橋上女

 

佐々木 眞

 
 

見ろよ イズミ橋の橋の上
今日も佇む 橋上女
降っても 照っても
一日に 何度も 何度も
近所の石橋の上に 佇んで
いつまでも いつまでも
あらぬところを 見つめている

歳の頃なら 五十 六十
身につけているのは 垢で汚れた紅色のダウン
水色のウールのパジャマの 上下をまとい
もっともらしく 両腕を 組んで
足には 黄色いサンダル 履いて
いつまでも いつまでも
あらぬところを 見つめている

それとなく 近寄って 眼鏡の下の 薄汚れた顔を 見れば
小さな 両の目玉は 灰色に濁って
さながら M.ジャクソンンの「スリラー」に出てくる ゾンビのよう
これでは どこを 眺めても 何も見えないだろう
ところが そうではなかった
彼女は 恐ろしい真実を 見据えていたのだ
ギリシア神話に出てくる カサンドラのように

私はその時、むかしアメリカで撮影した たくさんの写真を持っていた
すると 橋上女は 私を 呼びとめて
「その写真を 見せて おくれな」というた
それで 私が 写真を渡すと 彼女は 物珍しそうに見つめていたが
「ほら この写真を じっと見ていて ご覧な」というた
1968年、78年、88年、98年に NYの ブルックリン橋を
私がおなじ場所、おなじ角度で撮った 4枚のカラー写真だ

橋上女が 橋の上で 1968年の写真をかざすと
しばらくして ブルックリン橋は ピンボケになって
しまいには 姿も形も 見えなくなってしまった

「ほれ こっちも ご覧な」と橋上女が 橋の上で 1978年の写真をかざすと
しばらくして ブルックリン橋は ピンボケになって
しまいには 姿も形も 見えなくなってしまった

「ほれ こっちも ご覧な」と橋上女が 橋の上で 1988年の写真をかざすと
しばらくして ブルックリン橋は ピンボケになって
しまいには 姿も形も 見えなくなってしまった

続けて「ほれ こっちも ご覧な」と橋上女が 橋の上で 1998年の写真をかざすと
しばらくして ブルックリン橋は ピンボケになって
しまいには 姿も形も 見えなくなってしまった

私は、橋上女から取り戻した 4枚の写真を 矯めつ眇めつ 何度も何度も見つめたが
そのどこにも ブルックリン橋は映っていない。同じような どろりとした茶色の印画紙が 掌から突き出た 4枚のトランプのように 並んでいるだけだ

この時遅く かの時早く 私は気が付いた
1968年と 1978年と 1988年と 1998年に撮影された写真は なぜか見つめられると 粒子が荒れて 映像がとろけ出し 膨れ上がって 土の色に戻ることを

西暦の末尾に8が付く写真は 10年毎に見つめられると ピンボケになってしまうのだ
それはあたかも 大きな栗の木を 輪切りにした時 その年輪が 10年ごとに膨れ上がっているような ものなのだ

ユーレカ! ユーレカ! これぞ世紀の大発見 ではないか!
手の舞い 足の踏むところを 知らなくなった 私は
かの 橋上女に その 驚きを伝えようとしたが 彼女の姿は どこにもない

橋上女 ことカサンドラは いつのまにやら 姿を消した
さらば さらば 謎の女 カサンドラよ!
お前の 灰色に濁った 両の眼は 誰にも見えない 真実を見ていた

 

 

 

永劫回帰の歌

 

佐々木 眞

 
 

ケーシー高峰 死んぢゃった
シーモア・カッセル 死んぢゃった
どんどん どんどん 人が死ぬ
じゃんじゃん じゃんじゃん 人が死ぬ
次に死ぬのは 誰だろう?
有名人は 別として
歳の順番から いくならば、
我が家で死ぬのは ボクだろう
確率的には まずボクだろう

その次 死ぬのは 妻だろう。
ぜったいに死んでほしくない妻だろう
遺されたのは 可哀想な 長男次男
長男なんか 障害者だから
次男は さぞや 大困りするだろう
するだろうけど なんとか ぐあんばれ
無我夢中で ぐあんばれば
そのうち なんとか なるだろう
ふときがつけば 死んでるだろう

死んでしまえば こっちのもの
もう障害も 健常も
金も 名誉も 地位もなく
生まれたまんまの 裸になって
肉も 脂肪も 溶け去って
堅い骨さえ 灰となり
土に混じって 炭となり
雨に打たれて 花となり
ある晴れた日に 宙に舞う

宙に舞え舞え カタツムリ
成層圏から銀河系
そのまた先のブッラクホール
ここは「事象の地平線」*
真っ暗くらの 穴の中
身動きできない ほら穴で
コウちゃん ケンちゃん ミエコさん
可愛いムクちゃんも 加わって
今宵ここでの 花盛り

夢にまで見た 一家団欒
そこに かあさん おとうさん
じいちゃん ばあちゃん 親戚一同
みんな揃って 顔を出し
やあ こんにちは ひさしぶり
みんな 元気か 変わりはないか
なんの 変わりがあるものか
生まれも 死ぬも 夢の中
生まれも 死ぬも 夢の中

この世も あの世も ひとつながりで
どんどん死ねば どんどん生まれる
誰一人 失われるものは ない
何一つ 失われるものは ない
回れや 回れ 極楽メリーゴーランド
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏
みんなを乗せて ぐるぐる回れ!
南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏
みんなを乗せて ぐるぐる回れ!

 

 

*「事象の地平線」
物理学における相対性理論に基づいた概念の一。光や電磁波などの観測によって情報を知りうる領域と、そうでない領域の境界。ブラックホール周辺で、光が外部に逃れられない範囲の境界面。また、膨張する宇宙で、観測者から遠ざかる速度が、光速を超えている領域との境界線。「デジタル大辞泉」

 

 

 

「夢は第2の人生である」改め「夢は五臓六腑の疲れである」 第71回

西暦2018年神無月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木 眞

 
 

 

「君らしい仕事を思いっきりやりたまえ」と、イデ君を激励すると、彼は満面に笑みを浮かべて頷いた。10/1

「夢百夜物語」のエスペラント語の新訳には、頁ごとに写真が添えられていたが、これは右翼でファシストの有名カメラマンの作品だった。10/2

ともかくそこはとんでもない変態高校で、ビキニ姿の女子学生たちが、集団で新米の男性教師に襲いかかるので、みな戦々恐々としていた。10/3

ぼくらは、5人で新曲の「凍れる流れ」を演奏したのだが、意外にも満場の拍手喝采を浴びていたく驚いた。10/4

砂漠の真ん中で、100名の全裸の美男美女たちが、二手に分かれて粛々と行進し、双方が出会った地点で、激しく性交している姿は、壮観というも愚かであった。10/5

「おらっちはNY医科大首席卒業のDrヤマガタ、手でも足でも乳でもなんでもかんでもバッタバッタと斬っちまう。人呼んで日本のベン・ケーシーだあ」と、その白覆面の男は、ふんぞり返った。10/6

「星屑兄弟の伝説」の続編が公開されたが、これが圧倒的に素晴らしいので、未完成の作品であるにもかかわらず、カンヌ映画祭でグランプリに輝いた。10/7

来年度の事業部ごとの会社案内の作成をするために、某事業部長を撮影しようとしたら、「来年は、わいらあこの事業部からおらんようになってしまうんやけど」と寂しく呟くので、人物写真の代わりに事業部ごとにいろんな花を載せることにした。10/8

御茶ノ水からどんどん歩いてくると、法政大学の辺の並木道にさしかかった。一緒に歩いてきた学生が、「僕らはここで別れますが、良かったらこれを」というて、何かを手渡した。見るとトリスタンだったので、「ありがとう」というて受け取った。10/9

彼女は、上から命じられると、次次に誰とも知らない人物を暗殺しているテロリストだったが、いつ自分が消されるかと戦々恐々としていた。10/9

その古本屋のおやじ、といってもまだ若いのだが、は、毎週水曜日の夜を相談日にしていて、若い女性の身の上相談に乗っていたのだが、相談相談といいながら、結局は彼女たちと寝ているのだった。10/10

今日から新学期の授業が始まるというので、久方ぶりにキャンパスを訪れたが、あまりにも広大で、どこが自分の教室だかさっぱり分からない。それに自分の講義のタイトルすら忘れていることに気付いて、私は途方に暮れた。10/11

おらっちは、企画室主催の講演会場へ潜り込んだが、入場券がなかったので、ホールの天井に寝転がって、トップデザイナーのパリコレ話を聞き流していた。10/12

大島に半年間滞在している間に終戦となったので、我々はさながら逃亡者のように元町港へ急いだが、芋を洗うような人混みで、なかなか前に進めない。ふと見ると、誰かが私の右手をしっかり握りしめて、一歩も動こうとしないのだ。10/13

昨日、長屋の奥の奥に閉じこめられていた老人が、いきなり陽の光の下に引き出され、あっという間に、細い首をちょん切られたが、あれは、どうも自分だったような気がしてならぬ。10/14

死の瀬戸際から何とか持ちこたえ、安蒲団の中に横たわると、いきなり床の絨毯が立ちあがってきた。10/15

俺は、2人の男を殺したようだ。1人はムジカル、もう1人はオフリング、2人合わせると「音楽の贈り物」になることを、後で知った。10/16

商品企画室へ行くには、小さなエレベーターに乗るしかなかったが、これが古色蒼然とした一時代前のオンボロのくせに、猛烈な勢いで乱高下するので、今では企画室のスタッフが、恐る恐る利用するだけになってしまった。10/17

私らは、その占い師を有名にするために、まず伯爵夫人から、女王に面会の糸口をつけてもらおうとしたのだが、なかなかうまくいかないので、往生している。1018

築地駅からに乗り込んだクボナオコをやっとつかまえ、白い二の腕をぐいと引っ張ったら、万事休すと観念したのか、彼女は、籠の中のタイやヒラメやブリやカツオを、満員電車の中にぶちまけたので、大騒動になった。10/19

大川の土手の上を、オオミチ君と一緒に歩いていたら、後から「時計じかけのオレンジ」のような悪童たちが追っかけてきたので、2人とも必死に逃げたが、気がつくと、オオミチ君の姿が、見えなくなってしまった。(続く)

仕方がないので、そのまま土手の道を歩いて行くと、行き止まりになってしまい、そのどんづまりでは大田、山田、広田の3名が押しくら饅頭をしていたので参加したいと思ったが、私の名前は吉田ではなくササキなので、諦めて料亭の二階から見物していた。10/20

リーマン時代の私が、どれくらい忙しかったかというと、トイレで小便をしたあと、チンポコをしまい忘れたことを知りつつ、それを収納している時間が勿体ないので、そのまま歩いていたくらいだった。10/21

今度のCEOは月曜に来るというので、みんなで待っていたが、来ない。あちこち探すと、地下12階の窓のない部屋にこもって、「しこくCEOしごく地獄さ」という死のような詩、詩のような死を垂れ流していた。10/22

ふと思いついて、「わたしらにとって懐かしいところ、心のふるさとのごとき場所をたった一字で表すとすれば、それは「玄」ではないか」、というと、セイさんが「なるへそ、それは面白いねえ。銀座で一杯やりながらゆっくり伺いましょ」というて、タクシーを呼んだ。10/23

その日の結びの一番で、物凄い八百長大相撲が行われたので、一部の客が「八百長だあ、八百長だあ!」と抗議の声を上げたが、幸か不幸か、その日はスコットランド愛鳥協会の客が大半を占めていたので、全体としてはあまり問題にならなかった。10/24

イデア師は、自分のお腹に画かれた難解な図像で、今後の世の中の推移を示していたが、それは、知る人ぞ知る叡智と霊感に満ち溢れた内容だった。10/25

時々ユビ王がやってきて、イデア師のお腹を触ると、たちどころに前代未聞の不思議なアートが飛び出してきて、それらが民草の暮らしに、大きな幸いを授けてくれるのだった。10/25

ホームラン王のクワタは、時々ベースを踏むのを忘れて、せっかくのホームランをふいにしてしまうことがあるので、私は彼に頼まれて、いつも彼と一緒に走りながら、彼の足がちゃんとベースを踏んだか否かを、確認するのだった。10/26

広報担当のヒトミ君とランチしたあとで、「お茶」しに行った。分かれ道で「右はらんぶるだから話ができませんよ」とヒトミ君がいうので、左を進むと映画館がカフェをやっていた。若い女性客が多く、映画館ほど暗くはないが、かなり薄暗いカフェである。10/27

客が横並びに座っていると、店の女の子が端から次々におせんやキャラメル、蓋にストローを突き刺したカフェオレなどを持ってきて、これをリレーして、お好きな物を取ってくださいという。妙な仕組みを考えたものだ。

せっかく映画館に入ったのだから、「マルクス兄弟の映画でも見せろ!」と怒鳴ったら、「マルクスは危険だから、チャップリンにして」という黄色い声が聞こえ、拍手が起こった。民度の低い奴らだと軽蔑していると、隣から妙なものが廻ってきた。(続く)

生きものである。目を凝らしてよく見ると、赤ちゃんである。躊躇ったが覚悟を決めてダッコすると、ニコニコ笑っていたが、そのうちむずかって泣きだしたので、隣の客に渡そうとしたが、誰もいない。ヒトミ君もいない。ワアワアと泣き喚く赤ん坊を抱いた私は、無人の映画館で途方にくれた。10/27

われわれは、首をチョン斬られた20人の兵士と、斬られなかった2人の兵士を見せられたが、どうしてそうなったのかと訊ねても、その理由は説明してもらえなかった。10/28

偉大なる王、トクシカの最期を看取った私の見聞記は、パリ支店のPCが不調で、どこにも発信されることはなかった。10/28

プロデューサーの私は、ある時ふと思いついて、映像製作中の現場に総合アートディレクターとしてキタムラ・ミチコ氏を迎えたのだが、彼女が姿を現わしただけで、現場の空気がガラリと変わり、その効果たるや驚くべきものがあった。10/29

陥落寸前の城塞だったが、少年兵の私は、たった一人で城門にバリケードを張って、雲霞のごとく押し寄せる敵兵に立ち向かおうとしていた。10/30

原口村の原口村長は、芸術愛好家なので、自分が経営している原口旅館に、世界各地の有名無名の詩人、作家、画家、アーティストを招待していたが、その中にランボーならぬランホオが混じっていることを、誰も知らなかった。10/31

私が会社のPCに打ち込んだ「これでも詩かよ」という原稿が、全社員に向けて発信されてしまったので、私は一躍、会社随一の「これでも詩人」と目されることになってしまった。10/31

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その38

 

佐々木 眞

 
 

 

お母さん、一部って、なに?
全部じゃなくて少しってこと。

圧死って、ぺっちゃんこになることでしょ?
そうだよ。コウ君、すごいこというね。誰が圧死したの?
分かりませんお。

立って、立って。立ってご覧って、気をつけのことだよ。
立っては、起立することだよ。
立って、立って。立って、立って。

マサミ先生、町田だったでしょ?
そうだね。
マサミ先生、亡くなったでしょう?
そうだね。

お父さん、SMAPやめたの?
うん、解散したよ。

「転校生」で、蓮佛さん、死んじゃったでしょう?
うん、死んじゃったね。
かずおとかずみ、入れ換わったちゃったでしょう?
うん。入れ換わったね。

お父さん、ぼく常用漢字と人名漢字好きですお。
そうなんだ。当用漢字は?
常用漢字と人名漢字ですよ。

ぼく、タマネギ好きですお。
そう、良かったね。カレーライスにいっぱい入ってるよ。

お母さん、しょっぱいって、なに?
塩からいことよ。
お父さん、しょっぱいの英語は?
ソルティだよ。

お母さん、サトイモ煮るの?
そうよ。

あ、ドッコイ、ドッコイ。
ドッコイ、ドッコイ。

お母さん、ヒロシさん「オトナ高校」見た?
見たでしょう。

お母さん、素晴らしいって、なに?
すごくいいことよ。

ミワさん、良くなりますように! お母さん、ぼく、言いましたよ。
ありがとう。

ぼく、アキちゃん、好きですお。
そう? お母さんもよ。

お母さん、ガラクタって、なに?
いろんなもんがいっぱい、よ。

お父さん、ぼく、先に帰ります。
分かった。気をつけてね。

神さまって、なに?
上の方で、私たちのことをみているひとよ。
神さま、神さま。

お母さん、セデス、頭痛いときでしょう?
そうね。

お父さん、キクチモモコ、脳溢血で亡くなったよ。
そうなんだ。何のドラマで?
「ダイアリー」だよ。

お父さん、脳溢血の英語は?
はて脳溢血、脳溢血、脳溢血ねえ。分かりません。

お母さん、おじいちゃん、どこに勤めていたの・
電電公社よ。
デンデンのデンは電気のでん?
そうよ。

お父さん、先輩の英語は?
そうねえ、シニアかな。
なに、なに?
それともオオビーかな。
なに、なに?

お父さん、あした11時に、大船の「とん田」に行きますよ。
そう。一緒に行こうね。

お母さん、セイザブロウさん死んで、ミワさん泣いてた?
泣いてたと思うよ。

ぼくは高田馬場好きですよ。
そうなの。
高田の馬場。高田のばばあ。
高田の馬場に、何があるのかなあ?
高田のばばあ。高田のばばあ。

なお、ってなに?
そして、だよ。

お母さん、夏はナツミの夏でしょう?
そうだね。
お父さん、ぼくはナツミです。
こんにちはナツミさん。

お父さん、11時に「とんでん」行きますよ。
うん、行こうね。

お父さん、どっちみちの英語は?
エニイウエイかな?
どっちみち、どっちみち。

ぼく、「おっとっと」好きですお。
そう、良かったね。

お父さん、金八先生、「学校へ帰ってこいよ」といいましたよ。
そうなんだ。誰に向って。
みんなに。

人名用漢字、印刷して、お母さん。
はい。
お母さん、もう終わりにしてね。人名用漢字よ。

お母さん、「我々は破壊しなければならないのだ」てなんのこと?
「我々は壊さなければならない」、ということよ。

お母さん、様々って、なに?
色々ということよ。

お母さん、堤供ってなに?
差し上げることよ。

お母さん、「わろてんか」おもしろかったよ。
お母さんも、おもしろかったよ。
わろてんか、わろてんか。

京王線、ちょっと揺れる?
うん、ちょっと揺れるね・

人工呼吸って、なに?
自分で呼吸できなくなったら、機械で呼吸出来るようにすること。
人工呼吸、くるしいの?
さあ、どうかな。

お父さん、バージョンって、なに?
そうねえ、いろんなタイプのことだよ。

たもつって、なに?
元気でいることよ。

お母さん、前カラオケで、ピッピとやりました。
そう。
ピッピ、ピッピ。

リョシュウて、なに?
どういう字を書くの?
旅の愁だお。
それはね、旅をしていて悲しくなることだよ。

京浜東北線、新しい駅ができるの?
え、山手線じゃないの?
高輪ゲートウエイ、京浜東北線だよ。
そうなんだ。

お父さん、タケの英語は?
バンブウだよ。

お父さん、カエデ、もみじでしょ?
そうだね。

お母さん、オオヤさん、好きになったんですよ。
そう、良かったね。お母さんも好きよ。

お父さん、綾部におばあちゃん2人いた?
いたねえ。

お父さん、ぼく、トノサキさん、好きですよ。
そう。お父さんも好きだよ。

ぼく、「醜いあひるの子」好きですお。
どんなおはなしだったっけ?
分かりませんお。

ぼく、四国好きですお。
そうなんだ。四国のどこが好きなの?
ぜんぶ好きですお。
そうかあ。

今日、豚汁とお赤飯にしてね!
分かりました。

せめてって、なに?
それだけでも、よ。

お父さん、ミイラ、骨だよね?
そうねえ、だいたい骨だね。

お母さん、ぼくねえ、ナデシコ好きですお。
そう。お母さんもよ。
ナデシコ、ナデシコ、ナデシコお。

お父さん、大杉漣、怒ってたよ。
そう。怒るなよ、っていいなよ。
大杉漣、大杉漣、大杉漣。

ミワさん、採血した?
したと思うよ。

綿はオクラに似てるでしょ?
うん、似てるね。

お母さん、収穫って、なに?
えーと、得るものよ。

経験って、なに?
やってみることよ。

朗らかって、なに?
明るくニコニコしていることよ。コウ君朗らかだよね。
朗らか、朗らか、朗らか。

ずいぶん大きくなったね、とユカリさんいったよ。
いつ?
だいぶ前に。

サッチャン、幸せでしょ?
うん。
サチ、サチ、サチ。

お父さーん、「任侠ヘルパー」のメイサ、怒っちゃったよ。
そうなんだ。

コウ君、お父さんはコウ君のこと、大好きだよ。分かってますか?
はい、分かってますよ。
あなた、あんまりそおいうこと言わない方がいいわよ。

お母さん、一晩中てなに?
ずーーーと、よ。

どうやって水を湛えればいい?
お水を入れればいいのよ。

お父さん、ごはんにしよ。
はい。
お父さん、ごはんにしよ。
はい。
お父さん、ごはんにしよ。

 

 

 

レイワ行進曲

音楽の慰め第32回

 

佐々木 眞

 
 

 

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
明治でもない 大正でもない
昭和でもない 平成でもない
英弘でも 広至でも 久化でもない
万保でもなく 万和でもない
レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
姿もきりり 心もきりり
山 山 山なら 富士の山
海 海 海なら 日本海
僕たちは行こうよ 行こうよ 足並みそろえ
タラララ タララ タララララ

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
人 人 人なら ニッポン人
中国人でもない 朝鮮人でもない 完全無欠のニッポン人
(できたらアメリカ人がいいけれど)
僕らは100%の純日本人
世界に冠たるニッポン人

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
空 空 空なら 日本晴
大人になったら 日本会議
この美しい国に 革命起こそう!
進め 進め 雁首そろえ
ラリララ ラララ ランララン

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
大きな望み 明るい心
強い人には忖度し
落ちこぼれなんか ぶっ殺せ!
巧言令色鮮し仁
明るい未来に 挑んでいこう

レイワ、レイワ、レイワの子供よ 僕たちは
元気なからだ みなぎる力
鳥 鳥 鳥なら 鷽の鳥
行こうよ 行こうよ 世界制覇だ
明日待たるるその宝船
レッツゴーゴー レッツゴー! レッツゴーゴー レッツゴー!

 
 

*久保田宵二作詞・佐々木すぐる作曲「昭和の子供」を参照&無断引用し、自在に解体新書いたしました。

「昭和の子供」

 

 

 

この世は、時々うつくしい。

―Et nous nous resterons sur la terre Qui est quelquefois si jolie Jacques Prévert「PATER NOSTER」
 

西暦2019年3月の歌

 

佐々木 眞

 
 

 

雨が上がって、風が吹く。
東の空いっぱいに弧を描いて
久しぶりに大きな虹が出ている。
この世は、時々うつくしい。

どこかで、グヮッ、グヮッ、グヮッと声がする。
滑川を覗き込んだら、春の水の上で
六羽のカモたちが、翼を拡げて駆け回っている。
この世は、時々うつくしい。

妻が、美容院から戻ってきた。
すっかり白くなった髪を、短めのボブにして
その姿は映画『ジャイアンツ』のエリザベス・テーラーに、ちょっと似ている。
この世は、時々うつくしい。

ドナルド・キーンやアンドレ・プレヴィン
ブルーノ・ガンツやカール・ラガーフェルドは亡くなったが、
わが鈴木志郎康や岡井隆は生きている。
この世は、時々うつくしい。

三寒四温の温の日。
イヌフグリの花と葉っぱの上で
今年初めて誕生したキチョウが、微かに翅を震わせている。
この世は、時々うつくしい。

白血病の堀江璃花子選手が「私は全力で生きます!」と宣言し、
私の妹も、抗がん剤の激烈な苦しみと闘いながら
「がんばります!」とメールを寄越す。
この世は、時々うつくしい。

東京千駄ヶ谷国立能楽堂の「第18回青翔会」。
能「海人」の後シテ役で、龍女に扮した宝生流の佐野玄宜が
くるりくるりと「早舞」を舞う。
この世は、時々うつくしい。

高木建材の前の小道で、突然ウグイスが鳴き始めた。
二声目を待っているが、なかなか鳴かないので、
私は、道端の煉瓦の上にどっかり腰を下ろし、それを待っている。
この世は、時々うつくしい。

 

 

 

「夢は第2の人生である」改め「夢は五臓の疲れである」 第70回

西暦2018年長月蝶人酔生夢死幾百夜

 

佐々木眞

 
 

 

「お客さん、もうこの土地一帯の毒素は、完全に消失してしまってる。中国人どもに買い締められない間に、安値で買っとかないと、一生後悔しますぜ」と、そのブローカーは、口を酸っぱくして説きまくるのだった。9/1

ライバルと比べると、2カ月遅れての出発だったが、我々はそのことを忘れ、ひたすら目の前の目標に向かってひたすら前進したので、半年後には彼らに追いつき、追い越してしまった。9/2

その地域は、2人の王が交互に統治していたのだが、私は、彼らの妻たちの協力を得て、彼らを打倒し、王になった。9/3

私らは夜空の星に輝く銀座鉄道に乗って、アンタレスからアンポンタン星まで快適な旅を楽しんだが、いつのまにか夜が明けて、しののめに朝日が輝いていた。9/4

台風21号の大風で、一睡もできなかった。あるいは、一睡もできなかったという夢を、一晩中みていた。9/5

試写会の案内状を、敬愛するヨドガワ氏とサトウ氏に出し忘れていたことを思い出したので、急いで出すと、二人ともすぐに来てくれた。9/6

「お前を学級委員にしてやるから、是非立候補しろ」と悪友どもがけしかけるので、思い切って立候補したところ、蓋をあけると最下位で、なんとなんと私の1票しか入っていなかった。9/7

「名物決定版はこれだ!」というテーマを編集長から与えられて、これでもう1月以上当地に滞在して、あちこち訪ねたり、あれこれ飲み食いしているのだが、まだその名物には巡り会えないでいる。9/8

「へえ、そうなんでっか」と言いながら、私はその場を警護していた傭兵を、一撃のもとに斬り倒した。9/9

アイルランドの建築家が明治時代に建てた、高層ビルヂングの建築様式が、ロシアフォルマリズムに、なにがしかの影響を与えたか、それとも全然与えなかったか、という問題をめぐって、永代橋のたもとで2人の学生が果てしない議論を続けている。9/10

カンパーとかいう名前のカルテットの第1ヴァイオリンは、相当にわがまま勝手な奴だが、喧嘩となると無暗に強く、これは他のカルテットのメンバーにも共通の特性のようだ。9/12

海辺の砂丘に、陽が落ちてしまった。あと1カット残っているので、どうしようかと動揺していると、ベテランカメラウーマンが、近くのお寺に私らを導き、最後の残光の中で、白く輝く裸身を晒してくれた。9/14

郊外電車の先頭車両は、畳敷きになっていて、松平嬢がお点前をたてていたので、私も一服御馳走になった。9/15

もうすぐ電車が発車してしまうので、駅に向かって急いでいるタクシーの中の私。ふと振り返ると、後ろからオートバイが走ってきた。そこには私が宿に忘れた荷物が積まれているようだが、このオートバイが走っては止まり、止まっては走り出すので、気が気でない。9/16

玉三郎の歌舞伎の一幕見に行って、しばらくするとオシッコしたくなったので、花道に登ってタコツボを開けたら、それはトイレではなく、ツルツル頭の茶坊主どもが出番を待っていたので、頻尿症の私は悶絶してしまった。9/17

幹事のUが、同窓会の貯金を引き出してヴァイオリンを買って、毎日練習しているという噂を聞いたが、本当だろうか?9/18

タカハシ選手が、「大震災には3つの態度があるんだよ、中では3番目の態度が高尚なのよ」と叫ぶので、「そうかもしれんけど、おらっちは2番目の「なんもなかったことにする」で行くんだよお!」とどなったら、黙ってしまった。9/19

私が、イタリア製オートバイ、フンフンネで岐れ道にさしかかると、「ビゴの店」では、創業者のビゴさんを悼む旗を掲げていた。9/20

洞窟の中を歩く彼女は、腕を伸ばして、左右の壁に手を触れていたが、その茶と白のだんだら模様の壁面は、無数の茶と白の小さな蛇が、うず高く積み重なっていることを、私だけが知っていた。9/21

その子はケータイ会社の試験を受け、たった30点で合格したのだが、その会社はソフトバンクだったので、auが受かったと思っていたその子は、今頃になって驚いている。9/22

NHKの次回の大河ドラマの製作を請け負うことになった。とりあえず製作費は膨大だが、1次下請けが2割、丸投げされた2次、3次、4次の下請けがなにもしないでそれぞれ2割のマージンを取った残りの金額は製作実費かつかつで、わが社はどうやっても利益が出そうにない。9/23

アラン・ドロンが引退するというので、激励のために会いに行ったが、彼は私のことなどてんで覚えていないようだったので、よく考えてみると、彼とは一面識もないのだった。9/24

「序曲はいいが、「文学的序曲」の演奏は断じて許さん!」と、その軍人は怒鳴った。9/25

万歳! 私は長年の苦心の甲斐あって、「不要になれば消してしまえる衣料品」の開発に、とうとう成功した。焼却するのではない。特許特製のイレイザー(電動消しゴム)を使えば、まるで手品のように消えてしまうのである。9/26

その一帯は、パピルってた。ああ、東京快感のヘッドギア、走り抜け!シナノヘッズ殲滅す。アヘアヘだあ。デコちゃんヘッズは秀子の額。「11日までに一式揃えないとお客さんに悪いじゃないか。なんとかしろ!」と社長が怒鳴る。9/27

どういう訳かリーマンに戻って、昔の上司に仕えている。「業務が爆発的に順調なんやけど、にわかスタッフが33人も増えて大変だ。来週からNYに飛んでくれ」と頼まれたが、どうにもそんな気にならないので、トイレでお丸のいいやつを探して、その上に座り込んだ。9/28

私が乗った北朝鮮の列車が、無人の野で突然停まった。レールの向こうは河で、河の上は切り立った断崖絶壁。馬上の白髪白衣の翁が命じて、村人たちを次々に崖の上から突き落としている。今度は双子の番だ。2人の少年は、恐怖で眼を大きく見開き、ばるぶる震えながらしっかり抱き合っている。9/29

板橋区から出発した我々は、大草原の高みに立って、地層分析作業に従事していた。それにしても行方不明の板橋君はどうしているんだろう、と案じながら。9/30

 

 

 

家族の肖像~親子の対話その37

 

佐々木 眞

 
 

 

お母さん、戦争いやです。戦争いやです。
お母さんも嫌ですよ。

お父さん、小田急のおは小さい、ですよ。
そうだね。

おだまりって、黙ってなさい、のことでしょう?
そうだよ。

コダカ君、好きになったよ。
ああそう、良かったね。

人間同士って、なに?
コウ君とお母さんは、同じ人間です。お互いに違っても、仲良くしましょう。
分かりました。

お父さん、栄えるってなに?
繁盛することだよ。

お父さん、「商」は割り算でしょ?
なに?
「商」は割り算でしょ?
そうか、そうだね。

お父さん、ぼく蓮佛さんの声好きですお。
そうですか。では蓮佛さんの声をマネしてくださいな。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
よく出来ました。
「私と別れてください」
よく出来ました。

要るは、かなめっていう字でしょ?
そうだよ。

たまものってなに?
そのお陰で、っていうことだよ。

受け止めるって、なに?
受け入れることだよ。

お父さん、美しいの英語は?
ビューティフルだよ。

お母さん、放課後て、なに?
学校が終わったあとよ。

お母さん、タイムアウトって、なに?
時間切れよ。

お母さん、極めるって、なに?
完全にやりつくすことよ。

お母さん、尊敬ってなあに?
とても大事にすることよ。

お母さん、ぼく、図書館行きますお。
じゃあ、8時50分に行きましょ。
分かりました。

お母さん、旅行楽しいですウ。
そう、良かったですね。

めでたし、めでたしってなに?
コウ君と一緒に死ねたら、めでたし、めでたしよ。
そんなこと、いわないでください。

お母さん、お母さん、ボク、お母さん大好きですよ。
ありがとう。お母さんも、コウ君大好きよ。

お母さん、加賀友禅てなに?
キモノの一種よ。

お母さん、人工呼吸、治るよね。
そうねえ、それで助かることもあるね。