャイムの音も耳に届くし)

耳の奥が水の中にいる時みたい。隣りのデスクにいる人が遠くにいてゆらり姿が揺らぐ
雨が降る 降り始めます もうすぐ
鼻の奥に感じる重苦しさ、安いポリエステルの制服ブラウスの下の肌がべたべたしてきて、わたしはどうしてここに毎日通っているの 狭いビルの一室に電話とパソコンと電卓に囲まれて
(なんてね)

故郷の町の雨は
海に降るとき 大きな港に魚たちの粒子が油まじりに泡立ち
山に降るとき 緑がざわめく 海も山も雨が欲しいのだ

降り始めと雨上がりのにおいが違うのって知ってた?
だれかとお昼休みに話してみたい
(いいえ母と)
雨に濡れる公園の土の上に寝転んで土のにおいを全身にまぶしたい

三階の事務所から コンクリートの階段を音立てて駆け下りる
キュイーン、カウィーン、
雨や雪が降る前は耳鳴りがする、耳を上から押されたみたいに
エビアンを地下のキオスクで買う エビアンは雨水の味がする
このビルには下水道のにおいが上がってくる
わたしの身体が見えない水に圧迫されているんだ
故郷の町は 染色工場の酸っぱいにおいが流れて来ると雨が降った 今はその染色工場もないけれど
窓を開けると
新幹線の架橋が近いこのビル街でも 草のにおいがしてくる
目に見えないどこかで 草たちは勢いよく繁茂している
もうすぐ雨が降り始める

母と喋りたい

  初雪が降ると布団の中でわかる。深夜から朝にかけてのにおい
  初雪のにおいには名前があるんよ ラノリーノン、今名付けたよ
  季節が変わる雨のにおいはパンドラモン  なにそれ、パンドラの函?
  うんそんなもの

その昔 母は喋り続けた
雨の日には なんでカエルがたくさん道に出てくるんやろね (雨の降り始めはカエルのにおいに似てる) ちゃうちゃう、濡れたアスファルトや土のにおいや
いつもより早く学校に来た時のにおい、マラソン大会の冬のにおい、桜の花びらチラチラする新学期の夕方のにおい、運動会の朝は子供のにおいが濃ゆいし、みんな違うわ (ああわかる)
家の扉を開けると収穫時の田んぼは早よ刈り取ってというにおいがしたし、雨降りの前日は牛糞のにおいが遠くからはるばるやってくる
(それは知らんわ、)とわたしは笑った

土曜日の午後のわたしの故郷 海へと下る坂のにおい
母が最後に入院していた人工島に飛行機で降り立つといつも あの九月一日がどこかに混じっている

パンドラモン ラノリンノーリン ンドラモン
(十一年前の八月三一日は晴れていて 九月一日夜明け前に雨が降った)

今日 季節が変わった
もう言葉で伝えられないけれど
今あなたが感じるにおいはどんなものなの
教えてよ
この世ではないその場所のにおいを
パンドラモン 今日で十一年
新幹線が見えるこのビルにも 雨が降り始めた
草のにおいが濃くなって来る
わたしもこの街で一本の草になるんだろう
おかあさん あなたの顔を忘れてしまった